第14話 王都へ、そしてお約束
冒険登録をしてから一か月後。
王都のお披露目会に出席するために玄関に集まってみると、荷物を積み込んでいた使用人たちが困惑しているのが見えた。
「お前たち、どうした?」
「カイン様、王都へ向かう際にご使用になる馬車の確認をしていたのですが、室内が今までよりも広いのです」
「広い?」
「父さま、すみません。それは僕のせいです」
「お前の?」
「この間、試したいことがあったのでこの馬車を使い改造しました」
「・・・どう改造したんだ、ケネス」
「まずは・・・」
俺は馬車に試したものを説明していく。
まず、外装はこれまでと同じであるが耐久性は大きく引き上げた。
例えドラゴンの攻撃を受けても耐えきるくらいの強度は持っているし、重力魔法を付加して衝撃をほぼなくした。
次に中の空間を拡張して、ミーティングルーム・キッチン・トイレ・寝室・使用人室などを盛り込んである。
全体的に寝台特急を思い浮かべればいいだろうか?父さまたちは個室だが、使用人たちのベットは二段ベッドになっているが寝心地はかなり改善した。
さすがに硬いベットには、寝かせられない。
キッチンには、防音・防臭を付加した壁に魔改造したコンロと冷蔵冷凍庫・オーブンとかなり充実していて正直、屋敷のキッチンよりも性能はいい。
よって、改造前の面影はもうどこにもない。
「こんな感じの改造をしました」
「・・・そうか、だがしかしこれは」
「そうですな。もし新品で買うなら、白金貨が何枚必要でしょうか?」
「ルドム、胃が痛くなるから言わなくていい」
「畏まりました。・・・・・・最低でも20枚でしょうか?」
ルドムが小さくつぶやくとカインは胃の辺りを抑えてしゃがみこんでしまった。
金貨一枚で大体百万円ぐらいで白金貨は金貨十枚で一枚の価値があるだから・・・約二億!?
王族専用馬車でもここまでしない。
「カイン様、そろそろ出発しなければいけないかと」
「わかっている。・・・荷物は積み込んだな」
「はい、準備は整っております。後はカイン様お乗りになれば直ぐに出せます」
カインは、周りを見ると既にニーナと息子は乗り込み、同乗する使用人も出入り口に待機している者以外馬車に乗っているの状態だった。
全員が乗り込んだのを確認すると、ルドムは馬車を走られる。
ここから王都まで馬車を使えば一週間の予定だ。
護衛の騎士たち10騎が周囲を固めて、王都へと出発する。
家族揃ってどこか行くのは初めてなのでどこか興奮していた。
基本的に貴族の移動はお金がかかる。
今回の王都への移動も途中いくつかの街などで宿泊するなどして、お金を落としてくことで経済を活性化しなければならない。
それとは別に自分を守るために護衛は付けなければならないし、一人では何もできないから使用人などが複数が傍にいたりととにかく費用が掛かる。
故に貴族の一行=大量の金貨が成り立つ。
だからこそ欲を走った盗賊が襲ってくるわけであるがことホラント辺境伯家の一行は襲われることは少ない。
護衛の騎士たちは最低でもランクBランク以上が選抜されるし、何より乗っている貴族がそれ以上の武力を持っているために中々手を出す輩はいない。
のどかな風景を見ながら、次の街がどんな場所なのか考えていると不意に頭の中に声が聞こえた。
(御屋形様、この先で貴族の馬車が襲われております)
(なに!?本当か?)
(はい、しかも相手はSランクのジャイアント・センチピードという大ムカデと、大量の地蟲です)
(数は?)
(ジャイアント・センチピードは一体だけですが、配下の地蟲の数は100は超えています)
(分かった。まずは父さまたちに報告をしてからだな)
(それから・・・には、・・・ます)
カスミからの報告を受け取り、マップを確認するとこの先の平原で馬車一台とおそらく護衛の騎士だろう反応が15と他2に対して魔物は100以上はいる。
しかし、腕のいい魔法使いがいるのか少しずつだが数は減ってきているが多勢に無勢であった。
「父さま、この先で戦いが起きています。蟲型の魔物が100以上います」
「なに!?それは確かか?」
「はい、急がなければ全滅です」
「・・・分かった。ケネス、この間の騎士団は呼べるのか?」
「出来ます」
「では、先遣隊としてお前たちが行ってくれ。私たちも直ぐに行く」
「わかりました。では」
俺は、召喚リストから「白狼騎士団」を選んで召喚する。
魔法陣が発動して強い光共に彼らが呼び出された。
「イゼルナ、急ぐぞ!」
「はい、主」
「白狼騎士団、出撃!!」
俺たちは馬に跨ると、騎士団は一斉に駆けだす。
「支援魔法「クイック・ムーブ」」
創造した移動支援魔法を騎士団に掛けると、流れる景色が加速する。
緑があった景色から、見通しの良い平原へと出るとそこに奴らはいた。
大地を埋め尽くすように進む地蟲の群れが前を走り、その後ろにジャイアント・センチピードが後詰めとして控えている。
そんな津波のような群れに抵抗する存在があった。
「・・・バーンストライクッ!」
馬車を中心に抵抗する集団の中から複数の火球が地蟲に襲いかかる。
着弾した火球は爆発を起こしてダメージを与えていくが奴らの堅い外殻が軽減してしまい決定打になりえていない。
それでも効果はあるのか攻撃を受けていない地蟲よりも歩みは遅くなっている。
「イゼルナ、まずは突撃して馬車と虫たちを切り離す。土魔法の「グレイブ」は使えるな」
「はい、できます」
「良し、あの蟲は外殻は硬いけど中は柔らかいから下から攻撃した方が簡単だ」
「!!だから、グレイブを」
「ああ、切り離した後はイゼルナは騎士たちを連れて地蟲を掃討しておいてほしい」
「わかりました。主は」
「俺は、あっちだ」
視線の先にいるのは群れの主とも言えるジャイアント・センチピードがいる。
巨大なムカデは頭を起こしてこちらを警戒していた。
「行くぞっ!」
「はいっ!」
白狼騎士団と共に馬車に近づく地蟲たちを吹き飛ばすと、俺は単騎でジャイアント・センチピードに向かう。
途中振り返ると地面に何本もの武骨な土槍が地蟲を串刺しにしていくのが見えた。
視線を戻すと、ジャイアント・センチピードが大きな咢を開いて突進してくる。
難なく躱すことができたがすぐ隣の地面が直線状に一直線に削られてそのパワーを印象づけた。
「だけどっ!負けるわけにはいかないからな」
反転してきたジャイアント・センチピードの正面に止まると、俺は魔力を練っていく。
すぐそこまで迫ってきたムカデに向かってそれを放つ。
「・・・インデェグネイション」
風魔法の派生である雷魔法の最上位魔法をムカデの頭に落とす。
触角が避雷針になったのか、ジャイアント・センチピードの体全体を焼いていく。
一瞬とも数分とも感じられた光景が終わるとムカデはゆっくりとその巨体を大地に横たえた。
「ふぅっ。・・・終わったな」
「主、ご無事で?」
「ああ、大丈夫だ。それよりも彼らの安否が心配だ」
騎士団を纏めて、ジャイアント・センチピードの死骸をアイテムボックスにしまうと襲われていた彼らの元へと向かう。
彼らが必死に守っていた馬車から2~3メートルくらいの所に来るが。
「待てっ!助力に感謝するが、そなたたちは何者か?」
他の騎士たちよりも一段上の装備を身に纏った騎士が抜剣した状態で問いかけてくる。
誰もが立っているのもやっとな感じの様子だがそれでも使命を遂行しようとする彼らに不思議と嫌悪感はない。
それにあの魔法攻撃を行ったのは彼らではない。
「私は、ホラント辺境伯家カイン=フォン=ホラントが三男、ケネス=フォン=ホラントと申します。王都へと向かう途中で襲われていたあなた方を発見いたしましたので助太刀をした次第でごさいます」
姿勢を正して、名を名乗ると彼らも警戒を解いたのか剣を鞘に戻す。
そんなやり取りをしていると後ろからホラント家の馬車が近づいてくる。
「カイン=フォン=ホラント辺境伯である。そこに見えるのは王家の馬車とお見受けするがご無事か?」
よりによって王家の馬車だったようだ、俺のスローライフが・・・。
そんなことを考えていると、護衛の騎士の間から少女と女性の二人が現れる。
「・・・私は、ローレンシア王国第二王女のエステリア=フォン=ローレンシアです。こちらは侍女のメアリーです。助けてもらい感謝します」
そう答えたのは、少女の方であった。
肩まであるロイヤルパープル色の髪とアメジスト色の瞳が印象的な美少女であり、おそらく俺よりも一~二才は上であろうか?
まだ成長期を迎える前なので凹凸はないが将来美人なるのは確かだろう。
だが、こうしてのんきに話をしている場合ではない。
「父さま、よろしいですか?」
「どうしたケネス、何があった」
「実はあの蟲たちが集まった原因がまだ残っています。早急に取り除かなければ、先の二の舞です」
「・・・その原因は、何ですか?」
「王女殿下の乗っていた馬車に遅効性の強力な魔物寄せが付いています。これを取り除かなければ、近隣の街にも被害が及びます」
「ばっ馬鹿なことを申すなっ!この馬車は王都からずっと我らが守護していただぞっ!いくら辺境伯の子供いえど「お待ちなさい」っ!」
騎士の言葉を遮って王女殿下がこちらをまっすぐ見てくる。
「馬車を調べることを許可します。ただしあなた一人でお願いします」
「分かりました。では、早速」
彼女たちが馬車から離れるのを確認すると、俺は馬車の屋根の上に飛び乗ると小さな穴の開いた場所を引っぺがしていく。
周りから声が聞こえるが気にしないで作業を続ける。
屋根を外すと魔物寄せが見つかったのだが、これは。
「誰か、そちらの騎士様お一人こちらに来ていただけませんか?」
「私が行こう」
こちらに誰何を行った隊長格の騎士が屋根に登ってくる。
「紹介がまだだったな。私は今回の護衛隊の隊長をしている、近衛騎士のバッラクという。それでどこを見るんだ?」
「ケネスです、よろしくお願いします。ここを見てください」
剥がした屋根の下を見せると、バッラクは表情を硬くした。
馬車の天井と屋根の間に隙間なく強力な魔物寄せが引き詰められていたのである。
屋根に空いた穴から少しずつ水が滴り、中の魔物寄せが反応して魔物を引き寄せていたのだ。
もしも、近道をしようとして魔物の多い森など通った場合、どうなるかは火を見るよりも明らかである。
「こ、こんなものが」
「まだ、きちんと効力が出ているわけではないですので処理をした方が良いかと」
「どうすればいい」
「・・・残念ですが、魔物寄せをサンプルとして採取した後、馬車ごと燃やします」
「う、うむ。それしかないか、だが王女殿下にこのことをお話ししなければいかんな」
俺たちは屋根から降りると、王女殿下と父さまたちが集まっている所に歩いていく。
騎士の険しい顔にみんなの表情は硬くなる。
「どうでしたか?ケネス様、バッラク」
「馬車の屋根に強力な魔物寄せがありました。よって魔物寄せをサンプルとして採取した後、馬車を燃やし処分した方が良いかと私は考えます」
バッラクの話を聞いたエステリアがこちらに視線を向けた。
「・・・分かりました。それではホラント辺境伯、私たちをあなたの馬車で王都まで送ってもらえないでしょうか?」
「・・・分かりました。少しお待ちを」
エステリアから離れたカインは、俺のそばに来ると馬車を見ながら聞いてくる。
「ケネス、馬車の内装を変えられるか?」
「出来ます。少し時間をいただければ」
「では、頼む」
俺は席を外すと馬車へと向かう。
こちらを見ていた使用人たちを一旦外に出すと、内装を弄っていく。
個室の部屋数を増やしたりと、増えた人数分の改装をしていくと外から視線を感じる。
振り向くとそこには、目を細めて睨みつけるようにこちらを見るエステリアの姿があった。
「・・・あなた、ケネスと言いましたね。後で話があります」
「はっはい」
それだけ言うと彼女は、戻っていく。
改装が終わったので、そのことを父さまに伝えると王女殿下たちを馬車に案内してくる。
彼女たちの馬車を炎魔法で消し炭にして戻っていくると馬車の中へと入っていった彼らの驚く声が時折聞こえてきたが、魔力を使い過ぎたのでかなりだるい。
「父さま、魔力を使い過ぎたので少し休みます」
「うむ、夕食に間に合いそうなら顔を見せなさい」
「それから、今回の件は王女暗殺の疑いがいるかと思います」
「だろうな。これは陛下にも報告しておかないといけない案件だな、こちらで手配しておくからお前は休みなさい」
「わかりました。では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
父さまと別れると、自分の個室に戻って着替えもせずに横になる。
疲れもかなりあったのか直ぐに瞼が閉じっていった。
メインヒロイン登場!
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