9話「弾幕」
時は過ぎ、彼女が黒谷ヤマメになってから1ヶ月、
地底の生活に慣れてきて、落ち着いてきた。
勇儀に半ば無理矢理お酒飲まされたり、
古本屋から本を買ってきて幻想郷について調べたり、
蜘蛛糸が上手く操れるように練習したり…あっという間だった。
ヤマメは目の前にある巨岩を腕を組み、じっと見ている。
「えいっ」
小さな腕を振りかぶり、巨岩に突き刺すと、
当たった所からヒビが入りばらばらに砕け散った。
「はわわ…」
分かってたけど、ちょっとやってみたかった。
「何やってんの?」
「キスメ!?いや、別に」
「何か嫌な事あった?」
「何でもないよ」
「ふーん…そういえば、前に話してた『弾幕』の件、まだ教えてなかったわ」
「そういえば確かに、あれってどうするの?」
「簡単だよ、頭の中で想像する、それだけ」
「…ごめん、もう一回言って」
「頭の中で想像するだけ」
「それだけでいいの?」
もっと難しい事かと思ったけど、何か拍子抜けしたなぁ…
「例えば人魂を思い浮かべたらさ」
キスメの手のひらから青白く燃える人魂が出てきた。
「こんな感じにぽんぽん出せるわけで」
「なるほど、私もやってみる」
キスメと同じ人魂を思い浮かべようかな。
「おや、私と同じ人魂のつもりなのね、でも」
ヤマメの手のひらに浮いているのは禍々しい紫の光を放ち、
黒い煙をまとった人魂に似たものだ。
「そりゃ人魂じゃなくて瘴気だね」
「瘴気?」
「体に悪い空気の事だよ。弾幕ってさ、使う奴によって大体形が決まってくるのさ」
「そうそう、これの正しい使い方も教えてあげるよ」
「えっ、キスメ…これって」
キスメはヤマメの周囲に弾幕を出し包囲した。
「これを相手に当てた回数を競う『スペルカードルール』ってのがあってさ」
「ちょ、ちょっと待って」
「当たっても死にはしないよ、痛いけどね」
「きゃん!?」
人魂の弾幕がヤマメの脇腹すれすれを通り抜けた。
「来なよ、弾幕を飛ばして当てるだけだから簡単でしょう?」
「私、まだ弾幕の扱い方がよく分かんないよ」
「それもまた簡単、『行け』と思えば」
「わっ!怖っ」
ヤマメは体を反らし一直線に向かってきた人魂の群れをかわす。
「分かった、じゃあ行くよ」
「おっけい、どんと来い」
ヤマメの手から黒い瘴気の弾幕が放たれた。
「おっと、おっかないね」
キスメはゆらゆらと不規則に動き一発も被弾しなかった。
「卑怯だよ、空を飛んでかわすなんて」
「じゃあヤマメも飛べばいいじゃん」
「いや、飛べな「飛ぼうと思えばできるって」…本当に、できるの?」
「妖怪だから」
飛ぼうと思えばそれでいいの?あれ、足が…
地面の感覚が全くない。おそるおそる自分の足元を見る。
「本当に…飛んでる…」
「ボサっとしない」
キスメは両手から赤いクナイを出してヤマメに投擲した。
「うぅ、ちょっとくらい手加減してよ」
ヤマメは慣れない空中の感覚に戸惑いながらも何とかクナイをかわした。
「そうだ、言い忘れてたけど、こういうのもアリだよ」
キスメは白装束の懐からトランプぐらいの大きさのカードを出すとおもむろにこう言った。
「怪奇『釣瓶落としの怪』先に謝っとく、ごめんヤマメ!」
キスメはヤマメより高く飛び上がり、桶の中から緑に光る丸い弾幕を落としてきた。
さっきの弾幕とは全然違う数の多さにヤマメの顔は青くなり、
どうしたらいいのか分からなくなっていた。
気がつくと、自分の家の布団の上。
寝返るとキスメがヤマメの読み終えた本を読んでいた。
「目が覚めた?」
「さっきのはどういうことなの?」
「これはスペルカードっていうもので、
宣言したらそのカードに沿った弾幕が出せるのよ、
普通にやっても勝負がつかないことが多いから作ったらしいの」
「最初に言ってよそういうことは…」
「まぁまぁ、ヤマメにもあげるからさ」
キスメはヤマメに何枚かの真っ白なスペルカードを渡した。
「それを持って自分のしたい弾幕を思い浮かべたら
勝手に名前がついて使えるようになるよ」
「じゃあ早速」
「待った。ちゃんと避けられるものじゃないと出来ないから、気をつけて」
ヤマメは頭の中で色々試行錯誤しながらイメージを固めた。
するとスペルカードに蜘蛛の巣が描かれ、罠符『キャプチャーウェブ』となった。
「そんな感じに作っていけば良いと思うよ」
「思ったより難しいね…」
「私、勇儀に飲みに誘われているからさ、もう行くね」
「私も行っていい?」
「もちろん、人数が多い方が楽しいからね」