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第24話 平行世界

お待たせしました。第24話です。予告どおりタタラが星からの神々について語ります。いつもより少し長めになってしまいました。

 3千体のHLDOL(ヒルドル)が消えると、高地がやけに広く見えた。

 横に長い巡航形態(クルーズモード)で並べたが、それでも高さは8メートルある。ずらりと続く機械(マシン)の壁が急になくなったからじゃな。


 わしは馬車の中で半ば横になりながら果物をもしゃもしゃ喰ってる。

 果物は調査団の非常食という名のおやつの一部だ。

 イマジナリの限界テストに備えて栄養剤や強壮剤は持ち込んでおったらしいが、そんなものでは腹は満ちぬ。

 山積みのリンゴやバナナやミカンをひたすら食い漁った。


 外ではフレイアが調査団と何か話していた。多分わしの様子を伝えているのじゃろう。

 最初心配した騎士たちが馬車の中まで入ってこようとしたので、男子禁制です!とフレイアが一喝してたからな。

 腹が減っただけじゃなくて、そのうち足腰に力が入らなくなったからな。イマジナリ切れってこうなるのか。

 今敵に襲われたら文字どおり手も足も出んの。


 喰ってしばらくしたら、空腹も倦怠感も嘘のようにけろっと治った。イマジナリの残量さえあれば自動回復するのか。

 大けがしても、死にさえせんかったら修復できるかもしれんな。イメージさえできれば。

 模擬バイター戦の後でフレイアが使ったのはてっきり治癒魔法だと思っていたが、あれはイマジナリ活性化のようなものだったのかもしれんな。

 服も再生していたし。


 馬車からひょっこり出ると、取り巻いていた騎士や技官たちが一斉に安堵の表情を浮かべた。

 ファド・ストルゲンなどは涙を流して喜んでおる。ふむ、サービスしてやるか。


 わしはファドにウィンクした。

 ファドは薔薇色の笑顔を一瞬浮かべたが、その場の全員にギロっと睨まれすぐ青くなった。

 いかん、やりすぎたか。


「みんなーっ、ありがとう!おかげで元気になったよーっ!!心配かけてごめんねー!果物おいしかったよーっ!」


 ふっ、どうじゃ。わしもちょっと女を観察する余裕が出来たからな。その気になれば女言葉もこんなもんじゃ。


 一瞬でファドから全員の注意がわしに向いた。おおおおおっと興奮する者が多数じゃったが、貴重な()()()()()が…という声も聞こえた。

 万人の嗜好に合わせるのことはむずかしいのう。

 ファドの窮地が救えたからまあよいわ。


「ヒルダ、大丈夫そうだな」


 エルゼル調査団長がそばに寄ってきた。


「うむ、なんともないぞ。テストを再開するか?」

「俺はその口調のほうが良いな」

「そうか。わしもこの素の口調の方が楽じゃが」


 せっかく練習したのに。


「テストはもういい。戦闘稼働限界はわかったからな。今後はHLDOL(ヒルドル)の運用、というよりHLDOL(ヒルドル)を中心とした対邪神作戦の立案に入る。

 4大国家にお披露目する前にオヤジ…国王に説明する必要がある。そもそも近衛との連携ともなれば俺だけでは決められん。戻って近衛隊長と話をする」

「ふむ、じゃあ調査団は王城に戻るのか?」

「ああ、そうさせてもらう。学校の授業時間はまだ終わってないらしいから、後は校長と相談してくれ」

「そうか、待たせて悪かったな」

「ヒルダに何かあったら俺の責任だ。元気になってくれてよかったよ。明日は城で会うことになるだろう。では!」


 調査団は転移門に消えていった。


「校長、終業時間までなにをするのじゃ?」

「ううむ。調査団に丸投げのつもりだったので、何も考えてない」

「校長、そんなあからさまに」


 ギルフォン教諭が慌てた。


「ヒルダは特殊に過ぎる。同級生には悪いが、即戦力として認定し、卒業させるしかないと思うが」

「しかし、このクラスはすでに1名欠けています。この上ヒルダが卒業となるとチームが組めません」

「水島フミトか。あの者の能力(ユニークスキル)はヒルダに匹敵する可能性があるが、元々ヒキコモリなる病魔に侵されていた。心配はしていたが、こんなに早く再発するとは思わなかった」

「ヒキコモリ?」

「原因不明の病気だ。部屋から出られなくなる病だ」


 なんだそれは。


 確かに、シドウ、ダムド、パヴァの三人では邪神に対抗できるとは思えん。

 デパートガール・コレクションというフミトの能力(ユニークスキル)

 校長が言うように、わしのHLDOL(ヒルドル)並みの戦力になるなら、奴らの生存率も跳ね上がるだろう。

 フミトを何とか復帰させたいものじゃな。


「なあ、校長。この後の予定がないなら、タタラと少し話をしたいのだが、良いか」

「タタラと何を話す?」

「奴は何千年も生きていると言っておった。邪神との戦い方も、多少は知っておるかもしれん」

「ふむ、なるほどな。ここで話をするのか?」

「ここではタタラも話しにくかろう。タタラの家に行ってくる」

「タタラの家?」

「ああ、昨夜もちょっと覗いた」

「配下になったと思ったらもう家に連れ込んだのか。タタラの奴も隅におけんな」

「タタラは紳士じゃったぞ。わしを崇めておると言っておった」

「ふむ。もう本当に元気なのだな?」

「ああ、なんならHLDOL(ヒルドル)出してもいいぞ」

「わかった。なら不安はない。ただし終業時間までには帰ってこい。われわれはここで待つ」

「了解じゃ」


 わしはたーちゃんを使ってタタラと秘話通信した。


(貴様の家に連れていけ。相談したいことがある)

(ヒルダ様はよろしいですが、あの女はだめです)

(フレイアか。わしもそう思っておった。置いていこう)

(ならば、承知でございます)


「フレイア、ちょっとタタラと話をしてくる。込み入った話なので貴様は校長と残れ」

「そんなわけにはいかないのです。フレイアも同席するのです」

「許可できん。たーちゃん預けるから、なんかあったら呼ぶ」

「ぐぬぬなのです」


 フレイアはフレイアで心配しておるのだろうが、それは突き詰めればこの世界のためになることが前提だからな。

 この世界の情報は、それなりに開示されているとは思うが、肝心なことが伏せられている。

 邪神。星からの神々。太古の魔道光炉オラトリアクタ・アルマイネ。イマジナリ。巫女ネットワーク。ちぐはぐな科学水準。

 すべては繋がっているように思えるが、不明だ。

 フレイアが夜どこかに出かけているのも、誰に会っているのか、何をしておるのかは分からんが、わしのためではなく、この世界のためのことじゃろう。

 場合によってはわしはこの世界と敵対することになるかもしれない。

 そのための相談だ。

 そんな場に、フレイアを連れて行くわけにはいかない。


「タタラ―、教えてほしいことがあるのじゃ。貴様の家に行ってもよいか?」

「おお、ヒルダ様。タタラは感涙でございます。我が屋敷ではヒルダ様のご満足はかないませんでしょうが、このタタラ誠心誠意おもてなしいたします」

「うむ、どうしたらいい?強化外骨格(パワードスケルトン)で飛んでいくか?」

「我が家は別次元にありますゆえ、私の背に乗っていただければ結構でございます」

「わかった」


 ぴょんぴょんとジャンプしてタタラの大きな背に乗る。

 元の体なら、多分一跳躍で届いただろうが、この小さな体では5回ほど繰り返さないと背中まで届かんかった。


 タタラとはさっき打合せ済みの会話じゃが、今のやり取りならフレイアや校長らに怪しまれることはないじゃろう。


「ではヒルダ様、参りましょう、わが家へ」


 タタラは己の翼を大きく羽ばたかせた。

 ワープゲートを超えるような感覚があった。


 縦にした卵状の岩塊が浮いていた。


「あれが我が家です。捨てられた子供ら(LC)と呼んでいます」


 LC(エルシー)か。どういう意味でそんな名前にしたんじゃろうか?


 タタラがLC(エルシー)の中に入っていく。結構デカいな。タタラが通れるサイズの通路が何か所も交差しながら広がっていた。

 しばらく進むと、大きな扉があった。


「ここがタタラの部屋でございます」


 扉が開いた。

 昨夜見たあの部屋じゃった。


「こんばんわー、マスター」


 ヒルダ式が挨拶にやってきた。こいつもちゃんと自律モードで動くのじゃな。


「ヒルダ式よ、タタラの話し相手になっておるか?」

「聞いてくださいマスター。タタラの(やつ)術者権限であたしが逆らえないのを知ってて体中(ねぶ)ってくるんですよ。お休みのキスとか言いながら舌を入れてくるし、裸に剥いて乳や股をベロベロ舐めるし、気持ち悪いったらありません」

「タタラ―!」


 グーパンでタタラのすねを殴ったが、こっちの手が痛かった。


「ご褒美戴きました!ヒルダ様も昨夜舐め舐めされていたではないですか。私も式ではなく本物のヒルダ様を舐め舐めしとうございます」

「貴様死にたいのか。HLDOL(ヒルドル)で勝負してやろうか?」

「申し訳ありませんヒルダ様。調子に乗りすぎました。平に平にお許しを」


 タタラは土下座して謝った。


「昨夜ヒルダ様が帰られてから、またお越しにならないかとヒルダ式を覗いていたら、あの女からナニの件をヒルダ様が聞いておられるではないですか。またヒルダ様の反応が初々しく、それに興奮して、ついつい式の体中にキスをしてしまいました。過剰な愛情表現でございました。誠に申し訳ありません」

「その前にパジャマを着たはずじゃ。また脱がす必要はないじゃろ」

「ヒルダ様もあの女のパジャマ脱がせていたではありませんか」

「わ、わしが脱がしたのではないぞ。マシュが勝手に脱いだのじゃ」

「ヒルダ様が気絶した後、あの女好き勝手やっておりましたぞ。あの女をお許しになってなぜタタラをお許しにならんのでございますか。第一、キスはヒルダ様が許可されたことでございます」


 やはりこいつ、昨夜のマシュとの一件知っておったな。しかもわしの知らないところまで見ておったのか。

 好き勝手って…。

 あっ、ということはこいつマシュの裸を見たのか。なんてこった。

 思い出したらドキドキしてきた。出歯亀対策はまた考えるとして、本題に入ろう。


「わかった、その話はもうよい。ここは8次元じゃな」


 ヒルダ式がえーっと声を上げたが、無視する。


「さすがはヒルダ様。ご明察のとおりです。来られたことがあるので?」

HLDOL(ヒルドル)超光速駆動系(シープラスエンジン)が8次元空間を駆動媒体に使う。貴様に連れてもらわんでも、ここならHLDOL(ヒルドル)で来れる」


 タタラがあからさまに嫌な顔をした。

 ちょっと溜飲が下がった。


「さ、左様で。一応この部屋は鍵がかかっておりますので、今後もタタラがご案内いたします」

「うむ」


 わしは床に座った。ヒルダ式がちょこんと股座(またぐら)に座る。


「さっき言ってた大人ヒルダ式でHLDOL(ヒルドル)を動かすという理屈な、ちょっと説明してくれ」

「はい、HLDOL(ヒルドル)の生体認証は、イマジナリに対してのものです。本質的な意味での個体同定ではありません。故に、ヒルダ様と同じイマジナリデータを持つ式を作れば、動かせます」

「式は自律行動するが、危険はないか」

「式は術者の命令に背くことはありません」


 ヒルダ式がむっとしたのがわかったので頭を撫でてやる。


「タタラ、貴様がわしを裏切ったらどうか」

「その時は、この世界を滅ぼすことも出来るかも知れません」

「ふむ、HLDOL(ヒルドル)を使役すれば、わしなどたやすく殺せるじゃろうな」

「ヒルダ様を殺した瞬間にHLDOL(ヒルドル)は消滅します。それ以前に、タタラが裏切ればヒルダ様がHLDOL(ヒルドル)を消してしまえばいいだけのことでございます」


 この目論見はわしとタタラの双方が揃わなければ成り立たない。お互いがお互いを縛る縄となるわけじゃ。


「式を使えるのは貴様だけか?」

「それはわかりません。昔は式遣いが結構いましたので」

「式遣い?」

「まだ魔法が一般化する以前の話でございます。魔法はより簡単でしたので、式はだんだんと廃れました」

「今でも式を使役するのは貴様ぐらいということか」

「タタラはここから出られませんので」

「それな、なんでじゃ?」

「進化の代償でございます」

「なんのことだかわからん」

「タタラはもともとはただの猿でした。知恵と力を得る代わりに、自由を捨てたのです」

「ふむ、その話長そうだな。また今度にするわ」

「え、ええ~~~~」


「正解です。タタラは自分語り好きすぎてとてもウザいです」


 ヒルダ式がうんざりしたように言った。

 地雷を踏むとこじゃったな。


「貴様が誰かに使役されることはないか」

「それはわかりません。現に今ヒルダ様の配下でございます。ついこないだまでは人間に従うなど思ってもみませんでした」

「そうか」


 これはタタラ裏切りパターンと同じケースじゃな。HLDOL(ヒルドル)を消せば済む話じゃ。


「で、どのくらいで作れる?」

「以前、人間大の式を作ったときは5日ほど掛かりました。今回はヒルダ様のお姿で、しかも大人に成長後を想定しますので、念入りにお作りしたいところです。最初の1体に10日、後はその複製ですから、1日1体は可能でしょう」

「割と掛かるな。4体は欲しいが、13日…およそ2週間か」


 トラヴィストリアの暦の1週間は7日だ。学校は時間割によると授業5日、休み2日になってる。明日で今週の授業は終わりじゃ。


「5体のHLDOL(ヒルドル)を動かすということですな」

「うむ。戦闘稼働時間から見ても5体が実用になる限界じゃろう。それに5体で1小隊が突撃機甲(アサルトアーマー)の戦術運用の基本じゃ。慣れておるからな」

「承知いたしました。出来るだけ早くお作り出来るようタタラも頑張ります」

「そうじゃ、どうせならわしの元の姿で作ってくれんか。百光年の暴竜(HLD)ならコクピットの調整なしで動かせる」


 大人といえ女は細いからな。わしがイメージできるのはわしが使っていた突撃機甲(アサルトアーマー)なので、女が使うとなるとシート位置やハーネスを体格に合わせて再調整しなければならん。

 よぉじょみたいに物理的に手足が届かんということはないだろうが。


「おっさんは作るの嫌でございます。たとえヒルダ様の元のお姿でも、創作意欲が沸かないのでございます」

「貴様モンスターも作っとるではないか」

「なにをおっしゃっているのです。そこらのモンスターや動物の式も全部メスでございます」

「なんと…。で、でもたーちゃんはオスではないか」

「たーちゃんはタタラの分身でございますから特別でございます。何せヒルダ様に差し上げるものですから特別でなければならぬのでございます」


 徹底した奴じゃな。


「…大体わかった。大人ヒルダ式、製作に入ってくれ。ただし、時が来るまでは絶対に起動するな。いいか、これは命令じゃ」

「心得ております。ところで大人ヒルダ式というのは呼びにくいですな」

「何ぞ考えてくれ。わしには名前はよく分からん」

「承知いたしました」


 もうひとつ、邪神についてタタラが知っているかを聞くことにした。


「邪神とは何かわかるか」

「わかりません。タタラも直接見たことはなく、各地に飛ばした式からの情報しかありません」

「星からの神々の遺物ではないか?」

「断定できませんが、それは違うと思います」

「なぜそう言える」

「邪神は無駄に動いています。星からの神々は合理主義でした」


 確かに邪神には目的がないように思える。

 世界を確率的にふらふらしておるだけじゃ。人間側が戦いを仕掛けるから奴らも反撃するが、そうでなければ現れてただ消えていくだけのようじゃ。


「星からの神々とは、そもそもなんじゃ?」

「彼らは、異なる世界線からやって来た者でした」

平行世界(パラレルワールド)か」

「まあ、そうなのですが、世界線には幹線が8つあるのはご存知ですか?」

「世界線の幹線?知らぬな」

「32次元を頂点とするこの宇宙には、無数の4次元時空が折りたたまれて存在します。知的生命体が観測を行うたびに時空が分岐するのはご存知ですよね」

「量子宇宙幾何学じゃな。人間視点では量子心理学ともいうが」

「ああ、なるほど、逆の見方ですな。宇宙の分岐が個人の選択を決定するということでもありますからな。どちらが原因でどちらが結果かは定義の問題でしかありません」

「超光速世界では因果律はあまり意味がないからな」

「はい。で、その無数に分岐する宇宙ですが、一様に存在するのではなく、その分布は8つの濃い確率部分…濃度を持ちます。この8軸が世界線の幹線です」

「平行世界は均一ではなく、濃いところが8つあるということじゃな。その8つとはなんじゃ」

「0番軸は知的生命体が発生しない宇宙です。観測者がいませんので、宇宙は最初から最後まで確率的に発散したままです。7番軸は全ての知的生命体が調和融合した世界です。観測者の意志が一つになりますので、これは最初から最後までひととおりに収束した世界となります。残りの1番軸から6番軸まではその間です」

「この世界は何番に属するのじゃ?」

「3番軸です」

「お前の説明では、3番軸と4番軸がもっとも世界の分岐が多いことになるな」

「左様でございます」

「8つの濃度にも、違いがあるということか」

「分岐の数ではそうなりますが、宇宙の数では0番軸が一番多いのです。生物が発生したり、生まれたとしても知的生命体まで進化する確率は極めて低うございますので」

「そうか」

「星からの神々は5番軸から来ました。個々の意思はありますが、ある程度の全体意思もある世界です」

「何をしに来たのじゃ」

「彼らは、彼らの世界での戦いに敗れ、反逆者として違う世界線に飛ばされて来た者どもです」

「処刑されたということか」

「そうです。島流しのようなものですな」


 そうか。平行世界は選択で未来が分岐しただけだと理解していたが、そもそも選択する知的生命体自体に幅があるということか。

 わしらの世界がまだ3番ということは、わしらもこの先まだまだ進化していく可能性があるということだな。なるほどな。


 ヒルダ式が股座でプルプルした。あ、なんか気持ちいい。


「ヒルダ様、たーちゃんから通信です。フレイアです」

「サウンドオンリーで繋げ」

「ヒルダ様!そろそろ終業時間なのです。タタラに変なことされていませんかなのです!」


 ヒルダ式からフレイアの声が出た。


「フレイア、大丈夫だ。少し話し込んでしまった。もう帰る」

「え、お泊りはなしでございますか」

「タタラ!ヒルダ様に何という破廉恥なことを言うのです!」

「ふん、てめえに聞いてねーよ」

「ヒルダ様、すぐお戻りくださいなのです!なんならそこの猿面のデカいのばらんばらんにしてかまいませんのです!」

「フレイア、こいつはばらばらにするだけ無駄じゃ。不死だからな」

「わかっているのです!」

「すぐ戻るから待っておれ」


 わしは通話を切った。


「お前たちもう少し仲良くできんのか」

「申し訳ありません」


 タタラは土下座して謝った。こいつ土下座好きじゃな。


「じゃあ帰る。HLDOL(ヒルドル)出してもよいが…」

「それには及びません、お送りいたします」

「マスター、またお越しくださいね~」

「ああ、また来る。星からの神々の話、もっと聞きたいしな」

「タタラの話は…」

「それは長そうだから、気が向いたらな」


 しょぼんとしたタタラの背に乗って飛び立つ。

 ヒルダ式が元気に手を振っていた。


 アジャルガ高地に戻り、校長、ギルフォン教諭、フレイアとともに馬車に乗り込んだ。


「明日はどうなるのじゃ?」

「実技授業は今日で終わりだ。多分午後は王城で作戦会議になると思うが、まだ騎士団から連絡はない。明日の午前には詳細を伝えられるだろう」

「わかった」


 タタラとはたーちゃんで連絡じゃな。HLDOL(ヒルドル)で飛んで行ってもいいしな。


 馬車が転移門に消えるまで、タタラはずっと見送っていた。だからそんな今生の別れみたいな顔するなって。

次回は4月1日21時更新予定です。エイプリルフールにならないように頑張ります。影の薄いシドウがちょっとだけ活躍する話です。

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