兵器少女の初陣
扉の開く音に、読もうとした本を閉じた。
「ルネさん……あ、私の本ですね」
部屋に入ってきたのは、銀の髪の少女。わたしが手にしている本を見て、そう言った。
「お久しぶりです、シキ・リズベリア・アールスタインさん」
「懐かしいですねえ……私は皆を裏切ったのに。ミリィたちは私を許して共に生きてくれた」
彼女こそが、開いていた“兵器少女のおはなし”の主人公。そしてここを訪れられる神の顕族以外の存在“異端訪問者”。
「少し、昔話を語ってもいいですか?」
「ええ。貴女のはなしには興味があるの」
じゃあ初陣の話でも、と言って、彼女は語り始めた。
私がアールスタイン部隊に配属されてしばらくは平和でした。砦の近くの山にピクニックに行ったりもしたんですよ。
ところが、半年が経った頃でしょうか。砦が侵攻を受けました。私が初めてこの力を使ったのもこの時です。
「敵襲だ! 皆、戦闘準備して出ろ!」
部隊長のアキュリアさんが叫んで、目が覚めました。
気付けば他の皆はさっさと準備して外に出てて、私もとりあえず外に出たんです。外って言っても、砦の屋上なんですけどね。
そこにはミシェルさんがいて、愛用の銃で砦に近付く敵を狙撃していました。観測主としてアリシアが一緒にいて。
「シキ、何故こっちに?」
「そげきはミシェル兄とアリシアのしごとだよ?」
「私の力は、敵の能力を見通すことですから。使うの初めてだから、うまくいくかわからないんですけど……」
感覚を視覚に集中させて、周囲を見渡して……敵がどう動くか、強そうなのはどれか、観察して、分析する。それが生まれ持った力でした。
「ミシェルさん、あの赤い全身鎧、狙えますか?」
「アリシア、どれだ? 射程外ならアキュリア姉さんかアイリスにやってもらう」
「んー、ミシェル兄のじゃむりかなー。でもなんで?」
「あれが司令塔のようです。それと体格や動きから、一人や二人ではちょっと戦うの厳しそうなので」
「ならアイリスに。必要ならルイやディエゴの手も借りるように言え」
「はいはーい。アイリス姉と話すからよろしく」
アリシアは伝言魔法……いわゆるテレパシーが得意な子なので、上から見てわかったことを報告する役を幼いながらも任されていると聞いていました。というか、アールスタイン部隊はこういう特殊な能力者の配属先だったんです。
少し沈黙したあと、アリシアは「つたえおわったよ」と報告しました。
「『エミリアが負傷したから砦内部で処置中』って。あとアキュリア姉から『狙撃は十分だから少し休め』って」
「了解。アリシア、シキについて、何かあったら伝えるように」
「はーい」
それから数十分ほど、アリシアと戦況を見ながら他愛ない話をしていました。我ながらあほです。戦闘中にする会話じゃなかったです。
まあ全身鎧落としたら楽勝できると思ったからですけど……
そしてその予測は当たり、アイリスさんとディエゴさんが全身鎧を倒してすぐにすべての敵が制圧されました。負傷者はエミリアさんとダニーさんだけというちょっと異常なぐらいの戦果でした。
夕方の祝勝会で、料理上手なルイさんがちょっと豪華な料理を作ってくれました。
「今日が初陣のシキちゃんもいることだし、せっかくだから豚丸焼きにしたよ! スープとサラダはまだあるからね、あと今デザートのアップルパイ焼いてるからね」
「ルイはなんかお祝い事あるとすぐに豚の丸焼きかローストビーフにするよね」
「そう言うなエミリア。実際、初陣はめでたいことだ。お前の時もそうだっただろう?
さて、今回の勝利を祝して、乾杯!」
『乾杯!』
「やっぱりルイの料理はうまいな。シキも遠慮はいらんから沢山食えよ」
「ありがとうございます。ではいただきます」
隣に座っていたディエゴさんに勧められて、お肉をちょっととって食べました。これが本当に美味しくて。お肉ってこんなに美味しいものなんだって思いましたよ。
「あれ? シキちゃんどうしたの?」
「いえ……すっごく美味しくて、私、ここにいられてよかったなって」
「美味しいって言ってもらえると料理の作りがいあるね」
「まあ、砦ならすぐに食材が揃うからな。行軍中はまともな飯は食えないから覚悟しとけよー」
そう言いながらいきなりくっついてきたダニーさんはちょっとお酒飲んだみたいでお酒くさかったですね。
「ちょ、ダニーお酒くさい」
ディエゴさんの逆隣のマユが代わりに言ってくれましたが。
「ほどほどにしておけよ」
「アキュ、俺は少し酒飲んだほうが傷の治り早いの!」
「ねえねえ、シキはここに来る前どんなところにいたの?」
アキュリアさんとダニーさんの言い合いに困ってたら、フロウが聞いてきたんです。
「あ……えーっと……」
「ああ、ダニー兄とアキュ姉はおいといていいから。いつものこと」
「そだよ、私もシキの出身気になる」
「アイリスさんまで……えと、私、ここに来るまでの記憶、無いんです……」
これは事実でした。書面上の記録はありましたが、それを読んでも何も思い出せなくて……
いいよどんでいると、エミリアさんが「やめなよ。あたしらにだって言えないことぐらいあるでしょ」と止めに入ってくれて、なんとか……ルイさんが人数分に切り分けたアップルパイを持ってきてて、二人の興味は完全にそっちに行ってくれたのもありました。
ルイさんのアップルパイ、美味しかったですよ。できればまた食べたいぐらい。
酔っぱらったダニーさんがテーブルに突っ伏して寝始め、アリシア、アイリス、フロウのちっちゃい子たちが眠気を訴えるまで、みんなで話して、騒ぎました。
「……あんまり面白味はないですね……」
シキは、少し申し訳なさそうに締めた後言った。
「わたしにとって大事なのは、事実を知ることだから。事実に面白味も何もないよ」
「……そうですね、“書斎少女”の務めは、この場所の管理……“神”が作り上げたすべての記録を、正しく管理すること」
彼女は何百回とここを訪れるうちに、わたしの使命も理解できるようになった。わたし自身、使命に気付いたのはほんの二百年前だけど。
人間のスケールからすれば長いけれど、人の理から外れたわたしからすればほんの少し昔、というだけだ。
先代の管理人が死んで二百年間、ここは管理人がいないままだった。わたしのお姉様が管理をやっていたけども、お姉様は本当の管理人にはなれなくて、わたしが育つまでの代わり。
その間に、書架は傷み、世界の記録はあちこち欠けてしまった。
それを修復するのが、今のわたしの使命だ。
「……じゃあ、また話しに来ますね」
外に繋がる扉を開けるシキ。
「もう行くの?」
「はい。最近、面白そうな場所見つけたので」
「……また来てね」
「はい、また」
そう言って彼女は外の世界に戻っていった。
どうも、雪野つぐみです。
まーた、やらかしました。企画遅刻です。最近忙しくて……いきなりテストとか決めないで……(言い訳)
今回はお題、「部隊」、十二人縛りで書かせてもらいましたが、意外と人数多いの大変……実は昔から書いてる連載より多いです(まああれは世界滅んでますが)。
最後に、前回遅刻をやらかしたにも関わらず今回を企画してくれた文群さん、今作を最後まで読んでくださった皆様に、感謝の言葉を。