第13話スタンピードの終結と冒険者登録
「さあ、勝負だっ!ファレストドラゴン!」
向かってくる俺達のことが、気に食わないのか。
奴は、口から毒液を尻からは捕獲用の糸を交互に吐き出してくる。
こちらの動きを制限して、自慢の鎌で仕留めようとしているのだろうがそうはいかない。
「エアーカッターっ!」
「ガァァァァっ!」
風の魔法を発動して、奴の右目をまずは潰す。
ファレストドラゴンは突然右の視界がなくなったことと激痛に叫び声をあげる。
残った左目が、俺を視界に捉えると鎌を大きく振り下ろしてきた。
何とか避けるが、鎌は地面に深々と刺さっている。
「くっ!さすがはドラゴンを名乗るだけはあるか。イゼルナっ!騎士たちを率いて左側から魔法で援護してくれ!」
「はっ!了解しました。主、ご武運を!」
イゼルナたちがドラゴンの視界から消えるように左側に回り、俺は右側に回り込んでいくと奴は当然こちらに向かってくようだ。
毒液をまき散らしてはいるが、視界が利かないのか狙いはばらばらである。
やがて毒液では殺せないと判断したのか、今度は両手の鎌を使ってくるようになった。
始めは、左右に薙ぎ払って来たがそれを飛んでかわしていると、次は振り落として来た。
当たらないことに苛立ったのか、両方の鎌を力の限りに振り落とす。
「これを、待っていたっ!」
俺はその一撃をかわすと、深く突き刺さった鎌に向かって大きくジャンプし付け根に向かってニーベルング(剣モード)で斬撃を加える。
一刀のもとに断ち切られた両うでから夥しい量の紫色の体液が噴き出ると、奴から悲鳴とも聞こえる鳴き声が戦場に鳴り響く。
それを見ていた辺境伯軍の兵士たちは大いに士気をあげ、逆に魔物たちは大きく士気を落とす。
先ほどとは逆の光景があちこちで見受けられた。
「各騎、魔法攻撃用意っ!・・・撃っ!」
ファレストドラゴンが悲鳴を上げている間に、左後方に移動したイゼルナたちは奴の胴体部、特に糸を吐き出す場所に向かって魔法を打ち込んでいった。
魔法が着弾するたびに、ドラゴンの体に無数の傷が出来ていく。
これ以上は危険と考えたのか、ファレストドラゴンはイゼルナたちの方を向こうと反転したのが運の尽きだったのかもしれない。
自分の鎌を切り裂いた存在に後ろを見せたのだから、当然俺は奴の胴体を足場にして飛び移って行き、ファレストドラゴンの頭部に着地する。
「おとなしく、森の奥地で暮らしておけばよかったのにな「エクスプロージョン」」
頭に手を当てて、火魔法最大級の魔法を打ち込んだあと飛び降りた。
内部で発動した魔法が、炸裂してドラゴンの頭を吹き飛ばす。
重要な器官を失った体は、重力に従いゆっくりと崩れ落ちていく。
それを見ていた兵士は歓喜に沸き、魔物たちは森へと逃げて行った。
「俺達の勝利だっ!!!」
「「「「「おおおおおおっ!!!!」」」」」
俺は剣を掲げて勝鬨を上げると従軍していた兵士、参戦していた冒険者たちは生き残ったことを理解し始めたのか歓声は徐々に大きくなる。
「やりましたね、ケネス様」
「ああ、本当にな」
「ケネス様。ご無事ですか?」
ファレストドラゴンをアイテムボックスにしまうと、辺境伯軍を支援しにいていたロウが帰ってくると、呼び方が変わっていることに気づく。
「ロウ、どうした?変な物でも食べたか?」
「なんでですかい?!」
「いや、さっきまで呼び方は坊のはずだっただろう?いきなり様付けはな」
「当たり前ですよ。ファレストドラゴンをほとんど一人で倒す相手にさすがに坊主は」
「・・・できれば、今まで通りで。なんか、背中がむず痒いし気味悪い」
「はぁ~~~、わかりやしたよ。坊」
ため息を吐きながら、呼び方を直してくれたロウに苦笑してしまう。
そんなやり取りをしていると、辺境伯軍の中から数騎がこちらに向かって来る。
先頭はマーシャル軍団長であったことから、勧誘関係か?
「私は、辺境伯軍・軍団長をしているマーシャルという。此度の助太刀、誠に感謝する。我らが主のカイン様がお会いしたいというので、ついて来てくれないだろうか?」
マーシャルは俺達のことに気づいていないようだ。
それもそのはず、俺は魔法で成長した姿をしているし、ロウたちは兜のバイザーを下ろしたままの為に顔を確認できないのでわからないのだろう。
「ああ、分かった」
「ありがたい、ではついて来てくれ」
マーシャルに先導されて、俺たちは陣地の中へと入っていく。
多くの兵士たちは怪我の手当てや魔物の解体を行っている。
天幕が張られている中心部に着くと、ひときわ大きい天幕へと案内された。
「ここに、カイン様がおられるが失礼のないようにな。カイン様、入りますっ!」
マーシャルと共に中に入ると、そこにはカイン父さまとニーナ母様が長テーブルを挟んで向こう側にいる。
「カイン様、お連れいたしました」
「おお、ご苦労だった。そなたが我が辺境伯軍を救ってくれた者か、私はこの地を収めているカイン=フォン=ホラントと言うそなたは名をなんと申す」
「あなた、何をおっしゃっているのですか?」
「?ニーナ、どういう意味だ?」
「目の前にいるのは、ケネスですよ。あなたと私の息子の」
「?!なんだって、いや・・・しかし、あの子はまだ6歳のはず」
「魔法でごまかしても、母の目は誤魔化せませんよ。ケネス、それとイゼルナ、ロウ」
なぜ、バレたのかわからないがここは素直に従うか。
魔法を解除すると、高かった目線が元に戻る。
手足も縮み、元の体形へと戻っていく。
イゼルナ達も兜を脱いで、素顔をさらすとカインたちは目を大きく見開いている。
「よくわかりましたね、母様。結構自信があったんですが」
「!!本当にケネスなのか?」
「なぜ、ケッケネス様が・・・こ、ここに」
「なぜって、私はあなたの母ですから。わかりますよ」
「・・・答えになっていない気がします」
未だに固まっているカインをニーナが杖を使って、起こすと俺はこれまでのことを説明していく。
スタンピードを聞いた時から、英霊を召喚して駆けつけたことに加えてファレストドラゴンをほぼ一人で打ち取ったことなどを話し終えると。
「ケネスちゃん、無茶はしないでね。あなたに何かあったら私はどうしたらいいか・・・」
「ごめんなさい、母様」
「でも、あなたのお嫁さんを守れるくらいの強さは必要だから。私からは言うことはないわ」
余程心配したのか、話し終えるとニーナ母様は俺を抱きしめてきた。
何とかどかそうとするが、抱きしめる母様は微かに震えていたのでしばらくそのままにしている。
やがて、解放されるとニーナ母様は笑顔だったが目は赤くはれていた。
その後、回復したカインが辺境伯軍を纏めると領都に向かって行軍を開始する。
街に戻ってきた兵士たちを、領民たちの歓声で出迎えてくれたことに涙を見せていた。
カインはこの日の戦勝祝いに参加した者すべてに酒を振舞っていく。
この日は魔の森の主が討伐された祝いに大いに盛り上がったという。
それから一年後・・・。
俺は、七歳を迎えるとまずは冒険者ギルドに向かい、登録を済ませる。
この世界でギルドに登録出来るのは七歳からなので、本当に待ち遠しかった。
父さまたちは王都でのお披露目会の準備で忙しいので保護者としてとロウに来てもらう。
「坊、本当に冒険者に登録するんですかい?」
「当然だね。俺は三男で辺境伯は継がないし、これからの為に登録しておいて損はないしね」
「まあ、心配はしてはいないですが」
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「よおっ!イリーナ、今日も綺麗だな」
「ロウさん、あまり冗談が過ぎると婚約者さんに伝えますよ」
「いやっ!そっそれは勘弁してくれっ!頼むから」
「それなら最初から言わなければよかったんですよ。それでご用件は?」
「若様の登録だ」
「ではケネス様、こちらの用紙に必要事項の記入を。それが終わりましたら、こちらの石に血を一滴たらしてください」
「わかりました。イリーナさん」
カウンターにいた受付嬢・イリーナは一枚の用紙と石を取り出してケネスの前に出す。
俺は、必要事項を埋めていき最後に指を針で刺して出た血を石に塗り付けた。すると突然石が光りだし、カードの形に変わっていった。
「これで、登録完了です。紛失しますと再発行にお金がかかりますのでなくさないようにお願いします」
「ありがとうございます」
「ギルドのご説明は致しますか?」
「お願いします」
「まずギルドランクですが、Fから始まりE・Ⅾ・C・B・A・S・SS・SSSとなります。現在、SSSランクはいません。次にランクアップの方法ですが、今のランクの一つ上の依頼を10回以上達成するなどですがランクアップの判断はギルドが行います」
「なるほど、では高ランクの冒険者と依頼をこなした場合はどうなりますか?」
「その時は、合格ラインが通常より厳しくなります」
「掲示板に依頼が書かれた紙があるので、受ける際には剥がして受付まで持ってきてください」
「わかりました。・・・ああ、そうだ。素材の買取はどこでできますか?」
「右側のカウンターで行えますが、・・・もしかしてファレストドラゴンですか?」
「はい、買い取ってもらえたらいいかなと」
「・・・・・・少し席を外しますね」
イリーナさんは、受付を離れると奥の階段を上がっていく。
仕方なく、依頼が張ってある掲示板を確認しに行くことにした。
「今のランクはまだFだから・・・採取系とか荷物運びなんかが殆どだな」
「まあ、Fランクは坊みたいな年齢が多いので街の近くでできる物や街の中の奴なんかが殆どです」
「Eランクは・・・とっ、少ないけど討伐系がある、けど多くはないな」
やはり、本格的な冒険者稼業をするにはDランクぐらいは上げないといけないみたいだな。
ただ、EランクとDランクの違いはそれほど差はないが難易度は上がっている。
次はCランクの依頼を見てみようと思っていたが、イリーナさんが戻ってきたようだ。
「ケネス様、お待たせしました。ご案内いたしますのでついて来てください」
「わかりました。ロウ、行くよ」
「あいよ」
俺たちは階段を上ると一番奥の部屋へと向かう。
「ギルマス、イリーナです。ケネス様たちをお連れしました」
「・・・入れっ!」
イリーナさんは扉をノックすると直ぐに返事が来たのを確認すると、俺たちを中に案内する。
室内に入ると机の前に座って書類仕事しているギルドマスターがいた。
筋肉ムキムキで強面のおっさんが座って書き物をしている姿はかなりシュールだ。
「来たか。イリーナは戻っていいぞ。ケネス様はそこにお掛けになってください」
部屋の中央にテーブルに座るように勧められる。
三人掛けのソファーが二つと一人用が二つあったが、俺は三人掛けの真ん中に座りロウは一応護衛なので後ろに控えてもらった。
「・・・お待たせしました。今回、お呼びしたのはほかでもない。ケネス様のランクについてなのです」
「?先ほど登録したばかりですから、Fランクのはずでは?」
「本来ならそうです。が、ケネス様は一年前に魔の森の主であるファレストドラゴンを討伐しておりますので、実力とランクが合っていないと思います」
「まあ、そうですね」
「王都のギルドマスターに相談したところ、異例ですがBランクに昇格してもいいと聞いています」
「Bランクですか?」
「はい、Aランクからは国の承認が必要なのでギルドの独断ではBランクが限界です」
「・・・いえ、別にランクに不満があるわけでは」
「ですが、国に申請すれば直ぐにでもAランクに上がることでしょう」
「ありがとうございます」
「では、早速カードを更新しましょう」
ギルマスは俺からカードを受け取ると、水晶板を操作していくとカードにFの文字が浮かび上がったと思ったらすぐにBに変わった。
どうやらこれで更新は終わりのようである。
「これで終わりです。実はBランク以上になりますと新たにご説明することがありますのでよろしいですか?」
「はい、かまいません。それと、話しにくければ普段通りでも大丈夫ですよ」
「よろしいので?」
「ええ」
「わかった。じゃあ、説明をするぞ。まず、Bランク以上になると対応が変わってくる。Bランクなら騎士爵位、Aランクなら男爵位、Sランクなら子爵位と同等の扱いを受けることができる」
「貴族と同じ扱い?」
「ああ、Cランク以上になると貴族からの依頼も受けることがあるから礼儀作法なんかができないと昇格は望めない。結果、高ランクの冒険者は貴族と同じ扱いを受ける。それに高ランクの冒険者は双方の同意があれば貴族と結婚もできる、過去に何人かいた」
「ちなみにSSランクは?」
「・・・伯爵位と同等の扱いとなる。しかし、SSランクは二つの国の承認が必要だから早々なれるものではない。あと、SSSランクは最高位の侯爵位の扱いがある」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいや、もし王都のギルドによることがあったら・・・これを受付に渡せば、統括に会うことができる」
そういって彼は、手紙を俺に渡してくる。
何が書いてあるかはわからないが、変なことは書いてないことを祈ろう。
「では、私たちはこれで」
「ああ、これからの活躍を期待してる」
冒険者ギルドを出ると、俺たちは屋敷に戻っていく。
これから、お披露目会に着ていく服の採寸をしなければならない。
我が家のメイドたちが張り切っているのでかなり疲れるが、頑張ろう。
「坊、登録して直ぐにBランクならSSSランクも夢じゃないですね?」
「・・・面倒は避けたいな」
「・・・多分、無理かと」
目を合わせようとしないロウの返事に、直ぐに反論できない俺であった。
読んでくれている皆様には本当に感謝です。
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