第41話 初めての休日
その後、今日はもういい!と断ったのに、フレイアたちにむりやり風呂場に放り込まれてしまった。
ドッキリの罰です!とルーイに言われるし。
いや、だからドッキリじゃなくて本心だったのじゃが…。
思いのほか新しい屋敷の風呂は広く、フレイアが一緒に入ってこようとしたが、全力でブロックした。
風呂上がりの髪梳きはルーイにやってもらったが。
おやすみのキス大会の後、寝室に一人になったわしは、タタラのところにいるミリアに意識を繋いだ。
「タタラ、起きておるか?」
「おう、これはこれはヒルダ様。起きておりますとも。昼夜を問わずヒメリアの製作にいそしんでおります」
タタラは机に向かって作業の途中だった。
「ご覧ください。ヒメリアの顔の原型がほぼ出来ました」
タタラがひょいとそれを手に乗せてわしに見せた。ちょっとビビった。
それは、わしの生首じゃった。
…いや、良くできてるわ。
首にぽっかりと穴が開いている以外は、人間の女の頭部そのものじゃった。
すでに髪も植毛され、瞳もある。
やや微笑みを浮かべた顔はほんのりと赤みがさしており、唇は濡れたように艶があった。
よく見ると産毛もあり、うっすら血管すら透けて見える。
「いかがでございますか。不肖タタラ、一世一代の作にすべく全身全霊で取り組んでおります!」
「これはすごいな。ビックリした。まるで生きているようじゃな…」
「お褒めいただきありがとうございます。今のヒルダ様のお言葉でますますやる気が出てまいりました!」
しかし、なんというか、自分の顔が元なので言いにくいのじゃが、ものすっごい美人じゃ。神々しさすら感じられる。
わしが成長したらこうなるのか…。
これはかわいいとはもはや言えぬ。
美しいは神!
フレイアならそう言いそうじゃな。
おっと、肝心の話じゃ。
「タタラ、今朝はすまんかったな。貴様を疑ったようなことを言って」
「何をおっしゃいますヒルダ様。罵られるのもご褒美でございますゆえ。ぐふふ」
「なんか笑い声がダムドみたいじゃぞ…」
「で、昨夜の狼藉者ども。正体はわかりましたのですか?」
「いや、それが勇者由来のイマジナリらしいということしか」
「勇者由来? それは本当でございますか?」
「うむ。フレイアがそう言っておった。しかし、勇者が噛んでいるとしてもいろいろ疑問が残る」
「そうですな。勇者が王国に反逆することは出来ないはずですからな」
「お前も知っておるのか。召喚時の刷り込みとやらを」
「長く生きておりますゆえ」
「お前いつもそれじゃな」
「これはしたり」
わしらはアハハと笑いあった。
その後真面目に犯人の目星について意見交換したが、これまで以上の成果は得られなかった。
サブマシンガンやレールガンなどについてはタタラも初耳だそうだ。
「じゃあ帰る。おやすみじゃ、タタラ」
「お、おやすみのキスは…?」
「おあずけじゃ」
「ぞんなあぁぁぁぁゆるじでくださいぃぃぃぃぃぃ」
「しょうがないなあ。詫びに来たことでもあるし、一回だけ許す」
間髪を入れず、猿顔が一瞬で迫りぶちゅううぅぅと顔全体を吸われた。
「やりすぎじゃ! ばっっかもーーーーん!」
グーパンで猿面を殴り、接続を切った。
ぐはっ! ご褒美いただきました! という声が遠くで聞こえた。
しかしタタラめ。あのヒメリアは確かにすごい。しかしまだ頭だけじゃ。間に合うのじゃろうか?
黒服軍団という実力行使も受けたし、事態は予想以上に早く動いているように思える。
HLDOL小隊の出番は近い予感がするのじゃ。
などとベッドにもぐりこみながら思案していたが、いつの間にか眠ってしまった。
朝になった。
この世界に来て初めての休日じゃ…
こりゃ寝溜めじゃの…
むにゅむにゅ……
「ヒルダ様起きるのです!」
バーンとでかい音鳴らして扉を開けられた。なんじゃなんじゃフレイア!? 休みじゃろ今日は!
「休みの日はお出かけなのです! せっかく市場も近いのです! まずはお買い物です!」
「はあ?」
※※※※※
…疲れた。
勇者学校での戦闘訓練よりきつかった!
フレイア奴、服や雑貨をいったい幾つ買ったのやら。
当然のように着せ替えを強要しおって!
いつの間にかマシュも同行しておるし。
掃除とお洗濯が一区切りしましたのでって、ヒマか? ヒマなのか?
結局二人してずーーーーっと連れまわしよったのじゃ。
ルーイとイターが来なかっただけまだましじゃったが…。
さすがに夕食の仕込み当番じゃからな。
というわけでもう夜じゃ。
貴重な休日がああああ!
まあ、市場の屋台で食べた串焼きは旨かったがな。それだけが救いじゃな。
そういえばなにもゆーとらんのにあのオヤジ一本おまけしてくれたな。
なんでじゃろ?
フレイアが無言の圧力かけよったのかのう……?
と昼飯を思い出しながら、屋敷で夕食を食べる。
マシュがルーイとイターになんか文句言われとったな。サボりじゃからしょうがない。
食後の紅茶を味わっていると、フレイアが横に寄ってきた。
「近衛騎士隊より連絡なのです。明日11時30分、国王の謁見です。11時15分に近衛騎士隊本部集合です」
「うむ。いよいよじゃな。学校の卒業式はどうなった?」
「これに伴い、10時より勇者専門学校にて執り行われることになりましたです」
「そうか。式自体は短いようじゃな。始業時間までに行ってシドウらに挨拶するか」
「それがよろしいのです。国王より下知があれば即実戦配備となる可能性が大なのです」
「そうじゃな。この世界の兵力は乏しい。使えるものは惜しまず使うじゃろうからなあ」
とはいえ、邪神の出現予測は立たないし、HLDOLでならどこにでも一瞬で出撃できる。実戦投入といっても、当面は戦闘待機というところじゃろう。
…と思っていた頃もあったのじゃ。




