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第29話 敵襲

早く書けましたので、予定より1日前倒しで公開します。この世界の真実が、少しずつ明らかになってきます。

 作戦の打ち合わせは長かったが、正直内容は薄かった。


 零番隊というのは、要するに独立遊撃隊のことだった。

 邪神出現の報を受けたら直ちにHLDOL(ヒルドル)が出撃する。

 HLDOL(ヒルドル)は超光速で移動できるので、転移門を使うより早く邪神出現場所に着ける。

 その後に近衛騎士隊が至近の転移門を使って移動しサポートする。


 レイラ・モルヴァリッドとやらも零番隊だから、自己判断で出撃しているということじゃな。

 レイラも何らかの移動手段を持っているということなんじゃろうな。

 しかし、一騎当千と言えば聞こえはいいが、邪神が倒されていない現状、3万人目の勇者と言えど足止め係程度にすぎない。

 この世界の戦力からすれば、邪神を足止めできるだけでも驚異的な存在ということだが。


 わしも、はじまりの洞窟では圧勝したとはいえ、あれはイマジナリで作ったまがい物じゃ。

 本当の邪神にどこまで通用するかは、実際のところ戦ってみなければわからん。

 慢心していてはだめじゃ。


 首都レグナントでの戦いのように11体の邪神をまとめて相手をしなければならないかもしれんしな。

 1対11。

 それも想定しておかねばならん。

 最悪のカードを検討しておくのは作戦の基本じゃ。


「邪神、倒せるようなら近衛を待たず倒してしまってもよいか?」

「それはもちろんだ。我はHLDOL(ヒルドル)を直接見たことはないが、レイラをしのぐと聞いている。我らの未来、勇者ヒルダに託す」


 うーん、託されてもなあ、隊長。そこは嘘でも近衛と連携と言った方がよかったのではないか?


 そりゃそうと隊長やけに近くないか。なんかうきうきした顔でわしにべたべたくっついてくるんじゃが。

 女に耐性がない頃じゃったら逃げてたぞ。


 各種連絡はフレイア経由で行うこととなった。というかそのためのパートナーだ。フレイアも頷く。

 それと、週明けに学校の卒業式と国王の謁見を行うことを聞いた。

 いよいよじゃな。


 作戦会議は終わり、わしらは近衛の馬車で屋敷まで送ってもらった。

 今日は学校には戻らないと聞いていたので、レオナールの馬車は先に帰らせていた。


「お帰りなさいませ、ヒルダ様!」


 三人のメイドがにこやかに出迎えてくれる。


 帰宅が早かったので、夕食までだいぶ時間がある。

 寝室にこもる時間でもないので、食堂のテーブルで作戦メモを何枚か書いているとルーイが寄ってきた。


「それはなんでございますか?ヒルダ様」

「うむ、町に近い場所に邪神が出た時の討伐戦術メモじゃ。町を防衛しながら邪神を倒す方法を出来るだけ書き出している」

「なるほど、町に近い場所じゃないとそもそも出現報告がありえないし、転移門があるのも町ですから、ヒルダ様がおっしゃるように、邪神戦は必ず都市防衛戦になりますね」

「呑み込みが早いな、ルーイ。11の邪神それぞれに最低10パターンの戦術を書き出している。それが終わったら複数出現した場合の検討に入る」

「組み合わせ…。nCrでございますね」

「おお、よく知っているな。数学の勉強をしているのか?」

「メイドたるもの、食材の組み合わせでメニューを決めたり、まとめ買いでの値切りや、市場のお店の巡回の最適化などで実践しておりますゆえ」

「ほう、巡回問題解けるのか。立ち寄り箇所が増えると爆発的に場合の数が増えてかなりの難問になるが」

「問題ございません」


 また見くびっていたな。

 この世界の人間は歴史時代の無知蒙昧な者たちではない。

 よく考えれば魔法を実用化しているのだ。どこまで理論を判っているかは別にして、シドウがまだ自力ではできない8次元誘導を成し遂げている。

 イマジナリや巫女ネットワークや古代の魔法光炉オラトリアクタ・アルマイネという超技術もある。

 タタラの式術もそうだ。

 技術水準のちぐはぐさばかり気にしていたが、部分的にはわしらを超える科学文明ともいえる。


 気をつけねばなるまい。わしは漠然とそう思った。

 そしてそれは、その夜のうちに現実の脅威となった。



「!」


 深夜。わしはたーちゃんを抱いてぐっすりと寝ていたが、索敵スキルのアラームでパチッと目が覚めた。

 屋敷を囲むように多数の殺気が接近してきつつあるのが感じられた。


 飛び起きて、たーちゃん経由でタタラに繋いだ。


(なんでございますかあぁ?ヒルダ様…こんな遅くに…ぐにゅぐにゅ…)

(寝ぼけている場合じゃない。敵だ。ブースト頼む)


 正直あまり式術を掛けられたくはないが、殺気は濃厚だ。数も多い。おそらく30…40人ぐらいかもしれない。

 よぉじょの体で対抗できるとはとても思えなかった。


(え、なんですと!賊ですか!なんと不埒な!)

(とりあえず3倍ブースト頼む。あまりブーストしすぎるとこの体がついていかん。繋ぎっぱなしにするから、危ないと思ったらタタラの方でブーストレベル上げてくれ)

(合点承知の助!)


 なんだその返事。


 わしは使い勝手のいいビームソード(ドラゴニック・ソード)爆発反応盾(リアクティブシールド)を実体化した。

 強化外骨格(パワードスケルトン)を出してもよかったのじゃが、いささか過剰装備に過ぎる。屋敷をぶっ壊しかねない。

 今のわしはスリップにドロワーズといういでたちだ。フレイアが選んだ今日の寝間着だ。

 毎日毎日新しい服を着せよる。あいつあの時何枚買ったんじゃ?

 着替える時間もない。寝巻のままソードとシールドを装備してひとまずメイド部屋に行く。

 ルーイたちが危険じゃ。


「開けるぞ!」


 メイド部屋の扉を開くと、マシュがイターを抱きしめるようにして寝ていた。イターは少しよだれを垂らし、マシュはパジャマの前ボタンが外れておなかとショーツが丸見えになっていた。

 二人とも揺り起こす。


「…あ、ヒルダ様…え、もう朝ですか?寝過ごしてしまいましたか?なんだか目が赤く光っておられますが」

「いや、まだ夜中じゃ。目はタタラと繋いでいるせいじゃ。それより敵が近づいている。何か得物はあるか?」

「はい、メイド組合で剣術も習っております。これに」


 イターとマシュは細身の剣(レイピア)を棚から取り出した。軽くてスマートなのはいいが、集団戦には向いていない。すぐ折れてしまいそうじゃ。


「敵は多い。これを使え」


 振動剣スーパーソニックブレードを2本生み出し、二人に渡す。強化外骨格(パワードスケルトン)用の武器だが、ビームソード(ドラゴニックソード)より省エネなので内蔵電池で1、2時間は連続使用できる。

 二人はパジャマのままで素振りして、使えることを確認した。


「基本、身を守ることに専念しろ。敵を追ってはいかん。わかったな」

「はい!承知いたしました」

「はい、身を守ることに専念します」

「イター、それ何語?なんて言ってるの?」

「イターの故郷の言葉だ。わしにはわかるから良い。ところでルーイは?レオナールの部屋か?」

「…おそらく」

「わかった。お前たちは食堂に行け。あそこなら籠城できる。食料も水もあるしな」


 わしはレオナールの部屋に向かった。敵の気配がどんどん近づく。


 ガチャと玄関の鍵が開く小さな音が聞こえた。

 鍵を持っている?

 あるいはピッキングができるのか?


 音もなく複数が屋敷に入ってきたのが分かった。


 あまり大声をあげたくはないが、間に合わん、仕方ない。


「ルーイ!レオナール!」


 わしは叫んだ。


 少し時間差があって、レオナールの部屋の扉が開いた。シーツで体を捲いたルーイが飛び出してきた。その後ろからズボン履いただけで上半身裸のレオナールも追いかけてくる。

 わしはようやく二人と接触した。


「敵の襲撃じゃ!これを使え!」


 ルーイとレオナールにも振動剣スーパーソニックブレードを渡す。


「ひ、ヒルダ様、も、申し訳ありません」

「言いたいことがあるなら後で聞く。それより身を守れ。食堂でイター、マシュと合流して籠っておれ。わしが敵を倒す。フレイアはいつもの夜のお出かけか?」

「は、はい、おそらく…」


 シーツの隙間からルーイの胸が見えた。裸だった。レオナールがばつの悪そうな顔をしている。


「今は気にやむな。行けっ!」


 ルーイとレオナールが慌てて食堂へ走っていき、わしは玄関に向かった。

 ビームの刃は闇に目立つのでギリギリまで伸ばさず、グリップだけを握っていた。

 フレイアがいないから騎士隊に連絡することが出来ない。

 一人で敵をせん滅するしかない。 


 気配は玄関ホールから動いていない。わしが向かっているのを分かって待ち伏せておるのだ。相当自信があるようじゃ。

 そしてわしの屋敷を襲撃した以上、わしの能力(ユニークスキル)も知っておるということじゃな。


 強化外骨格(パワードスケルトン)HLDOL(ヒルドル)にそうたやすく対抗できるとは思えんが。

 第一そんな戦力があったら、邪神を倒せる。


 何が起こっているのかよくわからんが、それゆえ不気味じゃ。


 わしは角を曲がれば玄関ホールというところで、身を潜めた。気配は10を超える。そして屋敷の外にも2、30人が取り囲んでいる。


 爆発装甲盾(リアクティブシールド)を3枚出して、玄関ホールに投げた。

 一斉攻撃が始まる、と思ったが、反応がない。

 おかしい。

 いつでもビームを出せるようにして、角から半身を乗り出した。


 赤いターゲットマーカーがわしの体を何本もスキャンした。ちょっと待て銃はこの世界になかったはずじゃ!


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!


 複数のサブマシンガンがわしを襲った。サイレンサー付きだ。なんでこんなものがと思いながら、爆発装甲盾(リアクティブシールド)で弾をはじく。

 こっちは盛大に爆発音を上げた。外の奴らが一斉に近寄ってきた。

 わしを追いかけてくる奴らは、全身黒ずくめでフルフェイスのヘルメットをかぶっている。

 対テロ装備の特殊部隊に思えた。


 ガッシャーンと窓が割れる音がした。外の連中も侵入してくる。

 メイドたちに渡した振動剣スーパーソニックブレードではサブマシンガンには対応できない。


 わしは爆発装甲盾(リアクティブシールド)を幾重にも展開し、玄関ホールの連中をブロックしつつ食堂に急いだ。


「ドラゴニック・ウォーリア!」


 ホールの敵と少し距離が空いたところで、意識を集中させ強化外骨格(パワードスケルトン)を身に纏った。

 サブマシンガンと爆発装甲盾(リアクティブシールド)のせいで屋敷の中はすでに半壊状態じゃ。

 過剰防衛などと気にしていられない。敵は制圧戦のプロだ。


 スラスターを吹かして途中の壁を突き破り、最短距離で食堂に飛び込んだ。


「ヒルダ様!」


 わしの目に飛び込んできたのは、振動剣スーパーソニックブレードで黒い集団と互角に戦っている三人のメイドだった。

引きで終わって申し訳ありませんが、次回は4月29日21時公開予定です。前倒しで公開できそうなら活動報告にその旨投稿いたします。

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