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第42話 可能性

 

 レギオンアント討伐の宴が行われた数日後。

カーソン伯爵領へと続く街道を一台の馬車が移動していた。

 護衛依頼の時の偽装は外して、貴族の馬車へと戻っている。


 「主様、トーラス様には、事態の解決をお伝えするお手紙を出しておきました」

 「ありがとう。イゼルナ」

 「さてと、トラブルはあったがいよいよ。今回の目的地の「カーソン伯爵領」だ」

 「・・・うん、楽しみ」


 被害があった東側とは違い、伯爵領に続く西側の街道はのどかな田園風景が広がっている。

時折、食糧などを積んだ荷馬車がサルレノに向かって行くの見たので今回の被害は思ったよりも少ないかったようだ。


 「どうしたんだ?リア?」


 向かい側に座っていたはずのリアが隣に座るとケネスの服をしっかりと掴んで離さない。

こちらを見上げる彼女も表情は固く、微かにだが震えていた。


 「・・・この間の話を思い出して、少し」

 

 服を掴んでいるだけでは足りないのか、ケネスの腕にしがみつくリア。

そんな彼女の震える手をしっかりと握りながらこの間のことを思い出した。


 ※※※

 

 レギオンアントの件が片付いた翌日に、討伐完了報告とあの紋章について報告をする為にケネス達はブローム騎士団総長の元に向かった。

 討伐完了報告自体は直ぐに終わったが、紋章について報告を始めようとした時。


 「済まないがこの話は、陛下も交えて話してもらっていいだろうか?」

 

 彼は徐に立ち上がると、従兵に何か伝えて戻ってくる。


 「さて、行こうか?」

 「・・・どこにですか?」

 「勿論、陛下の所だ」


 王国騎士団の兵舎から城の中に入ると、真っすぐに陛下の執務室に向かう。

入り口を護る近衛騎士に確認すると、総長と一緒に中へと入っていく。


 「ブローム総長、何やら報告があるという事だが?それに何故、エステリアとケネス男爵の二人がおるのだ?」

 「はっ。今回のリーズ家領都「サルレノ」のレギオンアント襲撃の件で、陛下に報告したい事がございまして詳しくはケネス男爵から」

 「・・・わかった、聞こう」


 それから、ケネスは事の始めりから話し始めていく。

ブレイダーアントについて話した時は二人とも驚いていたが、洞窟内で見つけて紋章の入った布の話になると彼らは押し黙った。

 

 「・・・そうか」


 彼はゆっくりと息を吐きながら、深く椅子にもたれると腹の上で指を組み合わせる。

しばらくの間考え込んでいたようだが、意を決したのかゆっくりと口を開いた。


 「・・・ケネス殿はこの紋章がどこの国の物か分かるか?」

 「実家の資料で見たことがあります。王国の西側にある国・・・ユーダリル帝国の国旗に似ているかと」

 「そうだ。しかも、この紋章は特別でな。帝国の陰の部隊で我々の間で「ブラックウルフ」と呼ばれている者たちが使っている物だ」

 「・・・帝国の陰の部隊「ブラックウルフ」」

 「彼らは皇帝直下の特殊部隊でな、皇帝の命なら諜報から裏工作や破壊工作、要人誘拐などを請け負っている。最も今の皇帝になってから目立った動きはなかったが」

 「今の皇帝と言いますと確か20年前に反乱を起こして、前皇帝を討ち即位したという「赤銅の獅子王」と呼ばれる」

 「そうだ。元は帝国の第二王子であったが成人すると同時に冒険者になり、各地を旅していて見分を広めていたようだ。しかし、彼の父である皇帝と兄である王太子が軍備増強を強要し、次第に民が困窮していった時に彼が立ち上がったのだ。冒険者時代に培った人脈や仲間たちや彼に味方する貴族たちの支援を受けて皇帝と王太子を討ち果たした後、皇帝の地位に就いた。彼が即位した時、まだ王太子だった我が会いに行ったが中々の人物だったのを覚えている。その後すぐに王位を譲り受けて会う回数が少なくなったがな」

 「陛下から見て、現皇帝はどの様な人物でありましたか?」

 「・・・そうだな。武力と強かさを合わせ待った武人と言うのが印象的だったな。聞くところによると戦では最前線に立って兵士たちを共に戦場を駆け、時折城下に下りては民たちと一緒に酒を飲みかわす等。格式ばった決まり事よりも常識に捕らわれない人だと報告を受けている。そんな彼だからか多くの人が彼も元に集まっているという」

 「王の素質は十分にあると」

 「うむ、だが。そのようなやり方に当然反発がある。前皇帝に付き従っていた者たちだが、主だった貴族家は即位後直ぐに処刑や取り潰し、追放処分をしてあるが」

 「追放された者たちが、今回のことを?」

 「まだ、分からん。皇帝の命令かもしれないし、違うかもしれん。すべてはこれからだ」


 報告、ご苦労だった。と口にした陛下は難しい表情をしながら執務机に向かって行く。

騎士団総長と共に部屋を出た。


 「・・・・・・ブローム総長、帝国と戦争になるのですか?」

 「エステリア王女殿下、陛下もおっしゃられたようにすべてはこれからです。確実になるとは限りません」 

 「・・・そう、ですか」

 

 それでも不安なのか、リアはケネスの腕をしっかりと掴んでいた。


 「ケネス男爵、このようなことを言うのは不謹慎でありますがエステリア王女殿下のことをよろしくお願いいたします」

 「はい、必ず護り抜いて見せます」

 「では、私はこれで」


 迎えに来た従兵を連れて、騎士団兵舎へと戻っていくブローム総長を見送るとケネス達は【ゲート】で「サルレノ」に戻っていった。

 


 ※※※




 その時のことを思い出していたケネスは、リアの両手を握りしめる。


 「大丈夫だ。必ず、俺はリアのことを護るから」

 「・・・約束して、絶対に無理しないで」

 「・・・努力する。でも、リアの為なら多少の無茶はするかもな」

 「絶対ダメっ!!・・・お願い、だから・・・無茶も無理も、しない・・・で」

 「大丈夫っ!大丈夫だから、絶対にリアを置いていかないから。お願いだから、泣き止んだくれ」

 

 顔を伏せてすすり泣く彼女にどうすれば良いのか途方に暮れてしまうケネスだった。

暫くの間、ケネスは彼女の背中を優しく撫でて泣き止むの待つことになるのである。

 それからいくつかの村を通り過ぎるといよいよこの冒険の目的地である「カーソン伯爵領」でと辿り着くのであった。

 

 「主様、カーソン伯爵領に入りました」

 「ありがとう、イゼルナ」

 

 農地の多い牧歌的な風景を見ながら馬車を進めていく。

時折畑の方に視線を向けると、様々な農作物が育てられている。


 「見た所、色々な種類の野菜が作られているな」

 「・・・ケネスが興味を引くものはある?」

 「そうだな。・・・リア、領内の野菜を全部見たわけじゃないから決められないよ」

 「・・・それもそうね」

 「でも、なんでそんなことが気になるの?」

 「・・・目新しい物=私が未発見の物や食べ物の予感」

 「さいですか」


 リアの言葉に、がっくりとしていると前方から複数の騎馬がこちらに向かって来る。

 馬車を止めると、彼らも周囲を警戒しながら一騎の騎馬が馬を降り前に出ていきた。


 「・・・我々はカーソン伯爵家に属する騎士団である。貴殿のお名前をお聞きしても宜しいだろうか?」


 彼の問いに御者の席に座っていたイゼルナが答える。


 「私共は、ホラント辺境伯が三男、ケネス=フォン=ホラント男爵の一行であります。カーソン伯爵家のエバン=カーソン殿にお会いになる為に向かっている次第です」

 「そうでしたか。では、屋敷に先触れを出しましょう。エバン様も先のお茶会で腕を振舞われたケネス男爵のことを事のほか嬉しそうにお話ししていたので、お喜びになると思います」

 「ありがとうございます。・・・つかぬ事をお聞きしますが、何かあったのですか?」

 「なにもご心配になることはありませんが、ここの所、複数の村からゴブリンを見たと陳情がありまして、ホラント男爵閣下もご注意をお願い致します」

 「畏まりました。ご武運を」

 「それでは・・・はあっ!!」


 彼は部下を纏めると街道を駆けていく。

彼らのような人がいる限りカーソン伯爵領は安泰だろう。


 「それにしても、ゴブリン・・・か」

 「・・・心配?彼らがいれば問題ないと思うけど?」 

 「まあ、ね。ゴブリンが広い場所、例えば広い平原なら彼らは十全に力を発揮できるだろうが。これが狭い場所、ゴブリンの巣穴である洞窟だったら思いの外苦戦するだろう」

 「・・・どうして?ゴブリンはEランクの魔物でしょ。冒険者でなくても倒せるくらいだと思うけど?」

 「そうだな。でも、冒険者でなくても倒せるゴブリンは群れからはぐれた存在だ。前にこんなことを聞いたことがある。「奴らは馬鹿だが、ずる賢い」、と」

 「・・・えっ?」


 ケネスの唇から意外な返事を聞いたリアは彼の方に振り返った。


 「奴らの狡猾で残忍で情けは無い。見つけ次第倒さなければ直ぐに増える。だが、ゴブリンなんて倒しても自慢できない・報酬が少ないからと高ランクの冒険者は受けない。低ランクや駆け出しの冒険者が受けることがあるが経験や知識不足で逆に返り討ちにあうこともある」

 「・・・だから、ケネスがたまにゴブリン討伐の依頼を受けているのは」

 「少しでも被害が少ない方が良いからね」

 「・・・今度、私も連れて行って」

 「いや、でも危ないぞ」

 「・・・私はこの王国の王族。民の危険が少しでも減らせれのなら、私は何だってする」

 

 確かな意思を瞳に宿して、彼女は訴えかける。


 「・・・・・・わかった。でも、もう少し訓練をしてレベルを上げてからにしてくれ」

 「・・・分かった。どれくらい上げればいいの?」

 「そうだな。今、リアはLV33だからあと17上げてLV50以上になったらいいよ」

 「・・・分かった。頑張る」


 LV50は大体A~Bランククラスの人たちと同じぐらいだと思う。

俺としてはまだまだ低いと思うが、ひとまず安心できるLVがこの辺りだろう。


 (あとでいくつかお守りとなる物を作っておいた方が良いな)


 それからいくつかの村を通ったが、騎士たちが注意したのだろうか?物々しい雰囲気が各村の中に漂っていた。

 普段の状態なら他から来た人間は娯楽や村の外の話を語ってくれる為に歓迎されるのだが、今の状態では何か不都合又は不幸が起こるとまずは余所者が標的にされることがある為に注意が必要である。

 そんな感じの村を通過して見通しの良い丘で野営の支度をしていると、暗がりの草むらの中に何かの気配を感じ取った。


 「リア、イゼルナ」

 「・・・うん」

 「はい、主様」


 リアやイゼルナに合図を送り、それぞれの得物を構える。

周囲を警戒していたゴーレムタイプGが俺たちとは反対方向に向けて、背中のカノン砲の砲身を向けた。

 草むらが揺れ動き、何かが飛び出してきたと同時にゴーレムタイプGの砲が吠え、着弾した砲弾が大地を震わせる。

 草むらから飛び出してきたゴブリンたちは、その音と衝撃に驚いている間にケネス達に瞬く間に葬られた。

 ゴーレムタイプGの方を振り向くと闇夜を切り裂く、炎の砲弾が闇に蠢く存在を葬らんと爆音を立てながら敵を飲み込んだ。

 運よく近づくことが出来た個体も、ゴーレムタイプGが手にしていたメイスで原形が分からなくなるくらいに叩き潰される。

 ケネス達もイゼルナを警戒にのこして、散らばるゴブリンを魔法で殲滅していく。


 「アイスアローっ!」

 「アースニードルっ!」


 あらかじめ気配察知で村人がいないことを確認していたので遠慮なしに攻撃が出来る。

ケネスとリアの二人から放たれた魔法が的確に標的であるゴブリンを射抜いていく。

 ある程度纏まった数を幾度か放ち続け終わるとケネス達以外に動く気配はなくなっていた。

倒すべき敵がいなくなったので、ゴーレムタイプGも攻撃体勢を解き、待機している。


 「・・・こんな所にも、ゴブリンがいるなんて」

 「どうなっているんだ?この近くに巣穴があるのだろうか?」

 「それなりにまとまった数でしたから、上位種がいる可能性も考慮しないといけないかと」

 「領都に着いたら、伯爵に報告をしておいた方がいいな。可能なら討伐に協力しよう」

 「はい、主様」


 警戒を解いたケネス達はゴーレムタイプGに見張りを任せると、床に就いた。

翌朝、朝食を済ませたケネス達はカーソン伯爵領の領都に向けて、馬車を走らせる。

 お昼になる前に、目的地である領都が見えてきた。

辺境伯の領都とは比べるほどではないが、しっかりとした外壁が整備されているのが分かる。

 街の周囲には、広大な小麦畑が広がっており、青々とした小麦の稲穂が風で揺れ動き、ケネス達の間を緑の匂いが駆け抜けた。


 「あそこが今回の目的地だな」

 「・・・うん、カーソン伯爵領・領都「ケルン」。王国の食糧庫と言われる場所の中心地」


 サルレノのレギオンアント討伐から漸く、今回の目的地である牧歌的な雰囲気が漂う都市へと到着したのである。






 いつも読んでくれている皆様には本当に感謝です。

これからもよろしくお願いします。

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