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第3話 魔の技能

 実習室にはあっさりと到着した。


 本来3分程度で全ての箇所を見て回れる程の校舎だ。逆に時間がかかるはずも無い。

 元は入居者が居なかった屋敷を村の人々が改装して学校にしたそうだ。だから、変に真新しい部分もあるが基本的には木造である。


 通常の学校と比べてしまうと小規模な体育館の隣に同等の、いやもしかしたらそれ以上の棟が存在した。

 皆が実習室と呼んでいるがこれはどう見たって実習棟と言った方が正しい大きさである。

 更にその奥に災害時などの非常時における海水を貯め飲み水へと濾過する装置もあったが、やはり実習棟のインパクトには到底及ばなかった。

 堂前の驚きを他所に事は進む。

 実習棟の中はガランとしており隣の体育館に比べれば幾分、いやかなり殺風景。例えるとしたら使われていない工場のような、灰色が随分と馴染む世界である。

 木川は堂前含め生徒たちを壁際に立たせた。


「ではまず」


 彼らから数十m離れた場所で右掌を開く。

 堂前が注視しているとその掌に何か眩しいものを認識する。

 遠くてそれが何であるか確信は持てない。瞳に映るは赤く揺らめくガス状の物体。


「…火?」


 誰が問うたわけでもなく自然と口から零れた。


「ご名答です」


 正解との言葉を合図に堂前の目の前に木川が出した物体が弾き飛ばされる。眼前には熱量を伴い燦めきが目に痛い、どこに出しても恥ずかしくない「火」がそこにはあった。


「ま、魔能ってのは火を操る技能…なのか?」


「いいえ違いますよ?魔能というのは…」


 指を鳴らす。するの目の前の火が


「うぇっ?!?」


 一鳴らしごとに火から水の雫、雫から植物の葉、最後にパチリと閃光を放ち消えた。勿論彼の目に残光を残しながら。余りにも突然の出来事だったので目を瞑る暇も無い。

 瞼の裏にまで残るモヤモヤに悩まされながら堂前は質問する。


「こ、これは…」


「簡単に魔能の種類を直接見せてあげたんですよ」


「種類?」


「まぁ詳しい説明はこちらでしますので少しついて来てくださいな。他の子は今から1時間自主練習」


 ろくな返事もせずに各々は思い思いに己の魔能を堪能する。堂前は木川に連れられ2階に。


「ここ2階もあったんですか…」


「ここで講義を行う時もあるからねぇ」


 講義室からは下を見下ろすことができ、静葉、五和、あずみが先ほどの木川が堂前の目の前でしたようなことをしていた。

 上から見ていることを気付いた静葉が手を振ってきたので振り返す。

 そんなことをしていたら背後から声をかけられた。


「堂前君、君は魔能にどんな印象を抱いたかね?」


「どういう…つっーとさっきのアレでしか判断出来ないですが…」


 イメージするは目の前で起きたあの現象。目の前で火が水に、水が葉に、葉が光になったアレだ。


「それで構わないよ」


「…魔法?」


 堂前の答えを聞き顔を縦に振りながら彼は答える。


「まぁ半分正解って言ったところだね」


 徐に木川は黒板へとチョークを走らせる、書かれたのはある言葉。


「魔術のような技能?」


 書かれた文字を読み上げる。魔法では無く魔術ではないかとのツッコミは野暮だ。


「これは魔能の本質的な部分を表す言葉さ。魔なる才能ではなく"魔術"のような"技能"。それが魔能だ」


 木川は言葉を続ける。


「元々この国…まぁ日本という国はどの時代でも文明が発達したころには島国だ。故に隣接する国から攻撃を受けることはまず無い」


「はぁ」


 そんなことは彼だってよく知っている。彼が生きていた時代、最後の戦争で日本が参加した70年も前であり、日本が中国大陸から分離したのだって1万年以上前の事と。


「なら何を恐れたか。何を魔と定義したか分かるかな?」


 普通、魔と聞かれ頭を過るのは悪魔や鬼など異形のモノ達。しかし先ほどの魔能を見せられ尚且つ今の話を聞くと彼の考えは全く別のものとなっていた。


「うんんんん………?地震雷火事親父…なんちゃって」


「正解だ、親父は置いておくとして今君が言った地震雷などの…自然災害のことを指したんだ」


 黒板に火事や津波などの自然災害を模した絵が描かれる。どれも本能的に恐怖を促すような災害ばかりだ。


「最初はそれらを制御しようと考えた。でも相手はそれこそ自然だ、到底僕たちの手の中には収まりきらない。だから模倣したんだ」


 模倣、猿真似とは行かないが自然相手によくもまぁ挑んだものである。


「それがさっきの…」


「魔能には属性なるものが存在します、それがさっき見せた火、水、植物、電気、最後に無を加えた5種類」


 あの閃光は光では無く電気、所謂静電気の類だと思い返す。


「はぁ…」


「ですが、そのままでは機能することは出来ません」


「えっ」


「そうですね。例えば既に削ってある鉛筆が目の前にあるとしましょう。その状態から文字を書くことは出来ますか?鉛筆に触れずに」


 ごく普通の学校生活を送るものなら何度でも目の当たりにする光景だろう。彼は意外にも鉛筆愛用者でありあまりシャープペンが好きでは無かった。

 何かアイデア勝負なのか頭をフル回転させるがそんなことが出来るのはただの超能力者でしかないと結論づける。


「無理です」


「そういうことです。いくらその鉛筆に文字を書く力があったとしても方向性を、我々が手を加えなければ文字を書くことは出来ません。"力"とはそれ単体では何も影響を及ぼせないのです」


「…じゃあ、どうすれば」


「決まっているでしょう?手を加えれば良いのですよ。魔能とは5の属性ともう4つの系統によって成り立っている力なのです」


「4つ」


 あの属性と呼ばれたもの達に更に系統と言う外枠を合わしていく。


「大雑把に言ってしまうとですけどね。まず___標的を探したりロックオンしたりする索敵系、物体を切断したい時などに変化させる剣系、内部などに衝撃を伝えたい時などの貫通系、傷を癒したり腐らせにくく出来る回復系___この4つを属性と組み合わせることで初めて魔能は機能します」


「…」


 そんなもの最早魔法では無いのか。いくら魔能と否定されても彼にはより、尚更魔法である感覚を加速させていく。

 そしてある考えをより増幅させてしまった。


「ここまでで何か質問はありますか?」


「あの…結局それって才能…ですよね?確かに心躍る力ですが…とても俺には出来そうにない…」


 才ある者でしか操れない。漫画などでよくある選ばれた人間にしか扱えない能力、堂前はどうしてもその印象が拭えなかった。同時に自分にはそんな力を扱う資格すら無いと卑下し、事実だろうと勝手な確信を得てしまう。


 顔を俯かせ視線が下に下に落ちた彼を見兼ねた木川は


「ふむ…堂前君、アレを見てもらいますか?」


 指し示した先は放ったらかしにしていた3人。

 技を盗むと意気込んでいた五和は拳大の火の玉を剣によく似た形へと変貌させる。それに加えて燃え盛る柄を手に取り素振りまで始めた

 恐らく五和と共に補修を受けに来たのであろうあずみは、少し五和に比べると規模が小さいが指先で水を操り絵を空間に描いていた。

 最後の静葉は二人と比較してもスケールが段違い。木々が生えるはずもないコンクリートにいとも容易く3本の竹を芽吹かせ堂前達がいる2階へ優に届かせる、かと思いきやその3本を束ね爪楊枝ほどの大きさに圧縮させる。驚愕するのは速度もそうだが静葉本人がそれを汗一つ搔きもせずこなしていると事実だ。笑顔までこちらに見せる余裕っぷり。


 声が出なくなってる堂前に木川は口を開く。


「あの中で地極に一番遅くやってきたのは静葉君です。彼女がやってきた3ヶ月後に君がこの地極へ来ました。他の二人はもう1年以上も僕から指導を受けています」


「えっ」


 てっきり彼女が一番の熟練者で木川からも長く教わったものだと考えていた彼は面を食らう。


「初めに言いましたよね?魔能とは技能であると。魔能は老若男女関係無く誰でも絶対に学ぶ事が出来ます」


「誰でも…」


 チラリと静葉へ目をやる。


「誰だって魔能師になれます。まぁ一種の学問だと考えてみてください」


「勉強と一緒?」


「えぇ。ただその勉強でも才能というか得意不得意はありますが絶対に学べます。君も必ずアレと同等になることは出来ます。」


 思いやりを込め、静葉に目を配る。


「…魔能師」


「まぁそんなに考えず肩の力を抜いてください。時間はありますしね」


 正直堂前の頭はパンクしかけていけていた。目の前に飛び出して来た摩訶不思議な力、自分にも使いこなせる可能性がある謎の力。

 魔術の如き技能。

 それを操る魔能師。

 魔能を己が手に入れられるかもしれないという高揚感に彼は次第に包まれて行く。だがここで一つ思い出した。自分がこの場にきた最初の理由。望んだはずの死が報われか無かった理由を知りにここまで来たことを。


「…ありがとう…ございます。そ、それよりもこの地極についていくつかお聞きしたいことが」


「どうしても知りたいですか?」


 一体何をもったいぶってるかは分からないが、あまり木川は喋りたがらない。


「…はい」


「そうですねぇ…なら一つ条件があります」


「条件?」


 生前においてもあまり機会がなかった要求。


「私が地極についてお話しした後に一つお願いをしますのであなたは必ずそれに分かったと答えてください」


「えっ…何を…要求する気ですか…?」


 半歩身を引き無事を確保しようとするが、相手はあの3人を教えている魔能師である。無駄な抵抗すら出来ないだろう。


「それを言ってしまったら意味が無くなってしまうでしょう?さぁどうします?聞きます?やめます?」


 飽くまで要求のみを突きつけてくる。これだけ中身が悪いものだとわかる玉手箱もそうそう見つからない。


 だが彼は


「聞き…ます!全てを…全てを知ってから死にたいもんで」


 死を諦めることが出来なかった。不利益上等と玉手箱を蹴り飛ばす。


「了解です…」


 黒板に描いてあった属性を表す災害達を消し、煙を立てながら黒板消しを置く。

 真新しくなった黒板に書かれたのは「地極」の2文字であった。


 まだ…1時間は経っていない。

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