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第37話 合体!ミリア&フミト

再起動です。今日から21時に毎日更新します。

なお再起動に伴い、おさらい篇:これまでの登場人物と一部メカの紹介はいったん削除しています。

完結後に再掲載します。

なお、本編は第48話で完結です。

 6回、0-0。

 試合は投手戦の様相となっていた。


 西地区トーナメントの2戦目。

 相手の平城中学校は県大会レギュラー出場の強豪だ。

 予選突破を目指す三笠中としては最初の難関である。勝負どころだった。

 ルーキーながら超中学校級の私を投入した顧問や部長の判断は正しい。

 だが、それも普段どおりであればの話だ。今日の私は本調子ではなかった。


 朝からおかしかった。うっかり制服で学校に来てしまった。市立グラウンドに集合だったのに。

 記憶力と判断力が低下していた。

 大慌てでバスを乗り継ぎグラウンドに着くとミーティングが始まっていた。

 初めての試合だからといって緊張しなくてもいいと慰められた。そういうわけではないのだが、詳しく説明するわけにもいかず誤解されたままにした。


 ユニフォームはやはり間に合わず、男子用のXLサイズを着用した。それでも丈が足らずぱっつんぱっつんだ。特にバストとヒップは生地が伸びきってはちきれそうだった。

 投球練習をしていると、うちの部員が鼻の下を伸ばして見ていた。

 大きな胸とヒップ、長い手足、太陽の下でほとんどプラチナのようにきらきら光る金髪は隠しようがない。

 目立つな、という方が無理だ。まあ減るもんじゃないし、注目されるのには慣れている。


 私には、男子の視線よりも問題にすべきことがあった。

 試合前のウォーミングアップなのに、コントロールが定まらない。ゆえにスピードが出せない。三島君(キャッチャー)が追い付けないからだ。

 140キロ台がせいぜいだ。ズバーンと音だけは大きいが、いつもの切れがない。

 気がつけば相手チームも私を注視している。私の容姿よりも投球内容への興味のようだったが。本調子じゃないのがばれたか。

 いや、相手も私の情報はほとんど持っていないはず。ほんの3日前に入部したばかりだし、そもそも私は軟式野球自体初めてだ。

 女子にしては球が速いというところか。まあ確かに、これでも木田部長が投げるよりかなり速い。



 この世界はフミトの記憶で出来ている。そして私の介入により、本来のものとは異なる世界線に分岐して進んでいる。世界線の濃度の話をしていたのは誰だったか?…シなんとか?それとタなんとかいう変な奴。この世界に来てすでに4年余りが経っていた。前の世界の出来事は、夢の中のようにぼんやりとした記憶と化していた。

 あれは全宇宙規模の話だったように思うが、ごく小さな身近な世界でも、世界線はフラクタルのように同じような構造になっている。より遷移しやすい世界線と、遷移させるのに大きなエネルギーのいる、離れた世界線がある。

 水島フミトをヒキコモリから救う世界線に移るには、それ相応のパワーが必要だ。無理をしたのかもしれない。



 試合が始まり、球威に欠ける分、変化球を織り交ぜ三振に打ち取っていった。針の穴を通す正確性には欠けるものの、大きくコントロールを乱すようなことはなく、6回まで私はノーヒットに抑えている。

 相手投手も豪腕だった。本来反発力が高い軟式ボールが重く沈む。我が軍のヒットは四番の私が打った二本だけだ。普段なら軽く場外に持って行けるはずなのだが、相手の球質に加え、私の振り切りが甘くライナー性のあたりにしかならない。なんとか出塁するも私の後の五番山川君、六番村井君が凡退に終わり、点に繋がらない。


 もうひとつ、誤算があった。盆地の夏は暑い。しかも湿度が高い。ピッチングの不調もあって体力の低下が予想より早い。サイズの合わないユニフォームに汗染みが出来身体にまとわり着いていた。

 ベンチは男子の臭いがかなり濃くなっていた。私も臭うのだろうか?周囲の部員の顔が赤いが。あ、下着が汗で透けてる。

 スポーツブラだから色気がないわね。どうせならもっとかわいいの着て来れば良かったな。

 かわいい?


 それは大事な言葉。


 …って、なぜだっけ?


 いけない。試合に集中しないと。


 6回裏も凡退に終わり、7回表、私はマウンドに登った。

 あと三回。0-0のまま延長になっても軟式野球は時間制限で打ち切られるが、それまで私の体力が保つのか。

 初球。少し浮いた。相手打者は見逃さなかった。小気味よい音がして、まっすぐ私の左に向かって飛んできた。ピッチャー返し。

 私は飛びついて捕球、そのままぐるんと前転して起き上がり、念のためファースト前田君に投げた。バッターはててててとタタラを踏み、ベンチに戻っていった。ナイスキャッチと声が掛かる。


 二人目。さっきフライングキャッチしたときに肩を打ったらしく投げるたびに少し骨に響く。だがこのくらいは微調整の範囲だ。三球三振。よし、この回あと一人。

 初球。また浮いた。バッターは振り遅れ気味だったが、三塁ゴロになった。サード北町君が前田君(ファースト)に投げる。セーフ。

 足速いなあ。さすが強豪。

 初めてのランナーを一塁に置いて三人目。それにしても平城中の選手たち、当ててくるようになったわ。これが県大会レギュラー校の実力なのね。

 甘い球は持って行かれる…。初球は確実に。インコースギリギリのストライク。三島君の(キャッチャー)ミットに吸い込まれるようにバシンと収まる。よし!

 ランナーが走った。三島君がセカンドに送球するが、相手が速かった。盗塁を許してしまいツーアウト2塁。セカンドのヒサシがドンマイと声を掛ける。

 二投目、スローカーブ。大振りでストライク。よし。

 二塁(ヒサシ)に牽制球を送ってリズムを変え、低めの外角速球。ボール。ツーストライクでもこれは振らないか。さすがに肝が据わっている。

 これで最後!再びインコースギリギリの豪球。ぴりっと肩が痛み、指が離れるのが少し早くなった。コースがやや甘い。大振りのバット。しかし空を切った。三振!

 と、ボールがミットにはねた。三島君の後ろに転がる。打者が走った。振り逃げだ。

 三島君がボールを掴み1塁、3塁へと瞬時に視線を送るが、投げられない。ホームをカバーするに留める。


 ツーアウトランナー1、3塁。3塁ランナーは俊足だ。

 平城中の応援団はここぞとばかり盛り上がっている。4人目のバッターは相手の主将野島君だ。バッターボックスから睨まれた。

 一投目、高めのスローボール。タイミングが合わず空振り。今のはボールだ。野島君、気合入りすぎじゃない?

 二投目は内角低めのストレート。ファウル。振り遅れている。これでツーストライク。三投目はボール。ランナーは走りかけたが、三島君が投げる前にどちらも塁に戻っていた。

 四投目、ファウル。五投目、ボール。六投目、ファウル。粘るなあ。だんだんスイングのタイミングがあってきている。いい打撃センスだ。


 中学生に私が攻略されてしまうのか。


 …今は本来の10分の1しかない。もう少しこっちにリソースを割けばよかったかな。


 またボール。

 ツーアウト1、3塁。ツーストライクスリーボール。

 追い込まれた。



 ……


 まだか?


 まだ来ないか?


 今こそ、最大の見せ場。


 ヒーロー登場のお膳立てはできあがった。


 ……


 ……

 ……


 …… 来た!


 私の中に、分かれていた10分の9が帰ってきた。


 もう一人を連れて。



 そして私の口が言葉を紡ぐ。


「我にあだなす九重の星よ。ひときわ輝く四番の巨星よ。我は来たり。我は蘇り。今一度の生に歓喜する。我が力、今ぞ知るべし。大いなる光、大いなる盾。正に完璧たる真なる我を、その眼に焼きつけよ。豪にして速し勾玉。世界に並びなし輝石。その姿にひれ伏し、讃えよ。王の帰還である!」


 厨二病全開のセリフだ。…歳も中二なだけに。


 私は10分の10の力で勝負球を投げた。全力全開のストレート。155キロオーバー。160キロ出ていたかもしれない。


 野島君は振り遅れた。見事に空を切るバット。

 三振!


 だが、あまりの球速に三島君もキャッチできなかった。ミットを弾き、球はバックネットへと跳ねる。

 3塁ランナーが走った。野島君も体勢を崩しながらもファーストへ走り出す。また振り逃げだ!

 私はホームへ走った。三塁ランナーは俊足だが、私の方が遥かに速い。

 片足をホームをかけ中腰でミットを構え叫んだ。


「三島!貴様の魂、我が胸へ!」


 バックネット際から三島君が投げる。3塁ランナーがスライディングを始める。私がボールをキャッチする。ランナーと私がホーム上で交差する。


「アウト!」


 私のタッチの方が早かった。

 三塁ランナーはスライディングの格好のまま本塁上で万歳していた。その上に覆いかぶさるように私がいた。ランナーの顔に私の胸が乗っていた。幸せそうなランナーの表情。


 歓声と怒号が沸いた。


「鉄壁!完璧!零にして始原、無限にして零!完全なる阻止、迅速なる措置!我を崇めよ!我を讃えよ!顕現し至高の王にひれ伏すのだ!!!わははははははっ!」

「おーい、喜ぶのはいいけどスリーアウトチェンジだぞー」

「あっ、ごめ」


 ヒサシに促され、私はベンチに戻った。


「捕球ミス、悪かった。すまん、追いつけなかったよ」

「三島よ、汝に非はない。詫びるべきは我だ。制球が足らず危機を招いた。謝罪する」

「ま、まあナイスカバーだったぜミリア」

「当然にして至極。我は無敵。我は最強。盾にして矛。矛盾を超える完全なる攻防の力。降臨せし絶対なるものだ」

「そ、そうか。朝から調子悪かったみたいだけど、良くなった…なんか良すぎるみたいだけどな」

「ふむ、言語変換エンジンが暴走気味かもしれぬな。この辞書テーブルは我が未来、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のものか。なるほど」

「ミリア、打順だぞ。ぶつぶつ言ってる場合じゃない」

「了にして解。これで我らの勝ちだ。括目してみよ!」


 ぐわっきーん!


 初球。ソロホームラン。


 打球はグラウンドのネットを遥かに超え、隣の屋内プールの建物も楽々越し、さらにその隣のゴルフ練習場のネットへ引っかかった。

 敵も味方も呆然とするなか、私はベースを一周した。

 ヒサシがひきつった笑顔で迎えてくれた。

 

 8回、9回表とも160キロ台のストレートを三島君のミットにビシビシ決めて6連続三振とし、0-1で平城中を下した。


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