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捻くれ勇者と七つの紋章  作者: Yuma
第一章
8/11

捻くれ少女、からかう



 神官に心当たりを聞いたロイに引きずられ、リタはオヴェリアを経った。

 コーネリアは援軍を呼ぶため城に向かったので別行動だ。


 オヴェリアから南へ少し歩いた場所にある廃墟。

 そこに最近、盗賊が出入りしているらしい。


 騎士たちが調査しに向かったこともあったらしいが、何の収穫もなかったそうだ。


 さすが騎士たち、無能だな! と心の中で毒を吐く。騎士見習いのコーネリアに聞かれれば間違いなく怒られるだろう。



「……ここが神官様が言っていた廃墟だね」



 周りを森に囲まれた廃墟はとても薄暗く、おどろおどろしい雰囲気だ。


 古錆びた門の奥にある建物は昔、王族たちの別荘として使われていたらしい。

 しかし、王族たちが相次いで不審死したため、今では使われなくなったそうだ。

 その話と外観は肝試しに打ってつけだろう。


 背後では不気味なくらい、カラスの鳴き声がよく響いていた。



「うう、怖いよう……や、やっぱりコーネリアが来るのを待つ……?」


「……無理やり私を連れて来たあんたが弱気にならないでくれる? ったく、こんなことなら来なければよかったじゃない……」



 小さく謝られるが、それでも腹の虫は治まらない。


 その時リタは、あることを閃いた。


 リタの浮かべた“悪魔の笑み”に気づかないロイ。

 足音を立てないよう彼の背後に回り――



「わぁ!!」


「……っ!!?」



 ロイは声を上げられなくなるほど、驚いてしまったらしい。

 うまくいったことに満足し、リタは腹を抱えてケラケラと笑う。


 涙目のロイに睨まれようが全然怖くなかった。



「これで無理やり連れて来たことは水に流してあげるわ。というか、幽霊なんているわけないでしょ?」



 けど、と怯えるロイを置いて廃墟の門に手をかける。




 ――その時、声が聞こえた。「クスクス」という笑い声。



「「……」」



 二人はゆっくりと、互いの顔を見つめ合う。



 リタはロイに尋ねる。「今の声はロイのものでしょ?」と。


 ロイもリタに尋ねる。「今の声はリタだよね?」と。



 しばし、沈黙。



「で、出たああああああ!!」


「うっさい! 盗賊に聞こえたらどうすんの!?」



 恐怖を大声で誤魔化しながら、二人は廃墟の周りを見る。

 森が広がっているだけで、誰かがいる様子はない。だが――確かに、聞こえたのだ。


 リタは腕をさすりながらも中に進む。早く帰りたい一心で。

 ちなみにロイは、リタの背に隠れていた……。



 一陣の風が、不安をかき立てるように背中を撫でるのだった。






 外観もさることながら、内観もすごかった。

 何がすごいかって、幽霊が出てもおかしくなさそうな見た目だったのだ。

 玄関では自身よりも大きな鎧に出迎えられ、その奥に続く明かりの灯されていない暗い廊下。

 廊下を歩く度に床板は悲鳴を上げ、天井には蜘蛛の巣が張り巡らされていた。


 まるでお化け屋敷に来ている気分で、幽霊を信じていないリタでも少し怖いものを感じる。



「……本当にここにいるのかね?」


「い、いなきゃ骨折り損だよ……」



 とりあえず人の背後に隠れるのはやめろよ、と思うが言わないでおこう。

 背後からの不意打ちに備えることは大事だから。

 リタはいつ盗賊に出会っても大丈夫なよう、剣を抜いておく。


 そして、右手にあった扉を蹴破った。手で開けるなどという行儀のいいことはしない。



「いないわね」


「リタ……扉、壊れちゃうよ……?」


「誰かの所有物じゃないし、問題ないわ」



 遠慮なく扉を次々と蹴破り、盗賊を捜す。

 ちなみに、蹴破る時は物音を立たないよう、最大の注意を払っている。頑張りどころがおかしいのは昔からだった。


 いくつもの扉を蹴破ったが、盗賊の姿はどこにもない。



「……もう逃げたのかね」


「うーん……でも、そしたら神官様に会わせる顔がないよう……」



 廃墟は二階建てなのだが、階段は壊れていたのでそちらにはいないだろう。


 一階に残る扉はあと三つ。リタの左右にある扉と、目の前の扉。

 リタはロイに聞き耳を立てるよう指示する。



「――こことここから、声が聞こえる」



 目の前の扉と、左の扉を指差すロイ。

 聞こえる話し声の数は左の方が少ないらしい。



(最初に左に行って、物音で気づかれたら逃げられるし……。

 目の前の方に行ったとしても、こんな狭そうな場所で挟み撃ちはきついわね)



 しばらく思考し、リタが蹴破ったのは――左の扉だった。

 中にいた二人の男が声を出して驚くよりも早く。


 リタは駆け出した。



「おねんねの……時間よッ!!」



 身長の高い男を飛び蹴りで壁まで吹き飛ばす。まず一人目。


 隣の小さい男が悲鳴を上げようとするが――その時にはもう、華麗な回し蹴りが彼の口元に放たれていた。



 ……こうして、ほんの数秒で二人の屍が出来上がった。



「ご、ご愁傷様です……」


「よし、身ぐるみを引っぺがすわよ」


「えっ」



 大きい方の服を着てから、小さい方の服をロイに渡す。

 若干、というか結構臭うが、我慢するしかあるまい。……ロイの方よりは遥かにマシだから。



「り、リタ……気のせいかこれ、濡れて――」


「さっさと次の部屋行くわよ」



 文句を聞かないよう言葉をかぶせ、奥の扉を開ける。

 ここにいなければ残りの扉が一つになるということなのだが。



 部屋の中にはくつろぐ盗賊が五人いた。

 女一人に男四人。

 リタ一人では相手にできなさそうな人数だ。


 きっと、騎士たちが到着するにはまだ時間がかかるだろう。



(どいつが倒しやすそうかね……)



 品定めするように盗賊たちを見渡す。


 そんな変装したリタの元へ、赤髪の男が近づいて来た。

 その態度はとてもフレンドリーで、恐らくこの服の持ち主と仲がいいのだろう。


 まあ、リタにはこれっぽっちも関係ないのだが。




 悪魔は嗤う(わらう)。「獲物はこいつに決めた」と――



「ん~? よく見たらおまえ、なんか縮んでねぇか? それにさっきの物音は――ぐはっ!?」



 腹に拳をめり込ませ、前屈みになったそいつへ……さらに“いいモノ”を食らわせてやる。

 振りかぶられた足は無慈悲にも、男の“ある部分”へと命中した。



「……ッ!!?」



 あまりの痛さに言葉も出ないのだろう。

 表現するなら「ゴリュッ!」という音が聞こえてきそうなほど、男性にとってえげつない蹴りだった。


 その場にいた男全員が、思わず彼の蹴られていた場所を押さえる。



 悶絶し、前屈みのまま倒れた男を見て、リタは笑みを浮かべる。まさしく“悪魔の笑み”。


 着心地の悪い盗賊の服を脱ぎ捨て、次の獲物へと目を向ける。

 短い悲鳴が部屋に響き、いかに恐怖しているかということを明確に表していた。




 そしてまた一人、リタの蹴り技で男が旅立った。



「お、おまえたち! 相手は子供なんだよ!? さっさとやっちまいな!」



 紅一点の、赤い髪飾りが印象的な女盗賊が叫ぶ。

 だがしかし、男たちは完全に畏縮してしまっているようで、誰一人としてリタに襲いかからない。


 それどころか物陰に隠れ、「姐御頑張ってくださいー!」と叫んでいた。とても見事な他力本願である。



 目の前の女盗賊は苛立ったように頭をかきむしり、リタを睨んで――何か閃いたように口端を上げた。

 危険を感じ、剣を構えるが。



「うわぁ!?」



 何故か、隣にいたロイが女盗賊に捕まっていた。

 敵に捕まるなんて鍛錬が足らんな、とため息を吐くと、女盗賊は勝ち誇ったように高笑いを上げる。



「あんたのお仲間を傷物にされたくないなら……大人しく降参しな!」



 ロイの首元には、ナイフが突きつけられている。

 涙目のロイを見て、次に勝ち誇った様子の女盗賊を見る。


 彼女は自慢するように自身の豊満な体を見せつけ、艶のある橙色の髪をなびかせた。



「……この巨乳女が」



 ボソッと呟くと、女盗賊はリタのそれを見――勝ち誇ったように鼻を鳴らす。


 リタの額に青筋が浮かぶ。

 それを見ていたロイの顔が青ざめた。



「ハンッ。大きければいいって物じゃないのよ? わかってないわね」


「お嬢ちゃんみたいな小さい小娘が言っても、ひがみにしか聞こえないけどねェ?」


「……もぎ取るぞ」


「ハッ! やれるもんならやってみな?」



 人質であるロイをそっちのけに、両者の間で火花が散る。


 リタは若さとバランスの良さを。女盗賊は色香と大きさを主張する。

 果てしなく馬鹿らしい争いに、外野の盗賊たちはワイワイと騒ぎ出す。とても楽しそうだ。


 女盗賊は男たちに振り返り、問いかける。


 どっちの方がいいか、と。



「俺はそっちの小さい方の子で!!」


「お、俺もその子で……。というか、結婚を前提に……!!」



 頬を染めた盗賊二人の視線の先。

 そこにはリタの姿――ではなく、慌てふためくロイの姿が。


 鬼のような目が、彼に向けられた。



「お嬢ちゃん、いったん休戦よ」


「オーケー。私もそう思っていたわ」


「えっと、あの……僕悪くないよね……?」



 鬼二人にその声は届かない。

 女盗賊は再び、ロイの首元にナイフを突きつける。


 ロイが助けを求めてこようが、リタは無反応だった。



「じゃああんたのお仲間の許可ももらえたし……傷物にしてアゲル」


「ひっ……」




「――別に傷つけてもいいとか言ってないんだけど」



 その声に女盗賊が振り返るも、もう遅かった。



「勝手に勘違いしないでほしいんだけど。この年増女め」



 ロイを奪い返すついでに女盗賊を殴っておいた。余計なことしやがって! という気持ちを込めて。


 幼少期のロイは、怪我をすると鼓膜が張り裂けんばかりの大声で泣き喚いたのだ。

 あの破壊力といったら、思い出すだけでも顔が青ざめる。

 成長した今はもう、治っているのかもしれないが……正直、この身をもって試すのは避けたい。体が持つ気がしない。主に耳が。



「この……小娘がッ!!」



 逆上した女盗賊のムチを避ける。


 離れた場所にロイを放り投げてから、舌を出して彼女をからかう。

 こんな時間がとても楽しみなリタである。


 忌々しそうに女盗賊はリタを睨み、指差した。



「あたいは誇り高き“フォエルバ盗賊団”幹部のフォーリンだ!

 ぺたん小娘、このあたいと勝負しな!」


「へぇ……アフォーリンおばさんが相手になってくれるんだ?

 ……でもまあ? 他の盗賊があんなんなじゃ、あんたも大したことないんだろうけどね?」


「こ、このガキ……! いつまでも減らず口を……!!」



 簡単に激情した女盗賊フォーリンに、リタは含み笑う。


 彼女の腰には魔導書が提げられていた。

 魔法を使うと踏んだリタは、敢えて彼女を煽っていたのだ。本来の性質なところもあるのだが。


 もし魔法を使えたとしても、ここまで精神が乱れていれば弱体化するはず。




 そう、思っていたのだが。



「“焼き尽くせ”!」



 火炎魔法は想像よりも遥かに、強い威力だった。


 まさか逆上した状態でここまでの魔法を放てるとは。

 魔法を避けながら、どう倒そうかと考えを巡らす。


 防戦一方なリタに、フォーリンは得意げに笑う。その後ろからは歓声が飛んでいた。


 その喜びように、隠れているやつらからやってしまおうか、と思わず考えてしまう。黒こげになりたくないので実行しないが。

 憂さ晴らしのために睨むと、情けない悲鳴を上げられた。これでも盗賊なのだろうか……。



「あんた、部下に恵まれてないわね」


「……案外気が合うようだね。あたいもちょうど、そう思ったところさ」



 リタとフォーリンに見られた盗賊二人は、ポッと頬を染める。

 そして照れたようにクネクネと動き出した。ハッキリ言おう、気持ち悪いと。


 足元に“偶然”落ちていた木片を拾い、思考する。その間、木片は何度も宙を舞っていた。


 やがて思考を終えたリタは木片をキャッチし、それを“ゴミ箱”へと放り投げる。ゴミはゴミ箱へ。とてもいい言葉だ。


 フォーリンはリタの行動を止めることなく、黙って一連の動作を眺めていた。



「あふぅん!?」


「うごふ!」



 何かの悲鳴が聞こえたが、木片は見事ゴミ箱へと沈められた。

 手を叩き、改めて目の前の盗賊を見据える。



「――待たせたわね。あんたはこの私がぶっ潰してあげるわ」



 剣を構え、切っ先をフォーリンへと向ける。



「ふん。その威勢、どこまで続くか見物だね」



 ムチで床を叩き、魔導書を構えるフォーリン。



 女の対決が今、始まる――!




「……僕は蚊帳の外なんだね……」



 少年の呟きは戦いの音にかき消されるのであった……。




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