第8話 婚約?と専属メイド
ようやくヒロインが!!
「やっと見つけましたわ」
聞こえてきた声のする方に視線を向けると、そこには二人の女性の姿が見えた。
一人は、ウェーブのかかった茶色の髪を肩までのばし気の強そうな目つきをしているがまだ成人はしていないのだろう、顔つきは少し幼さが見える。
そして、彼女の後ろに控えるのはおそらくそば付きの侍女という感じか、全体的に落ち着いた雰囲気が感じられた。
そんな二人を見たロウの表情は、かなり困った感じになっている。
どうやら、彼女たちの目的はロウみたいだ。
「ロウ、二人のことを知っているのか?」
「・・・ええ、まあ。でもなんでこんなところに」
無精ひげを掻きながらあり得ないという顔をまだしている。
考え込んでしまったために、逃げる時期を逸したのか彼女たちは目の前に来ていた。
「お久しぶりです、お会いしたかったですわ。ロウ様」
「お久しぶりです、リネットお嬢様」
作法にのっとた綺麗なお辞儀をし、大輪の花が咲くがごとくの笑顔で挨拶をする少女に対してきちんとした礼で対応するロウの姿に違和感だすごいが、何とか表に出さないようにする。
後ろに控える侍女もほほえましい表情で、それを見ていた。
「あ、いや。今日はどのようなご用件でいらっしゃたんです?」
「もちろん!ロウ様に会いに来たのです!!」
「ええっと、他にご用事は?」
「ありません。本当はお父様の付き添いで来ただけですの」
きっぱりとそれ以外の用事がないことを告げると、ついにロウが崩れた。
膝から崩れ落ちたわけではないが、明らかに諦めの境地にあるようである。
そんなやり取りを見ていた俺は、ロウの副官をしている騎士に聞いてみた。
「なあザクス、なんであんなことになっているんだ?」
「ああそれはですね、ことの発端は半年前くらいのことになるんです。あの時、ロウ隊長と共に領都であるここ「ケムルト」から国境の砦に作られた町「ツーロン」へ街道警備をしている時に魔物の群れに襲われている馬車を見つけまして、加勢をしました」
「いや、馬車に護衛がいただろう?」
「それが、魔物の中に亜種がいたので」
「それを、ロウが駆けつけて倒した、と」
「はい、それを見ていたリネットお嬢様はご自宅に戻られると直ぐに父君であるライアーク卿にロウ隊長との婚約をお願いしたそうです」
「・・・でも、ロウは貴族ではないだろう?」
「リネットお嬢様は男爵家の6人兄妹の末っ子だそうであちらは構わないそうです。先日もご当主のライアーク卿がカイン様にお会いになられたと」
(絶対上の方で話ができているな、お父様もいい加減ロウに身を固めて欲しいと思っているは ず。・・・・・・ロウ、多分逃げ道はないと思うから潔く結婚したら?)
生暖かい眼差しで、彼を見ているとそれに気が付いたのか助けを求める視線を送ってきた。
なので言うことは一つだけ。
「結婚式には呼んでくれよ、ロウ」
「坊!いや、若様!!」
「まあ!!」
絶望的な顔をする騎士と最高の笑顔をしたお嬢様という何ともカオスな現場をしり目に俺は昼食を取りに食堂に向かうのであった。
多分の焦りなどが含まれた声が聞こえたが気にしない、いや気にしてはいけない。
その夜、父さまからロウとリネットお嬢様の婚約が決まったことを聞いた。
結婚式は彼女が成人したらとのことになるようなのでしばらく彼は弄る話題ができたと思うのである。
リネットお嬢様は花嫁修業をするために、ライアーク卿と帰路につくと練兵場はいつも通りの光景が戻ってくる。
話題の中心となったロウはようやく帰ったと思っているのだが、あと数年すれば嫁入りに来るのだから独り身の自由な時間に終わりができたとも考えられるので顔色はさえない。
「ケネス坊、いつもより模擬戦は厳しくいきますからね」
「なんで!?」
「あの時、あっしを置いていったでしょうが!!」
「子供の僕に何ができると!?」
「問答無用!!」
「ああ、もう。どうすればよかったんだよ!」
ロウの電撃婚約が決まったことで、八つ当たり的な訓練を続けること二か月後。
「ケネス坊、今日はどこに行きたいですかい?」
「取り合えず、街の中を歩いてみたい。あとは出来れば魔物も狩ってみたいがどうかな?」
「近くの森なら、いいでしょう」
「やった。それじゃ行こう」
「へいへい」
昨日ようやくロウから一本を取ることができたので街に出ることが許されたのだ。
ただし、護衛としてロウ一人か数人の騎士を付けることという条件があったので彼に同行してもらっている。
懐も温かいので気分はいい。
「そんなにうれしくされると、複雑なんですが」
「だって、ロウから一本取った人の賞金なんだから頬が緩みますね」
出かける際、父さまから渡されたのはお金である。
このお金は、実を言うとロウへの掛け金であったのだ。当時から辺境伯軍の最強の剣士と豪語していたので挑戦者が大勢いたので、勝った者には賞金として金貨五枚を渡すと宣伝したので当時はかなりの人が来たらしい。
もっとも、彼らが来ることで宿屋と飲食店などは大いに儲かり、賞金を出しても痛くはないほどの状況だったそうだ。
ロウ自身も挑戦権として銀貨一枚を受け取れるので割と多い臨時収入がある。
ちなみに貨幣の価値は
・銅貨=百円
・大銅貨=千円
・銀貨=一万円
・大銀貨=十万円
・金貨=百万円
・白金貨=一千万円
と、大体こんな感じであるらしい。
挑戦者が多いのも納得である、勝てば五百倍になって帰ってくるのだ。
腕に覚えがある者は当然やってくるし、見込みがある猛者は辺境伯軍に入ってもらうなどかなり忙しかったようである。
「さて坊、まずはどこから行きましょうか?」
「そうですね。まずはロウのおすすめの店などを回っていきましょう」
「あいよ。それじゃまずは・・・」
それから、二人は街中を歩いていく。
時に屋台で売っていた(オークの串焼き)を食べてたり、行きつけの武器屋で冷やかしをしたりと凡そ貴族らしくない行動をしていた。
「?ロウ、あれは何ですか?」
「あれは・・・ああ、贔屓にしている奴隷商ですね」
「えっ!・・・贔屓」
その言葉に、彼から数歩下がるように離れる。
「何を勘違いしてるんだか知りませんが、あっしはここに捕まえた犯罪者をこの商会で引き取ってもらているんですよ。だから贔屓しているのはむしろ辺境伯家の方ですから」
「何だ、そうだったのか。驚かせないで欲しいです・・・!!」
「どうかしましたか?坊」
「いや、なんでも」
全く驚かさないで欲しいです、イズン様。
(ごめんね、でもここに君にとっても重要な子がいるから助けて上げて欲しいんだ。フリッグ様にもお願いされてね、わたしの加護で持たせているけどかなりやばい感じになってね)
やばいとは?
(もうすぐ、命の火が消えそうなんだ。もってあと数日くらい)
わかりました、助けます。
(お願いね。その子の名前は、イゼルナと言うわ。お願いね)
不意に声が聞こえたと思ったら教会でお会いした、生命神のイズンさまあった。
かなり状況がひっ迫しているのか焦りが感じられる。
「ロウ、次はここに行きたい」
「しかし、坊に奴隷なんて必要ないはずじゃ」
「いいから!」
「わ、わかりやした。行きましょう」
普段とは違う感じに驚きながらも案内する彼の後ろを歩いていく。
商会の受付で代表を呼ぶように話し、応接室に通されるとソファーに俺は座り、ロウは後ろに控えるように待っていると。
「ようこそいらっしゃいました、ケネス様。当商会を取り仕切っています、サムソンと言います」
「ケネス=フォン=ホラントと申します。こちらこそ、いつも捕らえた犯罪者を引き取ってもらい感謝しています」
「それで、今回は同様なご用件でしょうか? 奴隷の購入でしょうか?」
「ええ、そうです」
「それでしたら、まずはご説明から致しましょう」
「お願いします」
「はい、ではまず奴隷には犯罪奴隷・借金奴隷があります。犯罪奴隷は罪を犯した者で多くは鉱山などに引き取られます。次に借金奴隷ですが、大きく分けて三つありまして戦闘奴隷・一般奴隷・そして性奴隷に分かれています。三つに共通しているのは自分を買い戻せることができるということでしょう、買い戻しが完了すると解放奴隷となり平民と同じ扱いになります」
「なるほど」
「戦闘奴隷は冒険者が、一般奴隷は商会が性奴隷は主に娼館が買っていきます。そして、奴隷には契約魔法で主人を傷つけることができないようになっています。しかし、例外として殺されそうな時のはその限りではありませんが」
「わかりました。ありがとうございます」
「では、説明も終わったのでそろそろご案内をいたします。こちらへ」
サムソンに案内されて商品となる奴隷がいる場所に来る。
そこは多くの個室があり、その中に商品となる奴隷が入れられていた。基本的に男女は別で分けれらているし、部屋も彼らの身なりも綺麗であった。
「ここは、清潔なのですね。安心しました」
「ええ、彼らはわたくし共にとって大事な商品でもあり、お客様への信頼の証にもなりますからできるだけ掃除をして清潔にしております。教養がない奴隷も私共の方で学ばせておりますのでここの奴隷たちは質がいいといわれています」
「ここを見るだけでも、あなたが真の商人であることがわかります」
「ありがとうございます。ここにいるのは主に一般奴隷の区画ですのでさらに質の高い高級奴隷の区画に参りましょうか?」
「高級奴隷とは?」
「特に容姿や教養が高い者たちのことです。元豪商の娘や没落した貴族の娘などを扱っております」
それから各区画を見て回っていたが目的であるイゼルナの姿は確認できない。
商品の紹介が終わったので応接室に戻ろうとしていた時に来るときには見えなかった階段が視界に入る。
「サムソンさん、あそこの階段の先には何があるのですか?」
「あそこには、特殊な奴隷がいます」
「特殊?」
「ええ、主に重い病を患った者やいづれかの四肢を欠損した奴隷など商品にできない者たちが置かれています」
「見させて貰ってもいいですか?」
「構いませんが、あまりお勧めはしませんよ」
「ええ、お願いします」
引き留めようとしたサムソンにお願いした俺は階段を降りていく。
重い扉を彼が開けると、ゴミ捨て場のようなにおいがしてきた。
中は薄暗く牢屋を思わせる作りになっていた、表の商品よりも扱いは低くなっているようである。
奥へと歩いていく間に、見ていくとここにいる誰もが虚ろな目をしている上の奴隷たちは悲壮感はあったがここまでではなかった。どの奴隷を見ても何れかの四肢をなくしていたり、もしくは衰弱している者しかいない。
「ケネス様、ここにいるのは皆このように重篤な者しかいません」
「ええ、ですが・・・!」
他の所よりも強い血の匂いがする場所に向かうとそこには一人の女性が横たわっているのが見える。
しかし、彼女の状態は他の奴隷よりも非常に酷いものであった。
まず、両足が膝から先がない。
次に左腕もなく、腹部には包帯が巻かれて赤く染まっている。
綺麗な髪であったのだろうが今は血と泥に汚れているので髪色は判別できない。
顔に視線を向けると、右目にも包帯が巻かれてい全体を見るととても生きていられる怪我ではなかった。
「(神眼、発動!)」
名前:イゼルナ
種族:エルフ族(ハイエルフ族) 年齢:26歳 性別:女
レベル:28
体力:37/257
魔力:5697/5697
能力:C+
魔法:火魔法LV2
水魔法LV4
風魔法LV5
地魔法LV4
光魔法LV0
生活魔法
スキル:剣術LV6
槍術LV5
弓術LV6
小盾LV5
礼儀作法LV4
身体能力強化LV7
魔力強化LV3
生命力強化LV5
加護:魔法神の加護LV5
愛と豊穣神の加護LV10
称号:奴隷
状態:両足欠損 左腕欠損 右目失明
イズン様が言っていたイゼルナがいた。
ただ、あの方が焦っていたのも頷けるほどにひどい状態である。
急いで回復をした方が良いだろうがここではできない。
「サムソンさん」
「お戻りになりますか?」
「いいえ、このエルフを売って下さい」
「この娘を買われるのですか?!しかし、この子は・・・」
状態のかなり悪い奴隷を買おうとするケネスにサムソンは大いに驚く。
慌てて止めようとするが、俺の意思は固いと踏んだのか言葉を飲み込む。
「本当にこの娘で宜しいですか?」
「ああこの子が、欲しい」
「わかりました。では仕度を致しますので応接室に参りましょう」
応接室に戻ってくると、俺とサムソンさんは対面にソファーに座る。
部下に契約書を持ってこさせると、必要事項を書き込んでいく。
「ケネス様、ご確認をお願い致します」
「・・・・・・、これで大丈夫です。料金は?」
「・・・銀貨一枚です」
「随分・・・安いですね」
契約書を確認してから彼に代金を払うと二人の男たちが彼女を運んでくる。
新しい包帯に変えたりしているが傷が消えたわけではない。
「では、これより契約を始めます。ケネス様はここに少量の血をお願いします」
彼女の手の甲にある奴隷紋に一滴の血を垂らすと、淡く光が放たれる。
「これで彼女はケネス様の物です」
「わかりました。サムソンさんありがとうございます」
「いいえ、ですが彼女をお願いします。私も長いことこの商いをしていましたが彼女のように怪我を負った奴隷を少なからず見てきました。そして、何もできなかった無力さもですのでどうか」
そういうと彼は深く頭を下げる。
「サムソンさん、大丈夫です。彼女のことを大切にしますから頭をあげてください」
「よろしくお願いいたします」
「はい。・・・ロウ、彼女をお願いしていいかな?僕じゃ背が低いからうまく運べないかもしれないし」
「お任せを」
そう頷くと、ロウは彼女を慎重に持ち上げる。
「では、失礼します」
「ありがとうございました。またのお越しを」
ロウを先導するように俺は商館を出ていく。
その後は、人込みを避けながら屋敷に向かって急ぎ足で歩きだす。
「坊、彼女をどこに運びます?」
「取り合えず、僕の隣の部屋に向かおう」
「わかりやした」
屋敷の着くと一直線に部屋へと向かう、玄関で執事のルドムにあったが気にしてはいられない。
駆け足にならないように気を付けながら自室の隣にある部屋へと急いだ。
ここはもともと僕専属のメイド用の部屋だが今はだれもいないので問題ない。
「彼女をベットに」
「了解」
「それとロウ、今からやることに関して他言無用でお願い」
「・・・わかりやした。ですが、カイン様たちには後で伝えたほうがいいですよ」
「そう・・・だね。・・・・・・パーフェクトヒール!」
自分の中の魔力を練り上げると俺は最高の回復魔法でる「パーフェクトヒール」を使う。
温かい光が彼女を包むと、欠損していた箇所が少しずつ治っていく。
「くっ!」
「坊!大丈夫ですか?」
「ああ、まだ平気だ」
欠損の回復に魔力が足りないのか少なくない量の魔力が吸い取られていくのを感じ、倦怠感が襲ってくる。
やがて欠損がなくなり怪我がなくなってくる頃にはほどんどの魔力を取られていった。
光が収まるとそこには怪我が完治した彼女が規則正しい呼吸をして眠っているだけある。
「良かった。・・・治ったか」
「坊、本当に治したんすか?」
「・・・ああ」
魔力を使い切ったのか意識が途切れ途切れになるが必死にこらえていくと、後ろの扉が開く音が聞こえた。
「ケネス、怪我をした人を連れてきたとルドムに聞いたのだが?」
「ケネスちゃん、いったいどうしたの?なんかすっごい魔力を感じたのだけど?」
「ロウ、・・・あとよろしく」
「ちょっと、坊!!それはないっすよ」
俺は倒れこむようにベットに沈むと意識を手放す。
「あらあらまあまあ」
後ろから聞こえた母様の声はどこか嬉しそうに感じであった。
読んでくれている皆様に感謝です。
これからもよろしくお願いします。