望夢
夢。
そうこれは夢だ。
たまに自分が夢を見ていることがわかってしまう感覚。それがまさに今のこれだ。
夢の中なら何だって出来る。とはよく言ったものだ。
実際にそれを目の前にしてしまうとそんな気は起きない。むしろ夢の外、現実とそう変わりはない。
例えば、そだな空を飛ぶとか。
人が空を飛べると思うか?いや、まず飛ばない。だってそうだろう。腕を一生懸命バタつかせようが人は鳥の様には飛べない。一ミリだって浮き上がらない。
だったら無重力にしてしまえばいい。でも僕は無重力なんてもの一度だって体験した事がない。だからテレビの映像をみてフワフワ浮いて気持ち良さそうだ。くらいしか思い浮かばない。
人は自分自身が実際体験したこと以外は思いのほか鈍感なんだと思う。
空を飛ぶとか思うことはできても、実際にはできっこないって頭の中じゃちゃんと判ってるんだねきっと。
だからいま僕こうして夢の中だってのに地面に自らの足で飛ぶこともなく立っているんだ。
なにをするでもなく、ただぼーっと空を見上げて。あの雲一つないどこまでも続く青く広い空を自由に飛び回れたらどれだけ楽しいか。そんなことを現実だけでなく、夢の中にまで持ち込んで。そう考えてしまっている。
なんて夢のないことだろう。
いやいや。こうして夢を見ているくらいだ、僕にはきっと夢がある。
ただそれはあの空を飛ぶことじゃないだけ。
でなきゃヒーローを夢見る少年や素敵な出会いを夢見る少女たちのように夢に溢れたことをいまごろ体験しているはずだから。
だから僕はいま何かを待っているんだろう。飛べない青空の下。僕自身でも知り得ない夢がそちらからやって来るのを。ただただこうして、じっと待っている…。