第4話 バイター・ミュゲル
いよいよ王立勇者専門学校です。水島フミトくんも再登場します!その他一気にキャラも増えて学園モノに!といいたいところですが、しばらくは邪神についての設定紹介となります。ヒルダちゃんと一緒にこの世界のことを学んでいってください(おい
王立勇者専門学校。
支給された制服に着替え、玄関先に並んだ三人のメイドに見送られ、「自宅」から馬車でおよそ20分。
軍事教練の場と聞いていたので、演習場のようなものかと想像していたが、丘の上にぽつんと立つ古い二階建ての建物だった。
丘から見下ろすと、王都が広がっていた。王城や中央市場、凱旋広場はすぐにわかった。凱旋広場から城と反対の先には大きな川が流れ、港が作られていた。
大小の船が行き交っている。転移門だけではなく、水運もかなり発達しているようだ。
「帰りに町へ行ってみますかい?ヒルダお嬢様」
御者のレオナールが馬繋場に馬のロープを固定しながら声をかけてきた。
すでに10頭以上の馬が繋がれていたが、まだ馬繋場には充分余裕があった。
ちなみに客車は馬から外して別の専用倉庫に格納する。知らなかったが、なるほど繋いだままだと馬の負担が大きいものな。
駐車設備の整い方からみてもこの世界の近距離輸送の主力は馬車なのだな。
転移門を製造する技術で電気自動車ぐらい造れそうな気がするが。
「そうですー。着替えも足りないし、放課後は町へ買物に行ってみるのです」とフレイア。
おお、武器屋に行けるぞ!楽しみじゃ!
講堂に集まったのは5組10人。勇者とパートナーのコンビだ。
式が始まる前に、パートナーたちが互いに紹介しあった。
銀髪長身痩躯の青年シドウ・モロドグズ。そのパートナーのリリエファ。
虎と人間が融合したようなパワー系獣人の女パヴァ・テックスとパートナー、ウミュカ。
かつてのわしみたいな筋肉おやじ、しかし腕を3対持つ8肢の異形の壮年ダムド・コンゴウ。とパートナー、サザロイ。
今のわしより少し年上に見える黒髪の少女ミズシマ・フミトとパートナーのアリューナ。
そしてわしとフレイア。
マスターの容姿とは関係なく、パートナーはフレイアに似た女だらけでわしの心拍数はマックスだ。
獣人のパヴァとよぉじょのフミトにはそれほど動揺せんのだが。
これでは戦闘に支障がある。弱点の克服はすみやかに、だ。
女ががおるのは当たり前、女がおるのは当たり前…
入学式は短かった。壇上に教官、もとい教師がならび、中央の演台で校長が歓迎の言葉を述べ、教師陣を紹介して終わった。
早速教室に移動し、初日の講義が始まった。パートナーたちは別室で待機となった。
最初の授業は担任のワザリー教諭だ。歴史と地理が専門の文官らしい。
わしら全員異世界から来たのでこの世界のことは正直まだまだ不明だ。状況の掌握は作戦の基本だ。
うむ、座学は重要。
教科書には荒いが写真が載っている。
網判印刷の技術はあるのか…
と思ってたら前方にスクリーンが展開されビデオが始まった。
戦闘指揮所かここ!
てかビデオあるのか!?
おかしいじゃろ技術水準。
あ、そういえば「はじまりの洞窟」の最後のコロセアムでビデオ中継されてたんじゃった…
ボス戦直後だったから記憶が飛んでるな。いかんいかん。
※※※※※
エクスアーカディアは三重連星。この星から見て月とみなされている二つの惑星アルビロンとバスクラウには生命が存在する兆候はない。
最も重いこのエクスアーカディアでさえ潮汐力の影響で猛烈な造山運動や地殻変動の跡がみられる。ほかの二星の環境は推して知るべき。
斥力を持つ鉱物が存在し、浮かぶ岩や、それを体内に取り込んだ浮かぶ(飛ぶ、ではない)生物がいる。
…これは例の恒星間文明の遺産だろう。斥力がマクロな物質状態で自然に存在することはない。
潮汐力の影響の緩和を図ったのだろう。
こうして国や都市が発展しているところを見ると、天体操作は一定の効果があったのだな。
緩い地殻構造ゆえか、この星には大陸は一つしかない。
その代わり無数の島々がある。
島の面積を足すと、大陸より大きいとか。
そばかす惑星だな。
しかし、測量はどうやったんじゃろうか?
その大陸は現在5つの国に分かれている。
北部のダーガイマ共和国。
西部のアウロ=シュダンジュ連邦。
東部のグウェン人民国。
南部のラライア帝国。
最大のラライア帝国をはじめ以上の4国で大陸の9割以上を占め、残りは中央部丘陵地帯の小国トラヴィストリア王国、つまりここだ。
また、ある程度大きく大陸に近い島々はトラヴィストリアを除く4国のいずれかに所属しているが、無数の島々の大半は土着民の自主独立圏になっている。
この校舎はトラヴィストリア王国の首都リンガーリンクの郊外に位置する。
トラヴィストリアは、創造神が最初に造りし地であり、また星からの神々が空から降臨した地、はじまりの世界とされている。
大陸の覇権をめぐって幾多の戦争が繰り返されたが、全世界の聖地とみなされるこの国だけは戦渦に巻き込まれなかった。
北に2万メートル級の独峰からなる柱状連山クラナッツ極岳、南に大陸最大の湖ゴンゾワール湖を源とする大河ニシキエが流れ、外から攻めづらい地形でもあった。
ほかの国に比してかなり小さな国だが、それゆえ安定して発展し、交易も盛んだ。
この世界には「魔法」と呼ばれる技術があり、その研究が最も進んでいるのがこの王国だ。
市場で見た隠したカードの絵柄をあてるとか、スカーフから鳩が飛び出すとかの種も仕掛けもある「マジック」じゃなくて、火や水、雷や風をおこす本物の魔法だ。
魔法には体系と位階があって、また複数の要素を組み合わせる複合魔法もある。
わしらのような異世界からの召喚、というか意識の複製・固定化とイマジナリボディ創造の技術はこの国独自のものだそうだ。
「魔法」の存在はわしが元いた世界でも既知だった。
能力者や魔道士と呼ばれる等級があり、戦術運用されていると軍のテキストに記載があった。
わしは現物を見たことはない。
テキストによれば、精神波を伝播するπ粒子と高次空間の干渉を利用した人体兵器だ。
銃器や弾薬等の兵站を必要としないので隠密作戦やパルチザン掃討戦などに特に有効だ。
わしの部隊の戦術とは直接関係なかったからあまり詳しくは学習してないが、原理的に火力は最大で核融合程度。
この世界の「物理」攻撃の最大火力は炸薬程度なので、それよりは5、6桁上だ。
ゆえに魔法学がもっとも進んでいるトラヴィストリアが邪神襲来までは事実上の最強国家であった。
聖地ゆえの不可侵、という建前だけではなさそうだ。
邪神。
邪神は12体確認されているが、うち1体は勇者召喚以前に倒された。
邪神と呼ばれているが、見た目は正体不明の巨人だ。
最初の邪神―バイター・ミュゲルと名付けられた―は、10年前、ラライア帝国とグウェン人民国との国境付近に前触れもなく出現した。
人間の10倍程度の巨体。全身が金属のような硬い物質で覆われ、さらに虹色の霧のようなものに包まれていた。
背中には何本もの長いとげが生え、赤く光る単眼を持つ顔の上には巨大な椀状の器官がついていた。
当時小競り合いを繰り返していたラライアとグウェンは、互いに相手国の新兵器と誤認した。
槍の一番騎馬隊、剣の二番騎馬隊、拠点攻撃の三番石穹隊のいずれも練度が高く大陸最強といわれる帝国機動騎士団。
一発の火力と長距離攻撃に秀でる移動大砲を中軸に据え、歩兵に榴弾を配備し数で勝る人民砲兵軍。
邪神の左右から、二軍はほぼ同時に攻撃を始めた。
そして5分と経たずに二軍は壊滅し、バイター・ミュゲルは姿を消した。
かろうじて脱出した伝令により、この事実は両国の知るところとなった。
その3か月後、バイター・ミュゲルは今度はアウロ=シュタンジュ連邦の首都に出現した。
生き残った目撃者によると、あたかも転移門をくぐったかのように唐突な出現であったという。
しかし、この世界では転移門はあらかじめ設置して機能するもので、転移門がないところに転移できるものなどいなかった。
次回は休み時間の一コマ。ちょっと学園モノっぽくなるかな?