2、お笑い歌合戦パレード。
お笑い、歌合戦、パレード。と、おばちゃん。
今回はそんな感じの第2話。
楽しんで読んでいただけると嬉しいです
「林!!!」
林ってのは俺の名字ではない。
今まさに部屋を出ようと足を踏み出していた柚季の名前だった。
ってことはおばちゃんが用あるのは俺じゃないんだな。
事態を把握した後に、俺はそっとおばちゃんと柚季の横を通り過ぎて学校へ向かおうとした。
「こら!水野!」
ちなみに水野ってのは…俺の名字だ。
この場合おばちゃんが用あるのは俺な訳で。結局おばちゃんは俺と柚季どっちにも用があった訳か。
「林!私がこんな韓流ドラマのDVDに騙されるとでも思ってるのかい!?」
おばちゃんは着ていたエプロンの前についているポケットから長方形の箱を取り出した。なるほど柚季はDVDで交渉したわけか。
「いや、おばちゃん好きでしょ?韓流。」
ちっとも反省してないように答える柚季。なんだかこっちを見てる気が気がする…こ、これは俺に逃げろと!?美しい幼なじみの友情に感謝しながらそろりそろりと、その場を離れようとする。
「だから水野!あんたも何で林を部屋に入れたの!?ったく。」
ふう…っと疲れたようにため息をついてからおばちゃんは続ける。
「まぁ、水野はもう学校に行ってよし。今なら全力で走れば間に合うだろ?」
「ありがとうございます。」
俺はおばちゃんにお礼を言ってから、柚季に横目でしっかり謝ってから小走りでその場を離れる。
「林!これはなんだ!」
おばちゃんは手に持っていたDVDのケースを柚季の目の前にかざしながら大きな声で話している。
「え、韓流ドラマのDVDだよおばちゃん!」
さも当たり前のことのように答えてる。確かにパッケージを見る限り韓国のイケメンがわんさか写ってるけど、何か問題でもあるのだろうか?
「ちっがーう!あんた中を見たのかい?」
ちょっと話の内容が気になったので走っていた足を止めて耳を澄ました。
パカッとケースが開く音がしたあと小さく「あっ」と、言う柚季の声が聞こえた。
「林。これを説明してもらえるかい?」
心なしかおばちゃんの声が怖く聞こえる。
「…お笑いパレード歌合戦です…。」
酷く元気のない柚季の声が聞こえてきた。っていうかお笑いなのか歌なのかはっきりしてほしい…。じゃなくて!中身違ったんだ。
「ああそうさ。何が韓流だ。何がイケメンだ。芸人が韓国人のイケメンなのかい?」
あるよね。取り出したDVDとかを適当にあいてるケースに入れちゃうこと。俺はもう話を聞いてキリした足取りで少し柚季に同情しながら学校へ向かった。
どうせ今日は入学式だ。つまらない校長の話しか聞かないのだから途中から参加したって構わないだろう。
さっきより少し遅い小走りで寮の外へ出て学校へ向かった。
前に言った通り寮から学校までは歩いて5分。走ったら5分もかからないってことだ。
そう考えたら歩いても十分前に合うような気がして、いや。実際は間に合わないんだろうけど、ついに俺は遅い小走りからさらに遅い歩きへとシフトチェンジした。
通学路は大通りなため、朝でも結構人が通っている。スーツの人や、制服の人。もちろん車も。
これから毎日通るであろう道をしっかりと頭に刻みつけた。って言っても学校までは1回曲がるだけの迷いようがない道なんだけれど。
なんだかよさそうな雰囲気の喫茶店や、小奇麗な本屋を横目に見ながら歩いていたら…。
サッ。
なんだか一気に周りが暗くなった。
いや、違う。なんだか黒い人に囲まれたんだ。
気づいたらさっきまで騒がしかった人の声や車の走る音が聞こえなくなってる。
「本当にこれがそうなの?しょぼいわね。」
「あぁ、そのようだ。一応この状況で動けてるようだし。」
「んじゃぁ一発やっちゃお!」
なんだか一人一人のキャラが濃いような気がするが、今はそこが問題ではない。誰だ…この人たち。新手のかつあげか?
ってか一発やるって何?すごい嫌な予感がする。
「御意。」
そういった黒マントの人がマントの中から何か取りだした。
暗く、光はあまり届いていないはずの今の状況でなぜかその人が取り出した小さな長方形の何かはキラリと光っていた。
よく見たら手に持っていたのは長方形のカード状のもののよう。
子供がよく遊ぶカードゲーム用のカードくらいのサイズだ。あ、なんか懐かしいな…。
そんな風になんか思いにふけっていたらカードを取り出した人が何かを呟き始めた。
俺はなんだか薄々感じていた怪しい空気が確信に変わって、逃げようと足に力を入れる…が。
「動か…ない?」
俺が自分の状況に気付くのと、黒マントの人が呟き終わるのが同時だった。
「ふふふ…君は動けないんだよ。」
勝ち誇ったように言ってから、
「せーのっ」
掛け声がかかった。それを言ったのはもちろん黒マントの皆さま。
息を合わせたたくさんの黒い人は一気に俺に向かってジャンプを…。
「って、え!?」
びっくりしながらもその場を動けないのはさっきも言った通り足に力を入れてもビクともしないからで。
それはきっとさっき何やら呟いてたのが関係してるんだろうけど。
どうしようもない状況を再確認したときに、俺は飛びかかってきた黒い人たちに取り押さえられた。
地面に組み伏せられた俺。おそらく柔道とかそっち系の奴だろう。なんだか手慣れてる。
「次の一発いってみよー!」
「うす!」
ほら来た。俺のすぐ近くから体育会系の返事が。
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