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第39話 はだかの付き合い、そして

 全員に声を掛けたが、近衛騎士隊は警戒にあたるためエルゼルが固辞、隊長のシャーリーズのみ表敬参加ということになった。ファドら三番隊の連中は涙目になっていた。残念じゃったな。


 地下の温泉とやらは本当に大きかった。

 もともと高温の湧水に溶食されて出来た洞窟だったらしく、照明や換気穴、地上への階段や脱衣所などを後から整備したと思われる、野趣あふれる天然風呂だった。

 パッと見は全体にごつごつとした印象だが、温泉に含まれるミネラルが堆積し、角が取れてつるつるに磨いたようになっていた。

 寝ころんでも腰かけても痛くない。というよりむしろ気持ちいい。

 湯はやや乳白色に染まり、肌にしみ込むようにソフトな泉質だ。温度はやや低めだが、長く浸かるにはちょうどいい。


 などと冷静に風景描写している場合ではない。昨晩の5人風呂に続き、今度はなしくずしの大人数混浴だ。どうしてこうなった。


 冷静さを保つためにも、今一緒に入湯している者を記しておく。

 わしことヒルダ、シドウ、パヴァ、ダムド、フミトの勇者5人。

 フレイア、リリエファ、ウミュカ、サザロイ、アリューナの勇者のパートナー5人。

 灸しい沙、福島ミカゲ、中山みね、松坂さくら、水野つつ美のデパートガール5人。

 そして近衛騎士隊隊長のシャーリーズ。合計16人。


 温泉の湯舟は大小4つある。さすがに大きい湯舟でも16人はいっぺんに入れないので数グループに分かれて風呂に浸かっている。

 フミトとアリューナ、デパガが一緒に入っているのはわかる。シドウがパートナーのリリエファと二人で小さめの湯舟でスキンシップしているのも、わかる。

 後の全員がわしと一緒なのは何でじゃ。もう一つ湯舟があるじゃろが!

 ダムドは中身はともかく見た目は4本腕の筋肉おやじだからかまわん。パヴァも虎女だからさほど気にならん。ぬいぐるみみたいじゃからな。フレイアは慣れてきたから、これもまあ良い。

 ウミュカ、サザロイ、シャーリーズの3人はなんでそんなに堂々と裸をさらしているのじゃ。

 それに近い!なんかわし囲まれておるぞ。


「いいお湯ね。たまに借りにこようかな」

「シャーリーズ王女、お戯れを。王城には立派な大浴場があるではありませんか」

「さすが巫女。物知りだなサザロイ。だがあれはきらびやかに過ぎる。私はこのワイルドな岩風呂の方が好みだ」


 昨晩入った風呂は近衛騎士隊用じゃったが、5人で入っても余裕じゃった。王族用の大浴場ってどれだけのものなんじゃろうか?


「それにしてもヒルダちゃんの肌もちもちですべすべよねえ。若いっていいわねえ」

「ダムド、わしはお前の筋肉の方がうらやましいぞ。てかそんなに触るなくすぐったい」

「えー、あっちなんかもっとスキンシップしてるわよ。こっちおとなしいくらいよ」


 見るとフミトがデパガたちにもみくちゃにされていた。一応体を洗われているようだが、うん、どう見ても玩具じゃな。

 まあさんざん心配かけたんだから、いじり倒されても文句は言えまい。


「フミトも復帰したし、これでわしが抜けても大丈夫じゃろう。週明けに王と面談じゃったかな」

「週明けって、もう明後日よ。そろそろ騎士団の方に予定が届いていると思うわ。その後4大国の首相と面会になるはずだわ」

「そうか」


 他国の首脳との接触で、謎の黒服軍団の手掛かりを得られるかもしれん。まだわしはトラヴィストリア王国から見た世界しか知らぬ。偏見とはまではいえないが、マシュやイターの田舎の話にもあったように、他国の立場で見えてくるものもあるかもしれぬ。


 それにしても。


「おまえら、そろいもそろって胸デカいのう…」


 シャーリーズ、フレイア、ウミュカ、サザロイを見ながらつい口に出してしまった。ちなみにパヴァもダムドも胸囲という点ではかなりでかいのだが、ちょっと方向性が違う。


「あらあら、ヒルダちゃんがおませなことを」

「何を言ってるヒルダ、少し成長した貴様はかなりのボリュームだったらしいではないか。フミトがさっき言ってたぞ」

「私は今のヒルダ様がいいと思いますです。かわいいは正義なのです!」


 フミトの精神世界にダイブしていた記憶は急速に失われつつあった。フミトとの同調が解けたせいなのか。ヤキウ…とかいうものの試合をしていたような気はするが、はてそれがどんなものであったのか…。

 フミトはヒキコモリを自身で乗り越えた記憶があるのだろう。そもそもフミトの精神世界だったからな。そうでなければ、意味がない。

 ちょっと楽しい世界だったような気がするだけに、忘れてしまうのは惜しいと思えた。


 惜しい。


 これもいままではあまり感じたことのない感情だ。今までは何かを失うことなど気にしていなかった。自分の命ですら、戦いで死ぬのは名誉なことだと思っていた。

 これはよき変化なのだろうか。

 わしはますます兵士らしくなくなっている。


「ではフミトくん、私たちは一足先に出ます。部屋を片付けて食事の支度をしますね」


 デパガたちがぞろぞろと上がっていった。アリューナと二人になって何か話している。アリューナが微笑んでいる。

 よかったな、アリューナ。


 フレイアも二人をほほえましそうに見ている。と思ったら急にハグされた。おい、すっぽんぽんでそれは!


「あっずるいぞフレイア。隊長差し置いて!」

「私はパートナーなのです。隊長より優先度高いのです」

「そんな話知らんぞ!」


 いや二人で引っ張らんといてくれ。痛いって。



 そんなどたばたの後風呂をあがり、着替えて1階の大広間に集まった。デパガたちがすでに配膳を追えていた。大昼食会だ。

 テーブルにはエルゼル副隊長も着座していた。デパガはサーブに徹するので席にはつかない。ファドら三番隊は食事中も外周警備だ。下っ端はつらいな。


「フミト復活大作戦は思いのほか時間が掛からず終わったのう。午後はどうなるんじゃ?」

「なにをのんびりしたことを言ってるヒルダ。近衛騎士団は貴様の屋敷の検分を行う。朝の報告書は国に上げた。すでに屋敷に調査団が到着しているはずだ」

「そうなのか。でも襲撃部隊はイマジナリだったから弾や薬きょうも含め遺留物はなにも出ないぞ」

「屋敷の残骸がある。アゼットが自ら喜び勇んで調べに出向いているそうだ。サブマシンガンの弾痕なんてこの世界初だからな。舌舐めずりしているらしい」


 アルド魔法工房の王宮部長アゼット・バイコークか。奴の調査チームはたしかに有能だ。やたら細かいしな。


「着の身着のまま…ってほどでもないが、いろいろそのままにしているからなあ。わしも荷物引取りがてら屋敷に戻ろう」

「ああ、そのほうがいい。報告書はよく出来ていたが、現地で確認したほうがよいこともあるだろう」

「了解じゃ」

「僕らも行こうか?」

「シドウ、パヴァ、ダムドは残ってフミトにこの1週間の講義内容を教えてやってくれ。襲撃者の件もある。できるだけ一緒にいたほうが良い」

「わかった。チーム作りのためにもそうするよ」

「頼む。それと、一度王宮に戻って、メイドたちも一緒に屋敷に連れて行っていいか? 隊長」

「メイド? あの三人か?」

「うむ。あいつらメイド服しか城に持ってこなかったし、実況見分なら、あいつらも黒服と戦ったからな」

「そうか。わかった。馬車を回そう」

「いや、HLDOL(ヒルドル)の方が速い」


 HLDOL(ヒルドル)兵員輸送形態。左右のアームをコクピットユニットに換装したモードだ。コクピットと言っても追加したユニットは電装を外してエクストラシートを展開した4人乗りになっている。左右で8人を輸送できる。

 数千体のHLDOL(ヒルドル)を出現させた際に思いついた運用方法だ。HLDOL(ヒルドル)はメンテナンス性向上のためユニットごとに独立した構造になっており、ジョイント部は共通なのでそもそも組替えが可能だ。もちろん、組替えにより、重量バランスの変化による挙動の不安定化や、高速機動形態や格闘形態に変形できないなどの制限など多少の支障は出る。

 もちろん兵員輸送モードでの高機動はできない。耐Gスーツを着ていないゲストが潰れてしまう。亜音速飛行がせいぜいだ。

 昨晩、フレイヤとメイドたちを王城まで運んだ時もこのモードを使った。

 昨夜と違うのは、近距離移動ではあるがあえて高度を取ったことだ。夜はともかく昼間は目立つ。この世界に存在しない空飛ぶ機械を一般市民に見せるのは避けたほうが良かろう。

 また、荷物を積みために片方のユニットはシートも全部外した空のフラットコンテナとしておいた。


 HLDOL(ヒルドル)をほぼ廃墟と化した自宅の裏庭に高空から垂直に着地させ降機すると、調査団員が何人か寄ってきた。入れ替わりにフレイアたち4人が屋敷に入っていった。


「ヒルダ殿、此度の騎士団加入、誠におめでとうございます」

「アゼット部長、挨拶はいい。何かわかったか?」

「遺留物が皆無なのは残念です。壁や柱の残骸を調べていますが、サブマシンガンとやらは思ったよりも威力がないですな。あくまで対人戦の制圧武器であって破壊兵器ではない。なぜ彼らは、ヒルダ殿に対してこの程度の火力で挑んだのでしょうな?」

「うむ。わしにもそれがよく分からん。威力偵察にしても、おおざっぱに過ぎる。何かのデモンストレーションなのかもしれんが、意図が読めん」

「本気で殺すつもりではなかった…と? 警告? それとも?」

「敵が勇者のイマジナリなのは間違いなさそうなのか?」

「勇者かどうかはわかりませんが、これだけきれいさっぱり消えているところをみると使われた兵器がイマジナリなのは間違いないでしょうな」

「フレイアが勇者由来と言っていた。勇者のイマジナリとそうでないイマジナリの違いがあるのか?」

「勇者は太古の魔導光炉オラトリアクタ・アルマイネのメッセージに対する感受性を持ちます。ある固有の精神波長に敏感だということです」

「なるほど。勇者から生み出されるイマジナリにもまた固有の波長があるということか」

「同じ勇者由来のイマジナリである巫女が、その波長を察知できるということは、あり得るでしょうな」

「そういうことか。だが、勇者はこの世界にあだなすことが出来ないとシャーリーズ隊長は言っていた。どういうことなんだろうな? 何かを見落としているのか?」

「我々もイマジナリのすべてを把握できているわけではありませんからね。そもそもイマジナリの特殊能力(ユニークスキル)の発動は3万人目の勇者が自力で解放したものです。それまでは我々にはイマジナリにそのような潜在能力があったことすら理解しておりませんでした」

「レイラ・モルヴァリッドか。奴はなぜ特殊能力(ユニークスキル)を会得出来たんじゃ? はじまりの洞窟のチュートリアルプログラムはその後設計されたものなのじゃろ?」

「そうです。はじまりの洞窟のミッションはレイラ殿の助言によって組まれたエデュケーショナルプログラムです。勇者の特殊能力(ユニークスキル)が最短で解放されるように。レイラ殿ご自身の能力の解放は偶然と思われます。我々も、たまたまちょうど3万人目で発現したと考えております」

「能力が偶然解放されたというのも不思議だが、それを教育プログラム化できるというのはまた違うレベルの話のような気がするが…」

「それがレイラ殿の能力のひとつだったようです。イマジナリの扱い方を教授するという能力(ちから)

「む…」


 エルゼル副隊長が屋敷にやってきた頃には実況見分のあらかたが終わっていた。メイドたちも荷物を整理してHLDOL(ヒルドル)の追加コクピットユニットに積み終えていた。

 シャーリーズ隊長は王城に戻ったらしい。三番隊は隊長組と副隊長組に分かれたようだ。ファドとメタウがエルゼル副隊長に付いて来ていた。


「で、どうか?」

「敵戦力の推定はほぼ完了しました。マシンガンやグレネードは近衛の魔法盾で十分対抗できます。レールガンは射速が厄介ですが、撃たれる前に雷魔法を展開すれば無効化できます」

「そうか。しかし銃というモノは威力の割に取り回しが楽なようだ。武装の小型軽量化の研究が必要かもしれぬな」

「武器の性質が変われば運用もまた変わっていきます。戦術や作戦も変化するでしょう。社会の在り方そのものも変わらざるを得ないかもしれませんな」

「そうだな。女のスカートの中から銃が出てきたら降参だ。おちおちくどくこともできん」

「お戯れを」

「ふふん。おおそうだ、ヒルダ」

「ひゃ?」


 聞くとはなしにエルゼル副隊長とアゼット部長の会話を聞いていたら、突然話を向けられて変な声が出た。気を抜いていた。


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