13話「ヤマメと千尋」
「はぁ…疲れた」
ヤマメはソファに吸い寄せられるように顔をうずめた。
2次会どころか4次会まで飲むなんて勇儀は本当凄い、
私は3次会で限界だったよ。
気が付けば、私は酒に対する抵抗がまったく無くなっていた。
むしろ、時々飲みたい気分になることがある。
むくりと彼女は起き上がると、千尋の元に寄り、言った。
「ケガの調子はどう、もう痛みはない?」
「はい、ヤマメさんのおかげで助かりました」
「よかった。千尋さん何も食べてないでしょ?」
ヤマメは笹の葉に包んだ丸いものを千尋に手渡した。
「作り置きで冷えてるけど、おにぎりだよ」
「ありがとうございます、何から何まで」
「そんな、当たり前のことをしただけだよ」
その時の彼女の顔は自分の姉と重なるように見えた。
「お姉ちゃん」
自然と千尋はヤマメのことをそう呼んだ。
「お姉ちゃん?」
「あっ!ごめんなさい、ヤマメさんが姉に似ててつい…」
「そっか、千尋さんはお姉ちゃんがいるのね」
「はい、ヤマメさんみたいにとっても優しいんですよ」
「お姉ちゃん、か」
そういえば、由香は今どうしてるんだろ?
きっと私がいなくて寂しがってるよね…
「どうしたんですか、ヤマメさん」
「何でもない。もう遅いし、寝よっか」
地の底は空が見えず時間がまったく分からない。
しかし嫌われ者たちはどういう訳か、朝から夜までを把握している。
だからって、規律正しく生活する妖怪しかいないわけじゃないが。
ヤマメが寝ぼけ眼をこすりながら窓を見ると、
岩盤の裂け目から差し込む陽光は昼を告げていた。
「おっす、お寝坊さん」
ヤマメの背後からキスメが抱きついてきた。
「わっ、いつからいたの」
「日が昇ってきた時からずっと」
「はわ…ヤマメさん、キスメさんおはようございます」
「キスメ、今日千尋さんを博麗神社まで連れて行くけど、一緒に来てくれない?」
「あそこの巫女怖いらしいから嫌よ」
「今度おごるから!」
「はぁ…仕方ないなぁ、一番高いやつでお願いね」
「ありがと、キスメ」
「千尋さん、立てる?」
ヤマメは千尋の手を取る。
「むむ、平たい」
「何のこと?」
「察しなさいよ」
千尋は頬を染めてベッドに潜り込んでいる。
「あっごめん!勝手に着替えさせたらまずいと思って」
数分後、千尋の姿は身長と髪の色以外はヤマメと瓜二つになっていた。
「ふふっ、よく似合ってるよ」
「どうしてリボンまで…」
「本当よく似てるねぇ、いっそヤマメの妹として暮らせば?」
「…遠慮しておきます」
久しぶりの地底の上。秋が深まり山全体が紅葉に染まりつつある。
「すっかり秋色だね」
「もう少ししたら真っ白になるよ」
「おい、そこの妖怪共!」
前方から突き刺すような怒号が飛んできた。
しばらくすると雑木林から
白と黒を基調にした着物を着た青年が現れた。
彼の背中には黒い翼がついている。
「お前ら、山の妖怪じゃないな。何処から来たんだ?答えによっちゃ、叩っ斬るぞ」
「地底だよ」
「…ん?すまない、もう一回言ってくれ」
「地底」
「うげっ、地底の奴らかよ」
「どうするの、その刀で私達とやるの?」
「何もしねえよ、じゃあな」
青年はヤマメ達から逃げるように飛び去っていった。
「もう大丈夫だよ」
ヤマメの背後からひょっこりと千尋が出てきた。
「怖かった…」
「キスメ、前に地上に出た時はあんな妖怪見た事ないんだけど」
「天狗だよ、最近この山で強くなったらしいよ」
「ふーん、天狗ねぇ」
嫌われ者で助かった、あんましうれしくないけど。




