第33話 護衛依頼3
「・・・もう、許さんっ!決闘だぁ!!」
いきなり大声を出したと思ったら、そんなことを言い出したレンヤに首を傾げていると。
「野営の準備はしねえし、夕食の支度もしない奴が偉そうに飯をお替りしてんじゃねっ!・・・あと、美人のメイドさんを侍らせやがって、羨ましいんだよっ!畜生がっ!」
後半あたりは確実に嫉妬と本音が混ざった物だと思うのは気のせいだろうか?
血涙を流さんばかりにこちらを睨んでいるのが分かる。
彼が言っていることは正論であるのだが、俺が仕度を手伝わなかったのもイゼルナからお願いされたからでもあった。
上に立つ人間が動いてしまうと、下の人間のやることを取ってしまうのでやらないようにと言われたのだ。本人曰く、後ろの方にいてくれる方がいいという。
ただ、彼らに俺が貴族だと知らせていないので、彼の言葉も間違っていない。
「それは、すまなかった。だが、出立前に彼女から事前に何もしないようにとお願いされたんだが、他から見ればそう取られても仕方ないだろう。ケジメとしてその決闘を受けよう」
「ケッ!お高く止まりやがってよう。・・・俺が勝ったら、この護衛の間中は馬車を使わずに歩いてもらうっ!」
「こちらが勝ったら?」
「そしたら、俺が依頼中の間、目的地まで歩くさっ!」
「・・・まあ、いいだろう」
命を賭けない辺り、理性があるのだろうか?
今は護衛の依頼をこなしている途中なので、戦力が欠けるようなことは出来ない。もし強硬すれば依頼者や同業者から白い目で見られるのは確実である。
だからか、負けた側のリスクが中途半端な物になったのだろう。
お互いが焚火から離れて、向き合う。
やれやれと首を振りながら、士道が審判の為に双方が見える位置に向かう。
「はぁ~~~。双方、武器の使用は禁止。魔法も殺傷性の高い物も禁止だ。どちらかが降参又は戦闘不能となった時点で決闘・・・いや試合終了だ。いいかっ!」
「おうっ!」
「分かった」
「では・・・始めっ!」
士道の掛け声と同時にレンヤが拳を握りしめながら力強く踏み込んでくる。
流石にCランクは伊達ではないらしく、訓練と実戦で培われた動きをしていたのがわかった。
「うおぉぉぉ,食らいやがれっ!」
レンヤが大きく振りかぶって渾身の力を込めた一撃が俺へと放たれる。
それを迎え撃つ形で勝負を決めようとした・・・その時。
「・・・ッ!!」
「・・・ッ!ゴーレムッ!あれは俺がやるッ!周辺警戒ッ!【シールド】ッ!」
「・・・へぶッ!」
士道は直感で、俺は気配察知でそれに気が付く。
反応が遅れたレンヤは突然目の前に現れた透明な壁に勢いよくぶつかり、パントマイム状態になったのを見て笑いがこみあげてくるが、それを押し殺して視線を森に向ける。
日が沈んで視界が悪いが、ここよりもさらに暗く鬱蒼とした森を見ていると。
「「・・・・!!・・・・けて」」
獣の鳴き声と人間の叫び声が途切れ途切れに聞こえてくる。
何時でも得物を抜ける状態にしていると、遂にそれは姿を現した。
「ガァ~~~!!」
「「助けてくれ!!」」
全速でこちらに向かって走ってくる、若い騎士二人とそれを追いかけるグリムベアー。
騎士たちはボロボロになりながらも走り続け、俺たちに助けを求めてきた。
追いかけてきたベアーは獲物が増えたと、さらに涎を垂らしながら速度を上げる。
「「済まない。助けてくれッ!俺たちには大事な任務があるんだ。馬を貸してくれッ!」」
俺たちに助けを求めつつも、馬車に繋がれている馬を断りなく拝借しようとした彼らに呆れるが、目に前の脅威をどうにかしよう思う。
まずは。
「【パライズ】」
「「ギャアッ!!」」
二人を麻痺の状態にして置き、逃げられないようにしておく。
「士道さん、彼らをお願いします」
「ああ、しかし大丈夫か?」
迫りくるグリムベアーを見ながら、彼は聞いてくる。
答えは簡単だ。
「あれくらい、問題ありません」
腰を落として、得物の鯉口を切ると同時に【縮地】でグリムベアーへと踏み込むと、素早く首と両腕を切り裂く。
切り落とした首と両腕が宙を舞い、勢いのついていた胴体が大地を滑る。
やがて動きが止まった胴体から夥しい量の血が飛び出して、周囲を赤く染めた。
「・・・ふぅ、討伐完了」
「すごいな。太刀筋がまるで見えなかったぞ」
「ありがとうございます。・・・さてと」
切り落としたグリムベアーの両腕を持つと、騒動の原因となった騎士たちの元に向かう。
二人は、麻痺しながらも見張りをしているリアとサクラさんに縄を解くように命令していた。
「「おいッ!こんな事をして、唯で済むと思っているのかッ!我々は重大な任務を託されているのだぞッ!早くこの縄を解けッ!」」
聞くに堪えない彼らの言い分に呆れながら、二人の背後に周り込むと彼らの両肩に硬い手甲を持つグリムベアーの腕手で叩く。
「「ヒィッ!!」」
「少しばかり、O・HA・NA・SHIをしようか?」
「「だが、私たちは騎士だ。脅迫されても国を・・・ヒィ!!」
「お前たちもこうなりたくなかったら素直に答えろ。イイな?」
ベアーの両腕におびえる彼らに威圧を放ちながらお願いすると、首振り人形の如く返事を返してくれたので質問していく。
彼らの話を要約するとこうなる。
二人は王国軍 第七騎士団に所属する騎士で王都南部のリーズ侯爵家の領都「サレルノ」まで行って帰ってくるという行軍訓練を行っていたようだ。
行軍訓練事態は順調で何事もなくサレルノに到着したが、そこで問題が起こったのである。
サレルノがレギオンアントの襲撃を受けていたのであった。
王国騎士団としてもリーズ家を失うわけにはいかないので、加勢をすることになったがいくら撃退しても蟻たちの襲撃そのものが無くなることはなかったのである。
今回は実戦を考慮に入れていなかったので、断続的に続く襲撃で直ぐに補給物資などが不足してくる事態になっってしまう。
幾らリーズ家が蓄えていた物資を分けてもらっても遅かれ早かれ限界がくるので、王都に早馬を飛ばすために彼らが選ばれたようだが、戦闘で多少なりとも負傷していた彼らが辺りに血の匂いを撒きながら移動していたのが運の尽きだろう。
結果的にその匂いをグリムベアーが追ってきて、休んでいた所を襲いかかられて馬を失い、さらに追いかけられたという。
「「であるから、我々は急いで王都に向かわなければならないのだッ!君たちのせいで多くの仲間が失われるのだぞ!」」
「・・・・・・命令書、いや現状報告書は持っているな」
「「勿論だッ」」
「・・・分かった。・・・士道さん達、これから見る物について口外無用をお願いします。【ゲート】」
その場で【ゲート】を開くと、未だに麻痺を解除していない騎士たち二人の首根っこを掴んで引きづっていく。
【ゲート】の出口を王城のリアの客間なので、彼らの麻痺を治してから足早に目的地に向かって移動する。
その場所は王国騎士団の兵舎、その最上階にある王国軍・総長の部屋だ。
「ケネス男爵様、このような時間にどの様なご用件でしょうか?」
「急ぎ、総長に報告したいことがあるので取次ぎを願いたいが?」
「・・・少々、お待ちを「・・・入れッ!」・・・どうぞ、中へ」
部屋の前に待機していた従兵は俺たちの尋常じゃない雰囲気に押されながら確認を取りに行く前に返事が返って来たので中に入れてもらう。
騎士団総長室に入ると、実家の執務室に負けず劣らないほどの重厚な机に彼は座っていた。
「このような夜分に失礼いたします。ブローム騎士団総長」
「構わない。貴殿のことだ、何か急ぎの話があるのだろう。それにしても、陛下にではなく俺にか」
「急ぎ知られたいことがありまして、内容につきましては彼らからお聞きください」
後ろにいた騎士たちがブローム総長の前に歩み出る。
「「失礼します。私たちは第七騎士団所属の」」
「ニコル=グリスウォルトです」
「同じく、アラン=グリスウォルトです」
「ふむ、確か第七騎士団は南の「サルレノ」までの行軍訓練中だったはずだが?」
何故、ここにいると?鋭い視線が彼らを捉える。
体を固くする彼らであったが、少し前にケネスからの威圧を経験しているので報告等をすることが出来た。
内容は先ほど聞いたものと同じであったが、改めて聞いてみると違和感を感じる。
「・・・レギオンアント、か。・・・だが、繁殖期にしては早過ぎる・・・それに」
考え込む総長をよそに俺は先ほど感じた違和感を確かめる為、声を掛ける。
「二人とも、良いか?」
「・・・どうぞ」
「都市を襲っているは、ソルジャーアントだけか?」
「はい、ソルジャーアントだけです」
「・・・他のサーチアントやガードアントは?」
「初めのころはいましたが、今はソルジャーアントだけです」
レギオンアントの中でいくつか種類が存在することを思い出す。
まず、群れ全体の中心となる「クィーンアント」。
地中に掘った巣穴の奥で殆ど動くことはない、いやある理由から動けない。
そして繁殖期になると上半身よりも大きく膨れ上がった産卵管を使って卵を産み落とす。
凡そ、10分に一個の割合で休みなく産み落としていく。
次にクィーンの近衛兵等を行う「ガードアント」。
アントの亜種で前脚がカマキリの鎌のように変化した個体で、巣の防衛時にはソルジャーアントを従えて外敵を迎え撃つと同時にクィーンの直衛として行動する個体も存在する。
それから、「サーチアント」。
ソルジャーアントと共に行動して、偵察・警戒を主に担当する個体。
獲物や外敵を見つけると、背中の羽を震わせて音を出して仲間に知らせて連絡をとる。
最後に群れの大多数を占める「ソルジャーアント」。
常に小さな群れを形成して行動し、平時は食料の確保・巣の補強又は拡張を行っている。
外敵が来た場合は、ガードアントの指揮下に入って行動するようだ。
「やはり、おかしい」
双子への質問を黙して聞いていたブローム総長がゆっくりと席を立つ。
「本来レギオンアントは、特定の周期・・・つまりは繁殖期以外に行動を起こすこともソルジャーアントのみで行動することも今までなかったことだ。通常とは異なる事態が起こったと考えていいだろう。・・・ケネス男爵、彼らをここまで連れてきてくれた事、感謝する。私はこれから陛下に上申してから、救援部隊を編成にかかる。・・・貴殿は、早く帰った方がよろしいのでは?護衛依頼の最中だったと思いますが?」
「そうですね。では私はこれで失礼します」
「ご苦労様でした」
騎士団総長の労いの言葉を貰ったが、行く先には魔物に襲われている都市があることは確定しているのでため息しかでない。
「あっ!帰って来た」
【ゲート】で元の野営地に帰ってくると、焚火の前で魔力制御の練習をしているリアと反対側に座っていた士道がいた。
「遅かったな。まあ、座れ」
焚火の前に腰を下ろすと、士道から温かい飲み物が入ったカップを渡される。
口をつけると、シソの風味でサラッとして飲みやすい。
「俺の故郷で飲まれている茶だ。風邪を引いた時や食事前に飲んだりしている」
「・・・美味しいです。なんとなくですが落ち着きます」
「それで、サルレノの魔物襲撃は本当なのか?」
「そうみたいです。明日、出発前にトーラスさんに確認をしましょう」
「そうだな。あと、先ほどの魔法は移動系の物か?」
「はい、ですが先に言ったように他言無用でお願いします」
「わかった。貴族にしても商人にしても飛びつきたくなる物だからな、これ以上は聞かない」
二人で話をしていると、横から袖を引っ張られる。
「・・・ケネス、おやつ」
「・・・程々にな。太っても知らんぞ」
「・・・成長期だから、大丈夫」
その言葉がいつまで使えるのだか。
馬車に戻って、アイテムボックスからクッキーを渡すと美味しそうに食べる彼女を見て、そう思うのだった。
読んでくれている皆様には本当に感謝です。
これからもよろしくお願いします。
修正点・感想・ブックマークお願いします。




