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第11話 戦闘研究:アルパ・ヴィゲルド初戦

 翌日。


 朝からやや曇り空のなか、メイドたちに見送られフレイアとともに馬車で登校した。

 フミトは朝から姿が見えないが、シドウ、パヴァ、ダムドはわし同様パートナーと一緒に来ていた。

 昨日はほぼ弁当係だったパートナーたちだが、今日の午後からの実技では万一の時のサポートを行う。

 はじまりの洞窟でもそうじゃったが、訓練といえど本気でかかってこられるのはわかっている。ここはそういう世界じゃ。

 油断したら怪我ではすまん。


 午前最初の授業はワザリー教諭の政治経済学。邪神出現後の現在の各国の状況を学んだ。

 各国とも軍は壊滅的な被害を受けたが、それ以外は実のところほぼ無傷だ。アウロ=シュタンジュ連邦のみ首都レグランドが消失したものの、市民や首脳部は転移門で避難していたため無事。また連邦国家だったのが幸いし、準首都であったユーテックスを首都に繰り上げ統治機能を回復している。首都の難民はしばらくはテント生活を強いられたが、土地は余裕があることもあって国策でユーテックス市街を拡大、現在は大半がそこに定住している。特需で大工組合が相当儲かったようだ。


 ただし、軍は警察も兼ねていたため、各国とも近年犯罪率が増加している。邪神にやられるかもしれないという心理面から農産や畜産の出来高が低下しており、物価上昇を招き、それが犯罪者を生む要因にもなっている。

 また軍の再編成のための増税で市民生活が圧迫されている。

 用心棒代わりの傭兵も増えているが、その傭兵自身が犯罪者となるケースもあり、治安は悪化している。

 なるほど、トラヴィストリアは近衛がいるからまだ安全というフレイアの話はこういうことか。

 流通がトラヴィストリアに集中するのも、取引が安全だからという理由が大きいのじゃろうな。


 次はラミレス教諭の邪神学。今回から戦闘記録映像と模型により過去の邪神戦の模様を学習する。今日は1の邪神、アルパ・ヴィゲルドとトラヴィストリア軍の初戦が教材だった。

 場所はラライア帝国領北部のゲルマ高地。

 靄のかかることが多いゲルマ高地の景色が一望できた空気の澄んだよく晴れた日だった。ふもとの街から高地に現れた大きな人型が見えた。

 邪神発見の報を受け、街に転移門で急行したトラヴィストリア軍は、レグランドが記録も残せず壊滅したこともあって新たな邪神の能力が不明であったため、行軍の早い騎馬隊を偵察を目的として先行させた。

 アルパをけん制しつつその戦闘能力を確認したうえで、本隊が合流し本戦開始となるてはずだった。


 だがアルパのスピードは馬よりもはるかに早く、両手剣の破壊力は絶大だった。

 翻弄されたのは騎馬隊の方だった。

 さらに両手剣に魔法が付与され、しかも風・火・水・土・雷を瞬時に切替えながらの攻撃は騎馬どころか地形を変える威力で、大地は崩れ木々は焼け、そもそも馬が走れるような状態ではなくなった。

 機動力を失い分断された騎馬部隊はアルパと対抗するすべもなく、次々と損耗していった。

 

 交戦場所に到着した本隊のデ・コーマ全軍司令はただちに魔道師団を属性(エレメント)別に分け、アルパを囲むように進軍させた。アルパの魔法剣属性が切り替わるのにあわせてカウンターをはり、その間に前衛部隊を救出、全軍で撤退することとした。

 アルパの魔法剣の切り替えは瞬時だが、魔道師団側は詠唱時間がかかる分遅れる。そのため、デ・コーマは各エレメント部隊の平行ローテーション詠唱を指示した。

 魔法は同属性だと威力が増し、火と水のような反対属性だと打ち消しあう。属性相殺を相手にぶつけるのが魔法カウンターだが、味方同士が反対属性魔法を同時に発現させた場合も属性相殺により威力が低減する。だから詠唱時間を逆算して輪唱のように少しずらして詠唱するのが平行詠唱だ。

 さらに、魔法効果を切らさないよう同じ魔法を交替しながら詠唱するのがローテーション詠唱、この二つを同時に行うのが平行ローテーション詠唱だ。

 戦闘中に平行ローテーション詠唱をつづけるのはかなりの難易度だ。しかもアルパの魔法属性に合うようその場その場で詠唱時間の調整を行わねばならない。千人単位で行うオーケストラがアドリブセッションするようなものだ。指揮者の的確な判断と指示。術者たちの冷静さと集中力。わずかな乱れが全軍を壊滅させてしまう、命を懸けた演奏だ。


 この時の魔道師団総数5千人。魔道指揮官はキャス・ライトニング。

 魔法に優れるトラヴィストリア王国にあって四天王といわれるうちの一人であった。


 彼は魔法発動直前のアルパのモーションに違いがあることに気がついていた。

 それは魔法の対象が違うからだ。火魔法なら直接相手を打つのが効果的だが、風魔法なら大気を、土魔法なら大地を、雷魔法なら天に剣を向ける。水魔法はやや距離をとり砲のように撃つ。モーションから魔法剣の発動まで1秒もないが、彼は魔道師団を手足のように操りカウンターを当て続けた。

 カウンターにはノックバックが起きる。アルパが一瞬ひるんだ隙に歩兵部隊が炸薬槍を叩き込み、その間に負傷した騎馬隊を回収する。

 もちろんノックバックは魔道師団側の術者たちにも起きる。そのためのローテーション詠唱だ。ダメージを受けたグループは第二グループと交代し回復を受けながら次のローテーションに備える。


 無傷ではないが、目的は撤退だ。騎馬隊の回収まで持ちこたえられる。いや、持ちこたえてみせる。

 足場が悪くて人力で負傷者を運ばねばならず、またアルパのすぐそばで極めて危険なため屈強な騎士団が総出で回収に当たっているが、時間が掛かっていた。

 だが本隊陣地まで戻れば、軍用馬車が使える。

 魔道師団も、歩兵部隊も、騎士団も必死であった。


 だが、均衡はやがて崩れた。

 アルパが両手に反対属性の魔法をエンチャントしはじめたのだ。アルパは大きく、剣部のみに魔法を集中させているので反対属性でも完全に打ち消しあうわけではなかった。

 キャス・ライトニングは魔法カウンターはできないと速やかに判断、アルパが両手にかける2属性以外の魔法で攻撃する策に転じた。

 カウンターで片手をカウンター出来ても、もう一方の魔法を強化してしまうからだ。

 だが、打ち消せない魔法剣の威力はすさまじく、本隊陣地まで届いた。大地が割れ、暴風が吹き荒れ、雷が襲った。

 デ・コーマ全軍司令はすさまじい水圧で司令キャンプごと潰され、キャス・ライトニングは炎に焼かれて死んだ。

 トラヴィストリア王国軍は総崩れとなった。

 全員が死を予感したとき、突然青空が戻った。

 交戦開始から30分が過ぎていた。

 アルパの姿はどこにもなかった。

 この戦いでトラヴィストリア王国は騎兵の半数、騎士の4分の1、魔道師団の5分の1を失った。


「異属性の魔法剣か。やっかいじゃな」

「はたして2属性だけなのかな?5属性を操るんだろ。最大5属性同時もありうるんじゃないか?」

「反対属性は干渉するんじゃろ」

「反対属性じゃなければいいんじゃないか?雷と水とか、風と火とかはありじゃないかな。片手に2種類掛けることも想定しておかないと」

「ふむ。そういわれてみれば、そもそもこいつ足も頭もあるな。魔法をかけられるのが腕だけとは限らんな」


 今聞いたアルパ初戦を元に、残り時間でわしらなりに邪神戦闘について意見交換するようラミレス教諭に指示された。

 ラミレス教諭は意見が言いやすいようにと、教室を出て行った。出た意見を最後にまとめて発表してくれとのことじゃった。

 ゲルマ高地の模型を囲んで、フリー形式で意見を述べていく。


「ノックバックでひるませたら隙が出来たのよね。魔法カウンターをやめたからダメだったんじゃないの?片方だけでもカウンターを続ければよかったんじゃないかしら?」


 あいからず気持ち悪い口調でダムドが言う。


「たしかにひるみはするけど、片方の魔法剣は威力が増加する。同時に2属性をカウンター出来ればいいけど、そもそも同時に反対属性魔法をうつと打ち消しあって効果がなくなる。ううん…けっこう詰んでるわね」

 とパヴァ。


「序盤はうまくいっていた。魔法カウンター自体が失策ではない。複数属性魔法攻撃の可能性を考えていなかったのが失策か」

「魔法でカウンター出来た、ということはアルパの技は魔法のカテゴリーで間違いないようじゃな。なぜ詠唱もなく瞬間的に切り替え出来たんじゃろう」

「邪神だからじゃないの?そういうものなんでしょ」

「ダムドよ、それじゃ話が進まんぞ…」


 あ。

 わしは昨日買ったカードを思い出した。


「省略術式…!」

「なにそれ?」


 わしはバンシィカーズをシドウに見せた。

 ふむ、ついでに試してみるか。

 わしは火の壁(ファイヤーウォール)カードを窓から外に向かって投げてみた。

 瞬時に炎がカードの軌跡に沿ってカーテンのように出現する。

 あ、やばい、結構飛ぶ。裏の森が火事になりかねん。

 わしは回収(リターン)カードをかざし、火の壁(ファイヤーウォール)カードを呼び寄せた。

 カードが手に戻ると、外の炎の壁も消えた。


「おお、すごいじゃないか。早速この世界の武器を手に入れたんだね」

「ふふん、でな、このカードにマルやら三角やらが描いてあるじゃろ。これが省略術式らしい。アルパにも同じようなものがあるんじゃないか」


 わしらはビデオを見返した。


「わからんな…」

「全身ごつごつして岩のようだしね。ひび割れがそれっぽく見えるのもあるけど、省略術式ってそのカードを見ると結構きれいな幾何学模様だよね」

「背中のとげに書いてあるとか」

「ビデオが4Kならよかったのに。解像度低くてよくわかんないわ」


 魔法剣の発動する箇所を何度か再生していると、突然パヴァがあっと声を上げた。


「見つけたのか?」

「目よ!」

「目?」

「ほらよく見て、目の中に図形があるわ!」


 バイター・ミュゲルと同様のアルパの赤い単眼には、たしかに複雑な図形模様が薄く浮かんでいた。

 魔法剣が発動する瞬間、その一部がわずかに発光していた。丸い部分であったり、星形であったり、三角2か所であったり。


「これだ!よく気がついたねパヴァ。間違いないよ。だからこの目をつぶせば」

「アルパは魔法剣が使えなくなるのじゃな!」

「大発見よ!ラミレス先生(せんせ)に教えなきゃ!」


 意気揚々と待っていたわしらだが、時間終わりに帰ってきたラミレス教諭に教室での魔法の使用は厳禁だ!とエライ剣幕で叱られた。

 教室でじゃなくて教室からじゃと抗議したが中庭含め校舎全体でだめだとさらに怒られた。

 あとで聞いたが、ラミレス教諭も校長から先に怒られていたらしい。校長室から炎が見えたんじゃと。

 すまん。


 ちなみに目の件はとうに知れていた。強力な魔法障壁があって攻撃が通らんのだ。

 この短時間でそれに気がついたのは褒められたが。

 実は省略術式は威力が弱く軍用には用いられない。だから魔道師団は詠唱を行った。

 アルパが省略術式であの威力なのは規格外すぎるのだそうだ。


 叱られたり褒められたり学校は忙しいな。

まいど過大広告な次回予告で申し訳なく(棒)。

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