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姫と騎士 -プリンセスナイト-  作者: 中村 リョウ
第零章:騎士の目覚め
15/20

EPISODE14:青春の欠片

5月20日。日曜日・・・昼を少し過ぎたあたりにエリーさんから届いたメール。内容は、"野球練習を再開"するということだった。それを見た俺とアクアは前に練習した河川敷まで徒歩で移動する。


「前は、地震のせいで、練習は少し控えていたけど、今日から再開するわ!」


「イェス、マム!」



里奈が敬礼と同時に元気良く挨拶をした。


「ん?浩二がいないわね。」


「バイトだろ?生活費を稼ぐため今日から一週間は働くらしいな。」


「バイトなら仕方がないわね。とりあえず、今日はフリーでやりましょうか。日曜日なんだし、気楽でね?」


という事は、明日から厳しくなるのか・・・


「それじゃあ、卓人。投球練習付き合ってくれ。」


「ああ。任せろ。」


卓人には珍しくやる気があるな。


「それでは。練習開始ね。」



「そらっ!」


「おっ!?カーブか・・・」


卓人は投げたボールをグローブで掴み、音が空間に鳴り響く。


「これなら、試合余裕なんじゃないか?」


卓人は受け取ったボールをこちらに投げ返してくる。


「どうだろう、な!」


俺は卓人が投げたボールを受け取りまた、卓人の方に全力で投げ返す。


「おっ!いいストレートだな。140はいったんじゃないか?」


「ふぅ・・・」


さすがに連続で全力投球すると、疲れる。素人が加減を知らずに投げると当たり前か・・・


「少し休むか?」


「ああ・・・頼む。」


俺はグローブを外しその場に座り込む。


「投手って・・・思ったよりしんどいな・・・」


「だろうな。」


これは明日筋肉痛になるな。


「そういえば、聞いた事があるか?優希。」


「ん?」


「ニュースや新聞には出てないんだが、アキバの近くにある廃病院知ってるか?」


「廃病院・・・?ああ、確か"天峯院記念病院"だろ?」


「そこがな・・・」


「出るとか言うなよ・・・」


少し体がブルっとなる。


「違うって・・・そこがな、実は、地震の前あたりの日にちに爆発があったらしいんだ。」


「爆発?」


「電気、水道、ガスが全部止まってる廃病院に爆発なんておかしくないか?」


「まあ、おかしいけど・・・いきなりどうした?」


「次の同人誌のネタに出来ると思ってな。」


「そうかい。」


卓人には珍しく噂を語ってくると思ったら、ネタ探しか・・・それにしても、爆発、天峯院って言ったら、5年前の事件が頭を過る。


(天峯院事件・・・か。)


詳しくは知らないが、およそ五年前、2012の冬。トウキョウ湾の真ん中にあった海上発電所がテロにあい発電所は壊滅し天峯院グループも解散した事件だ。


「ちょっとそこの二人。休みが終わったら、こっちの練習に加わって。」


「へーい・・・」


「卓人は今すぐ来なさい!」


「何でだよ!?」


卓人はエリーさんの予想外の言葉に目を丸くし反論した。


「腑抜けた返事のバツ!」


「なんか部員の中で俺だけ理不尽すぎません!?それに今日は"日曜日なんだし、気楽にいきましょ?"みたいなこと言ったの部長だろ!」


「当たり前じゃない。副部長さんは、部長の次に頑張らないといけないんだから♪」


「副部長最悪だ!」


「おい・・・」


今頃何言ってんだ・・・


「危ないです!先輩!」


「・・・おわっ!?」


真横に何かが落ちる音に驚き俺は思わず、声を上げてしまう。


「ボール・・・?」


どうやら、落ちて来たのは、野球ボール(軟式)だ。数センチずれてたら、頭をダイレクトに当たっていたな。


「せ、先輩・・・!大丈夫でしてか!?」


息を切らしながら、こちらにやって来たのは、月美ちゃんだ。


「ご、ごめんね優希くん・・・そのボールは私が投げたボールなんです・・・」


神谷も月美ちゃんの後を追いかけて来たのか少し息を切らしていた。


「やっぱり神谷か・・・」


「はい・・・まっすぐ投げたんですけど・・・」


まっすぐ投げたのに、どうやったら上に舞い上がるんだ・・・手が滑ったとかもあるかもしれないけど。


「神谷・・・一度里奈に向かって投げてくれ。」


「ほえ?」


「里奈!神谷がボールを投げるから取ってくれ!」


「分かりましたヨ!」


離れた里奈が両手を上げ合図を送る。


「よし、いいぞ神谷。」


「う、うん。」


俺は神谷にボールを渡す。


(い、いきなりどうしたんですか?先輩。)


(ま、まあ、神谷が運動するのは、珍しいことだからな・・・改めて実感しときたいんだ。)


(実感・・・ですか?)


あいつ凄く運動オンチ・・・と言うより。


「えい!」


「ごふっ!?」


神谷が投げたボールは里奈の方には行かず、10時の方向へと変え卓人の頭に直撃した。


「ご、ごめんなさい卓人くん・・・」


もしかしたら、俺が投げたボールの速さより速いんじゃないか?


「よし。もう一回だ神谷。」


「うん。」


神谷に次のボールを渡す。


「まっすぐ・・・まっすぐ・・・」


そう念を唱えながら、次の一球・・・


「がふっ!?」


神谷が放ったボールはまた、まっすぐ飛ぶことなく、10時の方向・・・卓人の後頭部に直撃。卓人は地面に倒れこむ。


「さ、さっちゃん・・・?俺に何か恨みがあるのか・・・?」


「あわわ・・・ご、ごめんね・・・卓人くん・・・」


神谷は慌てて卓人に謝罪した。


(せ、先輩の言ってた意味が分かりました・・・)


月美ちゃんはぼう然と眺めならそう言った。

ある意味、神谷は切り札になるかもしれないな・・・



「ふぅ・・・」


疲れが身体全体に染み渡り近くのベンチへと座り込む。


「お疲れ優希。」


エリーさんも休みに来たのか俺の隣にゆっくり座る。


「疲れてるみたいね?」


「ええ・・・まあ・・・」


「気楽でいいって言ったのに・・・優希は何で全力で取り組むかな?」


「自分でもよく分かりませんけど・・・自然と動いてしまうんですよ。」


「そう・・・私としては、ありがたいんだけどね。」


エリーさんは満足気に微笑みを浮かべ空を見上げる。


「もう夕方ね・・・」


「そうですね。何かに集中してると時間が経つのは、早いもんですね・・・」


「ふふ・・・そうね。」


エリーさんは笑顔を見せるも空を見つめるたびその笑顔はスーッと消えて行く。


「何してるんでしょうね私・・・」


「え?」


「そう思わない?高校三年生になって野球をやってるのよ?今ならみんな大学受験や就職活動で忙しくなるっていうのにね。」


「・・・」


俺はぼう然としていた。


「な、なによ・・・その"まともに話してくれた所を始めて聞いた"みたいな顔して・・・」


「い、いや・・・」


エリーさんに言われた通り、そう思っていた。いつもならエリーさんからいじりトークが始まるというのに、何故か今日は違っていた。


「まあ、いいわ・・・」


エリーさんは、軽くため息を吐き空を見上げるのをやめみんなで野球練習をしている所を見つめる。


「・・・私が何で野球をやろうって言い出したのか分かる?」


「全く・・・AHO団と敵視してるからではないんですか?」


「もちろん、それもあるけど・・・」


エリーさんは、そっと目を閉じる。


「みんなと楽しい事がしたかったのよ。」


「楽しい・・・事ですか・・・」


「私くらいじゃない?こんな事するのって。」


「そうですね。」


「速攻で言ってくれるわね・・・」


事実そうだから・・・


「別にいいんじゃないんですか?エリーさん頭いいですし、楽しければそれで・・・」


「分かってないわねぇ・・・」


やれやれと言わんばかりにエリーさんは呆れた表情をする。


「優希も三年生になったら、分かるわ。この光景が寂しくなるわよ?」


「はは。そうですね。」


確かに、自分がもし今三年生でみんなで野球してる風景を思い浮かべるとなんだか切ない・・・これが学生特有の後悔かもしれないな。


「さて。今日はこの辺にしときましょうか。明日からまた一週間学校があるんだし。」


「そうですね。」


エリーさんは、スッとベンチから立ち上がりメガホンを口元に支え。


「みんなー!今日はこの辺でもう、終わるわよー!」


すると、グランドで練習をしていたメンバーに終わりを呼びかける。


(寂しくなる・・・か。)


今はあまり考えないようにしよう。


EPISODE14:青春の欠片END

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