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第47話 南部ラライア帝国

 お約束の「今日は時間がないから返事は後日でいいぞ明日来ても良いぞ」とのやり取りも早々に、わしはHLDOL(ヒルドル)を発進させた。


 南部のラライア帝国に向かう。これで今回の任務はおしまいじゃ。

 ラライア帝国は大陸最大の面積の国であり、かつては大陸最強の軍を有していた。らしい。

 邪神戦での損耗がひどいようだが、他国同様軍の再編は進めているようだ。増税で国民は大変らしいが。


 ここでは首都ではなく、北部のゲルマ高地を指定された。

 学校の邪神学で習った1の邪神アルパ・ヴィゲルドとトラヴィストリア軍の初戦の場所じゃな。

 タタラ戦で生態系を破壊してしまったゴンゾワール湖がすぐ北にある。タタラのいるアジャルガ高地は対岸だが、今日はかすんで見えんな。


 仮設、というには少々立派すぎるテントがすでに張られていた。小型の転移門が数基、大型転移門が1基あるのが見える。


 わしはHLDOL(ヒルドル)をテント近くに降下させた。今回は広い高地なので、通常噴射で着陸した。

 フレイアと共に降機し、テントに向かう。

 武官と思しき人物に、テント前で少し待つように言われた。何十人かがテント内に集まっているが、中央の豪華な椅子に誰も座っていない。


 小型の転移門一つの信号が点滅した。


「皇帝陛下、おなり~!」


 転移門から馬車が現れた。4頭建てで、カプセル状の車を曳いている。赤い絨毯がテントから馬車へと引かれ、カプセルが開いた。


 黒い甲冑に身を包んだ青い髪の青年が現れた。

 テントへ歩き出し、一同がひれ伏した。


 こやつがラライアの皇帝か。若いな。エルゼルくらいかな。

 わしとフレイアはそのまま立って待っていた。

 皇帝がテントへ向かう途中、絨毯の道をを外れてわしらに近づいてきた。


「皇帝陛下!」

「よい」


 皇帝が武官たちを制し、わしの前に立った。


「ラライア帝国にようこそ、勇者ヒルダ。……だよね?」

「そうじゃが」

「僕はクドゥエル・ハイオーダー・ガス・ラライア。ラライア帝国現皇帝だ。よろしく」


 クドゥエルは手を差し出した。つい握手してしまった。いかんハグが来る!


 と思ったが、クドゥエルは握手しただけで、そのままわしの手を離した。おお、まともな元首かも!?


「あれがHLDOL(ヒルドル)だよね。なるほど、異世界の兵器をまんま創造できたのか。初めてのことだね」

「そうらしいな」

「僕たちもいろいろやってみたんだけどね、星からの神々の遺物ではなかなか限界があってねえ。その途中でうちの重技廠(ヴィンヤーズ)の試作品ができたんだけど、これが思いのほか硬くて強くて、廃棄できなくて困ってたんだよ。転移門をループさせた牢獄に繋いでるんだけど、そろそろ転移門にガタも来ててね」


 転移門をループさせた牢獄? 試作品の廃棄? こいつは一体何を言っている?


「で、アクセラスが新しい勇者の力を見せてくれるというので、ちょうどよいかなと」


 大型転移門が点滅を始めた。


「ヒルダ、出てくる試作品、全部撃破して。出来るよね、出来ないと困ったことになるからね」


 それだけ言うとクドゥエルはさっさとテントに入っていった。魔法障壁が張られる。


 わしは強化外骨格(パワードスケルトン)を装着し、HLDOL(ヒルドル)に戻った。

 途端、大型転移門から巨大な物体が出てきた。


 黒く硬い殻をまとい、赤い血管のような模様がその表面を走る物体。というか、生物。


 それが5体。


 大地をのたうちながら進む筒状の巨大ミミズ。太い六本脚のクモ。大きな腕だけの怪物。長い羽をもつ蝙蝠。目玉に触手がついたような謎物体。


「邪神の装甲殻か!」

「うん、バイター=ミュゲルの残骸を回収して培養してみたんだけど、うまく定着しなくてさ。大半は死んじゃう、というか分解して消えたんだけど、その5体は()()()()で存続してるんだ。でも言うこと聞かなくてね」

「邪神の培養だと!?」

「おしゃべりしてる暇はないよ、そいつら、強い武器に反応する性質があるからね。あやうく重技廠(ヴィンヤーズ)自体が破壊されかかったし」


 たしかに、こいつらHLDOL(ヒルドル)をロックオンしたようだ。こっちに向かってくる。

 考えるのは後回しじゃ。

 邪神の残骸で出来ているなら、対邪神戦の練習にはもってこいじゃな!


※※※※※


 それから1分後。


 わしは試作品5体をすべて撃破し、念のため残骸を分子分解した。空飛ぶ蝙蝠や、瞬間移動と複合魔法を使う目玉にはちょっと手間どったが、それでも1体10秒も掛からんかった。


「これが邪神の装甲殻か? はじまりの洞窟の模擬バイターの方が強かった気がするぞ」


 モニターにテントの中で呆けたようにこっちを見ているクドゥエルたちの姿が映った。


「これでいいのか? 試作品というからには、この後完成品が出てくるのではないのか?」

「いや、完成品などはない。……まったく、これほどとは。期待、じゃないな、()()したとおりだった。ヒルダ、ありがとう。これで父たちも救われた」

「父?」

「ああ、あの試作品は、()()()()()()()()なんだよ」

「なんじゃと?」

「邪神を倒す可能性があるのならと、実験に喜んで参加してくれたんだ。父自身の求めに応じてね。しかし結果はこの様だった」

「どうしてそんなことを?」

「皇帝の一族にはイマジナリへの感受性があるのさ。邪神の残骸と融和できるのは人間では僕らだけだ。トラヴィストリアの勇者を使えば可能だったかもしれないが、そういうわけにもいかないだろ。勇者は勇者で人類の希望だからね」

「そんなことをべらべら喋っていいのか? 周りはこの国の人間ばかりなんじゃろ? ある意味、わし、皇帝殺害犯じゃないか?」

「ここにいるものは事情をよく知った者ばかりだ。それにこの実験に参加する段階で最も幼かった僕に帝位を譲られている。これは我が国なりの邪神との闘いだったんだ。でも、もう救われた。ヒルダ、君は真の勇者だ。父の考えた計画は、残念ながら無意味だった」

「いや、無意味ではあるまい。邪神の力を利用するなんて、さすがだと思うぞ。それに、邪神の研究自体、邪神を倒す鍵となるかも知れぬ」

「そうか、そうだといいな、ヒルダ」


 その時、テント前にいたフレイアが叫んだ。


「邪神が接近していますなのです!」

「なに!! フレイア、避難誘導を手伝え! 超電磁バリアを広範囲に張る!」

「了解なのです!」


 ゆらりと目前に朧のような影が生まれ、集まり、実体となった。


 これが本物の邪神か!


 ビデオで見た。両手が長銃状の邪神。9の邪神、イオ・ガリガーチャじゃな。機動力が高く速射に優れる…じゃったな。


 わしがHLDOL(ヒルドル)巡行形態(クルーズモード)から高機動形態(ハイムーブモード)にチェンジし、空中からの砲撃を仕掛けた。


 先手必勝!


「クラスタービーム!」


 追尾モードでビームを発射した。樹形図のように分かれたビームが全方位から邪神を狙う。


 が、邪神は掻き消えた。瞬間移動か。


 背後に銃口を押し付けられるのを感じた。超電磁バリアを収束する。邪神が空中で、背後から、高機動で回避行動しているHLDOL(ヒルドル)を撃ち抜いた。


(ばかな! なんという超高速戦闘性能!)


 直撃を受けた。だが超電磁バリアを貫通するには至らない。が、次はコクピットを狙われるのを感じた。


 さっきまで背後にいた邪神が前に回り込んでくる。HLDOL(ヒルドル)よりも速いだと!?


 銃口をマニュピレーターで掴む。邪神は構わず打った。超電磁バリアをマニュピレーターに収束させる。

 邪神の長銃が暴発した。邪神はすかさず反対の銃を発射する。バリアのないコクピットに直撃した。


 単一結晶装甲モノクリスタルアーマーが吹き飛んだ。同時にわしが着ている強化外骨格(パワードスケルトン)のシャッターが降りた。


 コクピットに大穴が空いたが、おかげでわしは無事じゃった。


光速衝撃拳スターバーストマグナム!」


 邪神を掴んでいない方の手で超光速パンチをぶちかました。そのままエンジンを全開にし、大地にたたきつける。もう片方の邪神の腕=長銃をへし折った。


 これで飛び道具はない。


 と思いきや、先に壊した腕が再生を始めていた。

 厄介なやつじゃな。


 いったん距離を置き、人型の格闘形態(グラップモード)にチェンジした。この形態でも、邪神のほうが頭一つ大きい。


 瞬間転移で邪神の足元に移動し、足払いをかける。転倒したところで持ち抱えてパイルドライバーを決めた。

 さらにボディスラム、バックドロップと連続投げ技。からのー、ブレーンバスター!


 破片を撒き散らしながら邪神の関節部がごきぼきと音を立てて破壊される。


双極励起誘導銃(イレーサービーム)!」


 横たわる邪神の両腕を分子分解する。これでも再生するんじゃろうが、時間は掛かるじゃろ。


 よし、イケる!


光速衝撃拳連打スターバーストマグナム・マスファイア!」


 どどどどどどど、と杭打ちのように邪神を砕いていく。足をつぶし、胴をつぶし……。


 これでとどめだ!


 頭部を破壊しようとした時、


「ストーーーーープ!」


 女の声とともに、HLDOL(ヒルドル)の腕が止まった。いや、()()()()()


 腕を邪神の上に乗った女が支えていた。


「邪神を倒してはダメ! ゼッタイ!」


 と叫ぶ女は、わしと同じ近衛の制服とマントを着けていた。

 人間が、光速衝撃拳連打スターバーストマグナム・マスファイアを手で止めた。


 そんなこと、元のわしでも無理じゃ。

 いや、人間であれば、絶対に無理じゃ。


 女の姿の裏に、巨大なオーラを立ちのぼっているのを感じた。


 このオーラは、

 竜騎士……???


 ……こいつは……。

 

 その時、避難を手伝っていたはずのフレイアが叫んだ。


「新たな邪神出現なのです! ユーテックスに1体、ガノーグスに1体、グウェン人民国砲兵中央基地に1体です!」

「ここを入れて同時に4体か。過去にこのような事態はなかった、はずじゃな」

「しかもこの場所って……あれです」

「そうじゃ、今日わしらが()()()()()()()ばかりじゃ」


「邪神に強敵として認識されたのよ」


 HLDOL(ヒルドル)の腕を支えている女が言った。


「そして、邪神を倒してはダメ。倒すと、残りの邪神が集まってくるわ。レグラント戦のように。さすがに()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?」

「貴様、レイラ・モルヴァリッドじゃな」

「そうよ。貴女がヒルダね」


 わしは腕をどけた。


「30分待てば邪神は消えるわ。これは、そういうルール。この()は私が抑えておくから、ほかの3体をお願い。くれぐれも倒してしまわないように」

「ルールか…。これもなにかに試されているということなのか?」

「そうね。そうかもね。さあ、早く行って。離れた3か所で3体の邪神を30分。貴女ならできるわよね」

「瞬間移動を駆使すれば不可能じゃない。しかも敵の狙いがわしなら、人のいないところに誘導するのも容易そうじゃな。わかった、聞きたいことはいろいろあるが、まずは邪神を追い払ってくることにする。フレイア、お前はここに残って、なにかあればすぐ連絡しろ」

「はいなのです。レイラも見張っておくのです!」

「私を見張る必要はないと思うけど、それにヒルダを心配することもないと思うけど、頑張ってね。帰って来たら、少しお話をしましょう」

「了解じゃ」


 わしはHLDOL(ヒルドル)を瞬間移動させた。

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