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黒谷ヤマメになっても、私は元気です  作者: 土蜘蛛
黒谷ヤマメとして、幻想入り
6/15

6話「湯屋」

【旧地獄街道】

ヤマメとパルスィは旧地獄街道の小高い所に建てられた湯屋に来ていた。

「ここの露天風呂、眺めがいいのよ」

「あっ、お金が」

「いいの、私が払うから」

パルスィは二人分の代金を払い脱衣所に入る。

脱衣所の中は1本や、2本角の生えた人型の妖怪ばかりだった。

(げっ…鬼ばかりね)

小声でパルスィは言った。

(鬼ばかりだと何か都合が悪いの?)

ヤマメも小声で話す。

(鬼はどこでも酒飲みだし、湯屋も例外じゃないのよ)

(鬼ってお酒好きなんだね)

お酒は慣れてきたけど、お風呂じゃ流石にね?

服をロッカーに入れ、少し戸を引いて中の様子を見る。

露天風呂はどこを見ても鬼、鬼、鬼。

湯船に浮かべられたお盆の上に酒、洗い場の近くに酒。

アルコールの匂いが凄い。もう平気だけど。

それに加え鬼達が酔って騒ぎ、祭りでもやっているような賑やかさだ。

「ここに来るタイミングを間違えたわ」

「こんなにうるさいとあまりくつろげないね」

ヤマメとパルスィは鬼達とできるだけ距離を置いて湯船に浸かった。

「良い景色だね」

「言ったでしょ?たまにここに来ているの」

高所に建てられた露天風呂から見える旧都の赤や黄色の光。

空の代わりに見えるのは様々な色の光がぽつぽつとついている岩盤。

光をよく見たらむき出しの鉱石が光っている。

これで鬼達が静かだったらもっといいんだけど

「体洗ってくるね」

ヤマメが湯船から上がる時、床に置いてあった石鹸の存在に

彼女は気が付かなかった。

「うわっ」

湯屋に鈍い音が響き渡った。

それを見た鬼達はどっと笑った。

「いったぁい…」

「ちょっと、大丈夫?」

「あはは…不注意だったよ」

洗い場でヤマメは風呂イスに腰かけ、

シャンプーを泡立て髪を洗い、体も洗う。

ふと鏡を見ると髪を下ろした金髪の少女が映る。

別人を見ているようで変な感じ。

だけど、それが今の私。改めて確認する。

その後ヤマメはパルスィと話をしながら

旧都の景色を楽しみ、体を休めた。

湯屋の帰り、何やら周りより騒がしい集まりがある。

「ねぇ、ちょっと見に行こうよ」

「やめときなよ、どうせつまんないものだし」

「じゃあ私一人で見に行くよ」

何だかよく分かんないけど、すごい気になる。

「あっ…もう」

「何だ何だ?」「まーたアイツか」

野次達の視線の先にはヤマメの背丈の三倍ほどの

大柄な人型のトカゲ頭の妖怪とそれの膝丈ほどのカメの妖怪がいた。

「おい、お前!俺を転ばせやがって!医者代払えよ!」

トカゲ妖怪がカメ妖怪に怒鳴りちらす。

「いや、その……あなたがぶつかってきたのでは…」

「あぁ?何だとテメェ?この俺、『黒焔』様に喧嘩売ってんのか?」

「ち、違います」

カメ妖怪は嘘をついているように見えない。

「オラ、早く金出せよ、このっ!」

「ひえっ!」

トカゲ妖怪はカメ妖怪を野次の方へ蹴り飛ばす。

「うぉい!?」「ちょっと!」「マジかよ」

野次はあっというまに散ったが、

ヤマメにとっては一瞬の出来事でしばらく固まっていた。

「た、助けてください!」

「えっ?」

カメ妖怪はヤマメの後ろに回っていた。

「何だ、チビ。そこをどけ」

「ふぇ…」

トカゲ妖怪が眼をぎょろつかせて威圧する。

だが、逆にヤマメは恐怖で動けなくなっていた。

「どかねえのか?そうだ、今すっげーイラついているんだ、

お前をボコってスカッとしてやる」

トカゲ妖怪は指を鳴らしヤマメに迫る。

(どうしよう、このままじゃ…)

ヤマメは怖くて目がうるんでいる。

「覚悟しやがれ!」

トカゲ妖怪はヤマメに飛び掛った。

「うわぁぁ!来ないで!」

ヤマメは飛びかかって来た巨体をそのまま巴投げにした。

「ぐわぁ!」

トカゲ妖怪は地面に激しく叩きつけられ苦しんでいる。

「えっ…えええっ!?」

自分のしたことに驚き動揺を隠せない。

「この野郎、ナメやがって!」

トカゲ妖怪は拳を振りかぶる。

しかし巨大な拳は小さな手でいとも簡単に止められる。

ヤマメはとっさにその手に力を込めた。

「ぎええっ!」

メキメキと嫌な音が鳴り、トカゲ妖怪は地に伏せ動かなくなった。

「や、やった…」

ヤマメはへなへなと地面にへたりこんだ。

「すっげえ!」「見事!」

周りから歓声が上がり、拍手も上がる。

「ありがとうございます、このご恩はいつか必ず返します!」

「そんな、いいよ」

「駄目です、それでは私の気が済みません!」

「あの、あなたのお名前は?」

「私は黒谷ヤマメだよ」

「ヤマメさん、本当にありがとうございました!」

カメ妖怪は何度も頭を下げて別れを告げた。

「ヤマメ、貴女本当に人間だったの?」

「パルスィ…何というか、反射的というか」

家に帰るまでヤマメはパルスィに色々質問されて困りながらも答えた。

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