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第44話 討伐依頼

 遅くなってしまい申し訳ありません。


 カーソン伯爵領・領都にある冒険者ギルド。

そこでは、珍しい光景が繰り広げられていた。

 

 「え、エステリア殿下。どうか、考え直してくださいッ!」

 「カーソン伯爵。もう決めたことなので」

 「し、しかしですな」


 普段から冷静で知られる伯爵が少年と一緒に入って来た少女に、戸惑と焦りを浮かべながら必死に止めようとしている姿がギルド内にいた人たちの注目を集めていた。

 そんな集団が受付に辿り着くと、幾分か諦めた様子の伯爵がため息をつきながらも要件を話し始める。


 「伯爵家から、こちらのケネス殿に指名依頼をしたいので作成を頼む」

 「・・・どの様な依頼でしょうか?」

 「南西の湿原地帯に「ギガントバッファロー」が確認されたので、その討伐依頼だ」

 「「「ッ!・・・ええッ!」」」


 伯爵の口から驚くべき情報が出てくると、その場にいた冒険者たちと受付嬢は騒然とした。

高ランクの魔獣がこの領内にいることと、伯爵がその存在を言い切ったことに。

 そして、その討伐依頼を目の前にいる少年に依頼しようとした伯爵に。


 「あッあの、伯爵様。この少年に「ギガントバッファロー」の討伐を、依頼するのですか!?」

 「そうだが、なにか問題か?」

 「・・・申し訳ありませんが、ギルドカードの提出をお願いできませんか?」

 「ええ、どうぞ」


 ケネスがアイテムボックスからギルドカードを取り出すと、受付嬢に見せる。


 「・・・ッ!!Aランクッ!!・・・この少年がッ!」

 「「ッ!なにッ!!」」

 「うむ。であるから、今回の依頼をお願いするのだ」


 目の前の少年が、Aランクであることに驚きの声を上げる冒険者たちとそのことに誇らしげにほほ笑むリアとイゼルナ。


 「それと、この依頼はケネス殿単独でお願いする」

 「・・・伯爵。どういう事ですか?」

 「この依頼は、高ランクの魔物討伐です。エステリア様の冒険者ランクは先日のレギオンアント討伐でDランクに上がられましたが、この依頼は最低でもBランクは必要ですので冒険者ギルドのルールで参加は出来ません」

 「・・・でもッ!」

 「パーティーメンバーでも、Bランク以下は参加できません」

 「・・・ムムムッ!!」


 受付嬢の援護に伯爵はどうにかなったと、安堵の表情を浮かべる。

王族の一族であるエステリア王女に何かあったら自分の首だけでなく伯爵家がなくなる可能性がある為に何としても止めなくてはならなかった。

 本来ならこのような荒事に関わる立場ではないのだが、王都にいるカーソン伯爵夫人から聞いた話ではケネス男爵が殿下の婚約者であるという話を知っていたので、こうなることを予想していたのであるが彼女の意思が思いの外強かったので慌ててついてきたのである。


 「でしたら、討伐するケネスさんの援護をする為に周囲の魔物を近づけないようにする方に参加するのはどうでしょうか?」

 「・・・なあッ?!」

 「・・・!それで、お願いします」

 

 自分を援護してくれた受付嬢がまさかリアの援護をするとは思わず開いた口が塞がらなくなり、反対にリアは顔を輝かせる。


 「ですが、その依頼にも最低Cランクの冒険者二名もしくはBランク一名が必要ですが」

 「そうか、驚かせないで「あら~。ケネスちゃんじゃない」?」


 ケネス達が声の主を探すと、そこには意外な人物がここにいた。

王都でケネスのお披露目会用の礼服をしたててもらったミス・エミリーさんがそこにいたのである。

 ただし、王都であった際に着ていた桃色のスーツではなく、紫色で統一したロングコートとズボンにつばの大きなカウボーイハットをかぶっていた。

ロングコートのお腹の部分に生地は無く、鍛えられ割れた腹筋が見えている。

 相変わらずのオネエ言葉と男を誘うような腰つきがさらに危なく思えるのはなぜであろう?

付近にいた冒険者たちも微妙に後ずさりして、手を後ろに回している。


 「お久しぶりです。ミス・エミリー」

 「ノンノン。今の私はミス・パープルよ」

 「・・・こんにちは、ミス・パープル。それにしてもどうしてここに?」

 「このカーソン伯爵領には、絶妙な色合いの生地を扱う村があるのよ。今度の新作にでも使おうと思ってね。久々に体を動かしたかったからこうしてきたわけ」

 「そうだったんですか」

 「それよりも、あなた達の話し声が聞こえたけどケネスちゃん、ギガントバッファローを討伐しに行くの?」

 「はい、討伐自体は問題ないのですが、彼女が一緒に行くと言い出しまして」

 「あら?彼女はもしかして・・・なるほど、ね。ねえ、あなた。その警戒依頼を私が引き受けましょうか?」


 一瞬考えるような仕草をしたミス・パープルは、言い合いとなっていた伯爵とリアをどうしようか悩んでいた受付嬢に提案した。

彼女も光明が見えたと考えたが、浮かれることなく業務を遂行する。

 

 「失礼ですが、ギルドカードをお願いします」

 「・・・これよ」

 「確認します。・・・Bランク、ですか。ではエステリアさん、彼・・・ではなく彼女をリーダーとしてなら受けることが可能です」

 「・・・では、それでお願いします」

 「イゼルナも一緒に受けてくれ、リアを頼む」

 「畏まりました。主」

 「では、こちらで処理をしますので皆さんのギルドカードを」


 各自が自分のギルドカードを渡す。


 「・・・依頼の受注が完了しました。ご武運を」

 「では、行きましょう」

 「ええ、確認ですがミス・パープルの得物は何ですか?」

 「そういえば言っていなかったわね。・・・これよ」


 彼女が腰のマジックバックから取り出したのは一本の長剣だった。

普通のと違うのは、手を保護するガード部分の一部が柄と同じ様な形になっていることだろうか?

 刀身は、他の物は相手に対して叩きつけるように使うために分厚く作られているがこれは反対に切り裂く為に作られていた。

姿形で見るとトンファーに刃を取り付けたトンファーブレードと言った所か。


 「変わった形ですね?」

 「そうね、でも、腕は保証するわよ」

 「お願いします。では伯爵様、これから依頼に行ってきます」

 「・・・・・・ああ、お願いするよ。エステリア殿下もお気を付けてください」

 「・・・ええ、それでは」


 俺たちは、心配そうに見送る伯爵の視線を背中に受けてギルドを後にする。

ケネス達が乗っていた馬車に、全員が乗り込むと目的の湿原地帯に向けて動き出すのであった。





 ※※※


 領都を出発してから、数日後。

依頼にあった湿原地帯に辿り着くと、今回の目標である「ギガントバッファロー」の姿を確認していた。


 「あれがギガントバッファロー、か」

 「ええ、でも今回の相手はより強力な変異種よ。いくらケネスちゃんが強くても油断はダメよ」

 「分かっています」

 「・・・ケネス、気をつけて」


 実際のギガントバッファローを見て、不安になったのかリアは心配そうな表情でケネスの裾を掴む。

安心させようとケネスは笑いかけるが、彼女から不安を完全には拭いきることが出来なかった。


 「兎も角、私たちは街に向かおうとする魔物を掃除しているわ。ケネスちゃんは安心してあれを倒しちゃって」

 「ええ、ミス・パープル。二人をお願いします。リア、無理しないで。イゼルナ、皆を頼む」

 「畏まりました。ご武運を」


 ケネスは頷くと得物を抜き、ギガントバッファローへ向かって走り出した。








 ※※※



 「行ったわね。それじゃあ、あたしたちもお仕事をしましょうか?」

 「ええ、よろしくお願いいたします」

 

 周囲を見渡すと、湿原の周りには本来ここにはいないはずの魔物が散見される。

やはり、あのギガントバッファローの影響がここまで影響しているのだろうか。


 「・・・やはり、Aランクのギガントバッファローよね。湿地帯にはいないはずの魔物がいる理由なんて」

 

 元々湿原にいる魔物は両棲類のカエル「フロッパー」やワニの「フットダイル」などのだが、今現在は岩山等にいる大サルの「ロックアイン」などが確認できる。


 「今の所、高ランクの魔物はいないようね。でも、数が増えやすい個体がいるから間引いておきましょう」 

 「・・・ええ、どこから行きましょうか?」

 「そう、ね。・・・まずは、あれから行きましょう」

 

 ミス・パープルが指さした所には、三体ほどでまとまったオークの集団がこちらに向かって移動しているのが見えた。

 それぞれが、冒険者たちから奪ったであろう武器を手に見つけたメスを手に入れようと鼻息を荒くしているので、嫌悪感を露にするリアとイゼルナ。


 「・・・美しくないわね。ただ、暴力で手に入れようだなんて紳士のすることじゃあないわ。私たちのような素敵な女性を口説きたいなら、もっと自分を磨いてから出直して来なさい」

 

 言っていることに同感だが、同意しずらいことに明確な答えを出せないが、彼らが倒すべき敵だという事だけはうなずける。


 「さてと、ケネスちゃんにも任されたことだし。ここで私の実力を見せておかないと、ねっ」


 ミス・パープルが軽くウインクをすると得物を素早く抜き、素早くオークたちに向けて駆けだした。

オークたちの元へ一足飛びに近付くと、一番近くのオークに向かって、大きく振りかぶり得物を右肩から斜めに切りつけると同時に飛び上がり、得物を腕に沿うように握りなおすとオークの頭から振り下ろして両断した。

 左右に分かれるオークの体から、鋭い眼差しを奥にいる別の個体に向けると簡単に仲間を倒した敵に恐怖したオークの片割れが、背を向けて走り出す。


 「逃がさないわよ。・・・ふんっ!」


 逃げ出したオークに向けて、得物を投げつける。

振り返ったオークが見たものは、目の前に迫りくる剣先と己の顔に刺さる光景だった。

 それを見ていたもう一体は、これを好機と考えてミス・パープルに走り出す。

武器がなければ、脅威ではないと考えたのか、それとも生き残る為の必死の行動だったのか。

 持てる力を全て込めた一撃をミス・パープルに叩きつけようと振りかぶったオークだったが、彼女の目の前で突然動きを止めた。


 「悪いけど、そう簡単に私の首は捕れないわよ」


 右腕をオークに突き出す形のまま、ミス・パープルは答える。

僅かに首を動かしたオークが見たものは、そこあるはずだった自らの厚い脂肪に守られた腹部は何もなく、円形に穿たれていた。

 ミス・パープルが構えを解くと、オークは口から穿たれた腹から血を噴き出して地面に倒れる。


 「案外、大丈夫ね。ここの所、店に籠っていたからどうかと思っていたけど」


 投げた得物を取り戻し、討伐したオークをアイテム袋に収納してから、意気揚々とリア達の元に歩きだすミス・パープル

 

 「お待たせ。私の実力を見てもらえたかしら?」

 「・・・流石はBランクですね。素晴らしい動きです」

 「ありがと。暫くここで間引きをしていきましょう」

 「・・・ええ、ミス・パープルの技術を見学させてもらわ」

 

 静かにやる気を漲らせている彼女のことを不思議そうな顔で見ていると。


 「・・・なんですか?ミス・パープル?」

 「いいえ、こういっては何だけどね。エステリアちゃんは王族らしくないなと思ったのよ」

 「・・・私は、ケネスの隣に立てるだけの力を身に着けたい。だから、優れた技能を持つあなたの動きを見て・学んで・練習して・自分の物にしていきたい。いずれ、貴方以上の力をつけたいけど安易に手に入れられる力ではなく、少しずつでも積み重ねていく」

 「・・・そう。やっぱり、私の知っている王侯貴族とは違うわね。私の知っている貴族は、作り笑いで会話をして腹を探り合い、虎視眈々と相手を蹴落とすことを考えていたりする人たちで少しずつではなく一気に儲けたいと考えるのが大半。貴方はそんな彼らの頂点である王族のはずよ」

 「・・・そうね。でもそれは兄たちに任せます。私は私なりのいいえ、私たちにしか出来ないやり方で国を護る」

 「例えば?」

 「ケネスと一緒に冒険者として活動して、名声を高めていく。私たちのパーティーの名前を他の国々に広めていく。そして、戦争を起こそうとする国にとって戦う理由と価値を無くしていく。その後は口のうまい兄たちや外交官の交渉次第」

 「本当に変わっているわね。・・・でも、好きよ。貴方の考え」

 「・・・ありがとう」

 「なら、私から目を離さないことね。ぼんやりしていると見過ごすわよ」

 「・・・ええ!」


 二人は頷くと、それぞれの得物を握りしめる。

それを見ていたイゼルナも静かに闘志を燃やしているのだった。

 ケネスの知らない所で、彼女たちの闘いは始まる。





 ※※※



 一方その頃。

 リア達の元から飛び出していったケネスは、脚力を強化して一陣の風となって湿地帯を疾走していた。

ギガントバッファローにしてみれば、大したことの無い沼地でも子供の背丈ほどであるケネスにとっては底なし沼と同じ様な深さである為に闘いやすい場所に素早く辿り着く必要がある。

 だがその場所こそ、ギガントバッファローの居座る場所であった。

 最短ルートで進んでいるということは、当然目標であるギガントバッファローの視界に入るという事である。

こちらに向かって来る敵として認識したギガントバッファローは、近くに置いてあった棍棒を持って立ち上がった。


 「・・・・・・・・・・・ブモオオォォォーーーっ!!!」

 

 ギガントバッファローから放たれた咆哮が、周囲の木々を揺らし、弱い魔物が恐怖し、動物は逃げ出した。

 しかし、それでもケネスは足を止めずに突き進む。


 「・・・いくぞっ!」

 「ブモオオオォォォッッッ!!!」


 互いの距離が縮まり、双方が得物を全力で振り抜いた。






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