14話「襲撃と覚悟」
初めて山の外の景色を見た。私の知らない幻想郷。
ある方向には血のように真っ赤な館。
またある方向には密集した竹林が目立つ。
「確か神社はこっち」
案内をするキスメが小高い山の方を指差す。
「何かあいまいだね」
「だって、地上に出るのは3年ぶりだもん」
「3年前は何の為に出たの?」
「地上がどんだけ変わったのか見るため。
前より好戦的な妖怪の気配が増えて長居はしたくないね」
「それなら、急いで行こうか」
「そうだね、私は早く一杯やりたいよ」
「怖かったら、目をつぶってた方がいいよ」
「えっ、ちょっと」
ヤマメは千尋を背中におぶると、空に飛び出した。
「飛んでる!何で!?」
「落ち着いて。私達妖怪だからこういうことができるの」
「寒っ、地上で飛ぶのは嫌だわ」
強風が全身に吹きつけ、彼女達の髪をなびかせ、服をはためかせる。
「確かに寒いけど、私は嫌じゃないかな」
きっと、鳥はいつもこんな景色を見ているとヤマメは思った。
妖怪も、動物も空から見ればミニチュアのように見える。
「キスメ、あの白い妖怪って何?」
一面の緑に明らかに動物でない白い何かがいる。
キスメが目を凝らして見るとぴくりと眉を動かした。
「あれをあんまり見ない方がいいよ」
「何で?」
ヤマメと千尋が口を揃えて言う。
「ずっと見てたら気が狂って死ぬから」
キスメがそう言った瞬間、ヤマメは彼方の方へ急加速した。
「あらら、待ってよ」
博麗神社の小高い山の近くまで、ヤマメ達はたどりついた。
「思ったより近かったね」
「本当は割りと遠いよ?空を飛べばあっという間だけど」
「あの、ちょっと休みませんか…?」
千尋がか細い声でヤマメとキスメに呼びかける。
「そうだね、まだ時間はあるし休もうか」
できるだけ見晴らしの良い所で3人は手ごろな岩に腰をかけた。
「あまり長く休めないよ、不意打ちされたらたまったもんじゃないし」
「私が見張っておくよ」
「…今更だけど、千尋は運が良かったね、ヤマメが
来てなかったらそこらの虫に食い殺されてたよ」
「ひぃ…地底って怖いですね」
「ふふ、最初に出合った妖怪がヤマメで良かったね」
キスメと千尋が会話してる間にヤマメは何気なく空を見上げた。
その時、ヤマメは異変に気がついた。
空色に映える紫の点。点はだんだんと大きくなっている。
彼女の第六感が警鐘を鳴らす。
「二人とも、逃げよ!」
何事かと呆気に取られる千尋の背中を左手、
両膝を右手で抱き上げ、駆け出した。
千尋が頬を真っ赤に染める。
「お姫様抱っことは大胆だねぇ」
「ほっといて!」
ヤマメ達がいた所に何か降りてきたようだ。
ヤマメが後ろを振り返き、何かの姿を見る。
皮膚がただれ、骨が一部露出した異形の紫の馬。
上に騎乗しているのは武者が着ける大鎧をまとった骸骨だ。
彼は両手で古びた大砲のようなものを抱え、
こちらに敵意を放っている。
「おの…れ妖怪…よくも御館様を…殺すべし…」
言葉は途切れ途切れだが低い声で骸骨は喋った。
「…どうやら、妖怪を怨んでいる人間のようだね。今は化物だけど」
「何とか、戦いは避けられないかな?」
「無理でしょ、さっき飛んでたし、馬に乗ってるし」
「相手は弾幕勝負とかする気はなさそうだから……ヤマメ、覚悟はいい?」
神妙な顔でキスメはヤマメに問う。
「…うん」
怖いけど、私は逃げない。戦って、千尋を元の世界に帰す!




