第27話 商品の納品と提案
次の日の早朝にゲートの反応があったので設置してある部屋に行くと。
「おはよう。ケネス」
「おはようございます。ケネス様、朝早く失礼いたします」
「ああ、おはよう。・・・随分、早かったね」
「あの本の続きが気になったから、急いだ」
こちらはまだ朝食すら食べていない。
というかリアの奴、寝ているのか?少し目の辺りが厚ぼったく見えるのは気のせいか?
限定的に神眼を使ってみるとため息が出た。
名前:エステリア=フォン=ローレンシア
種族:人族 年齢:七歳 性別:女
状態:睡眠不足・空腹
昨日のあの時からまともに休んでいないのか?後ろの侍女の任せたのがいけなかったか?
「・・・リア、書庫に向かう前にまずは睡眠と食事をして下さい。でないと書庫にお連れできません」
「・・・大丈夫、まだ・・・行ける」
既にこの時点でフラフラなのに何を言うか、この娘は。
「魔法の勉強も良いですが、私はリアが倒れたりしないか心配です。なので大人しく寝てください」
「・・・わか・・・った」
船をこぎ始めたリアをメイド長のカーナさんに渡すと、俺は何でこうなったかをお付きの侍女に聞くことにした。
「どうして、あんなになるまで止めなかったのですか?」
「申し訳ありません。エステリア王女様にあと少し、あと少しとお願いされまして」
「そうであっても、夜になれば夕食などで呼ばれるはずですよね」
「そうなんですが。あの図書室には・・・その」
「何ですか?」
歯切れが悪くなった彼女に苛立ちが募るが、我慢して続きを促すと。
「・・・出るんです」
「何が?」
「・・・幽霊が、です」
彼女からの話を纏めるとこうだ。
何十年か前にこの図書室を管理していた司書さんがいたそうだが、病気で亡くなってしまったらしい。
ただ、それから何年かした後で管理が次第に疎かになると片づけないことに怒ったのか夜な夜な姿を現しては、本の整理をするようになったという。
それからこの図書室で陽が落ちるまでに元の場所に戻しておかないと、司書の幽霊に明け方まで説教を受けることが起こるようになったそうだ。
そのことから、魔法部隊の新兵に本を夜中に戻させることが恒例となっている。
説教と言っても、キチンと聞いていればその人にあった本を選んでくれたりするので損は少ない。
以前魔法部隊の隊長格の一人が、大の幽霊嫌いで司書の幽霊を退治してやると意気込んで向かったが出来なかったようだ。
何でも図書室の蔵書一冊一冊に司書の念が憑いていて、一冊を消しても時間が経つと元に戻るようなので一気に消さないとダメらしいが、蔵書の中には強力な魔導書もある為に時間が掛かる。
よって未だに司書の幽霊はそこにいるのであるが、図書室の管理をしてくれるので今では消さなくていいのではという感じになっている。
ただ普通に管理しているならまだいいが、その司書さんは登場時に必ず後ろの方から声をかけてくるので心臓に悪いらしい。
「・・・ですので、もしエステリア王女様がその幽霊に声を掛けられたら粗相してしまう可能性が」
「・・・・・・なるほど、それなら仕方ない?のか」
「申し訳ありません」
「今回は何も言いません。貴方も休んでください」
「・・・・・・はい」
頷く彼女を使用人用の部屋に案内するように別のメイドにお願いすると入れ替わりにラベージが部屋に入ってくる。
「旦那様、朝食のお時間ですが」
「分かった。今行く」
「今日は、朝食後にトーラス商会に行く予定があります」
「そうだったな。そうだ、ラベージ。陛下達にリア達のことを伝えて欲しいんだが?」
「畏まりました。では、直ぐにでも」
「ああ、「ゲート」の使用許可をしてある」
「では、行ってまいります」
ラベージがゲートを通って、城に向かうのを確認すると俺は朝食を食べる為に食堂に向かった。
暫くすると、ラベージが帰ってくるが会うと同時にため息を吐いている。
「只今戻りました」
「何か疲れてない?」
「はい、陛下にエステリア様のことをお話いたしましたら、口を大きくお開けになったまま動かなくなりました」
「・・・だ、大丈夫なのか?」
「さて?私は、王妃様に戻るように言われましたのでそこから先は何も」
「・・・そうか。まあ、王妃様がそう言うのだからいいのだろう。それよりもトーラス商会に行くので、馬車の用意をお願いしてもいいか?」
「畏まりました。では、仕度をしてまいります」
用意してもらった馬車にイゼルナと乗り込むと、トーラス商会に向かって動き出す。
始めは、歩きで行こうと思っていたが貴族としての世間体などの理由で止められたので渋々乗っている。
商会のある所までそれほど遠くは無いので、然したる時間もかからず到着した。
「着いたようですね。主」
「ああ、降りるか」
馬車の扉をラベージに開けてもらうと、イゼルナが先に降りて周囲を確認する。
今の彼女の格好は、メイド服の上にこの間作った軽鎧を装備した所謂バトルメイドみたいな姿をしていた。
腰に佩いた細剣「ラヴィーネ」と相まって姫騎士のように思える。
「ようこそお越しくださいました。ケネス様」
「トーラスさん、おはようございます。約束の品をお持ちしましたよ」
「ありがとうございます。では、奥の倉庫に案内いたしますのでこちらへ」
案内された先には、それなりに奥行きのある広い倉庫に出た。
他の積み荷はあるが、予め準備していたのかスペースが確保されている。
「では、ここに置いていただけないでしょうか?」
「分かりました」
アイテムボックスから用意していた100個のトイレと「クリーン」の時限式魔道具を5個を出していくと、トーラスは部下と共に数を確認していく。
「確かに、トイレ100個と「クリーン」の魔道具5個。確認いたしました。代金をお支払いいたしますのでこちらへ」
店に戻ると、今度は応接室に通された。
落ち着きのある室内であるが、上品な調度品がさり気なく高級感を演出している。
アーヴィング卿とも付き合いがある為か、センスが磨かれているのかもしれない。
「では、こちらが今回の代金になります」
「ありがとうございます」
渡された袋にはかなりの金貨が入っているのかずっしりと重い。
あのトイレにそれだけの価値を付けてくれたことに嬉しく思う。
「トーラスさん、今日はトイレ以外にもお見せしたい物があります」
「それは一体どのような物でしょうか?」
「こちらになります」
再びアイテムボックスから取り出したには前世でも馴染みのある遊具、双六とジェンガの二つである。
チェスも作りたかったが流石に時間がなかったので今回はあきらめた。
ジェンガは特に変更はないが、双六は試作品としてプレイヤーが冒険者となって目的地(王都)に向けて進んでいくタイプに作ってある。
「まずこれはジェンガと言います。交互に木片を抜いていき上に積み上げていくゲームです。先に崩した方が負けです。
「・・・なるほどバランスが重要なのですね」
「後でやってみましょう。次にこちらは双六と言います。ダイスを転がして出た数の分だけ進み、先のゴールにたどり着いた人が勝ちです」
「それだと直ぐに終わりそうですが?」
「いいえ、コマが止まったマスに書かれたことに従わないといけないので進む人は進みますが、運の無い人は進みが遅いです」
「出た数と止まったマス次第ですな」
「ええ、こちらもジェンガの後でやってみましょう」
「では、まずジェンガの方からやってみましょう」
イゼルナも加えてジェンガを始めてしばらく。
「崩せ・・・崩せ、崩せ」
「静かに・・・して下さい」
微妙に揺れ始めたジェンガを慎重に抜いていくトーラスさんに俺は念仏のように言葉を紡ぐ。
既に下半分はスカスカで上半分は少しづつズレており、いつ崩れても可笑しくはなかった。
「あとは・・・・・・これを」
漸く抜き取ったパーツを上に乗せようとしていたが・・・。
「あっ・・・ああぁッ!」
パーツを乗せた瞬間に無情にもタワーは崩れ去ってしまう。
乾いたパーツの音が部屋に響き、トーラスさんは項垂れた。
「・・・どうですか?この遊具は?」
「いやはや、中々面白いですな。これは・・・売れますな」
「良かった。造りは簡単ですから平民にも買えるようにしていきたいですね」
「そうですな。価格は・・・これくらいでしょうか?」
「それでお願いします。では次に双六をやりましょう」
「ええ、そうしましょう」
ジェンガを片付けると、テーブルに双六盤とダイス等を準備していく。
「では、始めましょうか?」
「ええ、よろしくお願いします」
双六を始めてから数十分後・・・。
「・・・盗賊に襲われて、三マス戻る!?」
「やりました。「ギルドに依頼品を届けて、2マス進む。」順調すぎて怖いぐらいです」
トーラスさんは中盤の辺りでウロウロして、イゼルナは順調にコマを進めていく。
そして、俺は「オークキングと戦闘で負傷、一回休み」のマスで止まってしまった。
それから、トーラスさんが何とか中盤を抜け出した時にはイゼルナがゴールの数を出したターンだったのである。
ちなみに二位は、俺であった。
「やりました、主」
「おめでとう、イゼルナ」
「・・・悔しいですが、しかしこれも面白いですな。冬の間、外に出られない村の方々などにも喜ばれるでしょう。・・・・・・価格も・・・これぐらいでいかがでしょう?」
「そうですね。それでお願いします。それと商業登録もお願いします」
「ですな。造りは単純なので、模倣されやすいですからそうした方が良いでしょう」
この世界において特許と同じような物が存在した。
それが商業登録である、商業神のニョルズに新しい物を奉納することにより登録される。
後から複製をしようとすると、罰があるようだが聞かないでおいた。
登録される期間は約三年でそれ以降は自由に作ることが出来るという。確かに三年もあればかなりの数が世に出回っているだろう。
トーラスさんが契約書を持ってくる。契約者と商会用と奉納用の三枚を書いていき、お互いに確認をしあい名前を書いていく。
それを各商会が持っているという商業神の簡易的な祭壇に契約書と商品を置いて、トーラスさんが祈りをささげると祭壇が光り輝く。
それが収まると、祭壇に置かれていた契約書と商品は無くなっていた。
「これで今から三年間、トイレと「クリーン」の魔道具、ジェンガと双六はケネス様と我が商会でしか販売をすることはできません」
「大変貴重な物をお見せいただいてありがとうございます」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。魅力的な商品の販売に私共を選んでいただいたのですから」
「それについては、アーヴィング卿に感謝ですね。あと先行投資として私の方からも資金を出させていただきます」
「大変ありがたいですが、いいのですか?」
「トイレの製作とジェンガなどの遊具の準備をトーラスさんだけに負担を掛けさせてはと思いまして」
アイテムボックスから白金貨を三枚を取り出すとトーラスさんの前に置く。
「こ、こんなにですか!?」
「はい、あくまで先行投資という物です。これらの商品が軌道に乗ったら返していただければいいです。販売は一か月後を目標に、それと高級品を五十個ほど用意して貰い、そのうち十個ほど保管していおいて欲しいのです。王家にも献上したいので」
「分かりました。我が商会の全力を持って事に当たらせてもらいます」
「お願いします。・・・では、私たちはこれで失礼します」
大きな商いに興奮気味のトーラスさんの熱烈な見送りに苦笑しながら、馬車は屋敷に帰っていく。
一か月後、大々的に売りに出された各商品は飛ぶように売れ、大量生産の体制が出来ていたのだがそれでも追い付かないとトーラスさんは嬉しい悲鳴を上げていた。
だがしかし、それはもう少し先の話である。
何時も読んでいただきありがとうございます。
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