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第46話 東部グウェン人民国

 鮮やかな赤とけばけばしいまでの金色。派手に塗られた平たい城がグウェン人民国の宮殿、紅禁城だった。

 窓がない王宮内は行燈の明かりだけで暗い。さらに香が焚きしめられ、靄がかかっていた。

 正面の(すだれ)で目隠しをされた向こう側から声がした。女の声だった。


「ぬしがヒルダか。噂は聞いておるが、真なる勇者はそのような姿であるものか? (わらわ)には俄かには信じられぬ話であるな」


 向こうからはこちらが見えるのか。わしの索敵スキルでもシルエット程度しかわからん。


「ぬしが乗ってきたHLDOL(ヒルドル)とやら、あの大きさで空を駆けるとは驚きだが、さて、邪神殲滅はどうか? 試させてもらうぞ」

「了解した。そもそもその目的で来た。ええと」

「妾はグウェン人民国総代、イ・ルース・ヴァハナである」

「了解した。イ総代」

()()()()()()と言え。トラヴィストリアの田舎者はこれだから困る」

「失礼、了解した。ヴァハナ総代」


 国によって姓で呼ぶか名で呼ぶか違うのか。知らんがな。

 で、なんではじまりの世界のはずのトラヴィストリアを田舎者呼ばわりするのじゃ? そんなに都会なのかここ?


(単なる対抗意識なのです。グウェン人民国領はトラヴィストリアの次に創造神が造りし大地とされており、またエクスアーカディア最古の文明が発祥した地と言われています。ですが今となっては真偽不明なのです)

(考古学はあまり進んでいないのか。タタラに聞いたらわかるのではないか?)

(あいつに聞きたくもないですが、なまじはっきりさせると国交に影響があるのです。星からの神々の遺産で技術が劇的に進化したのはトラヴィストリア王国領であるのは間違いないので、グウェン人民国にとっては最古の文明というのが国の拠り所なのです)

(なるほど、国の大義か。大人の事情というわけじゃな。わかったこの件は関わらんでおこう)

(それがよいのです)


「ではさっそくな。砲兵軍中央基地へ参る。ついて来い」


 簾が巻き上げられ、ヴァハナ総代が現れた。声から想像していたが、かなり若い女じゃ。シャーリーズ隊長と同じくらいか?

 黒髪に黒い瞳で、トラヴィストリアで見かける顔立ちとはかなり違う。

 もともとわしは女の年齢がよく判別できないが、幼く見えたり、もっと年長に見えたりもする。不思議な顔じゃ。


 数名の護衛と共にわしの傍まで寄ってきた。


「妾に直接見つめられても目を逸らさないとは、ぬしは度胸があるのう」

「他の者は違うのか」

「恐れる者が多いな」

「そうか、わしは…」


 恐れを知らぬからな、と言いかけて、自分の心に変化があることにまた気がついた。

 今は、なくなると惜しいものが増えた。だから、こう言い換えた。


「わしは、大切なものを失うことを恐れる。それ以外に恐れはない」

「そうか。なるほど勇者であるな」


 ヴァハナ総代と共に転移門をくぐった。この転移門はこの王宮内に来る時にも使った。


 広い基地内に、HLDOL(ヒルドル)を駐機させていた。基地から紅禁城へ転移するようグウェン人民軍に指示されたからだ。

 グウェン人民国の砲兵軍も再編が進んでいるようだ。

 ほかにも、グウェン人民軍の兵器が格納庫前に整列している。主に車輪の付いた可搬砲台だ。

 ほとんどはエンジンらしきものがないから、馬か人力で戦地まで運ぶのじゃろう。

 中には馬でも無理そうな大きな砲台もあるが…。


「甲式炸裂砲天牙(てんが)! 用意!」


 司令らしき男が命令すると、最も大きな連装砲台が動き出した。って車輪もないのにどうやって動かしているのじゃ? うむ? ちょっと浮いておるな。ホバークラフト?


「風魔法なのです。魔方陣で風量や風向を制御しているのです。斥力鋼も使っているようなのです」


 フレイアが解説してくれた。


「天牙の新式炸裂砲の的になってくれ。避けても良いぞ。ただし天牙への直接攻撃はなしだ。ダーガイマでの一件はすでに聞いている。天牙はまだ試作段階だから壊されるわけにはいかん」

「砲弾は撃ち落としてもかまわんな」

「かまわぬ」


 巫女ネットワークと転移門があるからな。この世界、情報が伝わるのは早い。

 わしはHLDOL(ヒルドル)に乗り込んだ。

 ダーガイマ共和国の機動槍車三式改よりは、手ごわそうだ。


「はじめ!」


 司令の合図で天牙が炸裂弾を一発発射した。回避せずに直撃を受ける。単一結晶装甲に傷一つもつかない。

 と思ったら、破片がHLDOL(ヒルドル)を覆うように吸着した。


「魔法付与弾か」


 二発目が発射された。空中で爆裂し、破片がそれぞれ機体に吸着した一発目の破片に吸い寄せらるように襲う。

 破片同士が衝突し、HLDOL(ヒルドル)を押しつぶすように全方位から爆発が起こった。

 魔法障壁を使った爆縮じゃな。なるほどいろいろ考えるのう。

 だが、やっぱり威力が足りんな。


 自然に爆煙が晴れるのを待たず、超電磁バリアで吹き飛ばした。HLDOL(ヒルドル)には傷一つない。


「それまで!」


 司令が終了を告げ、わしは降機した。


「壊せるとは思っていなかったが、傷一つつかんとはな。恐るべき兵器であるな」

「ヴァハナ総代、爆縮自体はいいアイデアじゃが、やるならもっと高圧になるようにせねば邪神には効果がないと思うぞ」

「やはりそうか。まだ術式は途中である。更に収束率を上げる予定だ」


 ほほう、爆縮というよりメタルジェットに近い発想じゃな。製錬精度が低いから魔法で代用するわけか。ほんとにいろいろ考えるな。


 やはりこの世界の文明は高い。なぜそれが技術を伴っていないのか? 魔法があるからだろうか?

 しかし転移門などの現物があるのじゃ。たとえ魔法があっても、科学技術だけが立ち遅れるなんてことがあり得るのじゃろうか?


「魔法障壁を漏斗(ショックコーン)状に爆発の後方に展開してみてくれ。穿孔力が高まるはずじゃ」

「そうか。異世界の知識か。ぬしは幼いなりだが、見た目どおりではないということだな。それにしても…」

「うん?」

「妾の娘にならぬか? 妾は夫は要らぬが、子は欲しいと思っていた。母君と呼んでよいぞ。なんならママでもおかあさまでもよい。かかかか」


 あ、こいつもアホ元首の仲間じゃった!

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