7話「散歩」
ヤマメとパルスィは二人で話し込んでいた。
「貴女のことはよく分かったわ、それにしても初めて戦って
あっさりねじ伏せるとは大したものね。その実力が妬ましい」
「そんな事言われても嬉しくない…」
「そう?」
「パルスィ、私からも質問してもいい?」
「いいわよ」
「じゃあ、まず妖怪って死なないの?」
「死ぬわよ。でも負った傷はすぐ癒えるからそうそう死なないけど」
湯屋で転んだ時にケガしてなかったのはそういうことなんだ。
「へぇ…もう一つ聞くけど、パルスィは橋姫っていう妖怪なんだよね?
橋姫ってどんな妖怪なの?」
「その質問は答えられないわ」
「何で?」
緑眼の瞳はヤマメを睨んでいる。
「ご、ごめん」
「もう二度とその事は聞かないで」
その後気まずい空気が続きながらも、二人は眠りについた。
翌日、ヤマメが体を起こすと
そこにパルスィの姿はおらず、代わりに書き置きがあった。
『先に帰ったから。貴女って寝坊助なのね、妬ましい』
「寝坊助に嫉妬するのはおかしいよパルスィ…」
今までも「妬ましい」を口癖みたいに言ってたけど、
もしかすると嫉妬に関係した妖怪なのかな。
余計な事聞いちゃったかも…
沈んだ気持ちで食べたおにぎりはあまりおいしくなかった。
【旧地獄街道】
おととい、昨日と全く様子の変わらない旧地獄街道。
ヤマメは散歩しながら色々な店を物色しに来ていた。
肉屋、本屋、雑貨屋など色とりどりな中で
彼女の心を引いたのは甘味処だった。
「この団子2本お願い」
「はいはい」
ヤマメは店頭に置かれた長いすに座り、
皿に乗せられた2本の甘味をもらい、1本目に手をつける。
地底の団子は一味違った……わけでもなく、普通の団子だった。
「おーい、ヤマメ」
誰かに呼ばれて辺りを見渡すが
特にそのような素振りをした妖怪はいない。
「上、上だよ」
見上げるとキスメが桶から手を振っていた。
キスメは桶から出てヤマメの隣に座る。
「休憩中かい?」
「うん、まあそんな感じ」
「地底暮らしはどう?退屈かい?」
「そんな事ないよ、ちょっと怖いけど」
「私も最初は怖かったけど、大抵は気さくな奴だからさ、すぐ慣れるよ」
「大抵?」
「妖怪がみんな気さくな奴と思うかい?ちょっと気難しい奴とかもいるんだ」
昨日のトカゲ妖怪みたいなものもいるってことね。
「ありがとね、心配してくれて」
「隙あり」
「なっ!?」
いつの間にか、キスメはヤマメのもう1本の団子を手にしている。
「ちょ、キスメ、返してよ」
「妖怪に油断は禁物、特に地底だとね」
キスメはひょいと桶に乗りヤマメの手の届かない位置まで飛び上がった。
「私の団子!」
ヤマメが手を伸ばしたその時、
手のひらから白い糸が出てキスメの桶に巻きついた。
「きゃっ」
桶は地面に引き戻され桶の中からキスメは放り出される。
「これって……」
蜘蛛の糸、私が出したんだよね?
すごい丈夫な糸…土蜘蛛ってこんな事もできるのね
「ヤマメ、人魂が逃げちゃったじゃないの」
キスメの桶を運んでいた人魂は遥か向こうに消えていなくなった。
「だって私の団子が」
「さっきのでおあいこでしょ」
「そんなぁ…」
「私の桶、運んでよ」
「キスメはそのままなの?」
「ヤマメなら余裕でしょ」
ヤマメはキスメ入りの桶を持ち上げ、抱える。
「重…くない?」
「失礼な、私は重くないよ」
「違う違う、キスメの事は言ってないよ」
慌ててキスメの誤解を解き、
二人は旧地獄街道をフラフラと歩き回る。
時々、キスメに店で売ってるものについて教えてもらったりして
お腹が鳴るまでの時間を過ごした。
「お腹空いたね」
「近くに焼き鳥屋があるからそこに寄っていこう」
「いらっしゃい!何にしやす?」
「ハツとモモ四本ずつよろしく」
「はいよ!」
「ねぇキスメってさ、お金はいつもどうしているの?」
「どうやって稼ぐかってこと?それは人間から奪うんだよ」
ヤマメの顔から笑みが消えた。
その時キスメの目はタカのように鋭い目だった。
「冗談だよ」
「そ、そうだよね、ハハ…」
「本当はそこらにいる人魂を捕まえて、物好きな妖怪に売っているのさ」
「人魂はどうやって捕まえるの?」
「私は鬼火を操ることができるの。
人魂は鬼火とも呼ぶから、そういうこと」
「はい、ハツとモモだよ!」
二人の前に出来たての焼き鳥が置かれた。
「1本ずつ多いよ?」
「お嬢ちゃん達は可愛いからサービスだよ」
「そんな…照れるよ」
「ありがと、大将」
「ヤマメはどうするの?」
「何が?」
「お金のことだよ」
「言われてみたら確かに…どうしよう」
「そうだ、ヤマメの家の近くに湖があるからそこで釣りをしてさ、
魚屋に売ったらいいんじゃない?」
「私釣りをしたことないんだけど」
「昔、やったことあるから後で教えてあげる」