3話「嫌われ者」
「あのお屋敷の辺り凄い明るいね」
「あれは地霊殿といって、灼熱地獄の炎を明かりにしているから明るいの」
地霊殿は夕暮れ時の太陽に照らされているようなオレンジがかった色になっている
「あそこには『古明地さとり』っていう心を読む妖怪がいるからあまり近寄らない方がいいよ」
「そうですね、心が読まれるのは嫌ですよね」
「早速出てきたわね」
紫のショートヘアに、水色のブラウスとピンクのスカートを着た
キスメと同じくらいの少女が玄関から出てきた
その少女は紐のついた赤い球体を身につけていてその球体には一つの眼がついている。
「心が読めるというのはその者の本音が筒抜けということ」
「今、貴女達は『嫌悪』の思いでいっぱいでしょう?心を読まなくても分かります」
「そんな事、私は思ってないよ」
「そんな筈がない。あなたは絶対……?」
さとりの表情が急に怪訝になった。
「……貴女一体誰なんですか?」
「えっ?」
「貴女から読み取れた外の世界の風景、外来人の記憶。『黒谷ヤマメ』なのにそうでない。一体、どういう事なんですか」
「……自分でも分からない、けれど私は黒谷ヤマメとしているしかないの」
「ふむ……まあ、どうでもいいんですけれど」
「ヤマメ、帰ろう」
「……うん」
三人はその場をそそくさと去っていった
「さて、地底の案内はこんなもんで終わりにするとして、勇儀の件もあるし行こっか」
「行くって何処に?」
「決まってるでしょ」
「「飲みに行くのよ」」
二人は口を揃えて言った
「いや、でも私は」
「さっきは酒の匂いだけで酔っていたけど、その内慣れるでしょ」
「そういう問題じゃなくて!」
「何か問題があるの?」
「お酒は二十歳からじゃないの?」
「んん?……あっ、外の世界の決まりか。
関係ないよ、妖怪は歳とか関係なく酒を飲むし」
「いや、でも」
「いいからいいから」
「ちょっとぉ……」
ヤマメは引きずられるようにして勇儀のいる居酒屋に連れて行かれた。
「いらっしゃい!」
店主の声がヤマメ達を暖かく迎えた
「来たか、こっちこっち!」
勇儀が手を振って座敷に三人を呼びこんだ
「大将!真鬼殺しと鶴の一声よろしく!」
「はいよ!」
「あぅ……」
居酒屋の座敷は酒の匂いが充満していて
元人間で未成年だったヤマメには少し居づらい所だ
「どうしたんだい?もっと元気だして!」
「う、うん」
「はいよ、真鬼殺しと鶴の一声だよ」
一升瓶が2本、座敷のテーブルに置かれた
勇儀はお猪口に酒を注ぎ、三人にそれぞれ渡した
「では、乾杯!」
「「乾杯ー」」 「か、乾杯」
お猪口がぶつかり合い心地よい音が座敷に響いた
勇儀、パルスィ、キスメはそのまま酒を飲んだが
ヤマメは思いとどまって飲もうとしなかった
「どうしたの、ヤマメ?」
「思い切って飲んじゃえ」
もう飲むしかない、逃げ場はなかった。
「んぐっ……ぷはっ」
「いいねぇその飲みっぷり!」
「……おいしい」
「よし、どんどん飲んでいこう」
最初は遠慮がちなヤマメだったが、酔いが回るにつれて、
飲むペースが速くなっていった
その日は眠ってしまうほど飲み続けてしまうのであった