第12話 スタンピードその2
戦闘シーンは書きにくいです。
ケネスが出撃する少し前、ホラント辺境伯領都「ケムルト」は慌ただしさの渦中にあった。
普段から魔の森へ警戒を怠ることはなく、何時でも用意が出来ているのも辺境の常識である。
だが。
「なにっ!ファレストドラゴンがいるだとっ!」
「はい、群れの奥にいるのが確認されました。現在、迎撃の準備をしております」
「・・・マーシャル。ケネスに伝令を送ってくれ」
「はっ!内容はいかように?」
「内容は「来るなっ!」だ」
「はっ!直ぐに送ります」
「ふぅ~~~」
マーシャルが退室するとカインは椅子に腰かけると深く息を吐く。
これがいつものスタンピードだったらまだよかったが、今回は危険が大きすぎる。
最悪、ロウにケネスを王都まで送ってもらうことも視野に入れなければならない。
そんなことを考えているとニーナが部屋に入ってくる。
「あなた、今回のスタンピードは勝てそうですか?」
「正直にいって難しいかもしれない。ファレストドラゴンはランクSをいく魔物だし、他にも多くの魔物がここを目指している。多くの犠牲を覚悟しなければならないだろう」
「そうですか」
「とにかく、私たちがするべきことは・・・ここでやつを打ち倒すことだ。ニーナ、力を貸してくれ」
「はい。あの子のためにも」
その後、準備が整った辺境伯軍は出撃していく。
鍛え上げられた彼らでもドラゴンと相対することに一抹の不安が見て取れた。
それもそのはずファレストドラゴンは、ドラゴンの名前が付くがその姿かたちはカマキリに似ている。
大振りの鎌を両腕に生やし、繰り出される攻撃はすさまじく鉄の鎧をいとも簡単に切り裂く。
胴体のお尻には蜘蛛のように粘着質の糸を飛ばすことができ、これを使って森の中でも餌を調達することと戦闘では相手を絡めて動きを封じることもしてくる。
しかし、この二つよりも最も恐れるのは口より吐き出される毒液であろう。
喰らえば装備と一緒に溶かされた後、即席の肉団子に作り替えられて巣に持ち帰るらしい。
そのことから、魔の森の主ともいえる存在である。
そのような化け物が後ろに控えているのだ少なくない恐怖が彼らを蝕んでいく。
「見えたぞっ!!」
「総員っ!隊列を組めっ!」
「弓兵隊・魔法隊、射程に入り次第攻撃を開始っ!」
「「「「おおおおおおおおっ!」」」」
体を覆い隠すような大盾を持つ重装歩兵が前衛を固め、後衛の魔導士・弓兵を敵の攻撃から護り抜く。
魔導士や弓兵たちは、自分たちを護っている前衛の負担を少しでも軽くするため敵を削る。
弓や魔法で足並みが崩れた魔物に向かって、軽装の歩兵部隊が牙をむく。
この日の為に鍛え上げられた彼らは、息の合った連携で魔物の群れを切り裂いていった。
戦列が押し上げられるたびに、地面には敵味方双方の死体が大地に横たわり、流れた血が川となっていく。
だが・・・順調と思われていた戦いも、簡単にひっくり返されてしまうことがある。
「ガァァァァァァァっ!!!!」
不甲斐ないと言わんばかりに戦場に響いたファレストドラゴンの雄たけびは、兵士に恐怖をそして魔物には畏怖を植え付けた。
委縮した兵士たちに、がむしゃらに突っ込んでくる魔物たちが少しづつ勝っていく。
前衛の重装歩兵が崩れれば、次は防ぐすべのない魔導士・弓兵が襲われてしまう。そうなってしまえばもう立て直せない。
彼らに焦りの色が見え始めた時、耳に聞こえたのは地響きのような音である。
微かに聞こえ始めた声は、ここにはいないはずの人の物であった。
sideケネス
あと少しで、魔物の群れを射程に収めようとした時。
「ああ、坊。ちょいっといいですかい?」
「なんだ、ロウ。今忙しい」
「坊が規格外なのはわかってますが、もう少し体を大きくできませんかい?」
「身長のことか?」
「違和感が半端ないですので、何とかなりませんかい?」
まあ、確かに前世なら競走馬ぐらいの大きさの馬に6歳の子供が鎧兜を着こんで武器を持ってまたがっているのを見たらギャップがひどいな。それに手足が足りないから動作がかなりおかしい。
確か、時空間魔法に一時的に姿を変える魔法があったな。
・・・イメージを固めて、魔力を流して。
「・・・・・・できたかな?」
「おお、出来るもんですね。いや、マジで」
「・・・視線が急に上がるのは、やっぱり怖いな」
魔法で変化させた自分の姿を確認する。
身長はロウと変わらないくらいに伸びている、手足もすらっとしていて細マッチョな感じがした。
髪は伸びていないらしく、ニーナ母様から受け継いだ銀髪がそこある。
全体的にみるとかなりのイケメンに成長した感じだ。
「このまま舞踏会にでも参加したら、そこらの令嬢が群がってきますな」
「別の意味で怖いから、やめてくれ。ロウ」
「はっはは、確かに今はそんなことを話している場合ではないですな。では、行きましょう」
「ああ」
俺達は群れに向かって馬を走られていく。
だが、初めての集団戦闘が確実に恐怖を生み出して心を蝕んでくる。
ここで引いたら、オーディン様からスキルを加護を貰った意味がなくなっていく。
だったら、何が何でも勝って見せる!
以前ロウから聞いた、新兵が戦場に出るときに使われるという精神系の闇魔法を自分に掛けていくと、効果直ぐに出た。
「坊?どうかしたんですかい」
握りしめた拳を額に当てて、魔法を使っていると隣から話しかけられるがもうそんなこと二の次である。
恐怖心が高揚感に置き換わり、別の意味で体が震えてきた。
「・・・・・・・・ふっふふふ、くはっはっはっ!初めての集団戦がスタンピードとは!全くっもって最高の舞台じゃないか?!しかも、最奥にはドラゴンが控えているなんてなあっ!」
「あ~~~あ。あの魔法を使ったのか、おれ知らね」
あきれるロウを尻目に、馬を加速させて行く。
手にした「ニーベルング」を握りしめ、風魔法で強化した騎士団と共に倒すべき敵を視界に収める。
興奮で笑みがこぼれていく。
「・・・進め!進め!!進めっ!!!潰せっ!蹴散らせっ!」
一本の槍とかした騎兵が魔物を踏み潰し、突き刺しながら群れの中を切り裂いていく。
踏み潰すごとに飛び散る血しぶきは、事前に掛けた風魔法により弾き飛ばされる。
やがて異変に気付いたのか、オークの重装歩兵の一団が前に立ちふさがるように向かってきた。
「主っ!迎撃部隊と思われる群れが、前方にっ!」
「望むところだっ!自分たちが誰の前に出てきたのか、その体に刻み込んでやるっ!我々のするべきことはこいつらの殲・滅・だっ!」
「ブヒっ!!!ブヒヒヒヒッ!」」
自慢の盾で防ごうとしたオーク共は、騎士たちに触れた瞬間木の葉のように吹き飛んでいく。
あるオークは顔面を踏み潰され、あるオークは上半身と下半身が泣き別れた。
群れを横一文字に切り裂いていくと、辺境伯軍の方から鬨の声が上がる。
どうやら反撃に転じようとしているようだが、うまくまとまれていない。
「坊っ!何騎か貸してください、あいつらを援護したいのでっ」
「わかった。・・・10騎、ロウを援護しろっ!」
「ありがてぇ。10騎、来いっ!」
ロウを含めた11騎の騎兵隊が辺境伯軍の援護のために、隊列から離れていく。
それを確認した俺は、隊列を組みなおして今回の目標に向かう。
一段高い丘に陣取るのは、今回のボスである「ファレストドラゴン」が赤く濁った眼をらんらんと輝かして俺を見ていた。
「さあ、勝負だっ!ファレストドラゴン!」
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