第3話 宮殿と自宅と
凱旋広場の壁の巨大な門をくぐると、繁華街だった。
中央通りの左右に大きな建物が並び、その中では食品や衣料や雑貨などがまとまって販売されている。市場というか、広域型SCだな。
裏手には屋台も出店していたり、ところどころで食事をとれる店があったり、医院や占い小屋などもある。
まだ日が高いが、酒場のテラスで飲んだくれているおっさんもいる。
ジャグリングやマジックなどを見せてチップをもらう大道芸人もそこかしらにいる。
買ったたくさんの荷物を馬車に乗せている人もいる。旅行者のためのレンタル馬車もあるようだ。
宿屋も結構な数がある。
基地の酒保しか知らないわしだが、まあ大変なにぎわいだ。
行き交う人の風体や容姿も様々だ。
一大文化交流地なんだろうな。この王都。
武器屋とか薬屋とか、気になる店がたくさんあるが、今は先を急ぐ。
市場を抜けるともう王城だ。
わしらが基地の数倍の規模だ。凝った意匠の城壁がぐるりとめぐり、壁の向こうに複数の尖塔を持つ宮殿が見えていた。
石造りのようだが、なかなかに壮麗な城だ。
城の周囲はこれまた石造りの民家が並んでいた。
転移門から市場を通って城の正門までは直線で広い石畳の道になっていたが、民家は城を中心にした環状道路に沿って整然と並んでいる。
輸送、流通、行政の中心施設が市民の徒歩圏内に集められている。
政治経済学で学んだコンパクトシティ構想というものだな。
おそらく、教会や病院、学校なども近くに建てられているのだろう。
都市計画がきちんとなされている印象だ。
城正門前の警備兵はかなりの数だったが、入城の手続きはフレイアが何かを見せたらすぐ終わった。
IDカードか、招聘メッセージだろう。
警備詰所でフレイアとともしばらく待つと、案内役の騎士が現れた。
「勇者殿、トラヴィストリア宮殿によく参られた。私は近衛騎士隊三番隊十二位ファド・ストルゲン。会見の間まで案内する」
「戦略機動軍突撃機甲隊XXXV小隊所属XXXVー88501207022PP3Rだ。PP3Rがわが軍の位階を示す。ファド殿宜しく頼む」
「違いますヒルダちゃんです!」
「おお、そうじゃった、改めわしはヒルダである」
「?」
ファドはきょとんとしつつも、任務遂行に戻りわしらを案内していった。
ふむ、よぉじょの姿ではPP3Rと言っても信用してもらえんか。3個中隊までの指揮権を持っているのだがな。
このまま国王に会うのだろうと思っていたが、城では宰相との面談で終わった。
文民統制か。やはり軍事国家にあらずだな。
邪神討伐の準備としてわしはしばらく教育を受けるらしい。
はじまりの洞窟の試練は勇者学校の入学試験ということか。
課程をこなし卒業の後に国王から直々に作戦命令が下るのだそうだ。
即座に邪神との戦地に送られると思っていたが、まあいい。敵を知ることは大切だ。
勇者学校とやらでもトップをとってやる。
わしは百万光年の暴竜。
誰にも遅れはとらぬわ!
そして結構立派な「自宅」をあてがわれた。
城からは馬車で10分程度、場所こそ王都のはずれで住宅もまばらだが、その分庭も広く部屋は10ほどもあった。
乗ってきた馬車はそのまま裏庭の馬繋場に繋がれた。これ自家用馬車だったのか。
メイドも三人が常駐するらしい。
フレイヤも身元後見人兼メイド長として同居する。
女多いな…。
慣れなければなあ。
「おお、なかなかに快適じゃな」
わしの寝室には天蓋付きの大きなベッドがあった。
基地のベッドも寝心地は結構よかったが、装飾一切抜きのシンプルなものだった。
寝具にはフリルやレースや刺繍がふんだんに施され、天蓋の内側には物語の挿絵のような絵が織り上げられていた。
ビロードで出来たカーテンが頭側に畳まれていた。ぐるりとベッドを覆うことができるようだ。
完全に閉めるとちょっと暑いかもしれんな。
戦闘中に召喚を受けよぉじょになってはじまりの洞窟でモンスター倒してお城へ行って入学説明。
なかなか濃厚な一日だった。
やけにつかれた。この体はスタミナがないな。まあ仕方ない。小さいし。
もう日も沈みかけだし、このまま寝るか。
「だめです!」
フレイアがいきなり現れた。
「晩御飯が出来たのです!食べてお風呂に入ってから寝るのです!」
ばんごはん?
ああ、そういえば出撃前にレーション補給しただけだったな…
この体は基礎代謝が低そうだから一食抜いたところで問題ないし、風呂は面倒だ…
明日の朝シャワーでいい…
「だめです!ヒルダちゃんは育ちざかりだからしっかり食べないといけないのです!そして髪と体のケアも大切なのです!きちんと洗ってあげます!」
なんか最後怪しげなことを言ったな…
でもねむいのだー…
「仕方ありませんのです。力づくで連れて行くのです!」
わしはフレイアに抱きかかえられた。
そのあと食堂に座らされて、フレイアが「あ~~~んするのです」とか言って…
なんか口の中に入ってきたような気がする。うまかった。
そのあとは本当に記憶が途切れて、ピンク色の柔らかいなにかと、あわあわがフラッシュバックして…
はっ!
目が覚めた。
動物たちがこっちを見ていた。
絵だ。
天蓋の裏の絵本風の刺繍だ。
がばと身を起こした。
寝具に負けないくらいたくさんのフリルがついたパジャマを着ていた。
なんじゃこりゃ。
半開きのカーテンから柔らかな光が差していた。
朝だ。
ドアが開いた。
「おはようございますです。ヒルダ様」
フレイアが黒のワンピースとフリルのエプロンというメイド姿で現れた。昨日は終始巫女服だったから、印象がずいぶん変わっていた。髪もアップにしているし。
そういえば、ちゃん、から様になってるな。
さすがはイマジナリボディ、TPOに合わせて用語も最適化するのか。
であるが女というものに慣れ始めたところで別人みたくなるなや。
ドギマギするわ。
「うむ、おはよう。フレイア」
わしは緊張を悟られぬように冷静に挨拶した。
ん?
確か夕べこいつと風呂に入った…よな。ほとんど覚えてないがあのピンクの柔らかいのは…
「ヒルダ様、何を赤くなっているのです。お召替えをして朝食を。今日は入学式です。遅刻するわけにはまいりませんのです」
「ちょ、おま、なにをする気じゃふえっ」
フレイアはためらいなくわしのパジャマも下着も脱がせていく。
おおお女のからだがあらわに!
うむ、体は色の白さを別にすればわしの子ども時代とあんま変わらんかった。つるんペタンだ。
冷静な意識を維持できた。よかった。
股間もつるペタ…というか窪んでたのはちょっと驚いたがの。
なるほど、大人の女の体だと着替えるたびにショック死しかねんが、これならギリ我慢できるな。
よぉじょの姿というのは、それなりに配慮のきいた転生なのかもしれん。召喚者グッジョブ。
しかし朝食のあと生理現象として排泄する段になっていろいろ打ちのめされたのだが、そのくだりは割愛する。
前回予告でお風呂回といいましたが、過剰宣伝で申し訳なく。下ネタはさらっと。
さて次回いよいよ舞台が勇者専門学校となりますです!(フレイア風味)