第25話 友だち
早く書き上げたので、1日前倒しで公開します。シドウが頭の良さを披露する話になりました。
教室に戻ると、シドウ・パヴァ・ダムドの三人が青い顔をしてへばっていた。デジャヴみたいだな。
「でも進歩よ!わ、わたしミニバイター倒せたの!」
「そりゃすごいのじゃ、パヴァ。やったな」
「でも、1分の1バイターは出なかったの。ラミレス教諭によると、はじまりの洞窟の安全装置が働いたんだって。まだ早いって…」
「そうか。なんせ危険度黒じゃからな」
「だから明日もミニバイター戦よ。地道に頑張るわ」
「おお。そうだな。シドウとダムドはどうじゃった?」
「相変わらずだよ。逃げ切っておしまい」
「おなじく」
「貴様らは防御特化と補助効果特化じゃからのう」
「ヒルダはどうだっなったんだい?」
「それがな、わし、どうも卒業するらしい」
「やっぱりか。HLDOLなら即実戦投入すると思ったよ」
「じゃあ、あたしたちどうなるの?」
「パヴァよ。お前たちは当面3人チームで訓練のようじゃ」
「ええ…ヒルダちゃんがいれば楽勝だと思ってたのに…」
「ダムドよ。貴様も勇者なんじゃから人を頼るな」
「そんなこと言ってもバフデバフ特化じゃどうしようもないわよ」
「そのためのチームじゃ。わしも一人で戦うのではない。明日以降近衛の対邪神作戦に組み込まれることになっておる
「ミズシマ・フミトを入れて4人だよ」
シドウが珍しく強い口調で言った。
「そのとおりじゃシドウ。校長が、フミトの能力はわしに匹敵すると言っておった。フミトが復帰すれば心強いじゃろう」
「でもフミトきゅん病気なんでしょ?」
「ああ、なんでも部屋から出られなくなる病…ええと、なんじゃっけ?」
「まさか、ひきこもり?」
「それじゃダムド。そのヒキコモリじゃ。貴様知ってるのかその病気」
「うっそー!フミトきゅんひきこもりなの?なんで?急になったのかしら?やっぱりあの時いじりすぎちゃったのかしら?」
「急じゃないみたいじゃぞ。もともとヒキコモリに侵されていたそうじゃ」
「ダムド、ひきこもりって何?」
「パヴァ姉さん…やっぱり時代がちょっとずれているのね。あたしはうる虎なやつらはアニメ再放送組みだけど、姉さん漫画を連載で読んでたって言ってたもんね…」
「おばちゃんを見るような目やめてくれる。あたしこれでも20代なんだけど」
ダムドがひきこもりの説明をしてくれた。主に精神的な障害で外部との接触を断った者のことだそうだ。それって病気なのか?わからんな。
「ひきこもりは100人いれば100通りの原因があると言われている複雑な病気よ。人間関係のストレスがきっかけになることが多いけど」
「あー、わたしの時代では不登校とかイヤイヤ病とか不定愁訴とか言ってるわ」
「そういやパヴァ姉さんオトコの娘とかセクハラとか知ってましたよね?時代おかしくありません?」
「何を言ってるのオトコの娘といえばストップ!めじろ君だしセクハラだってきっかけは均等法よ。パソコン通信経由でインターネットに繋がるから田舎でも知ってるわよ。ニュースグループにコスプレ写真の投稿とかもやってるのよ!こないだのボルバトラーV合わせフランスの人からメールがめっちゃ来たわ!!」
「すみません…認識不足でした。そんな昔からあったのですね…ニュースグループってわかんないですけど」
「だからおばちゃんを見るような目やめてって。ゴーファーでテキスト検索とかさすがにしてないけど。モザイクでホームページ読んでる」
「ゴーファー?モザイク??なんですかそれ???」
「お取込みのところ済まんがな、それで、ヒキコモリは治るのか?」
「うん。治る人もいる。でも何か月も何年も、何十年たっても治らない人もいるわ。なにかのきっかけで社会復帰できることもあるようだけど。引きこもりの期間が長ければ長いほど治療は難しいみたい」
「それは手ごわいな」
シドウが黙っている。なんか策を考えておるのか?
「シドウ、どうした?」
「魔法が使えないかと思ってさ」
「治癒魔法で治るのか?」
「いや、そうじゃなくて、魔法は高次空間からの事象の書き換えだろ。フミトの心の引っ掛かりを書き換えることができないか考えてる」
「記憶の改変をするのか?」
「いや、記憶をいじってしまったら根本的な解決にならない。ヒキコモリの原因となったモノと対決し、乗り越えないとダメだ。その後押しをしてやるのさ」
「シドウ、あなたカウンセラーみたいね。何か心得でもあるの?」
「精神を病む兵は多い。僕は研究員だから、臨床は担当外だが、心理学の勉強もしたよ。ヒルダとこみたいに遺伝子改造してストレス耐性を上げたりはしてないからね」
「ふむ、元のわしは悩むことなど知らなんだからな。うらやましいか?」
「いや、全然」
「そうじゃろう。今のわしもそう思う。たくさん感情を持った今のわしのほうがわし自身も好きじゃ」
「言うようになったね、ヒルダ」
「だから言っておるじゃろ。わしは変わったって」
「フミトの件、僕がしばし預かるよ。校長たちにも相談してみる。ヒルダが抜けるとなると、僕ら自身の命もかかった問題だしね。いずれみんなに協力してもらうことになるかもしれないけど、その時は頼むよ」
「わかった」
「わかったわ」
「フミトきゅん復活大作戦ね。熱い展開だわ。ぐふふ」
語尾上げるのやめくれんかの、ダムド。
「そうじゃ、星からの神々についてタタラから情報があった。シドウ、貴様平行世界の濃度について知っておるか?」
「量子宇宙幾何学上の宇宙配置の粗密のことかい?」
「さすがに研究系。知っておったのか」
「専門じゃないけどね。宇宙配置の太い軸が8つあるのは知ってる」
「シドウ、わしらの世界がどの軸か知っておるか」
「4軸目だ。最初の軸は観測者がいないため0番と数えるから、番号では3番軸になる」
「タタラの話が裏付けられたな。星からの神々は5番軸からこの世界に追放された反逆者の一団じゃ」
「5番軸?…そんなはずはない」
「どういうことじゃ?」
「ヒルダも情報共有してくれたから僕も隠す気はないよ。そもそも宇宙配置に濃度があるのは宇宙の分岐に制限があるからだ。はっきり言えば、軸間移動は原理的にできない。観測する知的生命体の種類が違うからだ。標準進化モデルの範囲である僕らは、いかなる選択をしても第3軸から大きく外れた宇宙にいることはない」
「じゃあなぜ5番軸の星からの神々がこのエクスアーカディアに来ることが出来たのじゃ?」
「タタラが嘘を言っているか。タタラにそいつらが嘘を教えたか。あるいは真実なら、何か見落としがあるのか…」
「二度と戻れぬようにするためではないのか?」
「反逆者と言ったね。5番軸から3番軸まで2段階も軸間移動させるなど、まず方法がわからない。この宇宙内でワープするのとはわけが違う。無数の宇宙を包括する超宇宙ともいうべきものを超えなければならない。さっきも言ったけど、それは原理的に不可能なんだ。仮に方法があったとしても、超宇宙を超えるには途方もないエネルギーが必要となる。ざっと考えても、軸間にある全宇宙のエネルギーの総和を超えるエネルギーだろう。そんなエネルギーをどこからどうやって生み出すのか、見当もつかないよ。反逆者の処刑にそんな莫大なコストをかける意味が分からない。殺してしまった方がはるかに話は簡単だ」
「はあ、そんなエネルギー量があったら、わしらの一万年戦争など軽く終わりそうじゃの…」
「あれ?ヒルダの世界では一万年戦争って言ってるの?僕は百万年戦争って聞いてるけど」
やっぱり時代が違うようじゃ。
「5番軸から来た、というところは別にすれば、ヒルダの話でこの世界のおかしなところが随分理解できるね」
「シドウ、どういうことじゃ?」
「まず技術水準は星からの神々がもたらしたことで底上げされたんだろう。ここの原住民に自分たちのために技術供与したんだ。不便だからね」
「電子機器があるのもそれか。自分たちがこの世界でそれなりの文化水準も保てるようにしたんじゃろうな。トイレが水洗だったり風呂があったりするのもその名残か」
「多分ね。転移門やビデオやネットワークもそうだろうね。そういうものがある世界から、ない世界に来たら嫌になるよね」
同意じゃ。
「イマジナリもそうだ。僕らもエネルギーを誘導理論を使って高次空間から取り出すことができる。物質とエネルギーは同じものだ。意志の力で実体を作り出すことは、僕らの技術ではまだ無理だが、原理的には可能だ」
なるほど。こいつ、よく知っておるの。研究者というのも納得じゃ。
しかし、シドウが百万年先の彼の軍の者なら、百万年後もまだ戦争しておるのか。なんか愚かじゃの。
愚か。
あれ、そんな気持ちになっていいのか?
いいのか?
…いいみたいじゃ。
戦争なんて、くだらんのじゃ!
兵士としての根源のところが失われたような気がしたが、わしはむしろ気持ちよかった。
決めた。これからのわしは、わし自身がしたいと思うところによって生きるのじゃ。
「邪神はなんじゃろう。タタラは星からの神々とは関係ないと言っておったが」
「反逆者を島流しにして、それでよいと思うかい?」
あ、なるほど。監視用か。
「でも何千年も前の話じゃろ。なんで今頃邪神が現れるのじゃ?」
「そんなこと決まっている。邪神を倒せる力がこの世界に現れたからだ」
そうか、この星の戦力を集めれば邪神に対抗できる力になった。
それで、斥候であるバイター・ミュゲルが現れた。
2国が誤認して攻撃してきたので反撃したら倒せてしまった。
様子見でうろうろしてたらたまたまレグランドに出てしまった。
4大国の総攻撃が始まってバイター・ミュゲルは倒された。
邪神を倒せる力であることが確認されたので11の邪神が現れた。
そういう流れか。
ということは。
「わしは邪神に対抗できる戦力じゃ。邪神、来るのか?」
「わからない。今まで何も起きてないよね」
「邪神がトラヴィストリア不可侵なのはどういうことじゃ?」
「ふーん。けん制してる、とか?牢屋の看守みたいな立ち位置なのかもね」
「星からの神々は今もこの地にいるということか?」
「太古の魔導光炉は星からの神々をこの世界に送った装置そのものじゃないかな?それを起動できたトラヴィストリア王は星からの神々の末裔である可能性が高いね」
エルゼルの気さくな笑顔が浮かんだ。あいつも星からの神々の一員なのかな…。いい奴のように思えるのじゃが。
「じゃあ、タタラは」
「タタラの話からすれば、星からの神々に改造されたんだろうね。彼らの守護者として」
「高地から出れないのは?」
「あの高地に星からの神々が住んでいたんだろう。LCがそうじゃないかな。8次元にあるんだろ。星からの神々は高次空間の扱いに長けているようだしね」
「捨てられた子供ら…」
「星からの神々が改造したのはタタラだけじゃなかったんだろう。神々は出て行って、捨てられた守護者のうち今も生き残っているのがタタラだけ、ということじゃないかな?」
「ふむ、でもトラヴィストリアの王族が昨日も今日も一緒にいたが、タタラが仕えておる感じではなかったな。そもそも香を焚かないと言うこと聞かないらしいが…」
「末裔というだけで、星からの神々そのものじゃないからかな?この辺りは情報が薄くてよく分からないね。太古の魔道光炉を見たらもう少しわかるかもしれないけど。トラヴィストリア王が自らを犠牲にしたってのも眉唾かもしれないね。もっとも安全な場所に逃げただけなのかも。そういえば光炉自体を移動できないってのも、ちょっと引っかかるね。移動手段のはずなのに」
「話を戻すようで悪いが、星からの神々が5番軸から来たものでなければ、そもそも奴らはなんなのじゃ?」
「わからないね。もしかしたら本当に5番軸人で、僕らが知らない低コストな超宇宙航行手段があるのかもしれないけど。もしそうなら、僕らからしたら本当に彼らは神の領域だよ」
あるいは、シドウの言ってることが全く的外れなのかもしれん。
「いずれにしても今ある情報からの推察でしかないからね」
「うむ。邪神が悪なのかどうかも怪しくなってきたのう」
「何言ってるのよ。少なくとも兵士や召喚された勇者が何万人も殺されているのよ。悪に決まってるわよ!」
ダムドが憤る。
「勇者を邪神にぶつけたのはトラヴィストリア王よ。彼が神々の末裔で、自分の保身のために勇者を召喚して3万人も死なせたとしたら、見方は大きく変わってくるわ」
パヴァも別の意味で怒っている。
「そもそも星からの神々は奴らの世界の反逆者だった。それが善なのか、悪なのかはわしにはわからん。戦争はどちらも正義を主張するしな。ただ、この世界の人々が邪神に怯えながら生活しているのは事実じゃ。そのせいで家や仕事を失い、大事な者を殺されたり家族がバラバラになった者がおる。だからわしは、邪神を倒す。その上で、この世界の裏にもっと大きな闇が本当にあるなら、それも倒す。それだけじゃ」
「ヒルダちゃんかっこいい!王道ヒロイン展開ね。ぐふふ」
「そうだね。そのとおりだ」
「わかったわ。ヒルダに乗ってあげる」
おお!わしはわし自身が決めたことをやるのじゃ!
放課後になった。
実技授業の後の情報交換は時間割のうちになっている。
シドウはフミトの件で校長に交渉しに行った。
わしらは先に帰ることにする。
「そういえば、貴様らは何処に住んでいるのじゃ?」
パヴァとダムドに聞いてみると、王城から同じ程度の距離離れた場所だったが、方角が違っていた。
「明後日から学校休みだから、どっかに集まらない?」
とダムドが提案する。
「あたしはいいけど」
「わしも構わん。もしかしたら来週には卒業になるかもしれんからの」
「決まりね。明日シドウにも聞いてみる」
休日に友だち同士で集まるか。
友だち。
元の世界にはなかった概念じゃが、今のわしにはわかる。
なんかいいな。こういうの。
そして、ここにミズシマ・フミトが加われば、言うことなしじゃ!
次回は4月3日21時公開予定です。メイドでまだ単独回のなかったなまりの激しいイターの話です。




