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第17話 知性ある龍

お待たせしました。第17話です。今までのお話の補足説明回でもあります。

 ゴンゾワール湖ってトラヴィストリア王国の南にある湖だったな。

 馬車を降りアジャルガ高地の周囲を眺める。高地自体は広く開けた場所で、眼下の湖はほぼ地平線まで広がっている。でかいな。

 湖の反対側はジャングルがこれまた果てしなく続いている。

 

「湖の対岸、かすんでいるあたりがゲルマ高地です。あそこから南はラライア帝国領となります」


 フレイアが地理を説明してくれる。

 あそこがビデオで見たアルパ戦の舞台か。

 たしかにもやっておる。湖からの水蒸気が溜るのじゃろうな。


 と、転移門が信号の点滅と音声で転入(インバウンド)を知らせた。

 転移したらすぐにその場を離れるので知らなかったが、こんな機能あるのだな。

 アラームがないと転移してきた馬車にうっかり轢かれたりするからじゃろうな。

 転移門の前が渋滞していたらどうなるんじゃろ?転移元で入場制限されるのじゃろうか。


 馬車が次々と現れた。

 一台一台がでかい。三頭曳きや四頭曳きの馬車もある。

 軍用馬車か。

 扇陣形に展開し、駐車すると同時に大勢が降りてきた。主に騎士たちだが、貴族風の衣装の者もいる。

 最初に会った宰相もいた。名前は何だったか。

 作業服の一団もぞろぞろ出てくる。

 騎士たちは貴族を護るように整列し、作業服の一団はうちの教師たちのそばにざっくりとまとまった。


 高らかにラッパが響いた。

「本部敷設!」


 団長らしき騎士が号令をかけると、騎士たちが分担して大きなテントを貼った。てきぱきといすやテーブルを配置し、備品類をセッティングする。

 あっという間に本部とやらが出来上がった。

 これは…前哨基地じゃな。

 さすがはこの世界で生き残った騎士団、なかなか手際が良いが、いったい何が始まるんじゃ。


 なんかいい匂いがする。

 振り返ると、転移門からまた馬車が一台走り出てきた。

 本部に横付けして大きな鍋や釜を降ろし始めた。食料か。乗ってるのは炊事班か。

 またラッパが鳴った。


「全隊配食!」


 騎士たちが料理をお皿に盛りつける。パン、サラダ、とんかつ、キノコのシチュー。おお、旨そうじゃな。これ喰わしてくれるのかな?


 と、騎士の一人がわしとフレイアを本部に誘った。宰相や貴族たちも招き入れられる。校長たちもだ。

 騎士団の中でも団長らしき騎士はじめ、階位の高そうな何人かがテント内に着席するが、テントの外にも多くのイスとテーブルが並べられ、大半の騎士と作業員はそっちに座った。


 またラッパが鳴った。


「全隊一斉食事!」


 団長らしき騎士が号令をかけると、猛烈な勢いで食事が始まった。

 しまった周りを見ていて出遅れた。まあ皿に取り分けられてるから別に食べられなくなるわけではないが、なんか負けたような気がした。


「おお、とんかつうまいぞ!アツアツじゃ。準備に時間が掛かるとこうはいかぬからな。さすがじゃ」

「はいです。お弁当持ってきたのですが、おやつに取っておくのです」

「うむ、それがいい。シチューも少し味が濃いが、軍隊食らしくて旨いのじゃ」


 元の世界での野営地を思い出す。前線での唯一の楽しみは食事だった。

 レトルトやフリーズドライのレーションでも異常に旨く感じた。

 

 幸せに打ち震えていると、宰相が声をかけてきた。

 

「勇者ヒルダよ。貴殿の能力(ユニークスキル)は過去に例を見ないものだと聞いた。今日はその検証を行う。こころして力を示せ」

「わかった。任せておけ」


 フォークは止めずに受け答える。

 宰相も喰いながらだし、いいじゃろ。


「年端もいかん姿なのに貫禄があるな。期待しておるぞ」


 作業員たちはHLDOL(ヒルドル)のデータ収集のために集められたのだろう。

 元の世界のわしは、機密を漏らすことができない。そのように調整されて生産されたクローン兵だからな。

 今のわしはその制限がなくなっている。シドウには言わなかったが、少し前から気が付いていた。


 市民生活のただなかにいて、意識が遮蔽(ロック)されない。


 兵士であるわしにとっては、市民の生活に触れることそのものが禁忌(タブー)だ。

 これは深層心理に刷り込まれた絶対上位の制限事項だ。

 

 それが、街で買い物したり、民間人と一緒に住んでいたり、あまつさえ()の軍に所属するシドウと同じ教室にいる。

 にもかかわらず、わしは普通だ。

 バイタルはフラットで安定している。

 こんなことは、我が軍の兵士としてはありえない。


 わしは、元の世界基準では壊れているのかもしれない。

 しかし、わし自身は、今のわしの心のあり様は、好ましいと思う。

 今まで知らなかった知識、知らなかった感情が、わしの心を満たしていっている。


 かわいいもそのひとつじゃ。

 兵士としては無駄な知識、無駄な感情なのかもしれない。

 だが、わしはそんな知識や感情が、わしらの部隊になかった新しい強さを生むような気がしておる。

 誰かを護りたいと思う気持ち。

 待っている人のために生きて帰るという気持ち。


 それは、わしの元いた世界には存在しない感覚(もの)じゃった。


 HLDOL(ヒルドル)の情報を公開するのが機密漏洩に当たらないということには自信がない。

 機密に抵触するなら、元のわしなら脳裏に警告が鳴る。場合によっては自爆を選ぶことさえいとわない。

 しかし、今のわしはそうではない。

 

 HLDOL(ヒルドル)突撃機甲(オリジナル)とは異なるということを自分自身への言い訳にし、今は捨て置く。


 それよりも気になっていたことがあった。宰相ならちょうどいい。


「宰相、太古の魔道光炉オラトリアクタ・アルマイネは勇者ごとに巨大なイマジナリの洞窟(ダンジョン)を作ったり、その中に邪神の複製を含めたモンスターを多数生むことができる。邪神どもを倒すのに充分な戦力を作り出せると思うが、そうせん理由はなんじゃ?」

「ガルガーチャでよい。太古の魔道光炉オラトリアクタ・アルマイネ()の地から動かせん。もちろん邪神が大聖堂シャトー・ド・プルミエ付近に現れれば、光炉の力を使うが、きゃつらそれを察しておるのか、わが王国に出現したためしがない」


 この宰相、ガルガーチャという名前じゃったか。

 案外気さくな奴だな。


「なんで動かせないのじゃ?」

太古の魔道光炉オラトリアクタ・アルマイネをその目で見ればわかる。貴殿が本当の救世主となれば、その機会もあろう」

「そうか。光炉が動かせないなら、イマジナリ兵器を転移門で送り出すのはどうじゃ?」

「イマジナリで出来たものは術者からある程度離れると消滅する。それに、邪神に対抗できうるような大きな兵器は転移門では運べん」

「勇者は世界各地で戦っておるらしいが、光炉から離れても消えないのはなぜじゃ?」

「貴殿たちは自身のイマジナリによって存在している。光炉のイマジナリではない。そして、召喚術式自体はイマジナリではない」

「では、たとえばわしが邪神に対抗できるとする。わしは元のわしの複製じゃ。わしをもっと数多く複製すれば容易に倒せるのではないか」

「召喚術式は同じ勇者を複数同時に呼ぶことはできない。貴殿の言う複製とは同じモノを生産するということであろうが、そうではないのだ」

「むう…」


「しかし、貴殿はなかなか鋭いな。勇者は多いが、こんな質問を受けたのは2人目だ」


 2人か。宰相と会うのははじまりの洞窟クリア後すぐだから、その段階では思い至らないのじゃろうな。

 事実わしも3日前に宰相とはじめて会った時は質問せんかったし。


 3万人以上の勇者。それぞれに与えられる洞窟の試練。

 太古の魔道光炉オラトリアクタ・アルマイネとイマジナリ。

 最初に現れたバイター・ミュゲル。

 その討伐後突如出現し今もこの世界を徘徊している11体の邪神。


 何かが繋がりそうなのじゃが、繋がらん。ああ、もどかしい。


 食べ終わってしばらくするとまたラッパが鳴った。


「全隊撤収!」


 食事の後片付けが始まった。例によって素早い。

 皿と入れ替わりに、様々な機械がテーブルに並べられていく。

 測距儀や角度計、風速計、気圧計、霧箱、バネ秤、電圧計、ストップウォッチ、スペクトラムアナライザ…?

 ビデオにモニター、キーボードもある。技術水準のおかしさはもう慣れた。突っ込んだら負けじゃ。


「ヒルダ、すでに分かっているとは思うがこれからHLDOL(ヒルドル)の性能試験を行う。まもなく仮想敵を呼ぶので用意をしろ」


 馬車で来た教諭の一人に指示された。たしかギルフォンという名前じゃった。


「うむ、仮想敵を呼ぶとはどういうことじゃ?」

「あれだ」


 騎士たちがテントからかなり離れた場所で枯れ枝の山に火をつけていぶしているのが見えた。

 うっすら甘いにおいがしてきた。


「龍誘香なのです。急いでHLDOL(ヒルドル)を出してくださいなのです!」

「あからさまな名前じゃな!わかった」


「ドラゴニック・ウォーリア!」


 わしは、まず強化外骨格(パワードスケルトン)を装着し、焚火のそばに飛んだ。

 騎士たちギャラリーからおお~という歓声が上がる。

 作業員たちは黙々とビデオを回したり、機器を覗き込んだりしている。プロだな。


「ハンドレッド・ライトイヤー・ドラゴン・オーバーロード!」


 HLDOL(ヒルドル)の出現、大歓声、ワラワラと回りを取り巻くように追ってくる作業員、それらと同時に()は降りてきた。


 猿のような顔に一角(ユニコーン)、豹のような筋肉質の体、鰐のような太いごつごつした尾、それに鷲のような大きな翼を持つ異形の生物。

 巡航形態(クルーズモード)HLDOL(ヒルドル)よりも一回り大きい。


知性ある龍インテリジェンス・ドラゴン、タタラ…」


 個体名がモニターに表示される。

 タタラはゆっくりと着地し、龍誘香の煙を深く吸い込み、わしと対峙する。


「やれやれ、またおかしなものを持ち出してきたな、人間。仕方ねえ、(ヤク)の分はかまってやるよ。来な」


 こいつ、言葉を話すのか!?

 言語変換エンジンが龍語を翻訳しているのかもしれんが、知性があるのは本当のようじゃ。

 やはりここはファンタジーな世界だな。標準進化モデルでは説明つかん。


「これ、やっちゃっていいのか?」

「タタラは不死の存在だ。本来人間世界には干渉せんが、香を焚くと一つだけ頼みが出来る。今回はHLDOL(ヒルドル)と戦うよう依頼した」


 宰相がフレイア経由で通話してきた。

 タタラはこの地の守護者なので、高地の外には出ない。邪神討伐は頼めないそうだ。いろいろと制限の多い世界じゃ!


「来ねえなら、こっちから行くぜ」


 タタラが火炎を吐いた。

次回は3月10日(明日)21時更新です。当然ながらタタラ戦です。なかなかフミトくん再登場できないので内心焦っています。頑張って書きます。すみません。

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