第14話 高速反省会:ヒルダ
パートナーを別室に残し、4人で教室に戻ると、先ほどの戦闘記録ビデオを使っての反省会が始まった。
実技訓練ではない、実技授業じゃからな。
戦って終わりではない。
戦闘記録をもとに新たな戦術を模索するのは、当たり前のことじゃ。
計画実行評価改善は作戦行動の基本じゃ。
ラミレス教諭もビデオを一緒に見る。
最初はわしの映像記録じゃった。クリア順らしい。
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「ドラゴニック・ウォーリア!」
「ドラゴニック・ソード!」
最初のうちはわしが技名を叫ぶたびにシドウらは大笑いしていた。
なんでじゃ。
ダムドからは厨二と呼ばれた。なんじゃそれは。また知らん単語じゃな。
じゃが、強化外骨格がボロボロになり、逆立ちに墜落して追い詰められたあたりでシーンとなった。
汚物まみれになったわしの映像を見ながら、三人とも顔を赤くしていた。
「こ、これがリョナ属性っ…ぐはっ!」
ダムドが精神的ダメージを受けとる。
「いやー、なんか違うものに目覚めちゃうね」
シドウも頭をかいておる。
「これはこれで、美しい…」
パヴァが目をキラキラさせておる。いったいぜんたい何が起こっておるんじゃ?
HLDOL登場後は皆何も言わずビデオを見ていた。
パヴァは口をぽかんとあけていた。
ダムドは6つのこぶしを握りしめていた。
シドウは若干余裕があるようじゃったが。
さらに1分の1バイター・ミュゲル出現後はシドウもくいいるように見ていた。
ビデオが終わった後は、ラミレス教諭を含め全員から怪物を見るような冷たい目線を感じた。
「…これはどう評価する?」
しばらくの沈黙の後、ラミレス教諭が問うた。
「対邪神兵器としてほぼ完成していると見ます。ただ、あまりにも強力過ぎて逆に不安が」
「稼働時間かね?シドウ」
「はい、それもありますが、こんなに強力なイマジナリを出現させられるのは、はじまりの洞窟が太古の魔道光炉の影響下にある場所だからだ、ということはないですか?洞窟そのものがイマジナリだから可能なのではないか、という気がします。はたして実戦で今の通り使える能力なのかどうか」
「君たちの先輩勇者は各地で戦っているが、能力が衰えた、という話は聞かないな」
「ならよいのですが」
「しかしシドウの懸念も検証する必要はある。明日以降ヒルダは別の場所で実技を行うこととしよう。ほかには?」
「はいっ、技名を叫ぶと強くなるのでしょうか?」
ダムドが手を上げて質問する。ちなみに上げた腕は一本だけだ。
「魔法詠唱は当然として、戦闘中に技名を言うことはよくある。強くなることはないが、気合というかテンポというか、そういうものは確かにある」
「ラミレスの言うとおりじゃ。それにかっこいいじゃろ」
「いやあ厨二くさくて…ぷぷぷ」
だからなんじゃそれは。
「はい、ヒルダちゃんが荷電粒子砲と言ってましたが、邪神ってロボットなんですか?」
パヴァが尋ねる。
「カデンリューシホーなるものは知らないが、邪神の力の一部は以前から古代魔術の一種といわれている。人工物か生物かについても意見が分かれている。今はそんな状況だ」
「戦った限りの印象では、生物兵器じゃな。ばらばらにしても骨も筋肉もなかったのは、イマジナリで見た目だけをコピーしたせいじゃろう」
「模擬戦用の邪神はヒルダの言うように外見と戦闘能力だけを複製したものだ。中身は作られていない。どうなっているのか分からないからだ。せめてバイター・ミュゲルの死骸でも回収できていればよかったんだが、レグランドとともに焼失してしまった」
「自分の粘液で自分が融けたしのう」
「その点は次回修正する。今までは粘液を遠くに発射していたから気がつかなかった」
「ええ~!いい弱点だと思ったのに~」
「ダムド、それ本物の邪神には通用せんぞ。あきらめろ」
ふと、わしのこの体も中身がないのではないかと考えてしまった。
が、飯は食えるし、血も便も出る。人体についてはよく分かってるからきちんと復元されていることじゃろう。うむ。気にせんことにしよう。それがいい。
「他には?」
「ヒルダちゃんに聞きたいんだけど、最初に強化外骨格出したわよね。あれ、大柄な成人男性ぐらいのサイズだったけど、もしかしてあれって…」
「おう、ダムド、あれはわしの元の姿を模したものじゃ」
「やっぱり!たしかに今のあたしくらいよね。なるほどなるほど」
なんか納得しとる。
「で、あなたの国では幼女がオジサマの皮をかぶるのがデフォなの?それっていったい何属性なの?ロリババアならぬロリジジイ?」
「何の話か分からんが、よぉじょを戦地に送ることはないぞ。強化外骨格は普通大人用じゃ。だから本当はもっとでかい。民間では医療用として子供にあったサイズのパワーアシストスーツがあるがの」
「じゃああれはヒルダちゃん専用なのね」
「うむ、そもそもはこのなりのままだと突撃機甲のコクピットに手足が届かんから、元の体をイメージしたら強化外骨格が出てきたのじゃ」
「ぐふふ。いいわ。メカロリジジイ。やばいわ」
なにがやばいのかさっぱりわからんな。
「僕もヒルダに聞きたい。HLDOLは彼の軍の突撃機甲そのものなのかい?君たちは機密漏えいが出来ないように調整されているはずだが」
「いや、外観、変形機構や武器類は戦闘中に目視されてしまうからそもそも機密でもなんでもない。例の独立系の開発公社が生産しているから両軍共有の規格も多いじゃろ。双極励起誘導銃なんてそもそもは彼の軍の武器だったはずじゃ」
「そうなんだ、前線ではそんなことになっているのか…。ふむ、あるいはヒルダと僕のいた時代が違うのかもしれないね」
「なるほどな。貴様何年から来た?」
「シアーズクォーター298887年」
「わしはトスカルド帝政暦1382216年」
「ちっともわからないね」
「まったくじゃ。我が軍だけでも端と端の部隊では100万年くらいの時差があると聞いておる。超光速国家に同時性はないと教えられた」
「そうだね。地平線問題でいつまでも戦況が先に進まないので互いにクラウド上で全事象を再構成する話もあったけど、維持コストの割に効果が期待できないらしくてポシャッたしね」
「ああ、戦術的勝利の戦略的評価が超光速の場合原理的にできないというジレンマはテキストで学んだ」
「で、どうなんだい?」
「うむ、質問に答えてなかったな。HLDOLの戦闘力は、オリジナルとは異なるイマジナリのものじゃ。これ以上は勘弁」
「あんたたち、何の話をしているの…」
パヴァがまた怪物を見るような目で、今度はシドウも含め見ていた。
ラミレス教諭も、ダムドもじゃった。
「うっほん、ほかに何かないか」
わざとらしく咳払いをして、ラミレス教諭が区切りを示した。
「最後にわしからいいか?」
「ヒルダ、なんだ?」
「我が軍や彼の軍には突撃機甲並み、あるいはそれ以上の兵器がごまんとある。おそらく邪神に対抗できるはずじゃ。しかしフレイヤやラミレスの反応からすると、この世界ではHLDOLがはじめてのようじゃ。なぜ今まで誰もイマジナリで生み出さなかったんじゃ?」
「うむ、本来は機密に属する事項だが、君らならいいだろう。かつて勇者としてヒルダやシドウの軍から何人も召喚している。だが、彼らの世界の兵器をイマジナリで生み出しうる者はいなかったのだ」
「ああ、それは僕がある種の証明だよ。僕の能力は我が軍の兵器ではないからね。後でビデオで見ればわかるよ」
シドウが自嘲気味に語る。
それで太古の魔道光炉のせいとかなんとかいちゃもんつけてたのか。
案外心の狭いやつじゃの。ぐはは。
「そうね、私たちの世界にも戦闘ヘリや戦車なんかがあるけど、イマジナリじゃ出てこなかったわ」
ダムドよ、その程度の戦力じゃ邪神討伐は無理じゃないか。
「ヒルダの力は勇者としても突出しているのは間違いない。ただシドウが指摘したようにいくつかの懸念材料がある。またどんなに強くても一人では限界がある。今後、ヒルダの能力を見極めつつ、部隊としてどう運用するかを考えていかねばならない。ヒルダについての反省会は今日はこれまでとする」
ラミレス教諭が締めた。
そうだな。戦争は一人ではできん。
勘違いした奴は、あっさり死ぬ。
わしはそんな奴を何人も知っている。
増長してはならん。
次はパヴァの番じゃな。
どんな戦いをしたのか、楽しみじゃ。
次回は高速反省会の続きです。残り3人は脇役なので1話にまとめちゃうかも。はやくフミトくん再登場させないといけませんし。




