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捻くれ勇者と七つの紋章  作者: Yuma
第一章
10/11

捻くれ少女、寝ぼける

最近忙しくて更新遅れてます、ごめんなさい……。



 帰りの魔導船にて。


 リタは疲れてしまったのか、寝そうになっていた。

 体をどこかにもたれさせたい。そう考えたリタは手を彷徨さまよわせる。


 リタはがっしりした何かを掴み、引き寄せた。背もたれゲットである。



「ロイ、動くなよー……。もし動いたら恥ずかしい話、国中にバラすからね……」



 寝ぼけるリタは掴んだものをロイと決めつけ、背を預ける。


 ちょうどいい高さの背もたれだ。



 理想の姿勢になれたリタは、夢の世界からの誘惑に乗ろうとして――煩わしそうに目を開けた。


 いいところで背もたれが身じろいだのだ。

 文句を言おうと、背後を振り返り……二、三回、目をこする。



 予想していた女顔ではなく――臙脂えんじ色の髪を持つ“男”がいたのだ。


 目を見開いて男を凝視するリタ。対する男は困ったように笑う。



「……ロイが、おっきくなった……?」


「寝ぼけているのかい? 私はきみの言うロイ君ではないよ」


「うぅん……? うーん……」


「ハハ、これは完全に寝ぼけているね」



 男に肩を掴まれ揺らされる。

 徐々に速度は上がり……目眩を起こしそうなレベルにまで達していた。



「よ、酔う……。酔うからやめろぉぉ……」



 放送できない姿へと変わる直前に、ようやくリタは解放された。


 最近肩をよく揺さぶられるのは気のせいだろうか……? いいや、きっと気のせいじゃない……。



 遠い目をしていると肩を叩かれ、思わず身構える。まだやる気かこいつ!?



「何もしないから警戒しないでくれないかな……?」



 苦笑いの男をずっと注視するが、言葉通り何もしてこない。

 仕方ないので話を聞く態勢に入ってやる。完全には警戒を解かずに。


 それはそうと――



(そういえば誰だこいつ)



 疑問を口に出せば、苦笑いが返ってきた。名前を返せ名前を。



「なに、名乗るほどの者でもないさ」


「なるほど。おまえが不審者だったのか」


「そうそ――って違うから。……ハァ。きみのそういうところ、変わらないようだね」



 ため息を吐き、一人でボソボソと何かを呟く男。


 怪しむ視線を向ければ「誤解だ!」と手を振られた。

 否定するところもまた怪しい。やはりこいつが不審者に違いない。


 ロイやコーネリアの姿がないのも不可解だ。寝る前までは一緒にいたはずなのに。

 もしやこいつが――



「私は人さらいではないからね?」


「何故バレた」


「口に出して言っていたけど……。

 ……きみの連れは先ほど、船内に向かっているのを見かけたよ。もう夜も近いし、夕食でも取りに行ったんじゃないかな」


「……ふ~ん。

 ――どうしてそこまで私たちのことを見てるの?」



 しまった、といった様子で自身の口に手を当てる男。初対面のはずなのに、やはり怪しい。


 もしかしてこいつは、フォエルバ盗賊団の団員で、敵討ちに来たのだろうか。

 それとも、三人の誰かにストーカーしているのか……?


 考えれば考えるほど、沼のように謎は深まっていくばかり。



 男を窺い見てみると……何故かため息を吐かれていた。解せぬ。



「何か文句があるなら言いなさいよ」


「い、いや……。……あっ、そういえば急用があるのを忘れていたよ。それではリタ君、またいつか」


「あ、ちょっ。……逃げやがった」



 嵐のように去って行った男に、リタの眠気もいつの間にか去っていた。

 結局彼が何者かはわからずじまいになってしまい、リタの胸中に不快なしこりが残る。 



 リタは文句を言いながらもロイたちを捜すため、足を動かす。


 少し歩いて――ふと、気づく。



「……名前、言ったっけ?」



 その呟きは誰にも聞かれることなく、風に流されるのだった――









 面倒だという理由で、ロイたちと合流することを諦めたリタ。


 二人とは船着き場で合流し、船上での出会いを愚痴りながら船着き場を出た時。 



 リタの前方に、誰かがぬっと現れた。

 見たことのある、白いヒゲ。光る王冠。朗らかに笑う顔。


 ――水の国オヴェリアの国王が、そこに立っていた。

 しかもたくさんの騎士を引きつれて。


「よくぞ帰ってきた、勇者リタよ。此度の活躍、実にあっぱれじゃ!」


「ず、随分豪華なお出迎えね……」



 突然現れ、叫ぶ国王にリタは一歩引く。

 後ろの騎士たちも全員、彼と同じく、顔に笑みを携えていた。



「勇者さまの活躍、国王さまの耳にも届いていたんですね!」


「うむ。騎士たちからその話はよく聞かせてもらったぞい。

 ……まぁ、あまり暴れ過ぎずにな? 屋敷が半壊したと聞いておるぞ……」


「勝手に人のせいにしないでくれる? それやったの私じゃないし。

 フォエルバカ盗賊団の女盗賊が、アホみたいに火炎魔法をぶっ放してたわよ」


「リタ、フォエルバ盗賊団だよっ」



 それを聞いていた国王に首を傾げられる。その後ろの騎士たちにも。

 ……大の男がやっても可愛くない動作だと証明された瞬間である。



 現場にいた騎士からの報告によると、彼らが掴まえた盗賊の中に“女”はいなかったらしい。


 全員がその事実に頭を悩ませるが、誰一人として答えに辿り着ける者はいなかった。

 彼女が捕まる瞬間を、リタはしっかりとその目で見たはずなのだが……。



「――その女盗賊と盗賊団については、こちらで調査しておこう。盗賊たちが口を割るかもしれないからのう。

 今日はもう遅い。そなたたちは宿で体を休めておくとよいぞ。明日も早いのじゃからな」


「……えっ。ちょ、どういうこと!? 明日の予定があるとか聞いて――」


「今言ったからのう~」



 語尾にハートでも飛んでいそうな、似合わない喋り方をする国王。

 ……ハッキリ言おう、とてつもなく気持ち悪いと。


 彼の襟を掴み、殴ってやりたいという衝動に駆られる。




 ――しかしその時、リタの脳裏に電流が走る!



「そういえば国王サマ。私、国宝級の神像を取り返したわよね?」


「……何を言いたいんじゃ」


「私のおかげで取り返せたってことでしょ。ならさー、……褒美くらい、もらえるわよね?」


「り、リタ! そんなこと言っちゃダメだよっ」


「別にいいでしょ。私勇者なんだし」



 こういう時だけ自分は勇者なのだと主張するリタ。

 使えるものは何でも使うタイプである。



「う、うぅむ……あの頭の固い大臣が許してくれるかどうか……」


(国王が大臣の尻に敷かれてるなんて、情けなさ過ぎる……)



 確かにこの白ヒゲ国王よりも、カツラ大臣の方がトップに向いている気がする。

 仕事はできるし、部下からの信望も厚そうだ。……目の前の国王はとても、無責任そうに見える。



 国王は踏ん切りをつけたのか、ヒゲを撫でながら「そなたは何を望むのじゃ?」と口にした。



 ――リタは国王に見られない位置で、“悪魔の笑み”を浮かべる。

 その顔はうまくいったと言わんばかりのもので……。


 ロイとコーネリアに目撃され、止められるよりも早く、リタは口を開いた。



「勇者の称号を譲渡する権利とかは?」


「却下じゃ。……おぬし、まだそんなことを望んでおったのか……」



 呆れられた目で見られるが、予想通り。だから我慢だ、私。

 重要なのはこの次の行動なのだから。



 いつも眠くて細まる目を開き、まるで可憐な少女のように、リタは笑う。


 きっとこれを見た者の視界には、自身の背後に花でも飛び散っているのだろう。



 幼い頃から似た光景を目にしていたリタには、わかってしまった。血のつながりとは時として恐ろしい物である。



「私と握手しない? 国王サマ」


「……ふぉっふぉ。ようやく年相応の振る舞いになったのう! どれ、ちと失礼するぞい」



 国王は気付かない。

 リタの笑みが、草木をも枯らせてしまいそうな、凶悪なものへと変わっていることに。


 ちなみに、国王以外はリタの思惑に気づいているようだった。

 目が合うと速攻でそらされていたので間違いない。


 ロイとコーネリアももう、諦めているようで動く気配はなかった。



 差し出された手に、笑顔を浮かべながら自身のそれを重ねる。


 ――次第に、国王の顔色が悪くなっていく。

 骨のきしむような音が聞こえてくるのはきっと、気のせいではない。



「ぎ、ギブ!! ギブじゃッ!!!」


「世の中にギブなんて甘い言葉、通じないに決まってるでしょ?

 この私だって仕方なく……仕方なく!! 試練に挑んであげたっていうのにさ。

 だからこれぐらい可愛げのあるイタズラ……許されるでしょう? ね?」



 頷かなければもっとひどいことになると悟ったのだろう。

 弱弱しく首を縦に振り続ける国王に満足し、手を解放してやる。


 ストレス発散になったのか、リタの肌はツヤツヤと輝くのだった。









 国王やコーネリアと別れた後、リタとロイは宿屋の一室で体を休めていた。


 勇者という称号のせいで、二人の顔はもう宿主に覚えられていた。

 店主曰く、街中に“女勇者が誕生した”という噂が広まっているらしい。



 女勇者。

 つまり、生物学上“女”だということだ。

 なのに――



「ほんと、ひどい話よね。ロイを勇者と間違えるなんて。

 これでも私、女として産まれてきたハズなんだけどねぇ? どこかの誰かさんと違ってさ~」


「は、ハハハ……。まさか通りすがりの人だけじゃなくて、宿のおじさんにまで間違えられるとは思わなかったよ……。

 ま、まあ……勇者の証であるブローチができるまでの辛抱だよ。ね?」


「――よし、ブローチはあんたが持っといてね。私は失くしちゃいそうだから」


「よしって聞こえたのは気のせいかな……?」



 気のせいだ、と返してベッドの上に飛び乗る。

 スプリングがきしみ、小気味よい音を立てた。

 自宅の簡素なベッドとは違い、肌触りがよくてほどよい反発力がある。さすが都会の宿屋だ。



「明日は近郊の海まで遠征するらしいし、今日はもう寝なきゃだね」



 ベッドで微睡んでいると、釘を刺されてしまった。信用なさ過ぎである。


 いつもより回転の悪い頭で、リタは考える。

 遠征。遠征とは遠くに行くことである。つまり――



 閉じそうになる目蓋を無理やりこじ開け、重要な質問をする。



「おやつは……甘いものはいくらまで……?」


「遠足じゃないよ!? おやつも持って行きません!

 もうっ。リタ? 寝るなら寝る。寝ないなら寝ない、だよ」


「……ロイがまるで母さんみたい……」



 ぺし、と額を叩かれた。反抗期か。


 リタは長い瞬きを何度も繰り返しながら、船を漕ぐ。

 もう半分ほど夢の世界へと旅立っていた。



「んん……。私のふとん、どこよぉ……」



 手を彷徨わせ、温もりを探し求める。


 やがてか細い何かを掴んだリタは、それを思いきり引き寄せた。声が聞こえたのはきっと幻聴だ。


 いつものように布団を抱きしめ、寝る体勢に入る。



 あと数秒で夢の世界へと旅立とうとした時――ロイに邪魔されてしまった。

 目蓋を持ち上げることなく、眉間にしわを寄せたリタは文句を口にする。



「もう、なんなのよ……わたし、ねむいんだけど……」


「いや、寝てもいいんだけどさ? いいんだけども……僕を抱き枕にせず、寝てほしいかな……」



 そう言われてみれば、“布団”には固い部分もあった。

 ようやくロイを抱きしめていたことに気づくが……限界を迎えていたリタには、関係のないことだった。

 さらに強く、抱き枕ロイを抱きしめる。



「え、ちょっ……ぼ、僕……これでも男なんだよ? も、もし間違いでも起きたら……ゴニョゴニョ」


「んんぅ……? もう、わかったからぁ……。はや、く……ねかせ――

 ぐぅ……スピー」


「寝るのはや!? 結局解放してくれないし!

 リタ、リタ!! 起きて、朝だよー!! 起きてよおおおお!!!」



 幸せそうに眠るリタに、少年の訴えは届かないのであった……。




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