2話「仲間」
「貴女の仲間に事情を話しておくから、助けてもらいなさい」
と、紫は言い残しスキマに入っていった。
ヤマメは膝を抱えて座り込み、さめざめと泣いていた。
「ヤマメ」
誰かに声を掛けられてヤマメは顔を上げた。
「私はキスメ、妖怪『釣瓶落とし』」
緑髪のツインテールに白装束を着たヤマメより少し背が低い少女がキスメだ。
「紫から話は聞いたよ。いきなりこんな所に来て戸惑うのは当たり前だよね」
「っ……!」
「大丈夫。地底の妖怪はみんな良い奴ばかりだから、ね?」
「……ありがとう、キスメ」
「うん、立てる?」
キスメがヤマメの手を取って立ち上がらせ、ヤマメに微笑んだ。
「地底を案内するから一緒に来て」
キスメは近くに置いてあった桶に入ると、
取っ手につけてある人魂に持ち上げさせた。
「どうして桶に入っているの?」
ふわふわと浮かぶ桶を不思議そうにヤマメは見てそう言った
「人間を驚かせる為、かな」
「そうなんだ」
二人は薄暗い洞穴を進み、何回かヤマメが石で転びそうになったが、
何とか持ち直して怪我は負わなかった
そうこうしている内に開けた場所に出た。
「こんな所に川が」
川は緑色に怪しく光輝いていて、古びた和風の橋が架かっている。
その橋の上にはオレンジを基調とした和服を洋服のようににアレンジした服に
ヤマメと同じくらいの背丈のショートヘアの金髪の女性がぽつんと佇んでいた。
「あなたがヤマメになったっていう外来人?」
「えっ?は、はい」
橋のたもとに差し掛かった所、その女性に話しかけられた。
「私は水橋パルスィ、橋姫としてこの橋を守っているの」
「パルスィ、ヤマメを案内しに行くんだけど一緒にこない?」
(パルスィとキスメは知り合いなのかな?)
「退屈だし、いいわよ別に」
「ええっ?」「何?」
「……いや、何でもないよ」
橋は守らなくていいの?
ヤマメはそう疑問に思ったが、口には出さなかった
【旧地獄街道】
「わっ、凄い……!」
さっきの薄暗い洞穴とは全く違い、赤い提灯が洞穴を照らし、
様々な和洋の混じった木造の建物が所狭しと並んでいる。
「ここは旧地獄街道。私達は旧都って呼んでいるんだ」
あちこちの建物から笑い声など賑やかそうな声が飛び交い、
牛の頭がついた人型の者や、七人で密集した幽霊のような者など、
様々な妖怪が行き交っている。
「『旧地獄』って何?」
「ここは元は地獄だったのよ」
「地獄って悪い人が亡くなった後に行く所だよね?」
「幻想郷では生きてても地獄に行けるわよ」
「そ、そうなの?」
「まあ、物好きな奴か死にたい奴くらいしか行かないけど」
「ここ、ほとんどが居酒屋なんだよね」
「地底の妖怪は酒と喧嘩が好きが多いからね、楽しそうで妬ましい……」
「おう、みんな揃っているじゃないか!」
「わっ!?」
いきなり背後から肩を叩かれてヤマメは小さく飛び跳ねた。
「みんなで飲みに行こうよ!」
「あわわ……」
唐突に声を掛けてきた金髪で額に
一本の赤い角が生えた女性に担がれ身動きがとれない。
「勇儀、嫌がっているから降ろしてあげなよ」
「おっと、すまんすまん」
「勇儀、何か忘れてない?」
「何か?あっそうか!私は鬼の星熊勇儀、紫から話は聞いたぞ、よろしくな!」
「よ、よろしく」
「なぁ、今から飲みに行かないか?そこの店で旨い酒が入ったって」
「あ~…勇儀、後でいいかな?」
「そっか、んじゃ、また!」
勇儀はずかずかと近くの居酒屋に入っていった。
「勇儀は今日もいつも通りだね」
「そうね。ヤマメ、何で顔が赤くなってるの?」
「ふぇ?わらひぃはらいじょうぶらよ……?」
「こりゃ勇儀の酒のにおいだけで酔っているね」
キスメとパルスィは足元のおぼつかないヤマメの酔いがさめる
まで待ち、数分後、酔いはさめたがヤマメの気分は優れない。
「大丈夫?背中さすってあげようか?」
「ううん、大丈夫」
「本当?じゃあ、行こうか」
三人は旧地獄街道の終わりの辺りに見える大きな洋風の屋敷に向かっていった。