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姫と騎士 -プリンセスナイト-  作者: 中村 リョウ
第零章:騎士の目覚め
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EPISODE15:新しい可能性の世界

野球練習が終わり俺とアクアと月美ちゃんは、苗宮荘へと一緒に帰宅していた。日の光は消え始め辺りはもう薄暗くなっており道路に所々設置してある電灯には明かりが付き始めていた。


「あっ、先輩。」


「ん?どうしたの月美ちゃん。」


「今日はその・・・駅前の商店街にあるレストランで食事しませんか?」


唐突にそう言い出した月美ちゃんは、慌ててカバンの中から細長く小さな紙を取り出し俺の前にズイッと寄せる。


「えっと、"5月20日限り タカノレストラン(駅前店)の料理全品半額クーポン"・・・マジか!」


今の時期に系列店が珍しいというか大胆なことをするもんだ。


「先輩が良ければですけど・・・」


「そうだな・・・今日までしか使えないと言われたら、勿体無い気がするし、今日はそこに行くか。」


「はい!」


月美ちゃんは、嬉しそうに笑顔を作る。


「アクアも・・・って、あれ?」


気がつくと一緒に歩いていたはずのアクアがいなくなっている事に気づく。


「先輩。あれ・・・」


月美ちゃんが見た先には


「ニャー」


「に、にゃー?」


アクアは電柱の下にいる猫の前にかがんでおり、微笑ましくなる風景を漂わせていた。


「アクア?」


気になってアクアの方に近づき声をかける。


「優希。この生き物は何と言うのだ?」


「えっ?」


「さっきから"にゃー"とばかり鳴いていて、気になるのだが・・・」


「これは猫って言うんですよ?アクアさん。」


月美ちゃんも気になったのかアクアの近くに寄り猫の前へとかがむ。


「ネ、ネコ?」


始めて聞いた名前だったのか一度聞き返し猫の頭を撫でていた。


「はい。イギリスにもいませんでしたか?」


「うむ・・・見た事がない・・・」


「イ、イギリスって以外に猫がいないんですかね・・・」


聞いてて、緊張する会話だ。月美ちゃんもあまり疑っていないようだから、いいんだけど・・・

それよりも、何だか彼女達の会話に入りづらく少し冷や汗をかきながら、見守る。


その時だった・・・


薄暗かった空がスーッとオパールのように染めていく。空だけではない・・・目に写っていた風景までも変わり染まっていた。それに、さっきまで吸っていたスッキリとしていた空気とは違い今は息を吸い込むたびに、喉が詰まりそうになるような息苦しさが呼吸をするたびに、募ってくる。


「げほっ・・・!」


あまりの息苦しさに地面に膝をつきそのまま倒れ込みそうになる。


「ユウキ!」


アクアは俺の異常に気付いたのかそばに駆け寄り両手をかざす。


「神々に仕えし精霊の力・・・今ここに。」


すると、アクアがかざしている両手から緑色の粒子のような物が自分の身体へと流れ込んでくる。その瞬間喉を詰まらせるような息苦しさが徐々に癒えていき、やっと自らの意思でスムーズに呼吸する事ができた。


「けほっけほっ・・・」


「大丈夫か!?ユウキ!身体に何処か異常はないか!?」


アクアは血相をかえ俺に必死に呼びかける。


「あ、ああ・・・息苦しさは少しあるけど、それ以外は何とも・・・」


「そうか・・・それだけなら、大丈夫だな・・・」


俺が言った事に安心したのか彼女は安堵の表情を浮かべる。


「月美ちゃん・・・月美ちゃんは!?」


さっきまで月美ちゃんが屈んでいた電柱の方に視界を向ける。そこには、月美ちゃんの姿がなかった。


「月美ちゃんはどこに行ったんだ!?」


「落ち着けユウキ!」


アクアに一喝され乱れていた自分の心をゆっくりと正常に戻す。


「いいかユウキ。私が今の現状を説明するから落ち着いて聞いてくれないか・・・」


「あ、ああ・・・ごめんアクア。」


彼女が不安気に語ろうとする姿を見て俺は思考を落ち着かせる。


「これは恐らく、インクプスワールド・・・次元を一瞬にして変えるフィールド魔法だ。」


「前のとは・・・違うのか?」


「ああ・・・前にローナが使ったフィールド魔法は空間を定着させるものだ。だけど、今回の奴はかなりタチが悪い・・・」


身体を微かに震わせアクアは小さな口を動かす。


「これは・・・空間を転移させるものだ。」


「じゃあ、今俺たちは別の空間にいると言う事か!?」


俺は慌てて周りを見回す。空はオーロラのようにゆったりとリズムよくオパールや不気味な紫色、赤色や青色と色を変えている。空だけではなく、近くの建物や遠くにある建物も不気味に色褪せていた。


「このインクプスワールドは特定のものを転移させるフィールド魔法だ。」


「という事は、アクアがいる世界の奴等が来たってなるのか。」


「そうだな・・・」


「・・・」


ローナとはまた、違う奴等か・・・

ローナはアクアに対して、敵意はなかったから、話だけで済んだけど、今回はそうはいかないかもしれない。現にさっき俺は死んでたかもしれないのがそうだ。


「不思議なものだな・・・僅かだが、異世界にも魔素があるとは・・・」


「・・・!?」


少し太めな大人の声が空間に伝わり俺とアクアをその方へと振り向かせる。


「おかげで、フィールド魔法を使うのにも苦労しなかったよ・・・」


家の屋根の上・・・黒いマントを靡かせこちらを見つめる一人の男性がいた。


「貴様・・・」


「ふっ・・・やっと見つけたぞ。アクア嬢。」


男は、冷静な口調でそう言うと俺達がいる道路の方へと飛び降りてくる。


「アスティールの者か・・・」


「察しがいい・・・まあ、この状況だとそれしかないが・・・」


そう口ずさむと男は、俺の方へと振り向き不気味な笑みを浮かべた。


「濃度が高い魔素が発生しているのにも関わらず、行動が出来ているのか・・・この世界の者にとっては珍しいことだ。興味深い。」


異様な感じがして目が離せず、心臓の鼓動が少しずつ早くなっていく。


「・・・まあ、いい。お前は私達の問題に関わるな。これ以上無駄な時間はとりたくないからな。」


「何が・・・」


彼が言った事に理由を問おうとし、一言声を出した瞬間だった。男から閃光の一線が走り俺の足元で何かが弾ける。


「忠告した。次は、身体に当ててやろう。」


「お前・・・!」


反射的に言葉が出てしまったその瞬時。男を見て俺は最悪の状況を思い浮かべる。男は指を俺の方に向け何かを発射する気だ。


(さっきのあれ・・・)


魔法だ・・・

あの冷静を保った目付き・・・間違いなくあの男は俺を平然と殺す・・・


「待て!ユウキには手を出すな!貴様の狙いは私なのだろ!」


その時、アクアが俺を庇うかのように、立ちふさがった。


「アクア・・・」


「ユウキ。奴の言うとおりだ・・・私に関わるな。」


「なっ・・・!」


いきなりの事で俺はアクアを呼ぼうとするが、彼女はこちらに少し振り向き"黙れ"と言わんばかりに睨みつけた。その雰囲気に圧倒され言葉が出なくなる。


(すまない・・・ユウキ・・・)


頭の中に優しい声が響く。


(アクア?)


(ユウキ・・・私達の世界の問題でお前が傷つく姿を見るのは嫌だ。)


今にも泣きそうな声がエコーで伝わり俺は黙って聞く事しかできなかった。


(少ない時間ではあったが、ユウキやお前の友達と出会えた事は幸せだったぞ。)


何を言ってるんだ・・・


(ありがとう・・・ユウキ・・・さよならだ・・・)


アクア・・・!


「場所を変えるぞアスティールの使者よ。この世界の者に手を出すようならば・・・」


「分かっている・・・俺も無駄な犠牲は出したくはないからな・・・」


男はにやけながら、そう言うと両名の頭上に魔法陣を展開させた。


「アクア!」


俺は咄嗟に手を伸ばした。

だけど、それは掴まれるはずもない。もう、右手を伸ばした時にはアクアは消えていたのだ。


「くそ・・・」


俺はそのまま地面へと膝をつき体制を崩した。伸ばした右手を見つめ震えるほど強く、血が出るくらい握りしめ地面に叩きつける。


「ふざけんな・・・」


止められなかった悔しみが心に伝染していき視界が滲む。


「どうすればよかったんだよ・・・」


-カツーン-


誰もいない空間に一つの甲高い音が響いた。


(足音・・・?)


涙を拭い暗い道路の先へと視線を配った。


-カツーン-


足音は確かに聞こえる・・・こちらに向かいながら。


-カツーン-


また一つ、一つとゆっくりと音を発し俺の方に歩いてくる。


「・・・」


暗闇から蜃気楼のように姿を表したのは、フードをかぶった人物だ。


「君は・・・」


その人は何も話さず、ただ、自分の方へと近づいてくるだけだ。

・・・ 何故だろう。恐怖感は一切なかった。近づいてくるたびに、心の底からは何かを思い出させるかのように、優しくて、懐かしくて、また、泣きそうになるくらいの暖かい感情が溢れてくる。


すると、その人は目の前までくると、立ち止まりゆっくりとかがむ。

顔を覗かせスーッと右腕を伸ばし柔らかい手の感触が顔から伝わってくる。


(女の子・・・?)


フードの影で顔はよく見えないが、何故か分からないが、女の子だと断言できた。


「優希さん・・・」


「えっ?」


何で俺の名前を・・・?


そう聞きたかったが、女の子?は左手の人差し指で俺の唇に軽く触れる。


「聞かないでください。」


心が見透かされているような感じがした・・・


「優希さん・・・アクア姫はアキハバラの中央通りにいるはずです。」


「何で・・・君は、そんな事を・・・むぐっ!?」


次は、口を手で塞がれた!?


「聞かないでください。」


また、さっきと同じ言葉を言い彼女は語り出す。


「私はほぼ全ての事象を見てきました。あなたの名前をご存知なのも納得出来ますか?」


言う順番は合ってると思うのだが、何かが足りず、納得出来ない。口が塞がれているためとりあえず、首を横に振るう。


「何かが足りないと・・・」


俺は首を縦に振った。


「そうですね。私は魔法使いで事象と呼ばれる平行世界の数々の可能性を見てきたと言っておきましよう。平行世界は分かりますよね?」


平行世界・・・アニメや漫画でも、よく聞く事があるな。確か別の言い方をしたら、パラレルワールドとも呼ばれ・・・


「分かるならさっきの言葉の意味分かりますね?」


すみません・・・まだ何も言ってないんですけど。


「ぷはっ!」


塞がれていた口がやっと解放され思い通りの呼吸できる。


「時間がありませんので、私に対する質問は極力少なめで答えられる範囲でお願いします。」


少し強引な条件の気もするけど、時間がないのは、確かだ。


「分かった・・・一つだけ。君が言った平行世界の可能性ってどう意味なんだ?」


平行世界の事は分かるのだが、可能性というのがイマイチ引っかかる。

質問してしばらく彼女は無言だった。もしかして、答えられる範囲内ではなかったのか?


「えっと・・・」


俺が口を動かし声に出した時だ。


「可能性は・・・優希さん自身のことです。」


無言だった彼女は突然そう言い切る。


(俺が可能性って・・・)


理解しようとするも、さっきの出来事のせいか、思考回路が上手く回らず、彼女が言っている事の意味が頭の中に入らない。


「可能性は無限にあり全部は見れないんです。」


「無限・・・」


「はい。優希さんの行動次第で運命が分岐する・・・とでも、言っておきましよう。」


「俺の行動次第・・・って事は俺が死ぬかもしれないって事なのか?」


「大まかそういう事にもなります。」


また、冷や汗が出てきた。フラッシュバックでさっきの事を思い出す。


(あの時・・・アクアが俺を止めていなかったら、俺は・・・)


完全に殺されていた・・・


(そういう事か・・・)


可能性の無限・・・


自分の行動次第とか言ったが、俺だけの行動で行く先が分岐するとは限らない。もしかしたら、あの時俺が殺されていた世界もあったかもしれないし、アクアも・・・


「理解出来ましたか?」


「ああ・・・」


「それは何よりです。」


彼女は「ふぅっ」とため息を吐く。


「今なら私の転移魔法でアクア姫がいる所まで移動させる事が出来ます。」


「・・・」


「行くか行かないかはあなたが決めてください。これは・・・あなたの物語なんですから・・・」


彼女の口から意味が深そうな言葉が発したが、状況が状況だ。今は聞くのをやめておこう。


「行くよ・・・」


決心はついていた。


「死ぬかもしれませんよ?」


(確かに、次は、本当に死ぬかもしれない・・・)


死に対する恐怖がジワリと心を侵食していく。それでも・・・


「行くよ。」


「そうですか・・・わかりました。」


彼女は俺から少し距離をとると両手をかざし俺の真下から魔法陣が囲むように出現した。


「優希さん・・・諦めないでくださいね。」


(えっ・・・)


彼女がそう言った同時に、景色は一変し視界は一瞬にして暗闇に包まれた。



「・・・また・・・新しい可能性を見ました・・・今度こそ・・・あなたが綴った通り、彼を生かせれる世界線を見つけてみせます・・・お祖父ちゃん。」


EPISODE15:新しい可能性の世界END

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