宇宙一黒い箱
本物のスリルとサスペンスがたっぷり詰まった本物の推理モノではありません。しかし、考えることが好きなあなたに是非読んで貰いたい。
学校からの帰り道、車が通らない道の電線の下に黒い箱が置いてあった。
縦横30センチ奥行40センチくらいの箱だ。
当時の僕はまだ中学生だったが、田舎風景が少し残るあの道にあの黒い箱が妙に溶け込んでるのを未だに覚えている。
そう、今はすっかり変わってしまったけれど、あの時はまだあそこの辺りは田んぼだらけで、道なりに家が並んでいる家々は瓦屋根でなけりゃ木造つくりで、二十年後こんな大都市に発展するとは想像もつかなかっただろう。
現代のこの辺りの写真を撮って、当時の僕にそのことを言ってもきっと信じてくれないだろう。
だって今の僕ですら信じられないのに。
黒い箱を見つけた僕は、まだ中学生だったもんだから、宇宙人が落とした秘密道具だとか異次元に行くための大切な機器だとか思ったに違いない。
次の日に友達にドヤ顔で「宇宙人の秘密を握った」とか、「シミターゲートは存在する」とか、言ったのを覚えている。(シミターゲートとは僕がつけた異次元に行くための扉の総称で、「シミター」はたぶん僕の名前からとったんだと思う)
黒い箱を拾った日、家に帰ってから三時のおやつも宿題もやらずに箱を開けた。
いや、開けようとしたというのが正しいのか、結局のその箱には蓋らしき切れ込みがなく、ひたすらつるつるしていて、その日は一日粘ったが開けれなかった。
振っても何の音も聞こえなかったし、さすってもつるつるしていただけだし、金槌で叩いても傷ひとつつかなかった。
でも金槌で叩いても傷もつかない割にはその箱は妙に軽い。
箱を開けるのを諦めた僕は、押し入れにその箱をしまうと、明日友達に何て自慢するか考えながら就寝した。
今考えても、空けてすらない箱を自慢するのはどうかと思うが、あの日あの時の僕にとってはそんなことは関係なく、ただ怪しい箱を拾ったという事実そのものが大事だったのだと思う。
結局、翌日考えられる限りの友達に箱のことを自慢すると、それ以来さっぱりとあの箱を押し入れから取り出すようなことをしなかった。
そしてそれから何十年もの月日がたち、雑誌の記者になった僕は、死んだ両親からこの家を引き継ぎ、仕事にいそしんでいる。
しかし、それは昨日のことだった。
休日に久々に家の片づけをしていた僕は、偶然、あの箱を見つけた。
でもその大きさは、縦横1メートル、奥行き1.2メートルもあった。
どうして二十年も気づかなかったのかはおいておいて、さらに驚くべきことがあった。
「大きくなった」黒い箱に手を置いてわかったのだが、確かに僕は、黒い箱が今この瞬間にも少しずつ「大きくなって」いるのを感じた。
何とも不思議で信じられない話だが、本当だ。
その証拠に、今日箱を調べてみたら、わずか数ミリではあるが間違いなく全ての辺が伸びているのがわかる。
もしこのまま制限なく大きくなり続けていったら、押し入れを突き破るだけでは飽き足らず、この家、この町、この県、いや日本全体を飲み込んでしまうんじゃないか?
しかももっと驚いたことにこの箱は大きくなっても軽いんだ。
僕はもう恐ろしくてこの家、いやこの箱から目を離すことができそうにない。
この箱が何故大きくなるのかはわからないが、僕にできることは、このまま箱の成長が止まることを祈ることだけだ。
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