10話「妖怪の私」
旧地獄街道のとある居酒屋にて、ヤマメは座敷で酒瓶を抱いて眠り、
キスメと勇儀は酒を飲みながら話し込んでいた。
「ねぇ勇儀、最近山の頂上に神社が出来たって知ってる?」
「うん?ああ、知ってるとも」
「その神社、妖怪からも信仰を集めているそうな。よほど追い詰められてるのか」
「私らにとっちゃ関係ないがね」
酒を飲み干し、追加の注文をしてから勇儀は言った。
「妖怪といえば、天狗と河童が勇儀の山を自分のもののように振舞っているけど、いいのかい?」
「あんまり調子に乗っているようならシメるけど、基本は放っておくよ」
「むにゃ…キスメェ~…もう一杯」
眠っていたヤマメがキスメに絡んできた。
「ヤマメ、無理しないで休んだほうがいいよ」
彼女は満たされた表情で再び眠りに落ちた。
「すっかり馴染んでいるね」
「元は人間なんて到底思えないわ」
「そういや、キスメはアレは見せたのかい?」
「アレって何さ?」
「あんたが…喰うところだよ」
「まだ見せてない。ヤマメも私と同じように喰らう妖怪だけど、受け入れられるかな」
「確かに、見せない方がいいかもしれないな」
木や花は1本も生えず、漆黒の草が点々と群生している平原。
空は灰色に染まり、今にも雨が降り出しそうだ。
ヤマメは1人その場に佇んでいた。
(夢を見ているのかな…)
特にやることもないので膝を抱えて座り、虚ろな目で地平線を見る。
じめじめとした湿った風が頬をなで、顔をしかめさせた。
暫くすると、彼方の方から何かこちらに向かってくるのが見えた。
(あれって……)
見覚えのある姿。間違いない、私の妹だ。
もう会えないと思ってたのに…
自然と目元が潤んだがすぐに枯れた。
何故なら妹は小山ほどある人骨に追われていたのだから。
「由香!今助けるからね!」
妹の名前を叫び、私は人骨の化け物に立ち向かった。
化け物は彼女に腕を振り下ろすが横に跳ね、寸前でかわす。
地面が抉れ、砂埃が激しく舞い上がった。
ヤマメは飛び上がり、化け物を頭から叩き割ろうとしたが、
相手は頭突きを繰り出し、彼女を吹き飛ばした。
「うぐっ…げほっ」
激しく地面に叩きつけられ、全身に激痛が走り、口から血を吐き出す。
普段は味わう事はない鉄の味に吐き気をもよおした。
ヤマメは気を失いかけたが何とか持ち直す。
「はあっ!」
人骨の片足の付け根に掴みかかり、引き抜いた。
カタカタと歯を鳴らし轟音を立てて化け物は動かなくなった。
「もう大丈夫だよ、由香」
掠れた声で自分の妹に声を掛ける。
「ひっ…来ないで」
「えっ?」
妹を安心させようとしたら、怯えさせていた。
そっか、そうだよね。あんな事したら怖がるよね。
私が誰か分かんないし、妖怪だし。
ヤマメは妹の恐怖に歪んだ顔を寂しそうな目で見ているとある感情が芽生えた。
(人間、喰べなきゃ)
自分の異常に気づく。
由香を喰べる?何を考えてるんだろ私は……
(人間なんてみんな大嫌い、私の母さんと父さんをよくも…)
私じゃない私が由香を殺そうとしている。
必死に自分を抑えこもうとするが彼女からは大量の瘴気が漏れ出していた。
「逃げ…て…」
「来ないで、来ないでよ!化け物!」
彼女の意識はそこでぷっつりと途絶えた。
「…うっ」
私は一体、どうしちゃったの?
体を起こすと、無残な姿になった妹がいた。
「由香!?一体誰が…っ!」
ヤマメはぽろぽろと涙を流すが自分の服と腕が赤黒くなっていることに気が付いた。
違う、私はやっていない。ただ由香を助けたかっただけなのに……
「あっ、起きた。大丈夫?すごいうなされてたけど」
キスメは心配そうにヤマメの様子を見ている。
「ひぐっ…うわぁぁぁっ!」
彼女は泣き崩れ、二人を驚かせた。
「ヤマメって泣き上戸だったのかい」
ヤマメは何も言わず、首を横に振り泣き伏せていた。
「どうしたのさ、やっぱ嫌なことあったの?」
「何かあるなら言いな、いくらでも助けるよ」




