第38話 見つけた食材は
漸く更新できました。
「どうしたんだ、坊主。これが気になるのか?」
それを見ていると、行商の店主がそう訪ねてくる。
「ええ、店主。これは何と言う物ですか?」
「今、坊主が見ているのは故郷で「コヒー」と言われている物なんだが。さっぱり、売れん」
両手を開いて首を振る店主。
目の粗い麻袋の中を覗き込むと、焙煎前の緑色のコーヒー豆が顔を覗かせていた。
「おじさんの所だと、どうやって使っているの?」
「そう・・・だな。軽く乾煎りした物を、酒のあてにしているのが多いな」
「その乾煎りしたのを試食してもらった?」
「なんでそんなことをしないといけない。大事な商品だぞっ!」
「でも、この豆が食べ物だということをここの人たちは知っているの?」
「!!!。そう・・・か、見ただけじゃこれが食べ物だと思えないのか。そりゃあ、売れないわな」
売れない原因が自らの下調べ不足に気が付いたおじさんは、がっくりとうなだれる。
ただ、こちらとしてもコーヒー豆は欲しいので少し助け舟を出すか。
「おじさん、このコヒー豆をあるだけ売ってくれないかな?」
「それは、大歓迎だが。坊主に払えるのか、それなりの額になるが?」
「どれくらい?」
「ええっと・・・これくらいだな」
「問題ないよ。・・・はい、これで足りる?」
「ああ、大丈夫だ」
「おじさんは、まだこの街にいるの?」
「ああ、他の商品もまだあるし、買い付けもあるしな。暫くはこの場所にいるさ」
「分かった。じゃあこれは貰っていくね」
「ああ、ありがとうな」
念願のコーヒー豆を手に入れた俺はホクホク顔で店を後にする。
「・・・ねえ、ケネス。それは何なの?」
「これ?これは、飲み物だよ」
「・・・でも、さっきの商人はお酒のおつまみだって言ってたわよ」
「まあ、それも間違っていないよ。宿に行ったら、入れてみようと思うからリアも飲んでみる?」
「・・・・・・うん。飲みたい」
リアは余程楽しみなのか、嬉しそうにしている。
だけど、砂糖も入れていないコーヒーは苦みが強く、子供舌のリアには厳しいのではないだろうか?
しかし、本人が飲みたいと望んでいるでまあいいか。
宿屋に向かって歩いていくと、食堂が立ち並ぶエリアに差し掛かる。
「・・・この、大馬鹿野郎っ!!何でコレを仕入れたんだっ!」
「・・・・・・ヒィィ~~~。すいません、スイマセン」
食事時を大分過ぎて人がまばらになってきた大通りに男の怒号が響き渡った。
近くにいた人たちは、またかと言う表情をしているのでいつものことなのだろう。
しかし、いったい何を仕入れたのか気になったので件の店へと足を運ぶ。
準備中の札がかかった扉から中に入ると、厨房の所で声の主である二人がいた。
「夜の営業に足りない食材を買いに行っていたお前が、何でコレを買ってくるんだ?」
「すいません。でもいつも、親方が言っているじゃないですか。常に新しい料理を考えろって」
「確かに言っているが、コレは使えんぞ」
頭をガシガシとかきながらため息をつく親方と、必死になって言い訳をならべる若い男がカウンターの奥にいる。
ケネスたちは二人に話しかけるために奥へと進んでいくと、こちらに気付いたのか親方と言われた男が顔を向けた。
「ああ、お客さんかい?悪いが今は準備中なんだが」
「すいません。先ほど大通りまで聞こえてきたやり取りが気になった物で、差し支えなければ教えてもらっても」
「・・・ああ、それは構わなんが。・・・っと、こいつが買ってきたのはこれなんだ」
親方が足元に置いてあったタルをカウンターの上に置くと、問題の食材が動き出す。
「うわぁ・・・何、これ」
リアは初めて目にするそれは、全体が暗い小豆色をしており、ぬるりとした光沢を持っている。
タルから姿を見せた体の一部はまるで関節が存在しないのかまるで水を噴き出すホースのようであった。
だが、それを知っているケネスには馴染みのある食材だったのである。
「おおっ!・・・親方、これはタコですか!?」
「ああ、そうだが。お前さんこれを知っているのか?この「城食い」を?」
「・・・「城食い」ですか?」
初めて聞く物騒な二つ名に首を傾げている。
「・・・ケネス様、僭越ながら私が。この「城食い」という名前の由来ですが、以前ある地方の城主が主催したパーティーで集められた食材の中にこれがあったそうです。ですが、当時城にいた料理人たちは初めて見るこれの調理方法が分からなかったそうです。困り果てた彼らは考えた末に油で素揚げにしてみようと考えたそうです」
「・・・おいおい、まさか」
「そのまま素揚げにしようと、高温の油鍋に入れた直後に大量の油が泡立ち、流れ落ちた後に城は炎に包まれたそうです」
まあ、そうなるだろうな。
タコの表面にある滑りを取らないで油に入れるんだから、知っている人から見れば正気を疑うやり方だしな。俺もその現場にいたら、まず間違いなく逃げる。
「なんて勿体無いことを、美味しい食材なのに正当な評価がされないなんて」
あきれ果てて大きくため息を吐く俺を周りのイゼルナ達は不思議そうな目を向ける。
他にも食べる物があるのに、何故と言う事なんだろうか?
ならばっ!こいつの真の実力を見せてやろうかっ!
「親方。突然だが、調理場を貸してもらえないだろうか?こいつを調理したい」
「ま、まさか、坊主はこいつの食べ方を知っているのかっ!なら、是非ともお願いしてぇ。是非、頼む」
許可を貰ってカウンターの中に入る。
「では、さっそく。イゼルナ、大鍋にお湯を沸かしておいてくれ」
「はい、主」
イゼルナにお湯の準備をお願いすると、洗い場にまな板を斜めに置いてからその上に城食い=タコを乗せるとゴシゴシと強めに水洗いしていく。
ここで塩を使う人もいるが俺は使わない、塩を使うと確かに滑りは落ちやすいがタコ自体に塩味が付いてしまうのでその後の調理の邪魔になる。
「主、お湯が沸きましたが」
「ああ、ありがとう」
何度か水を変えて行き、十分に滑りが取れたらタコの目の下から包丁を入れて頭と足に分ける。
分け終えたら、頭の中の内臓と足の付け根にあるくちばしを取り出して足を二本づづに切り分けておく。
その後、沸いた大鍋にクズのお茶っぱを小袋に入れて煮だしておいたお湯の中にタコの頭から先に入れていき、最後に切り分けた足を入れる。
「・・・わぁ」
「「おおっ~~~」」
綺麗に色が変わったタコにリアや親方たちから驚きの声が上がった。
暗い小豆色だった物がお湯に入れた後に綺麗な赤色へと変わったことに驚いているのだろう。
完全に色が変わったのを確認すると、お湯から取り出してザルへと上げていく。
「・・・あちっちち」
茹で上がった足を薄くスライスして、一切れ味見する。
う~~~ん、久しぶりのタコは弾力が良くて、そして味が濃厚だった。
一人感動していると、横から袖を引っ張られる。
「・・・ケネス、私も欲しい」
「主、私も食べてみたいと思います」
「俺もだ」
「自分もっす」
「どうぞ、一人で食べるのは勿体ないからね」
皿に人数分のタコをスライスして渡すと、皆怖がることなく口にする。
リア達が味見している内に簡単に出来る料理を作っていく。
スライスしたタコにオリーブオイルと塩、レモン汁を混ぜ合わせた物をかけた「カルパッチョ」やスライムパウダーをまぶして油で揚げた「タコのから揚げ」などを作っていくのだが、作った先からリア達の手が伸びて彼女たちの胃袋に収まっていった。。
「このカルパッチョもから揚げも美味しい」
「ああ、から揚げは酒のあてにいいな。レモンを絞ればさらにいい」
「う、うまいっす。あの城食いがこんなにうまいなんて」
「あの城食いがここまで素晴らしい物とは?!」
「・・・食べるのは良いけど、俺の分は残しておいてくれよ」
作った先からなくなっていく様子を見ながら、言葉にするが誰も聞いていない気がする。
いつの間にか親方は、ビールを持ち出して酒盛りを始めているのを瞬間止める人間がいるのかと考えるのだった。
それから一時間後。
「いや、済まねえ。あまりにも酒に合いそうだったからな」
「・・・いえ、問題ないです」
「それで、良いのかい。あの料理を店で出しても?」
「ええ、この街の名物料理として広めてくれればいいかと思います」
「そいつは有難てえ。知り合いの奴らにも教えてみるよ」
「それでは、我々はこれで」
「おう、またこの街に来たら是非寄ってくれ」
あの後、タコの料理は俺が食べる前に全て彼らの胃袋に消えていったのが残念だったが、ケネス達は親方たちに見送られ、店を後にする。
「・・・美味しかった。あの城食いがあんなに美味しい食材だったなんて」
「私もです。主が城食いの料理方法をご存じとは」
「まあ、それは良いけど。結局、俺は一口しか食べられなかったんだが」
「・・・止まらなかった」
「私も止めることが出来ず、申し訳ありません」
そんなカッパのスナック菓子のキャッチコピーみたいなことを言われてもな、食べられなかった悔しさと一緒にため息を吐くと、美味しい食材を食べて満足気の二人と落ち込んでいるケネスという対照的な彼らが街中を歩いていくと目的の宿屋に着いてしまった。
「ああ、そうだ。あの店でコーヒーを淹れれば良かったんじゃ」
気が付いた時には後の祭りである。
落ち込むケネスはコーヒーのことは一旦諦めて、宿屋に入っていくのであった。
そして、休憩を終えるとケネス達は再び冒険ギルドに向かい、午後の治療を開始する。
午後は冒険者よりも一般人の人が多かった。
**********
一方、ケネス達と別れた士道たちは「サルレノ」から東側の荒野を進んでいた。
街を出て、半日ほど進んだ頃にギルドから教えてもらった丘陵地帯が見えてくると馬車をレンヤに任せるとと周りを警戒しながら奥へと進んで行く。
「どうやら、ここが情報にあった場所だが」
「・・・士道。あそこ」
「・・・うん」
暫く進むと前方を経過していたサクラが何かを発見した。
彼女が指さす場所には、レギオンアントの巣穴への続く横穴が在り、その周りには数匹のレギオンアントが門番のように周囲を警戒していたり、それ以外には周りの森から餌を運んでくる個体の姿も見受けられた。
しかし、その光景に士道は首を傾げるのである。
「やはり可笑しい。サーチアントの姿が見えないなんてありえん」
「そうね。今回のことは蟻たちにも異常事態なのかしら?」
「・・・そうだとしたら、いつも以上に気をつけんとな。・・・良し、場所は確認した。引き上げよう」
二人は目的を果たすと、馬車の方へと引き上げる。
だが、あと少しで馬車の所に辿り着くと所でソルジャーアントが姿を現す。
「ちっ・・・こんなところで、ソルジャーアントに遭遇するとはな」
「仲間を呼ばれる前に、倒しましょう」
「ああ。・・・・・・せい、やあっ!」
先手必勝とばかりにソルジャーアントに向かって、踏み見込むと士道は六角混を蟻の頭に大きく振り下ろし、その頭部を破壊した。
頭を潰されたソルジャーアントは、体液を地面にまき散らしながらまき散らしながら朽ち果てる。
未だに胴体の部分が微かに動いているが、放っておいて問題は無いだろう。
「良し、問題なく倒せたな」
「ちょっと待って、士道。やはり可笑しいは今回の騒動」
「?どういうことだ?」
「・・・見て。今、あなたが倒した個体を」
サクラが先ほど倒したソルジャーアントの外殻を手に取ってみる。
持ち上げたそれは、まるで脱皮したてのカニのような弾力があり本来の堅い外殻の堅さではなかった。
それを見た士道は、眉を顰める。
「こいつは、生まれたばかりの個体か?」
「そうみたいね。本来ならクイーンのそばで成虫なるまで、巣から出ないはずだもの。こんなことはあり得ないわ」
「・・・一体、今回の件はどうなっているんだ」
考えても答えがでない士道は、空を見上げる。
そこにはいつもと変わらない空が見えるが、二人の心には暗い雲が立ち込めていた。
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