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第20話 たーちゃん

バレンタインデーに連載はじまった本作もホワイトデーを越えてしまいました。20話を数えましたが、あんまりお話が進んでいないことに若干焦りが。登場人物多すぎたと反省しております。前作があまりに登場人物が少なかった(デパートガールは武器扱い)ので、その反省なのですが、何事もやりすぎはいかんなあと…。といいつつ今後も増える予定なので、ああ、ますます長くなりそうな予感。

 学校に戻ると、シドウ、パヴァ、ダムドが疲れた顔で教室にいた。


「おう、貴様らも実技授業終わったのか。なんじゃそのしけた(つら)は」

「ヒルダは元気そうだね。僕らはあいかわらずミニバイターとフルタイム戦って、反省会して、だよ」

「お前たちは体動かせていいのう。こっちは明日から性能試験だけになるらしいので、もの足りんのじゃ」

「代わってあげたいわよ…」

「あたしらへとへとだわよ…」

「そうか。今日は龍と戦ったがすぐ終わってしまったしなあ」

「龍?」

「こんな奴じゃ」


 わしはタタラ式を掲げてみせた。


「ぬいぐるみ?」

「ずいぶん可愛いらしいね」

「それと戦ったの?」

「こいつは式と言って本体の使い魔のようなものじゃ。本物はこんなに可愛くないし、邪神ぐらいの大きさがあったぞ」

「なんで龍の使い魔を連れてるの?危なくないの?」

「ああ、土下座して頼んできたので配下にしたのじゃ。そしたら連絡用にくれた。おい、タタラ式(たーちゃん)、ぬいぐるみのフリはもういい。クラスメイトに挨拶するのじゃ」


 タタラ式はぴょんと飛んで机の上に二本足で立った。


「皆様はじめまして。ヒルダ様の一の配下タタラの式です。たーちゃんとお呼びください」


 おじぎをしながら自己紹介した。

 帰りの馬車の中で同じようなことをやって校長たちを驚かせたので、人前で動いたり喋ったりするなと釘を刺したのじゃ。


「しゃべった!動いた!これはロボットなのかい?」

「中身は綿(わた)だけのようじゃ。術で動いているとタタラは言っておったが、どうやっているのか皆目見当がつかん」

「たーちゃん、よろしくね。あたしはパヴァ」

「あたしはダムド」

「僕はシドウだよ」

「パヴァ様、ダムド様、シドウ様。ヒルダ様のクラスメイト。覚えました」

「AIみたいだね」

「しれっと言ってたけど、ヒルダちゃん、たーちゃんの親玉…タタラだっけ?土下座させたの?」

「かってにしおったのじゃ。わしがやれと命令したんじゃないぞ。弱い者いじめは性に合わん」

「邪神サイズの龍を弱い者って…」

「きっとHLDOL(ヒルドル)でコテンパンにされて、プライドがへし折れたんだろうね…」

「まあそんなとこじゃ。本人は楽しかったとも言っておったが。そいつ、星からの神々にも会ったことがあるらしい」

「ほんとうに?それは実に興味深いね」

「明日もきっと()よるから、情報を聞いとく。言っとくが高いぞ」

「情報を売ってくれるのかい?」

「冗談じゃ。今は仲間だからな、邪神を倒して元の世界に戻るまでは共有する」

「ヒルダが冗談を言うとはね」

「わしは変わったのじゃ」


 たーちゃんを抱いて帰宅し、ぬいぐるみのフリを解くと、メイドたちが目を丸くしていた。


「すごいすごいすごい!」

「驚いたずら…」

「とってもかわいいですね」

「そうじゃろう。かわいいのじゃ。わしも思わずかわいーって言ってしまったのじゃ」


 かわいーっのところで三人のメイドが顔を真っ赤にしてわしをまじまじと見た。


「ヒルダ様が…」

「これはヤバいずら。破壊力抜群ずら」

「涙が出てきました。あまりにも天使…」


 うむ。わしも、わし自身がかわいいと認識している。

 メイドたちの反応を見るに、言葉やしぐさによって更にかわいさが増すようじゃな。

 おお、すごいぞ、まだぎこちないが理解できる。

 今までのように頭に疑問符が付くだけではなくなった。進歩じゃ。

 それにしても、かわいいということの価値はなんじゃろう。

 それはまだわからんな。


「かわいいは正義なのです!」


 フレイアが割り込んできた。

 正義なのか?


「かわいいは正義。覚えました」

「たーちゃんもかわいいのです。あの生意気なタタラが造ったとは思えないのです」

「あいつ、長く生きておるからな」


 高地から出られないという縛りがあるから、式を飛ばす術を先鋭化していったのじゃろう。式自体を自律行動できるようにしたのは話し相手が欲しかったからかもしれんな。

 自分の作った人形に囲まれて暮らすタタラの図が脳裏に浮かんだ。ちょっと不憫じゃな。

 ヒルダ式も今頃自律行動しているのだろうか。タタラの相手をしておればいいのじゃが。


「でもヒルダ様人形をタタラのところに置いて来たのは間違いだったかもしれないのです。良からぬことをしているような気がするのです」

「フレイア様、ヒルダ様人形とは…」


 フレイアがメイドたちにたーちゃんと対になるヒルダ式のことをかいつまんで説明した。


「なんということでしょう。ヒルダ様が邪龍の(とりこ)に!」

「必ずお救いするずら!」

「神よ、ヒルダ様にご加護を!」

「いや、わしここにおるが…」

「様子が気になるなら、ご覧になってはどうでしょう?」

「たーちゃん、どういうことです」

「たーちゃんとヒルダ様式は繋がっています。あっちからだけじゃなくて、こっちからも術を飛ばせます。ヒルダ様の意識をヒルダ式に繋ぐことができますよ」

「なるほど。それは試してみたいの。やってくれ」

「はい、たーちゃんを抱いてください」

「こうか?」


 4人がたーちゃんをうらやましそうに見ている。

 貴様らはわしが抱きかかえられる側じゃからそんな顔しても無理じゃぞ。強化外骨格(パワードスケルトン)装備ならできるが。


「繋ぎます」

「うむ」


 タタラと目が合った。

 猿顔がすぐ前にあった。舌を出しておる。食べる気か?


「なにをするんじゃー!」


 タタラの鼻にストレートパンチを見舞った。


「ぐはっ!ヒルダ様ナイスファイト!ご褒美戴きました!」


 鼻血を出しながら喜んでいた。

 わしがたーちゃん経由でヒルダ式に乗り移ったことには驚かんのか。式の能力はタタラが一番よく知ってるからこいつにとってはごく当たり前のことなのかもしれんな。

 もともと小さいわしじゃが、人形になってさらに小さくなっていた。タタラが超巨大に見える。

 人形は裸で、パンツだけはいていた。制服は脱着可能なのか。


「何をしていたんじゃ。せっかく作った式を食べる気じゃったのか?」

「滅相もございません。お休みのキスをしようかと」

「お休みのキス?」

「寝る前に唇を触れる挨拶をするのです。普通のことです。ええ、全く普通です」

「念を押すところが怪しいの。うちはそんなことせんぞ。それに唇ではなくて舌ではなかったか?さっきのは」

「メイドたちに聞いてみてください。みな喜んでお休みのキスをするはずでございます」

「貴様、うちのメイド知っておるのか」

「4人いらっしゃると聞いていましたので。それにたーちゃん経由で情報が逐次送られてまいります」

「式とはそういうものなのか」

「そうでございます」

「ところでこの人形はなんで胸がちょっと膨らんでおるのじゃ。わしはぺたんこじゃぞ」

「でふぉるめでございます。少し成長されたヒルダ様のお姿にしております」

「服を着てないのはなぜじゃ」

「着せ替え人形にてございます。寝るところでしたから、パジャマに着替えさせているところでした」

「パジャマを着る前にお休みのキスをしようとしていたのか?」

「はい、あまりにもかわいくて我慢が出来ず」


 ロリコン。

 ファド・ストルゲンがそう呼ばれていたが、なぜかその単語が浮かんだ。


「パジャマを貸せ。自分で着る」


 わしは人形用のパジャマにそでを通しながら周りを見渡した。

 タタラサイズのデカい部屋の中のようだ。窓はないが、巨大な椅子やテーブル、タンスにベッドもある。実験設備やミシンらしき機械も置かれ、なにより人形が所狭しと置かれていた。

 たーちゃんやヒルダ式サイズのものから、人間の何倍もあるものまで。人の形を模したものから鳥や動物、モンスターらしきものまで種類は豊富だった。

 千年単位の成果か。

 タタラ以外の生物の気配はない。こいつはこんな場所でひとり何千年も生きているのか。


「フレイアたちがこの人形のことを心配していた。どういう意味かいまいちわからんのだが、様子を見に来た」

「大歓迎でございます。そしてメイドどもに心配は無用だとお伝えください。タタラは自分の作った人形を愛しこそすれ、不埒なまねは致しません」

「人形に対して不埒というのがよく分からんが、お休みのキスとやらは不埒ではないのじゃな」

「もちろんでございます。それを不埒というなら、メイドどもからお休みのキスを取り上げればよろしい。泣いて詫びるでしょう」

「貴様、なんか自信満々じゃな」

「長く生きておりますので」

「まあよいわ。時々見に来るからな。それと人形へのお休みのキスは取り上げじゃ」

「ぞんなああああああああおゆるじぐだざあああいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 泣いて詫びた。


「冗談じゃ。ではまたな」


 わしは意識を戻した。

 フレイアにたーちゃんごと抱かれていた。


「おお、すまんな」


 わしは起き上がった。


「もう少しこうしていてもよかったのです。で、いかがでしたのです?」

「人形は大事にされておった。大丈夫じゃ。タタラは案外誠実な奴じゃ」

「ほんとうにでしょうか?」

「うむ、ところでうちはお休みのキスの習慣がないな」

「お休みのキスをしてもよいのです!?」


 4人の目が輝いた。


「だめじゃ」


 たちまち涙目になった。


「そんな、期待させておいてご無体ななのです…」

「ひ、ヒルダ様との恍惚の瞬間(とき)が…幻となって消えていく…ああ、届かないところへ…」

「天国から地獄とはこのことずら」

「神よ、これは何の罰なのでしょうか…」


「冗談じゃ。してもよいぞ」


 4つの花が咲いたような笑顔が生まれた。

 これがかわいいの力か。他人の感情をかくもたやすく支配できるものなのか。

 かわいいは正義。たしかにそうかもしれん。


「まずは晩飯じゃ。おなかがすいたのじゃ」


第16話の続きといいましたが、そこまで話が進みませんでした(おい)。次回に持ち越しします。次回は3月17日21時公開予定です!

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