鼓膜
壁に耳を当てました
すぐそばの生活が聞こえます
床に耳を当てました
水の蠢きが聞こえます
飼い猫に耳を当てました
数え切れないほどの経験が聞こえます
好きな人に耳を当てました
でこぼこした鼓動が聞こえます
自分に耳を当てるにはどうしたらいいんでしょう
自分の音を聞くにはどうしたらいいんでしょう
この球の上には自分という存在は一人しかいないのに
あなたの事もあなたの友達のこともよく分かるのに
私だけ 私だけ 分からないんです
海に輝く珊瑚に耳を当てました
胎内の様な安らぎが聞こえます
周波数の合っていないラジオのノイズに耳を当てました
誰かの悲鳴が聞こえます
しんと積もる雪に耳を当てました
子どもの笑い声が聞こえます
宇宙に耳を当てました
よく聞いた憶えのある鼓動が聞こえます
いつか どこかで海馬に刻みつけた あの音 あの音






