第28話 高速反省会:シャーリーズ
早く書き上げられたので、予告より1日早く公開です。いつもこんな調子だととよいのですが…。
近衛騎士隊は微妙な雰囲気だった。
隊長が敗北する一方、騎士隊にファンクラブすらあるわしは圧勝した。
あまり人望があるように思えないシャーリーズ隊長よりも人気、実力に優るわしの勝利を讃えたいが、なんせ隊長は第一王女だ。
王国の近衛としては王女優先は当たり前。
騎士隊の誰もが、この状況誰か何とかしてくれと思っていたに違いない。
そういう空気を読まない奴が一人いた。
「ヒルダちゃんさすがなのです!シャーリーズ王女が手も足も出なかったのです!」
フレイアにジャンプハグされた。ジャンプハグとは遠くから飛び込んできて抱きしめられるという、される方にはとても迷惑な行為じゃ。
それを合図に、歓声が沸いた。
ヒ・ル・ダ!ヒ・ル・ダ!
騎士達が拳を挙げてわしを称賛しておる。
ファド・ストルゲンが涙を流して叫んでいるのが見えた。近衛として隊長そこまでないがしろにしていいものなのか?このロリコンがっ。
「静まれ騎士たちよ!」
エルゼル副隊長が大声で叫んだ。歓声が止む。
「シャーリーズ隊長がただ今の決闘を以ってお認めになった。今よりヒルダは近衛騎士隊の一員となる。零番隊だ!」
「零番隊!」
「零番隊!」
「おお、すげえ、3万人目の勇者レイラ・モルヴァリッド以来の零番隊か!」
気になるワードが飛び込んできた。3万人目の勇者はレイラ・モルヴァリッドというのか。記憶しておこう。
3万人目の勇者は、はじめてイマジナリの能力を発現したと聞く。
今も最前線で邪神と戦っているはずじゃから、今後会うこともあろう。
ちなみに件の隊長は未だにうつ伏せ大の字になって中庭に顔を埋めている。「伏せ」命令が効いているからな。
なんか言いたそうにブルブルしているが、「黙れ」命令も効いていて声を発することが出来ない。
真っ赤になりながらわしとエルゼルを睨んでおる。涙目で。
「静まれと言っておるだろう。貴様らヒルダが来たからといって安心していないか?ヒルダの言ったことは当を得ている。
騎士隊の中にはHLDOLの力を目の当たりにしたものも多い。知性ある龍すら難なく倒した力。
絶対に失ってはならぬ能力だ。だが、その能力はこの可憐な少女に宿っている。我ら近衛騎士隊は、この少女を護るに、本当に値するのか?」
エルゼルがアジる。これって、わしをダシに使って団結心をあおってないか?副隊長。
まあ、持ち上げられるのに嫌な気はせんが、可憐な少女って、古風な言い回しじゃな。
前にダムドが言ってたな。パヴァ姉さんの時代なら、「…可憐だ…」ってサムライボーイに言われるタイプだと。
その後に見た目だけだけどね!って追加されたが。
「おおおおおお!俺らはヒルダちゃんに護られるのではない!俺らがヒルダちゃんを護るのだ!」
ファド・ストルゲン。お前の気持ちはありがたいが、それは作戦としては破綻しておる。わしが前衛、貴様ら後衛な。でないと死ぬぞ。
「その通りだ!ヒルダちゃんをお護りすることこそわれらが務め」
「ヒルダちゃんのためにこの命、使うことが出来れば誠に幸甚!」
「俺、この戦いが終わったらヒルダちゃんにプロポーズ…」
言いかけで横の騎士に殴られていた。グーで。
ああ、こいつら高地のキャンプでファドを抜け駆けとか言って連れて行った連中じゃな。
後で名前を聞いておこう。わしが名前で呼ぶと、コミュニケーション的に良い効果があるようじゃからな。
「では、作戦室に行くか。ヒルダ」
「おい副隊長、隊長忘れておるぞ」
近衛に入隊したことになったので、ちゃんと役職名で呼ぶことにした。
「ああ、そうだった。隊長、お休みのところ申し訳ありません。隊長に代わって副隊長が零番隊入隊の宣言を致しました。ヒルダを含めた邪神討伐作戦の検討に入りたく、そろそろ起きていただけませんか?」
慇懃無礼とはこのことか。追い込むのう。
隊長は無様に中庭に張り付いたまま、ますますブルブル震え始めた。
相当怒っとるのう。
爆発反応に巻き込まれて白銀の鎧も焦げておる。
髪も焼けておるが、顔は庭にへばりついとるから良くわからんが、多分かなりの火傷になってるようじゃ。
魔法も得意そうじゃから自分で治せると思うが。
「えー?なんですかー?ああ、さっきは決闘などと口走ってしまったが、剣を交えていないと。そうでしたな。
やはり入隊歓迎式では剣で語るのが我が近衛の伝統でしたな。これは一本取られましたな。あっはっは」
なんの茶番じゃ?
「というわけで零番隊ヒルダ、すまぬがもう一度隊長と剣を交わしてくれまいか?決闘ではなく、試合としてな。得物は訓練用の木剣を使う。どうか?」
ああ、負けたと納得させてくれということか。ふむ。どうするかな?このよぉじょの体で勝てるか?
(式をお使いください)
(おお、タタラか。びっくりした)
たーちゃんは今はフレイアが抱いている。離れていても秘話通信できるのか。
(一度リンクが出来てしまえば、多少の距離なら届きます。同じように術の力もたーちゃん経由でヒルダ様に届けられます。特にヒルダ様はイマジナリですので、術の効果が大きいはずです)
(どういうことだ?)
(イマジナリの大元は、式術なのです。星からの神々がそれを応用・発展させたものです。
式はあらかじめ作って操るものですが、イマジナリは想いが実体を生むという点が決定的な違いでございますが。
ちなみにそのイマジナリを式に逆輸入して自律行動できるようにしたのがタタラの研究成果でございます)
(その話興味深いが、今は時間がない。詳しくは後で聞こう。で、どのくらい強化できる?)
(スピード、パワー、テクニックそれぞれ3倍化くらいでいかがでしょう)
(それでいい)
タタラの術がわしの体に浸透してくる感触があった。
肉体の奥が熱くなる。
(さすがはヒルダ様。あっという間にブースト効果が現れましたな)
(ああ、なんだか貴様が強化した時のオーラを纏った感じじゃな)
(1を飛ばしてスーパーヒルダ様2というところでしょうか)
(2になったら髪の毛が逆立ったり伸びたりするのではないのか)
(それはそれでかっこよさそうですが、ヒルダ様はそのお姿のままがよろしいかと)
2やらアルティメットやらゴッドやらで見た目が変わるあれ、単にタタラの趣味だったのじゃな。
「わかった。いいぞ副隊長」
「助かる」
「隊長。ということで練習試合じゃ。自由に動いてよい。言葉も発してかまわぬ」
「話を勝手に進めるな!もう一度決闘だ!さっきのは無効!」
シャーリーズが飛び起きて掴みかかってきた。
顔半分焦げとる。やはり兜はすべきじゃったな。
「お座り」
シャーリーズはスクワットのように中腰になって固まった。手はだらりと地べたに着けておる。
「隷属は有効化したままじゃ。学習せん奴じゃなあ。冷静でなければ指揮官は務まらんと言ったはずじゃが」
「子どもが何を言うか!我は第一王女であるぞ!このような辱めを受けておめおめと引き下がれるか!」
「シャーリーズ!」
エルゼル副隊長が怒鳴った。
「お前が第一王女を持ち出すのであれば、第三王子として、お前の兄として申す!お前のその言動は王国に害をなす!
ヒルダは真に救国の勇者、いや、このエクスアーカディア全てを救う者となるだろう。そしてヒルダはお前を辱めてなどおらん!
恥なのは、お前自身だ!お前はたしかに魔法にも、剣術にも才がある。俺などよりもはるかな高みにいる。それは認める。
しかしいかに才があっても、先ほどの決闘のとおり、お前は駆け引きができない。あまりにも真っすぐで、それゆえ対処が簡単なのだ。
それを身をもって知ったのではないのか!そのうえでヒルダを恨むのか!お前はそれほどに愚かなのか!」
「副…いえ、兄上…それは…」
「お前に欠けていることは、先ほどヒルダが言ったとおりだ。お前が人の上に立つものとして、正しく成長してほしい。
そう国王は願い、俺も承知して、お前に近衛隊長の座を預けたのだ。
そうでなければ、血気盛んなお前は早死にする。
おやじはそこまで読んでいる。おやじの優しさがわからぬか!」
「ああ、そ、それでいつも後方に指揮所を?わたしは前線に出たかったのに、指揮官は指揮所を離れるなと兄上がいつも最前線に出ていたのは、そういう理由が…」
「シャーリーズ、隊長には冷静な現状分析、それによる未来予測と想定されるリスク、そしてそれらの結果常に最善手を選択する勇気と決断が必要だ。
蛮勇はいらない。ヒルダが言ったとおりだよ。
本当は俺がもっと早く説教すべきだったんだが、実力が劣る者の言うことは、お前聴かないからなあ」
「兄上…申し訳ありませんでした…」
セリフだけを聞いていると感動的なシーンだが、お座りポーズでプルプルしながら言われてものう。
じゃが、後ろで偉そうにしてるんだろうと思っておったが、そうでもないのか。シャーリーズ隊長も悪い奴ではないのじゃな。
アホじゃが。
「どうするんじゃ?試合はするのか、せんのか?」
「する!するぞ!いや、…決闘はすまなかった。思い違いをしていたのは我であった。歓迎の試合をさせて…下さい…」
ツンデレ。
そんな単語が脳裏に浮かんだ。
「よし。ではやるか」
魔法なし、バンシィカーズもなし、得物は木剣のみ。
しかし、大口たたくだけあってシャーリーズ隊長は剣術だけでも大したもんじゃった。
前半、エクスアーカディア式の剣さばきに慣れずに、わしが劣勢となった。
が、隊長の剣は素直なので、慣れれば演武のように先読みし合わせることができた。
わしはそのリズムを時折崩し、彼女をひるませ、翻弄した。3倍ブーストのおかげもあり後半はわしが圧倒した。
そして。
「三本!それまで!勝者ヒルダ!」
今度こそ自然に歓声が沸いた。
隊長が右手を差し出したので、握手した。さらに歓声が高まる。
「その小さな体で、凄いな。救国の勇者というのはこれほどなのか」
「白兵戦の経験もあるからな。元の姿であれば、もう少し強いぞ」
「頼もしいな」
術でブーストしたことは、ないしょにしておこう。せっかく隊長がデレたことでもあるし。
(タタラ、術を解け)
(大丈夫でしょうか?)
(ああ、それにこの状態はわしがタタラの式になっているような気がする)
(恐れ多いことでございます)
タタラが術を解いた。
オーラが消える感覚があった。
タタラを信用してないわけではないが、式は術者に逆らえない。
見聞きしたことも漏洩する。裏口というか、傍受状態じゃからな。
リスクのあることは避けるべきじゃ。
中庭から王城内に入る。さっき隊長が飛び降りてきた一角だ。
「いや、正直ヒルダが勝つとは思わなかった。びっくりだ」
「副隊長、無責任じゃないかその発言」
「試合になる前に説教して終わらせるつもりだったんだ。あの流れでヒルダが試合するように促すとは計算外だった」
「お前も先読みが弱いの」
「だから俺は副隊長どまりだよ。妹は本当は強い。これで真に近衛隊隊長として成長するだろう。すまなかったな、お前を利用して」
「それはいい。わしも乗っかったクチじゃからな。
ところで副隊長、以前HLDOLにこの国の人間は肉体が耐えらないから乗れない、と言っておったが、今戦った感じだと十分に強いと思うが」
「何を言っているんだ。強化外骨格に耐G機能があるからだよ。あんな技術はわが国、というかこの世界にはない」
「ああ、そうか。無意識にパイロットスーツの性能を組み込んでいたのか。気が付いてなかった」
わしは突撃機甲に乗れるよう念じたから、イマジナリが耐G機能を付加したのか。ということは宇宙服でもあるわけか。
しかし開放型宇宙服ってあるのか?緊急時には大気圧でロックされるのか?宇宙で戦うことはなさそうだから今は気にしなくてもよいか。
荷電粒子砲や陽電子砲の放射線に耐えられたのは、宇宙服機能のおかげなのか。
だとしたら大人ヒルダ式にも耐Gスーツが要るのか?式だから無くても大丈夫なのか?
タタラと後で打ち合わせせねばならぬな。
話しながら王城の中を進んでいくと、大きな扉があった。
「我が近衛騎士隊の作戦室だ。ようこそヒルダ」
シャーリーズ隊長が扉を開けた。
いつの間にか、火傷や焦げた鎧は元に戻っていた。
次回はヒルダの屋敷がとある方面から襲撃されます。アクション篇なのでメイドたちが大活躍する話になる予定です。4月21日公開予定ですが、早く書き上げられたら前倒しで公開します。




