サラリーマンは走り出す
「よーし、誕生日おめでとう俺!」
28回目となる全くめでたくなもないものを祝いながらいつも通りの8時に家を出る。しかし、駅まで向かう道のり、いつもと違うことが起きた。
犬と目が合った。灰色の大型犬、いや狼か?そんな動物今日日日本にいるのだろうか。まあ、そんなことはどうでもいい。ただただ目が合った。というより見つめられたのか。分からないがその犬は、不意に走り出した。道路に向かって。
「おい!危ねえ!」
普段ならそんなことはしないであろう。普通に轢かれてグチャグチャになるのを眺めて、何も思わずに駅に向かったであろう。
何故かダメだと思った。このままでは一生後悔することになる、理由は分からないけど変わらなくてはと思った。
走り出す、なにせ久しぶりに走るのだ、傍から見ればとても不格好であっただろう。
道路へ飛び出す、あの犬を捕まえて安全なところに運ばなければ。不意に、ガッと。
落ち着いて考えれば当たり前だ、何故そんなことも分からなかったのか。自分の視界が曇天の空を見上げている。そりゃあ、俺だって轢かれるか。
腰から下の感覚がない、轢かれたトラックにそのまま潰されたか。あの犬はどうなったのだろうか。首は動かない、目だけであたりを見わたす。
「よお、無事だったのかよ。ケロッとしやがって、もうあんなことすんなよ?」
到底伝わっているとは思えないが、そんなことをボヤきながら犬の頭を荒々しく撫でまわす。
薄れゆく意識の中、最期に感じたのは喉元にかぶりつき、息の根を止めんとする牙であった。痛みはもはや感じなかった。