4話「自分の能力」
「ふわぁ……」
ヤマメは大きなあくびをしたと同時に頭が痛くなった
(これが二日酔いかぁ)
「勇儀、キスメ、パルスィ、みんな起きて」
「もう朝か?」
「昨日は妬ましいほど楽しんだわね」
「帰ろっか」
「大将!お代おいとくよ!」
「へい、ありがとうございます」
旧地獄街道は昨日の活気はどうしたのか、静かだった
「何かとても静かだね」
「朝方はみんな大体寝てるからね」
「ヤマメ、あんたの家まで送るよ」
「私の家?」
「うん、こっちだよ」
他愛もない話をしながら旧地獄街道を抜け、薄暗い洞穴をひたすら進んでいると
パルスィが守っている橋がある空間と同じくらいに開けた所に
大きな湖、地底湖が見えてきた
岩盤の裂け目から日の光が差し込み湖に反射していてとても綺麗だとヤマメは思った
「ほら、あそこに」
湖のほとり辺りに小さな小屋があった
「えっと、その、ありがとうみんな」
「うん、じゃあね」
「また今度!」
「またね」
ヤマメは三人に別れを告げ、小屋に入っていった
「……思ったより普通なんだね」
妖怪の家ってもっと怖い所かと思ったけど
何処から来ているのかは分からないが電気が通っていて、
普通のテーブルやイス、ベットなど
1人で生活するには十分な家具がそろっていた
しかし、キッチンにあたるものはかまどと流し台だった
(かまどの使い方全然分からない……)
それは後で考えよう、とヤマメは本棚を眺めていると
『地底日記』『七人ミサキ』など見たことのない本ばかり。
その中からおもむろに1冊とって読み始めた
外の地底湖から流れている小川のせせらぎが聞こえなくなるほど
ヤマメは本を読むことに集中していた
ひたすら静かな時間が過ぎていく。
「やっほー、調子はどう?」
「ひゃん!?」
しかし、その静寂は背後からスキマで
現れた紫によって打ち破られる
ヤマメは座っていたイスから転げ落ちてしまった
「痛たた……ビックリした」
「あら、ごめんなさいね」
「紫さん、何か用ですか?」
「そんな敬語にしなくてもいいわよ」
「えっ……わ、分かった」
「貴女に伝え忘れたことがあって」
「それは一体?」
「貴女は土蜘蛛で病を操る剛力の妖怪ってことは言ったわよね?」
「うん、そうだけど」
「貴女には自由に使える能力があるの」
「能力?」
「『病気を操る程度の能力』それが貴女の能力」
「幻想郷では様々な者が特別な能力を持っているの。
例えば空を飛んだり、水を操ったり色々なものがあるのよ」
「え、えっと」
「もう一度言うけど、貴女は病を操る剛力の妖怪。
詳しく言うと感染症を自由に操って、他の生物に感染させたりできるのよ」
「そ……そんな恐ろしいことが私に出来るの?」
「1分で死に至るものや1年かけてじわじわと苦しめるものとか、
あるんじゃない?そこまではよく分からないけど」
「その力をどう使うかは貴女次第よ、例えば人間を仕留める時に使ったりとか」
「…人殺しなんて私にはできないよ」
「まあ、好きにしなさい。じゃあ、私は帰るわね」
紫はスキマに入ってその場から消えた
「私はもう…」
人間じゃなくて妖怪
信じられないけど、夢ではなく、現実。
もう元の世界に帰ることは出来ない
たとえ帰れても母さんも妹も私が誰か分からない
ヤマメは頬に流れる暖かい液体をぬぐってベットに潜り込んだ