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第20話 お披露目会と規格外の献上品

 お披露目会、当日。

 ホラント辺境伯家の前には、王城に向かうメンバーが集まっていた。

 今回参加するホラント家当主のカインとケネス、そしてその母であるニーナの三人が貴族用の正装をしている。


 「では、グレース。あとを頼むぞ」

 「はい、いってらっしゃいませ。カイン様」

 

 俺たちはルドムが御者をする馬車に乗り込むと王城へと向かって行く。

 煉瓦造りの街並みが流れていくのを見ていると、


 「ケネス。お前はこの間の謁見で男爵位を陛下から賜った。お前の齢で貴族家の当主になることは本来あり得ないことだ。だから、今回のお披露目会では娘を持つ親には特に気を付けることだ。王女殿下との婚約はまだ公には出来ないからな」

 「そうですね。うまく対処して見せます」

 「それを聞いて安心するが、七歳の口から出る言葉じゃないな」

 

 カインは呆れを含んだため息を吐く。


 「皆様、そろそろ王城に到着いたします」

 「わかった。二人とも降りるぞ」


 俺たちは、馬車から降りると参加者が集まる会場に進んでいく。すると、そこにはすでにかなりの人が集まっていた。

 子供だけで大体30~40人ぐらいはいるのだ、両親を入れれば100は超えるだろう。

 何人か集まっている所を見ると、あれが派閥ということだろうか?

 謁見の時に茶々を入れてきたイザール侯爵の姿もある。

 後ろには見るからに生意気そうな子供と取り巻きらしき子供が何人かいた。


 「来ていたか。カイン卿」

 「これは、アズライト侯爵。先日は色々とお世話になりました。改めて紹介します、三男のケネスです」

 「カイン=フォン=ホラント辺境伯が三男、ケネス=フォン=ホラントです。よろしくお願いします」


 姿勢を正して挨拶をする。


 「これは、これは。英雄のケネス男爵ですね。侯爵をやっているライナード=フォン=アズライトです。

陛下より宰相の役職を任せられています。しかし、わたしにも今年七歳になる娘がいてな。もしも年頃の娘がもう一人いたら嫁にどうかと勧めたのだが」

 「それは、残念です。宰相様に似て聡明な方なのでしょう」

 「はっはは、そう言ってもらえると嬉しいよ。妻に似たのか将来がとても楽しみでな、故に娘をきちんと守れる者を選んだつもりだ」

 「確かに、私には娘はおりませんがもしこの先に持つことがあれば閣下と同じような考えとなったでしょう。・・・しかし、その娘さんはお連れになられていないようですが?」

 「私は、役職柄の為に前日から城にいましたのでもう少ししたら妻と一緒に来るでしょう」

 「それではまた後程」

 

 挨拶を終えるとライナード侯爵は他の貴族へと挨拶に向かって行った。


 「それでは、私たちも行くか」

 「そうしましょう。父さま」


 お互いに頷くと、カインと付き合いのある貴族たちの所を回っていく。

 いくつかの貴族たちと挨拶をしていくが話題に上がるのは、やはり先日の謁見での男爵位授与とジャイアント・センチピードの討伐のことや、年上と年下どちらが好みかなどといった、事前に聞いた通りのことであった。

 彼らにしてみれば、王国内でも指折りの大貴族であるホラント辺境伯家の血縁に嫁を出すことができれば家を残すことだけではなく、もしもの時には助けを求めることが出来るかもしれない

 それに七歳で独立した男爵家の当主になったという事はほぼ確実に優秀だという証明であり、娘を持つ家にとっては垂涎の得物であろう。

 そんな彼らの口撃を当たり障りのない言葉で躱していくように挨拶をしていく。


 それからしばらく父さまの知り合いの貴族たちと顔合わせをしていると、控えていた楽団が音楽を弾き始めた。曲が終わると、専用の扉から近衛騎士を先頭に陛下と王妃様、そして第二王女のエステリアが入ってくる。

 一段高い場所に設置された椅子の真ん中に陛下が、その隣に王妃様が、反対側にエステリア王女が座った。

 エステリア王女は赤紫色のドレスでシルバーのティアラを頭に乗せている。

 薄く化粧のしているのだろう、周囲にいる子供は初めて見る彼女を前にして固まっていた。

 まあ、俺にとっては綺麗よりも可愛いなくらいにしか感じない。前世では成人していたから余計にそうなのかもしれない。

 そんなことを思っていると、陛下が立ち上がりよく響く声で挨拶を始める。


 「今日は皆、遠い所から集まってもらい感謝する。今この会場にいるのは今年七歳を迎えた者たちだ。

将来、この国の中枢でより良い発展をできるように日々研鑽を積んでもらいたい。では、乾杯といこう」


 来場者たちはワインが入ったグラスを持つ、子供たちは勿論ジュースであるが。


 「では、乾杯っ!」


 「「「「「「「「「乾杯っ!」」」」」」」」


 乾杯が終わると来場者たちは皆、陛下の所に挨拶に向かう。

 この辺りは、経験がないので父・カインに任せてしまった方がいいだろう。

 正直に言って、暫くの間は陛下とは顔を合わせたくはない。

 何を言ってくるかわからないし、気が抜けないから疲れる。


 「ケネス、そろそろ私たちも挨拶に行くぞ」

 「はい、父さま」


 カインの後について行き、陛下の所に向かう。


 「これは陛下、エステリア王女殿下おめでとうございます。三男のケネスでございます」

 「ケネス=フォン=ホラント男爵でございます。本日はお招きいただきありがとうございます」


 父さまと俺がそれぞれ挨拶をする。


 「カイン、ケネスよ。よく来てくれた、今日は大いに楽しんでくれ」

 「ようやく来てくれたのね。ケネス様」

 「エステリア王女殿下も王妃様に負けないくらいお美しいです。会場の中で誰よりも輝いて見えます」

 「・・・他の貴族の子息に言われても何ともなかったのだけども、彼方に言われると悪くないわ」


 俺から視線を外すと赤くなった頬を両手で隠していた。

 そんなことをされると、こちらも赤くなりそうだからやめてくれないだろうか?

 いくら精神年齢が高くても体は子供だから、出やすいので。


 「カイン。どうしたらこのような子供が育つのだ? 余り感情を出さないエステリアがこうなるとは将来とんでもないスケコマシになるのではないか?」


 陛下と父さまが二人を見ながらそんな会話をする。


 「本日は陛下とエステリア王女殿下に献上品がございますのでアイテムボックスの使用許可を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「うむ、構わんぞ」


 陛下の許可を貰ったのでさっさと終わらせる。

 アイテムボックスから取り出したのは、数種類のお酒と髪飾りの二つだ。


 「こちらでございます」

 「これは・・・酒か」

 「・・・綺麗な髪飾り」

 「こちらのお酒は、ブランデーというお酒です。そのままでも美味しいですが、お湯やお水で割っても美味しくお飲みいただけます。髪飾りの方はデザインにいくつかの花を使った魔道具です」

 「魔道具とな?いったいどのような効果があるのだ?」

 「装着者に対してある程度の物理による攻撃を自動的に防ぐ障壁を展開することが出来ます」

 「・・・ある程度とは、目安はどれくらいですか?ケネス様」

 「そうですね・・・ファレストドラゴンクラスの攻撃ぐらいでしたら問題ないです」

 「!!・・・よいのか?そのような物を」

 「はい、エステリア王女殿下に似合うように作りました」


 陛下が驚くのも無理はない。

 こういった魔道具は王侯貴族ならだれでも欲しがる。

 地位が高くなるほどに狙われる可能性が上がっていくからであるが、ただこの魔道具のような物なら白金貨でしか取引されない。

 それを献上品として出すのだから、悪い印象はつかないはず。


 「・・・ありがとう。ケネス様、大切にしますね」

 「ふぅ~~~、ケネス。お前はこの魔道具の価値をきちんと理解しているのか?」

 「?自作した中で一番出来のいいものをエステリア王女殿下に渡そうと頑張ったつもりですが?」

 「そうじゃない。この手の魔道具は、そうだな・・・暗殺者の持つナイフような物を防ぐぐらいでも白金貨で取引されるんだ。この髪飾りなら白金貨以上の貨幣で取引がされるだろう」

 「つまり?」

 「献上品としてはやり過ぎだな」

 「・・・・・・」

 「価値を理解して固まっておるな。しかし、送った物を返したとあってはお互いにメリットがない。せっかく娘の為に拵えてくれたものだ、ここはありがたくもらっておこう」

 「その方が良いかと。・・・それでは、陛下、王妃様、エステリア王女。失礼いたします」

 「うむ、楽しんでいくがよい」

 「カイン様、ケネス様にあとで会いに向かいますとお伝えください」

 「分かりました。では」


 カインはケネスの体を持ち上げて、陛下たちの前を後にする。








 十分後


 「・・・はっ!ここは?」

 「挨拶はもう終わったぞ、ケネス」


 顔を上げるとワインの入ったグラスを持った父さまと母様がいた。

 ここは会場の壁際らしく、人が少ないスペースのようである。


 「・・・お恥ずかしい所をお見せししました」

 「いや、お前が自分の作った物の価値を理解したのだから、これから気を付ければいい」

 「いいえ、父さま。大切なものをなくしてから後悔はしたくありませんので無理です」

 「・・・そうか」

 「それよりもケネスちゃん。あとであの髪飾り。、お母さんにも作ってくれないかしら?」

 「同じデザインは出来ませんよ」

 「いいわよ。私が好きな花をお願いするから」

 「分かりました。では屋敷に戻ったら作ります」

 「よろしくね」

 「・・・では、ケネス。私たちはこれから色々と回ってくるから、お前は同年代の子供たちを交流を深めてこい。ただし、異性には気を付けろ。なるべく二人っきりにはならんようにな」

 「わっ分かりました。気を付けます」

 「じゃあね。ケネスちゃん」


 そういうと二人は行ってしまった。

 ようやく解放されたと、安堵の息を吐きつつ俺は子供たちの集まっている所に向かう。

 良いお話が聞けるといいが。







 親の挨拶周りが終わったのか、同行していた子供たちの殆どはここに集まっているようだ。

 ジュースの入ったグラスを手にグループの近くで、彼らの会話に耳を傾ける。

 だが聞こえる殆どが自慢話などである、時折エステリア王女のことが聞こえてくるぐらいであった。


 「あら?ここにはお披露目会に来ている七歳の子供しかいないはずですが?」


 後ろを向くと、そこには一人の令嬢が立っている。

ハニーゴールドの髪とワインレッド色のドレスがよく似合う美少女がそこにいた。

 エメラルド色の瞳が印象的であるが、綺麗というよりも可愛いと思う。

 そんな彼女がにらみつけるようにこちらを見上げている。


 「あなた、聞いてますの?なぜ、ここにいるのですか?」

 「これは失礼を。私も今年七歳を迎えた参加者ですよ。人よりも成長が早かったようですが」

 「そうでしたの。こちらの早とちりだったようですね。紹介が遅れました、わたくしはライナード=フォン=アズライト侯爵が長女、クローデット=アズライトと申します」

 「はい、クローデット嬢。初めまして、私はケネス男爵です」

 「そう・・・男爵家の」


 声をかけた相手の身分が低かったのに落胆したのか、あからさまな返事をした。

 そんな彼女を見ていると、子供グループの一角から驚きの声が聞こえる。

 視線を送るとそこには今回のお披露目会にはいないはずの人物がこちらに向かって来た。


 「やあ、ここにいたのかい?英雄君」


 豪華な装飾がされた服を着た金髪碧眼の美少年がにこやかに挨拶をしてくる。


 「・・・なぜ、ここに居られるのですか?アレクセイ第一王子様?」

 「・・・えっ!」

 

 そう彼はこの国を第一王子なのだ。

 ただし歳はジェラルド兄さまと同じ十四歳であるのでこのお披露目会には出ていないはずであった。

 そんな人物が突然現れたのだ隣にいたクローデット嬢は言葉を無くす。

 

 「おや、私と君は初対面のはずだが?」

 「殿下のことは、王都にいればいくらでも聞こえてきますので。ここには如何なる御用でありますか」

 

 もとっも俺が彼を知っているのは、カスミからの報告で知ったからだ。


 「妹を救ってくれた英雄君の顔を一目見ようと、陛下にお願いしたんだ。礼儀がなっていないと言われそうだが、今を逃すと今度はいつになるのかわからないからな」

 「そうでありましたか」

 「ああ、では英雄の顔を見ることが出来たから私は戻るよ。あまりいるとジェラルドに小言を言われてしまうからな。ではな、ケネス=フォン=ホラント男爵」


 本当に顔を見に来ただけのようで、アレクセイ王子は直ぐに帰ってしまう。

 だが、最後に余計な一言を言ったが。

 振り返るとそこには王子の時と同じような顔をしたクローデット嬢がいる。


 「あ、あなた。いえ、ケネス様は先日エステリア王女を襲ったジャイアント・センチピードを単騎で討伐し男爵位を賜ったあの」

 「ええ、改めて自己紹介を、ケネス=フォン=ホラント男爵であります。クローデットお嬢様」


 貴族の子息は貴族であるというかもしれないが、少なくともこの国では違う。

 貴族として扱うのは当主のみで家族は準貴族の扱いであり、男爵家当主になった俺の方が扱いは上であるし不敬罪を訴えることもできる。

 だからこそ今、彼女は顔を青くしているのだ。もちろん訴えることはないがいい牽制になるのでこのままにしておく。


 「しっ失礼しますわ。ごきげんよう」


 クローデット嬢は、慌ただしくその場をあとにする。

 それを見送ると、別方向からエステリア王女が来た。


 「やっと終わった。・・・ケネス様、今いたのはクローデット?」

 「ええ、お話をしていただけです。それとケネスでいいです」

 「わかった、ケネス」

 「それと先ほど、アレクセイ様がいましたよ」

 「むう、兄さまがなぜ」

 「私の顔を見に来たそうです。それよりもつけてくれたのですね」

 「うん、せっかくの献上品ですから。似合う?」


 先ほど送ったばかりの髪飾りを付けてここに来たようだ。

 彼女の髪に良く似合っている。


 「ええ、とてもよくお似合いです。作ったかいがありました」

 「ありがとう」

 

 お互いに笑いあっている姿を遠くで見ている人たちがいた。

 陛下と王妃様、それとアレクセイ王子にホラント辺境伯家の二人である。


 「妹があんな風に笑うとは、私は不思議な光景を見ているようです」

 「儂もそう思う」

 「二人とも何を言っているんですか?あの子のためにも頑張ってください」

 「ケネスのやつ。周りの視線に気づいているのか?」

 「多分、気づいていないわよ。でもいいじゃないの、これで婚約話の件数が減るなら」

 「まあ、そうだな」


 彼らのことを見ながら、親たちは二人の外堀を埋めにかかるのであった。






 PV60000超えました!!

読んでくれている皆様にはまことにかんしゃです。

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