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第47 騎士団の書類事情

 更新が遅くなり申し訳ない。


 騎士たちの新しい訓練と昼食を終えると、王都の巡回をするためにそれぞれ班に別れ訓練場をあとにした。

ケネスも昼食に使った道具類を片付けていると、満足そうな表情をしたブローム総長が歩いてくる。


 「ケネス殿、やはり貴殿に頼んで正解だったな。先ほどの訓練は非常に満足できるものだった」

 「ご満足いただいたようで、良かったです」

 「そこで、だ。このまま第七騎士団に、月一で相手をしてもらいたい。勿論、今回のように食事をつけてもらうとなおいいがな」

 「・・・・・・月一で、ですか。構いませんが」

 「おお、そうか。引き受けてくれるか!報酬については、後ほど相談しよう。今回の報酬に関しては騎士団の庶務から貰ってくれ。では、儂は仕事に戻るのでな。よろしく頼む」

 「はい」


 幾分か軽い足取りで執務室へと戻っていくブローム総長と別れる。

フレッド団長の案内の元、今回の報酬を貰うために騎士団の事務所にリアと二人でついて行く。


 「ケネス殿、今回は助かった。私としても非常に興味深いと考えている。これからしばらくの間、よろしくお願いする」

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 「それに、先程の食事もたいへん美味しかった。次も楽しみだよ・・・と、ここだな」

 

 騎士団用の事務所へと入っていくと、慣れない書類を書いている騎士と間違いを指摘しながら他の書類を処理している職員の姿が目に映った。

そんな彼らの間をすり抜けるように、ケネス達は最奥で作業をしている職員の元へと歩いていく。


 「オルスト、この経費の精算をお願いしたい」

 「・・・・・・フレッド団長?珍しいですね。貴方がここに顔を出すなんて、これの精算です、か」

 「ああ、今度新しい訓練をすることになってな。今日、その訓練を行ったのでその報酬と今後の予算案だな」


 それを聞いたオルストは、眉間にしわを寄せ、目頭を押さえると小さくため息を吐きだした。


 「その訓練の話は聞いていましたが、出来れば先に予算案を出してもらいたかったですね」

 「それは・・・すまない」

 「まあ、貴方はきちんと報告書や予算案などを出していますから多めに見ますけど」


 報酬の額を見たオルストは、後ろにある金庫からお金を出すとケネスへと渡す。


 「これが、今回の報酬です。毎月行うそうですが、訓練後に受け取りに来てください」

 「はい、これからよろしくお願いします」

 「ええ、お願いします」

 「では、私はこれで」

 「フレッド団長、ここまでありがとうございました」

 「ケネス殿、ではまた」


 フレッド団長が退室して、報酬の受け渡しが終わり、屋敷へと帰ろうとかと考えていると。


 「くそ!またあいつらか?!」

 「どうした?トラン」


 書類を確認していた若い騎士が、羽ペンを握りしめて憤っている。

どうやら書類に不備があるのだろうか、手にしている書類を握りしめていた。


 「オルストさん。またあいつらの書いた文字が判別不能です」

 「「・・・・・・?!ええッ!?」」


 オルストは渡された書類を見ると、先程よりも眉間にしわを寄せる。

深くため息を吐くと、見ていた書類を机に置いたのでオルストさんに断ってから問題の書類を見せてもらうと彼らが憤る理由も理解できた。


 「・・・・・・なにこれ?これ、文字?」

 「何ていうか、子供のいたずら書きを見ているみたいな感じがする」

 「・・・でも、これ成人しているはずの騎士が書いているのよね」

 「これでも、少なくなったのですが。古参の騎士たちの書く書類が特にひどいです。大体が書類を書くのが苦手でよく逃げます」


 目頭を押さえながら、渡してくれたのは古株の騎士が書いたと思われる書類だといわれて見るとそこには未知の世界が広がっていた。


 「・・・これ、文字というよりも・・・汚れ?」

 「先ほどの書類が、まだマシだったな。アーヴィング卿の所にあった書類は比較的読めたんだけど」

 「流石に、上に出す物は直しました。読めないものの大半がここに積まれている書類たちだ」


 オルストさんの視線の先には、山積みとなっている書類の山が出来ていた。

リアがその一つを拾い上げて中身を見てみると、先程と同じ様な書類であったのである。


 「・・・うん。騎士たちは古参になればなるほど・・・・・・脳筋?」

 「「「・・・・・・」」」


 思わずでた彼女の言葉に一同が言葉を失う。

同室していた騎士たちも俯きながら、否定の言葉を探してたのだが・・・


 「「否定できない・・・」」


 庶務課二人の言葉に同意するかのように、室内にいた全員からさらに重い沈黙が漂う。


 「それに、書き直しをお願いしても素直に聞いてくれる方が稀ですし」

 「分かりました。でしたら、総長に一筆書いてもらいましょう」

 「いったい何を?」

 「この仕事は、総長の依頼された仕事をしており、従わない場合は武力行使も許可すると」

 「そ、そんなことを許可するはずがないかと、思いますが・・・」

 「書類の不備が原因で騎士団としても仕事に支障が出てはたまりませんから、恐らく許可はおります。それに武力行使は保険ですが、彼らにしっかりと覚えてもらうために行うんです」

 「もっと穏便にできませんか?」

 「例えば?」

 「は、話し合いとか?」

 「それが出来たら、オルストさんが注意した時点できちんと出来たはずです。なのに、未だに改善されていない。・・・脳みそが筋肉ですよ?体に刻み込むくらいの感覚で行わなければ」

 「・・・そうでね。・・・・・・では、お願いします」

 「はい、それではまずは許可をとってきます」

 「・・・待って。私は?」

 

 いざ、ブローム総長の所に行こうとしたら、リアに引き留められた。


 「・・・・・・え~~~と、エステリア王女殿下はお部屋にお戻りになられた方がよろしいかと」

 「・・・私・・・必要ない?」

 「ええっと、そんなことはないですよ」


 どう言えばいいか迷っていると苦笑共にオルストさんが口を開いた。


 「ケネス殿、お二人が婚約していることは存じておりますので、一緒に行っても大丈夫ですよ」

 「謁見の時には言っていなかったはずですが?」

 「ええ、ですが少し調べればわかるくらいの物です。いうなれば公然の秘密と言うべきくらいです」

 「なるほど、少し(・・)ですか」


 このことを知っているのは、ある程度情報に精通している人たちなのだろう。

いい意味でも悪い意味でもこれまでもそしてこれからも警戒は必要か・・・。

 一緒に行動しても問題ないと考えて、リアと一緒に総長の執務室へ向かう。


 ※※※


 結果的にいうと、許可は簡単に取れた。

いや、寧ろブローム総長からお願いされるほどに、頭が痛い問題だったようである。

 許可を取ったので、幾つか持って来た修正前の書類を取り出すと彼らの元へと歩いていった。


 ・

 ・

 ・


 「只今戻りました」

 「・・・戻りました」

 「お帰りなさい。・・・どこか機嫌が宜しいように思いますが、何かあったんですか?」


 幾分かスッキリとした顔で戻って来た二人に、疑問を口にする。


 「総長からの許可が下りたので、早速再提出者の元に向かったんです。・・・これが、書き直した書類です」

 「・・・・・・拝見します。・・・問題は・・・ありませんね。しかし、どうやって彼らに?」

 「自分たちと模擬戦して、勝ったら見逃す。負けたら書き直すという単純なルールです」

 「・・・成程」

 「ちなみに、エステリア様よりも強そうな相手には私自ら心折れるまで叩きのめします。特に常習犯には念入りに折っておきました」

 「・・・・・・それは、心ですか?骨ですか?・・・どちらにしても、大惨事になりそうですが」


 話を聞いていた庶務課の騎士が聞いてきた。


 「・・・両方です」

 「「まさかの両方だった?!」」


 作業をしていた二人が揃って同じことを口にする。

思った以上に強かったり、諦めが悪かった人間だけにしたが、それを遠巻きに見ていた他の騎士たちがドン引きしていたのを見た。

 こちらとしても、非常に都合のいい鍛錬の相手になったので丁度良かったが。


 「とは言っても、このままでは根本的な問題解決にならない。・・・どうしたらいいのだろうか?」

 「・・・ケネス。アーヴィング卿の時みたいに、書き方を考えてみたら?」

 「・・・・・・書き方?・・・そうか」


 目から鱗とはこのことだと、思った瞬間だった。


 「ありがとうございます。エステリア様」

 「・・・後で美味しいデザートをお願いしますね」 

 

 心得たとばかりに、アイテムボックスから白紙の紙を取り出すと騎士団用の報告書の草案を書き始める。

 基本的に穴埋め式にして、犯罪だったら丸を書いて、備考欄に何の犯罪だったかを入れていく。

あとは捕縛した日と時間を、作成者の氏名を入れれば・・・。


 「オルストさん、こんな感じの物でどうでしょうか?」

 「・・・・・・!!。今すぐにこれを総長に掛け合って、大量に印刷して配布しましょう。そうしましょう」

 「・・・え!?あの、それ・・・まだ草案で」


 先ほどまで疲れきっていた表情から、オルストさんが元気になり部屋を飛び出していく。

その光景に、口を開けたまま呆然としている職員とケネス達の心は今一つになった。


 ((((オルストさんって、あんなに速く走れるんだ!!))))


 その後、騎士団で必要になりそうな書類の草案を何枚か作るとオルストさんが泣いて喜んでいたことがやけに印象的であった。

泣いている彼に理由を聞くと、アーヴィング卿の時と同様に朝早く来て遅く帰っていた為に、家族揃って食事することが出来なかったがようやくすることができるとのことだった。

 ほかの職員も同様だったらしくお互いに慰めていたのである。

 



 ※※※



 騎士団の書類に関する問題はまだあるが、そこは少しづつ改善していけばいいので目の前の問題を片付けることにしようと思う。


 「・・・終わったから、デザートをお願いしますね」

 「・・・・・・はい」


 満面の笑みを浮かべたリアがケネスを引っ張る形でずんずんと進んで行く。


 「ええっと、エステリア殿下、どちらへ行かれるのですか?」

 「・・・ここから、少し進むと中庭があるの。今日はそこでお茶にします」

 

 暫く歩いていくと、開けた場所へと到着した。

手入れの行き届いた色とりどりの花々が、見る者の心を楽しましてくれる。

 先ほどまで聞こえていた、騎士たちの掛け声は遠くなり、代わりに鳥たちの声が聞こえてきた。


 「・・・ここよ」


 整備された道を進んで行くと中央付近に六角形の東屋が建てられており、そこでお茶会などをしているのだろうか、小さなテーブルと椅子が用意されていた。

 彼女が椅子に座ったあと、ケネスはアイテムボックスから新しいお菓子を取り出す。


 「どうぞ、新しいお菓子です」

 「・・・これは、ケーキ?」

 「パーキンという、小麦粉とオートミールと糖蜜を使ったケーキです」


 四角くカットされてリンゴのコンポートと共に供されたのは、イングランドで誕生したというパーキンというケーキである。

かつて、イギリスの産業革命時に労働階級の人たちにとってオートミールや糖蜜は重要な食品であったためから、その頃に出来たといわれている。

 主な材料は小麦粉にオートミール、糖蜜のモラセスかトリークルに油脂、そしてジンジャーパウダーを混ぜ合わせて、バターを塗った焼き型に流しいれてオーブンで焼けば完成である。

 出来たパーキンが冷めたら、四角くカットして提供されるのが一般的のようだ。


 「・・・頂くわ。・・・・・・んんつ、美味し」


 パーキンを一切れ口にすると、満面の笑みを浮かべる。

この庭園のどの花よりも、満開に咲き誇るリアの笑顔がそこにあった。

 ケネスも自分の分を用意すると、パーキンを食べ始める。


 「・・・美味しかった。できれば皆にも食べてもらいたいけど」

 「それなら問題ないと思うよ。使っている材料はどれも手に入りやすい物だから。それにこのケーキはきちんと保存すれば一週間~二週間くらいは大丈夫だし」

 「・・・本当に?だとしたら、騎士や兵士たちにとっても丁度いい甘味になるかもしれないわね」

 

 騎士たちの行軍食には、量と保存性が優先されるので甘味はほとんどない。

精々個人が用意した物をその人が食べたり、村や町で補給したときに上官などに配られるぐらいだろう。

 このパーキンを騎士団に提案すれば、騎士や兵士たちの士気向上となる。

このことをリアから提案すれば、騎士や兵士たちからの信頼を得やすくなる、ひいては王国・王家の信頼へと繋がっていくことだろう。

 リアのお皿へと追加のパーキンを載せながら、そんなことを考えるのだった。






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