第15話 質問攻めと王都到着
「・・ス、・・き・・・さい」
「う・・・ん?」
誰かに起こされている?
でもなんか、のしかかられているような感じがするんだが?
とにかく目を開けないと、分からないな。
意を決して瞼を持ち上げるとそこにはエステリア王女殿下の顔が間近にあった。
いや、本当に近い!!
どうやら俺に跨っているようで先ほどから感じる重みはこれか!?
「え~~~と、王女殿下がどうしてここにいるのですか?」
「・・・あとで、話があると言いましたけど、いつまでたっても来ないのでこちらから出向きました」
「あれ?お付きの方は?」
少なくとも隣にいた侍女くらいは連れているはずだが。
「彼女は土魔法のバインド魔法で縛って置いてきました」
「おいっ!」
何んてことをしてんだよ!この姫さんは!
こんなところ見られたら、双方にとって色々やばいだろうがっ!
「お話が終われば直ぐに帰ります」
「取り合えず、降りてもらえないでしょうか?」
「そうね」
おとなしくベッドから降りた王女殿下は、そのまま窓際に設置してある椅子に腰かける。
あらためて彼女をよく見ると、貴族が着るような高級な布を使ってはいるが動きやすさを重視して作られているようだ。
肌を隠すためか首から膝までローブのようなものを羽織っているし、靴もロングブーツを履いている。
そんな俺の視線を気にせず、予め用意していたのティーセットから手慣れた様子で二人分の紅茶を入れていた。
俺はシーツを整えてから椅子に座ると、入れ終わった紅茶を渡される。
「どうぞ、眠気覚ましにいいわよ」
「・・・随分となれておりますね。王女殿下」
「エステリアでいい、城の図書館に籠ることが多いから自然と身に着いたわ」
「お付きの方は入れないのですか?」
「あの人がいれる紅茶は独特なの」
「そうですか」
一口飲んでみると、温度も丁度良くてとても美味しかった。
これで茶菓子があったらもっとよかったが。
「・・・たいへん美味しいです」
「よかった、そういってもらえると嬉しい」
「他の方でもそうおっしゃると思いますが?」
「そうね。でもみんなあなたみたいに素直に感想を口にしないから」
余程嬉しかったのか、表情が柔らかく非常に綺麗だった。
本当に一つか二つ上でこんなに魅力的な顔ができる物なのだろうか?
紅茶に関しても下手したら首が物理的に飛びかねないから仕方ないと思う。
でも何回も練習したんだろうな。
これでここに来た訳を忘れて帰ってくれれば良かったがな。
「・・・では、本題に入りましょうか」
忘れてくれなかった。
「本題とは何でしょうか?」
「あなたのその異常な魔力と魔法です」
(・・・やっぱりか、でもあの場ではああするしかなかったしな)
「・・・異常ですか」
「ええ、私も上位魔法をいくつか使うことはできますが、それも五歳から休まず鍛錬してきた結果です。それでも、先ほどのあなたのように最上位魔法を使えるわけではありません。例え魔法神の加護を持っていても」
「幼いころから私も鍛錬に励みましたから、偶々使えただけですよ」
「まだ、あります。それはこの馬車です」
「馬車ですか?」
「ええ、修得が難しいとされる時空間魔法を使ってありますね。・・・私でも持っていないのに」
「それは、元々付いて「製作者の欄にあなたの名前がありましたが?」そうですね」
そういえば、製作した物には造った人の名前が書かれていたな。
でも、俺のスローライフに邪魔はさせん!
「例え時空間魔法を持っていたとしても、私のスキルを王女殿下にお教えするわけには参りません」
「・・・他言はしないと言ってもですか?」
「ええ、身内でもない人に手札をさらすことは致しません」
「・・・・・・そう、ですね。分かりました」
もっと聞いてくると思っていたが、あっさりと引き下がった。
一抹の不安が残るが、あちらが引いたのならそれでよしとしよう。
「王女殿下、お夕食はどんなものがお望みですか?」
「今夜は馬車で野営ですから、干し肉などでは?」
「いいえ、この馬車には調理場がありますので作れます」
「・・・お任せで、お願いしても?」
「わかりました。では今から仕度をしてきます」
「・・・待ってっ!あなたが作るのですか?」
「五歳の時から、料理長と一緒に作っていますが、何か?」
不思議そうに尋ねてきた彼女にこちらも首をかしげる。
普通の貴族の子供はそんなことはしないが、ホラント辺境伯家では当たり前の光景になりつつあったので疑問に思う人間がいない。
「いえ、なんでもありません。では、また」
多少疑問があったのだろうが、これ以上は居れないと考えたエステリアは部屋へと帰っていった。
俺も疑問に思うことはあったが、そろそろ仕度をしないと夕食がやばいので調理場に急ぐ。
「バート料理長、遅くなりました」
「いえ、今から本格的に始めますので大丈夫ですよ。今日は何にしましょうか?」
笑顔で迎えてくれたのは辺境伯家の料理長を務めるバートさんだ。
以前は王都にある有名レストランのスーシェフをしていたようで腕前はかなりのものである。
「・・・今日は、ハンバーグステーキとえんどう豆のポタージュ、サラダにデザートとして焼きリンゴでいきましょう」
「いいですな。では私はメイン以外をやりますのでケネス様はメインをお願いします」
料理長が他のスタッフに指示を飛ばしながら、作業を進めていく。
俺もコックコートに着替えるとメインのハンバーグに取り掛かる。
アイテムボックスから材料を取り出していく。
Sランクのレッドバッファローの肉と同じくSランクのオークキングの肉や、ソースとして使う大根もといマンドラゴラなど各種食材と調味料などだ。
まずはレッドバッファローの肉とオークキングの肉を7対3の合挽肉にして練っていく。
途中から塩・胡椒・牛乳を入れたパン粉・炒め玉ねぎを入れてよく合わせる。
最後に片栗粉の代わりにスライムパウダーを加えてからよく叩いて成型していく。
このスライムパウダーはかなり使える、今回のように片栗粉の代わりになったり量を調整すればゼラチンや寒天みたいになる優れもの、以前街中を見ていた時に見つけていたのだ。
フライパンで焼き色を付けてからオーブンへ投入っ!
その間に、残った肉汁でソースを作り、仕上げにおろしたマンドラゴラと醬油とスライムパウダーを入れて完成っ!
ちなみにお醤油は見つからなかったので創造魔法で制作した。
「今回も素晴らしいものが出来ましたな」
「いえ、バート料理長の方が素晴らしいですよ。俺よりも出来のいいものを作れるのですから」
「はっはは、年の功というのですよ。私もいい刺激をいつも貰っていますので励みになります」
時間となったのでオーブンの蓋を開けると、肉の焼ける香ばしい匂いが調味場内に充満する。
外で見張りをしていた人間もこの匂いを嗅いでしまい、大きな腹の音が辺りに響き渡った。
「なんだ?このいい匂いは」
「これは、ケネス様だな。今日は何だろうな?」
「取り合えず、お前はよだれを拭け。みんなに移るから」
「早く、交代の時間にならないかな?」
「まだまだだ。耐えろっ!」
とっ、外はこんな感じである。
夕食が出来ると使用人たちが準備を済ませた食堂車に運んでいくのを見送りながら、俺は普段着に着替えて食堂車に向かう。
すでに匂いのつられたのか父さまが座っていた。
「ケネス、今日の夕食はなんだ?」
「それは来てからのお楽しみです」
「そうか、いい匂いがしたので今から楽しみだな」
しばらくして全員が揃うと、夕食が始まった。
始めて見た料理にエステリア王女殿下は迷っていたが、俺たちが食べ始めると意を決して口にする。
余程美味しかったのか、終始無言であった。
そのまま、スープとデザートを終えて食後の紅茶を飲んでいると感想が聞こえる。
「今日の食事は大変美味しかったです。ホラント様のシェフは素晴らしい腕をしているのですね」
「ありがとうございます。そう言っていただけると彼らの励みになりましょう」
「それと、ケネス様は今回どの品を作られたのですか?」
「メインのハンバーグです。他の品は料理長は作りました」
「大変美味しかったです。またいただきたいですわ」
「また機会がありましたら、その時は」
フラグを踏んだような気がしたが気にしないでおこう、そうしたほうがいいはず。
そんなことを考えながら、夜は更けっていく。
それから3日かけて、ようやく王都が見えてきた。
王女殿下の護衛の一人が伝令に走るのが見える。
「父さま、僕たちはこのまま王都の家に?」
「そのはずなのだが、おそらくそうはいかないだろう」
「なぜです?」
「エステリア王女が襲われ、それをお前が助けた。そのことから多分このまま城に呼ばれる可能性が高い」
「回避するには?」
「無理だな。呼ばれれば行かなければ不敬にあたる。諦めろ」
「ホラント辺境伯の馬車でありますか?」
「そうだが、何か?」
「王城より伝令です。このまま王城へ移動をお願いします」
今回の旅で、Sランクのムカデを倒したり、王女殿下から質問攻めを受けたり最後は胃袋を掴んだ気がする。
俺のスローライフへの希望は駆け足で逃げていく気がした。
口数が少ない王女を書いているつもりですが難しいです。
読んでくれている皆様は本当にありがとうございます。
一か月弱で3万PVを超えることが出来そうです、これからも感想・ブックマークお願いします。