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第32話 デパートガールとの戦い

前作の主役デパートガールたちとの直接戦闘話です。前作読んで頂いてデパガに思い入れのある方にはちょっと辛い話かもしれません。


確認不足で第9話と齟齬があったので、第9話の方を修正しました。市場にいたデパガを変更しただけなので、ストーリー自体に大きな改変はありません。

 屋敷の中はがらんとしていた。デパートガールらがメイド兼務なので、専属メイドはいない。

 フミトがこもっている今、屋敷にはアリューナの姿しかない。馬車の御者はフミトがヒキコモリになってしまったので、暇をやって実家に戻らせたそうじゃ。


「フミト様の部屋は2階の広間です」


 アリューナが階段を指す。2階があるのか。うちは平屋だが。

 いや、()()()。天井や壁の大半は爆発で吹き飛んでしまったからなあ。

 アリューナは今回戦力外なので、1階でそのまま待機。


 部屋の中に入るのは潜入(ダイブ)係のわし、接続係のシドウ、プロクシ係のダムドとそれぞれのパートナーであるフレイア、リリエファ、サザロイの6人。

 デパートガールとの戦闘もあり得るので、パートナーは戦闘要員兼勇者防衛係だ。

 部屋の外で警護に当たるのはエルゼル副隊長と三番隊からファド・ストルゲン、ギリー・アトラルド、ロックール・ジ・レ、メタウ・コンコードとパヴァの5人。

 パヴァの虎召喚とプラズマは狭い部屋では使えない。フミトやデパートガールを必要以上に刺激しないようにという配慮でもある。

 虎女や甲冑姿はいかにもいかつい。

 それにわしを襲った敵が外から攻めてくる可能性もある。


 ギリー、ロックール、メタウは例のキャンプでファドの抜け駆けを咎めたわしのファンクラブの会員だ。名前で呼んだらやけに喜んでいた。

 

 シャーリーズ隊長以下本隊は屋敷周辺に陣を展開している。

 三番隊は魔法に秀でた騎士で構成されている。サブマシンガンには主に土魔法で対抗する予定だ。


 ちなみに、一番隊は主兵装が槍の騎馬隊、二番隊が大剣や鎚を使う歩兵隊だ。もちろん全員魔法も馬術も剣術も出来るが、その中でも特に得意とするもので隊を分けている。

 シャーリーズ隊長のようにすべてに秀でた万能型はそういないらしい。


「フミト、ヒルダじゃ。中に入るぞ」


 扉の前で声をかけた。

 ややあって、女の声がした。


「…勇者ヒルダ様。フミトくんは病で臥せっております。お帰りください」


 こないだ市場で会った5人のいずれとも違う声のようじゃ。20人以上を使役するという話だから、当然か。


「デパートガールか。わしらはフミトを病から救いに来たのじゃ。方法はある。入れてくれ」


 またしばらく沈黙があった。


「勇者ヒルダ様。方法とはどのような?」


 最初の声と違う声じゃ。この声も記憶にない。


「イマジナリを同調させフミトの意識の中にわしが潜る。そしてフミトと共にヒキコモリの原因を絶つ」

「原因を絶つ、とは?」


 今度はすぐに返事があった。また別の知らぬ女の声で。


「意識の世界で原因となった出来事を追体験し、今度はそれを乗り越える」

「そんなことをしたら、フミトくんの心が壊れてしまいます!」


 これは知ってる。市場で会ったヤイト・シイサの声じゃ。


「そのためにわしがいる。わしがフミトを支える」

「そんな!フミトくんのことを何も知らない貴女がどうやって支えるというのですか!私たち全員で尽くしても食事を採るのがやっとなんですよ!フミトくんを支えるのは私たちの役目です!」

「ヤイト・シイサ、いやそこにおるデパートガールたちよ、今のままではフミトはいずれ死に至る。ヒキコモリは時間が経てば経つほど重篤化し治療が困難になる。お前たちはそれでもよいのか」

「フミトくんは死なせません!私たちが全力で護ります!」

「話にならんな。すまんが強行突破させてもらうぞ」


 ドア開けようとしたが、案の定扉に鍵がかかっていた。


「フレイア」

「おまかせなのです」


 フレイアが魔法コードを打ち込んで解錠した。

 その直後にエルゼル以下三番隊が扉とわしらの間に滑り込み、盾を構えた。魔法付与盾(マジックアイテム)だ。


 フレイアが扉を開けた。

 金属片が部屋の中から無数に飛んできた。

 三番隊が盾でそれを受けた。

 巨大な半透明の乳児が床から浮かび上がってきた。

 両手におかしな形状の短剣を持った短髪の女が飛び出してきた。

 それらが一度に起こった。


 フレイアが360度バリアを展開しつつ部屋に飛び込んだ。

 わしも追って入る。

 飛び出してきた短髪の女は市場で見たフクシマ・ミカゲだ。

 エルゼルがにやりと笑って対応する。

 浮かび上がる巨大な乳児はデパートガールが生んだ、いわばイマジナリのひ孫である幻影(ゴースト)だった。殺傷能力はないが、精神を汚染することがすぐ分かった。


 わしもイマジナリだからな。


「ダムド!スマホのアラームを鳴らせ!」

「わかったわ!」


 ダムドが3個のスマホでけたたましい警告音を放つ。巨大乳児に半ば精神を支配されかけたファドらファンクラブの連中が意識を取り戻す。

 生身の人間でイマジナリの精神支配に対抗するのは難しかろう。そもそも強力な精神力が具現化したのがイマジナリじゃ。

 とすると平気なエルゼルはやはり人外の領域ということか。星からの神々の子孫だからか?


 ミカゲは身体能力に秀でていた。ジャンプや回転、フェイントを駆使した三次元機動による剣戟を繰り広げた。一方エルゼルは結構ヒットを受けるが致命傷は避けている。

 シャーリーズ隊長と戦ってエクスアーカディア流剣術を体感したわしには、敏捷性を捨て防御・打撃特化したのがエルゼル副隊長流と思われた。

 にしても楽しそうだな。エルゼル。いいぞ、そのままミカゲを引きつけといてくれ。


 ファドたちも副隊長を護るように取り囲むが、ミカゲとエルゼルの挙動が速すぎて助太刀を繰り出すタイミングがないようだった。

 フミトが実体化できるデパートガールは最大5人。1人エルゼルが構ってくれているから、残り4人。


 と、横目で状況を把握しつつ、部屋に入ったわしを襲ったのは、異臭だった。


(そうじゃな、籠城してたらこうなるか)


 糞と尿とすえた汗の不快な臭いの中に濃厚な甘い匂いが混じっている。

 耐性がない者なら吐いていただろう。


 だがわしは百光年の暴竜(HLD)。数週間前線で立て籠っていたこともある。臭いのは平気じゃ。


 ただ、このやたら甘い匂いは、前線にはないものだった。

 が、今は知っていた。

 酒飲んで欲情したときのイターの匂い。

 イマジナリの黒い軍団が屋敷を襲撃してきた時レオナールの部屋から漂っていたルーイの匂い。

 それを百倍濃くしたような、粘り気すら感じる匂い。



 部屋の真ん中に大きなベッドがあった。

 フミトが焦点の定まらぬ目で寝たまま宙を眺めていた。裸だった。股間についておるものを見た。フミトがよぉじょではなくて本当に男だということが確認できた。

 その周りに4人の女がいた。一人はヤイト・シイサだったが、後の3人は初見だった。

 制服は着ていたが、白い粘液があちこちこびりついていた。


 何をしていたのかよくわからないが、異常な事態だということは分った。わしの索敵スキルがマックスレベルで警報を鳴らした。


「きさまーらー!勇者フミトから離れ―ろー!!!!なのです!!!!」


 フレイアがバリア全開のままデパートガールにロケットアタックした。

 HLDOL(ヒルドル)のスラスターブーストパンチよろしく加速した体重を乗せてデパートガールたちをぶん殴る。


 ヤイト・シイサ他二人が吹っ飛ぶが、一人耐えたものがいた。


「リヴァちゃん、ウォータージェット!」


 耐えた一人はそう言うと、肩から細い一条の水を噴出した。よく見ると肩に乗った小さい竜が水を吐いていた。


 アリューナの360度バリアが、あろうことかその水流に切り裂かれた。さらに右肩に食い込み、血の花を咲かせる。


「ぐっ、なのです!」


 やられてる時まで「です」言わんでいいとは思うが、突っ込んでる場合じゃない。


「バンシィカーズ!水の壁(ウォーターウォール)!」


 わしはフレイアの周囲に水の壁(ウォーターウォール)を展開した。

 反対属性の火じゃないのかと言われそうだが、同属性魔法は吸収しあうという特性がある。

 アルパの魔法剣が強化されるのと同じ理屈だ。より強い魔法が弱い魔法を取り込むからだ。

 フレイアの360度バリアを切り裂くなら、反対属性のカウンターでは完全に防ぐのは難しいと判断した。


 デパートガールの力が魔法由来かどうかわからないし、どっちの魔法が強いかはわからん。

 ただ、アジャルガ高地でのHLDOL(ヒルドル)調査時に、魔法工房から派遣されていたアゼット技官の取り乱しぶりから、バンシィカーズの強さに賭けた。

 そしてその結果はすぐに出た。デパートガールの水流は水の壁(ウォーターウォール!)に吸収され無効になった。逆に(ウォール)は強化された。わしは賭けに勝った。


「フレイア・キック!なのです!」


 すかさずフレイアが水流女にドロップキックを決めた。

 さらに回し蹴りで壁へと吹っ飛ばす。なかなかやるのう。


 最初に吹っ飛ばされた3人のうちヤイト・シイサが起きあがっていた。手にした金属ケースを開いた。

 銀色に輝くナイフやフォークが見えた。カトラリーセット?

 それらが、飛び出してきた。さっきエルゼルたちが防いだ金属片はこれか!


 さらに横にいた女が何か唱えた。

 途端に飛んでくるカトラリーが何倍にも増えた。


「バンシィカーズ!土の壁(グランドウォール)!」


 最初のカトラリーが飛び出す瞬間にカードを取り出したわしは、数が増えたことで半球状に壁を展開した。この間0.01秒。


 百本近いナイフやフォークが土の壁に突き刺さったように見えたが、実際は12本だった。

 やはり幻惑の術(イリュージョン)じゃったな。


 と、フレイアが突如浮き上がり、天井に向かって()()した。

 斥力制御かと思ったが、そばにいたわしには影響がない。えらくピンポイントな発現の仕方だった。


 吹き飛ばされた3人目が「不思議大好き」と唱えていた。魔法の一種か?


 フレイアは360度バリアをクッションにして天井を蹴った。もう一度ロケットアタックする。

 ぎりぎりその女の肩に手が届いた。女を抱きしめ二人とも天井に落ちる。そのまま女の頭を天井にたたきつけた。フレイア感覚では逆さになった女が地面に激突した感じだな。


 まあ、フレイアは反重力、女は正重力だから相殺されて威力は落ちているだろうが。

 …フレイアかなり重いのだな。いつぞやかのジャンプハグの時衝撃がすごかったものなあ…。


 女が気絶して術が解けたのか、フレイアが天井から降りてきた。フレイアが手を放したので女は失神したままどさっと床に落ちた。こっちの方がダメージ大きいかもしれん。


「つつみ!」


 ヤイト・シイサが叫ぶ。ツツミというのは名前だろう。


「ひどいな」

「巫女をいじめたお返しなのです!」


 フレイアの奴、アリューナの件で相当怒っているな。容赦がない。


「リリエファ、サザロイ、お前たちもフレイアたちと一緒に戦え!こっちの防衛は僕の次元斬(ディメンションシザー)で対応できる!」


 後方でシドウの声がした。ダムドもうなずく。


「承知いたしました、シドウ様」

「シドウ様、ダムド様をお願いします」


 リリエファとサザロイがフレイアの左右についた。これで3対3。わしも入れたら4対3じゃが、昨夜みたいに他人の屋敷を吹き飛ばすわけにはいかんので大した武器は召喚できん。

 せいぜいバンシィカーズを使う程度じゃが、比較的被害が少ない水と土はもう使ってしまった。

 隷属(スレイブリー)は強力だがこないだシャーリーズに使ってまだチャージ中だし、建物を壊さないという意味で使えそうなのは、閃光(フラッシュ)麻痺化(スタン)毒化(ポイズン)気絶(ショック)か。


 ただ、いずれも狭い室内だとこちらにも影響が及ぶので、使いどころが難しい。

 うむ、やっぱわしも今回は戦力外じゃなあ。残念じゃがパートナーに任せよう。


「パートナーズ!デパートガールの無力化は任せる!わしはフミトを直接説得する!」


 そう言って、フミトが寝ているベッドに飛び乗った。じっとりとマットが濡れていた。寝汗か?


 フミトが虚ろな目でわしを見た。


いろいろアレな展開になってきましたが、第16話や第22話はこの回のために仕込んでおいたお話です。フミトくん中身は成人男性ですし、女性と部屋に籠っておるとこうなりますよね…。

このエピソードでこれ以上の下ネタ描写はありません。ご安心ください。


次回は5月21日21時更新予定です。週1回ペースに落ちちゃってすみません。

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