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第35話 害虫駆除

 南部最大の都市「サルレノ」

 

 王国内南部最大の城砦都市で、北側と東側は高い城壁が西側と南側は大型の船舶が停泊できるほどの湾港を要する一大拠点であり、平時でなら国内外からの商人や異国の商品を買い求める者たちで、賑わっているが街だったが今は違った。

 

 「・・・おらァっ!!」


 城壁を登って来たソルジャーアントを待機していた兵士がメイスで頭部を叩き潰し、城壁の下へと落としていく。

既に剣などは最初の数回の戦闘で刃がかけてなまくらとなり、予備として持っていたメイスでその場をしのぐようになる。

ただこのような光景は今現在至る所で見られるものであり、床に撃ち捨てられた武器の数々がこの戦いの苛烈さを物語っていた。

 迎撃したソルジャーアントが落ちていくのを確認した兵士は、登ってくる別のソルジャーアントたちを見て舌打ちをするが、彼が視線を上げると追い打ちをかけるがごとくの光景が見える。

 このサルレノに向かって来る黒い波のようなソルジャーアントの群れ。

城壁に辿り着く前に、冒険者とリーズ家お抱えの魔術師が弓矢や魔法で攻撃をしているものの蟻たちの足は簡単には止まることはなかった。


 「ぐぁっ!放せっ!はなせっ!」

 「・・・ふんっ!」


 隣の若い新兵に腕に噛みついたソルジャーアントを黙らせると、死んでも離さないと言わんばかりの頭部にナイフを使って外殻の隙間に刃を入れて顎を外す。

 幸い、蟻酸を受けていないので傷は少ない。


 「これでいいだろう。後退して手当てをして来いっ!」

 「すみません」

 「いいから、手当てが終わったらまた戻ってこい」

 「はいっ」


 後退する新兵を見送ると彼は、壁に立てかけていたメイスを再び握りしめると城壁を越えようとするソルジャーアント討伐に戻っていく。


 「・・・今はまだ、何とかなっているがこのままではジリ貧だ。何か、何かないのか!?」


 幾ら、交易が盛んな城砦都市と言えど備蓄には限りがある。

どうにかしようにも、ここを離れるわけにはいかない。

 そう考えて無心でソルジャーアントを屠っていくと、周りが騒がしいことに気付く。

顔を上げて皆が見ている方向を見ると、北側から白い煙が戦場を覆い隠さんと流れ込んでくる光景だった。

 

 「・・・なっ!何なんだ、これは?!」


 驚きを余所にまたしても城壁を登ってくるソルジャーアントがいたが、どこか可笑しい。

先ほどよりも動きが鈍くどこか弱弱しい。

 その為か少し打撃を与えただけで簡単に下へ落ちていった。


 「?どうなっているんだ?」

 「・・・何が、あった?!」

 「団長っ!」


 北側と東側の間にある塔で指揮をしていたリーズ家の騎士団長と応援をかって出た第七騎士団の団長が外に様子を見に出てきていた。

 

 「いったい、何があった?」

 「それが、突然白い煙が北側から流れ込んでくると蟻共の動きが急に鈍り始めたのです」

 「真か、それは」


 騎士団長が周りの兵士たち見るが、皆が首を揃えて頷く。


 「北側というと、王都方面だが」

 「伝令を送ったのが、ついこの間のこと。応援だとしても早すぎます」

 「・・・確か、北側には小高い丘があったはず。そこに原因があるのかもしれない。・・・副長、様子を見てきてくれ。もし人がいたら、丁重に扱うように」 

 「はっ!畏まりました」


 そう答えると俺は、馬の準備をする為に城壁を降りていく。

城壁を降りる途中、手当てを受ける為に後退していた新兵が戻ってくる。


 「副長、どちらへ?」

 「北側の丘へ行ってくる。団長たちをしっかり守れよ」

 「はいっ!」


 すぐさま、馬の用意を終えて北門にある通用門から都市の外に出る。

未だに白煙が地面を這うように流れているが、それに逆らうかのように馬を走らせていく。

 暫くして、目的の小高い丘に着くとそこには二桁に満たない人間たちが五つのカメに蓋をしている所だった。

そのカメから白煙が溢れ出ていたので、これは彼らが行ったことだろう。

 (確かめなければ)

 

 「お前たちっ!ここで何をしているっ」



**********


 時は少し遡る。


 チェニスからサルレノに向かう街道をケネス達を乗せた馬車が走り抜けていく。


 「ねえ、ケネス。さっきのあれは何?」

 「俺も聞きたい。ソルジャーアントをどうやって退治するんだ?」

 「答えは、これだ」


 俺は先ほど見せた物とは別の物を二人に見せた。

 

 「・・・これは・・・花?」

 「ふむ・・・これは、キクか?」

 「ええ、そうです」


 二人に見せたのは、前世では「防虫菊」と言われていたシロバナムシヨケギクという花である。

この種子には殺虫剤の原料となる成分を多く含んでおり、これを使って製造されたのが蚊取り線香であった。

 以前魔の森で群生していたのを見つけていたので、採取した後錬金術で大量の種子を確保していたのが今回役に立ったのである。

神眼で調べてみると、蟲系の魔物には効果的で薄めて使えば農薬としても使えるくらい物であった。


 「今回はこれを含ませた発煙材を燃やして、広範囲に散布する方法を使う。これなら、ソルジャーアントを位なら殲滅できるし、上位種のガードアントくらいなら動きを鈍らせるくらいは出来ると思う。ただ、クイーンはわかりません」

 「・・・おお~~~」

 「成程、成功すればソルジャーアントに悩まされている所は大いに喜ぶだろうな」

 「ただし、これはまだ試作品なので効果に関しては要検証が必要なんだけど」

 「皆様、そろそろ予定の地点です」


 イゼルナが目的の丘に着いたことを告げると、馬車が緩やかな坂道を登り始める。

暫くすると、馬車が止まった。


 「着きました」

 「では、始めましょう」


 俺たちは馬車の外に出ると、アイテムボックスから五つのカメを取り出していく。

いくつか空気穴をあけたカメに殺虫剤を含ませた発煙材を入れてから、火をつける。

 すると初めは少しづつだが、程無くして白煙がカメからあふれ出していく。


 「ごほっ!ごほっ!すごい煙だ」

 

 風下にいたレンヤが盛大にむせるがなぜそこにいたと言いたくなった。

白い煙が地面を這うようにサルレノの方向に進んでいく。

 突然、発生した煙にサルレノの方では若干の混乱が起こっているが、そこは申し訳ないと思う。

やがて、十分に煙がソルジャーアントを飲み込んだのを見るとカメの蓋を閉めて量を抑えるようとしていると。


 「お前たちっ!ここで何をしているっ」


 サルレノ方面からやって来たであろう騎兵がこちらに向かって誰何する。

先ほどまで戦闘をしていたのか、鎧は所々損傷しているが未だ気力は満ちているようでその瞳には絶望感は見えない。


 「我々は、チェニスのギルドマスターからの依頼でこのサルレノの救援に来た冒険者です」

 「それは有難い。だが、この白煙は君たちか?」

 「ええ、この白煙は蟲系の魔物に効果がある物を使いました。サルレノの騎士様は優秀だとお聞きしますが、事態の早期終息の為に用いました」

 「そうか、いや助かった。私はリーズ家騎士団の副長を任されている者だ、今回のことは驚きはしたがこの事態の早期解決を目指しているのは我々も同じだ。それでだが、団長に君たちを連れてきて欲しいと言われているんだがお願いできないだろうか?」

 「・・・片付けが終わってからで宜しいなら」

 「分かった。ではここで待たせてもらうよ」


 彼は馬から降りるとその場に座り込む、余程疲れれているのか重いため息を吐いていた。


 「それじゃ、片づけようか?」

 

 片付けと言ってもアイテムボックスに戻すだけだから瞬きする間に終わるのだが。

それでは彼が休めないので、煙が落ち着くまで休憩とした。


 「どうぞ」

 「これは済まない。有難くいただく」


 イゼルナが、彼に温かいスープと馬用の水の入った桶を渡す。

籠城戦を行っているサルレノならこのような温かい食事をとれるだろうが度重なるソルジャーアント達の襲撃でゆっくりとした時間が取れなかったのだろう。

 顔のこわばりがとれて、ホッとした表情をしていた。

それから暫くした後。


 「用意が出来ましたので、出発しましょうか?」

 「・・・では、行きましょう。スープ、ありがとうございます。おかげでゆっくりと出来ました」


 副長の後を追うように、ケネス達の馬車が後に続く。

未だに白煙がうっすらと残っているが地面を覆い隠すようなものではない為に一行は先を急いだ。

 やがて、南部最大の都市のサルレノの城砦が見えてくると副長が馬を寄せてくる。

 

 「先に知らせてきますので、ゆっくりと来てください」

 「ええ、よろしくお願いします」

 「・・・ではっ!」


 彼が馬に鞭を入れて先行する。

恐らく、調査を命じた騎士団長に報告しに行くのだろう。


 「・・・ケネス、この後はどうする予定なの?」

 「騎士団長の面会が終わった後は冒険者ギルドに行って決めようと思うけど」

 「・・・そう」

 「もしも、負傷者が沢山いたらリアが治療してみる?一応水魔法には【ヒール・ウォーター】等もあるし、欠損が酷かったら俺が光魔法の【エクストラヒール】で治すから、どうする?」

 「・・・・・・うん、やってみる」

 「だったら、これとこれを渡しておくよ」


 リアに幾つかの装備品を渡しておくと、門の近くまで来ていた。

報告を終えたのか、副長も待機している。


 「お待ちしておりました。ケネス殿、ご案内しますので後について来てください」


 この非常時に街中を騎士が先導して走る馬車は目立つのか多くの人が見に来る。

しかし、貴族の家紋が入っていないことに気付いた人は皆一応に首をかしげた。

 大通りを進み、街の中心部にあるリーズ家の門内へと入りと馬車を降りる。


 「それでは、私は外の様子を確認しに行きますので後ほど」

 「ここまでありがとうございます」

 「私は、リーズ家の執事をしております。ルトロスと申します。ご案内いたしますのでこちらへ」


 副長と別れた後、執事のルトロスさんの後に続いて歩いていくと応接室に通される。

案内された部屋は、大小様々な交易品が飾られていたが成金趣味で見られる物がなくこの屋敷の主の感性が見て取れた。

 メイドさんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、三人の男たちが入って来くる。


 「待たせたな。儂がリーズ家当主をしているアルフォンス=フォン=リーズだ。隣にいるのは騎士団長のドーソンとサルレノの冒険者ギルドのマスターのバーンズだ」


 リーズ家の当主であるアルフォンス卿は、浅黒い肌と顎に蓄えた立派な髭が印象的な偉丈夫で齢を重ねているがその瞳は鋭い眼光を宿している。


 「私はケネスと言います。ランクはAランク。こちらは同じパーティーのリアとイゼルナ。そして協力してくれた「ヤタガラス」の方たちです」

 「ヤタガラスのリーダーをしている士道と言います。ランクはB、同じくメンバーのサクラとレンヤです」

 

 立ち上がった後、軽く頭を下げて挨拶を終える。

 

 「まあ、座ってくれ。ここに呼んだのは他でもない、このサルレノを襲ったソルジャーアントの討伐に協力してくれたことに対して礼を言いたくてな」

 「ですがまだ討伐できたか確認中のはずではないでしょうか?」

 「そうだったな。だが騎士団長の話では城壁まで登って来たソルジャーアントたちが白煙にのみこまれた後から登ってこなくなり、例え登ってきてもかなり弱っていたそうだ。そうだったな、ドーソン?」


 隣に視線を送るとドーソン騎士団長がすぐさま声を上げた。


 「はっ!現在部下に確かめさせていますが、閣下のおっしゃる通りであります」

 「そうか、では確認が取れるまで別の話をしようか?」

 「別の話ですか?」

 「そうだ。・・・貴様が作ったというその殺虫剤とやらを売ってくれんかのう?」


 アルフォンス卿は、ニヤリと口角を上げるとそう尋ねてくる。

それはまるで人間の顔をしたオーガキングが笑ったかのように見えるのだが、答えは決まっていた。


 「申し訳ありませんが、お売りすることは出来ません」

 「ほぅ。何故じゃ?」

 「今回使用した物は、試作品の域を出ないものです。今後このような事態にアルフォンス卿がお使いなった際、キチンと効果が出るか判らないものを製作者としてお渡しすることは出来ません」


 しっかりとした意思を持って彼に視線をぶつける。

隣の騎士団長も腰に手をやり、こちらに向かって殺気を放ち始めているが問題ない。

 暫くたった時、彼は頭を下げて震え始める。


 「フッフッフッ、ハァッハッハッハッ。儂の威圧を受けても、そう答えられるか。おもしろい、流石はあのファレストドラゴンを討伐しただけのことはあるな、小僧」

 「知っているのですか?」

 「当然じゃ。ここには色々な人間が集まるという事は色々な情報も集まるわけだ。小僧の情報も色々入って来ておるからのう」


 顎を手で撫でながら、豪快に笑うアルフォンス卿に先ほどまであった重い空気は霧散していた。


 「だが、売ってもらいたのもまた事実じゃ。今回は諦めるが、完成品が出来たら是非とも売ってくれんか?」

 「分かりました。完成した暁にはお売りします」

 「失礼します」


 扉に視線を向けると、そこには現場に確認しに行っていた副長が部屋に入って来た。


 「おう、遅かったな。早速報告を聞こうか」

 「はッ!確認してきたところ、城外のソルジャーアントは全て死んでおりました」

 「そうか、ご苦労。戻って休め」

 「はッ!失礼します」


 副長が退室すると、アルフォンス卿は腕を組み何かを思案する。

考えが纏まったのか、目を開くと俺たちに向かってこう言った。


 「・・・済まんが、お前たちにはソルジャーアントの巣まで行ってもらい、クイーンアント討伐を頼みたい」


  


 読んでくれている皆様には、本当に感謝しています。

これからもよろしくお願いします。

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