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第1話 死亡者共

今ここに一人の少年が自らその命に幕引きしようとしていた。


「フフフ…フハハハハ!!やっとだ!これでやっとこんな糞みてぇな世界から解放されるぅぅ!!!死んだら極楽ってもんがあんのかなぁ?!それとも地獄かぁ?!どちらにせよ死ねるだけ万々歳だぜぇ!!」


本来死に向かう者は諦めや後悔、絶望などの言葉を吐きながら仕方なさそうに命を散らしていくものだ。

当然である。

どんな人間だろうと命は一つしかないからだ。

だがこの男は違う。

まるで初めて遊園地に連れてってもらう子供のようにその目を輝かせながら足に括り付けた岩を海に投げ入れる。


「さらばだ現世!さよなら人生!!

あは!!あはあははははは!!!!!そーれ!!」


その言葉を最後に身をも投げ出す。飛び降りた先は蒼く煌めく全ての生命をみなもと。

海であった。


液体だって30mも上から飛び込めば十分な凶器に変わる。コンクリートに打ち付けられることと比べれば幾分死亡する確率は低いがこの少年は溺死もキチンと考えており隙の生じぬ二段構えの自殺であった。


足元からひしゃげる感覚を得ながら身体を海へ沈めていく。

落下の衝撃と肺に水が入ることによりどんどんと意識は薄れていく。

色あせていく感覚は最期に喜びを感じながら消えていった。


堂前真人、14歳の命は水底へ駆け抜けていった…。





_____意識は、再び目を覚ます。


薄っすらと開いた瞼には日光が射し込んでくる。

耳には季節が真夏であることを示すやかましい蝉の声が届けられる。

がばりと上半身を起こし身体に掛かっている掛け布団を退かす。


味覚を除いた感覚器官を用いて、ここがどこだか詮索を始めた。


「ここは…何処だ…?」


頭の先から爪先まで自分の支配下であることを確認し、最後に頬を抓る。

痛覚は健在のようだ。


「俺は…死んだんじゃなかったのか…?」


額に手を当て、もといた布団に寝転んだ。しっかりと掌の暖かさは感じられてる。心臓の鼓動音も胸に手を当てればよく分かった。


疑問のみが頭を埋め尽くし見たくない、認知したくない現実に成り代わろうとする。


「お、お…俺は死ねて…………」


その先の言葉を言ってしまえばもう戻ってこれない気がした。



「あーっ!起きてる!」


背後で甲高い声が響いた。咄嗟に振り返ると声の主と目が合う。

そこには如何にも活発そうな同年代の女子がいた。


堂前が言葉を失ったままでいると


「おばあーちゃーん!起きたよー!」


「あっ…ちょっと待っ…」


言い終わる前に彼女はその"おばあちゃん"とやらの元へ行ってしまう。

数刻もしないうちに、老婆の手にはお盆に乗せられた3つのうどんが見え、先導しながらも女子が堂前の前に座った。


色々と質問したいことはあるが、多すぎて何から口に出せば良いかしどろもどろした。

老婆や女子はその様子をじっと見つめる。

やっとのこと捻り出した言葉は


「ここは何処なんだ?」


その一言であった。


「ここは何処やと聞く前にあんたは誰な?」


老婆は逆に尋ねる。


「お、俺は…堂前真人ってもんだ…。一体全体ここは何処なんだ?俺は死ねたんじゃないのか!?」


「へぇ!あんた真人って名前なんだ!あたしは静葉!隠岐静葉って言うんだ!よろしく!」


唐突に名乗られ握手までされて堂前は困惑を深める。


「こら静葉。落ち着きまいで。あんたもまずは落ち着いて」


ズズッと目の前にうどんを差し出される。

ふと気付けば腹が空いてた。ここに至るまでと言うより死ぬ日から1週間は水以外特に口にしてはいなかったのだ。

目の前に佇む小麦の集合体は彼の食欲を走らせるのに十分であった。


「い、いただきます…」


予想と違わぬ味、求めていた、満たされていく感覚。


「お、美味しいです…」


「それゆーて良かった。さてと、ここが何処か…やったか?」


「そ、そう!それでふ!何処なんですかここ?!」


「真人〜うどん食べながら喋らないでよ〜」


静葉の苦情を聞き流しながし、かつうどんを吹きながら身を乗り出す。


「ここは讃岐国…とか、高松とか色々呼び方があるのや」


「讃岐に…高松…そしてこのうどん…」


彼は一つの核心を得る。


「香川県…なのか…ここは…?」


「香川は香川なんだけどぉ…ちょっと違うんだよねぇ…おばあちゃんもいい加減覚えてよ?ここは"地極"でしょ?」


耳慣れない単語が聞こえる。


「…地極…?は?何処だよ?ここは日本の香川県じゃないのか?」


「違う違う!ここは地極!現世と地獄の境目って先生が言ってた!」


「せ、先生?」


細々とではあるが一筋の光が彼の目の前に射し込む。


「あんたも学校へ行ってみてはどうな?知りたいことがきっと分かるで」


そう言い残すと老婆は先に食べ終えた静葉の容器を片しながら、台所の方へ引っ込んでしまう。


「そうだよ真人!あんたも学校来れば良いんだよ!きっと面白いよ!!」


「が…学校か…分かった。行ってみようじゃねぇか」


脳裏にチクリと嫌な思い出が蘇る。トラウマになるほどではないが嫌な思い出、例えるなら逆剥けのような嫌さ。

だがこのままなんの情報のないままも嫌った。

彼は決意する。

死んでないとしたら、またここで死ねば良いだけだと。

地獄の境目だが何だかは知らんが、死の目的だけは絶対に果たそうと心に決めた。



意気込みと共に彼は残ったうどんを平らげる。

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